表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

口裂け女の受難

作者: 千代田 定男

――ねえ……――


 暗いトンネルの前、ワタシに唐突に話しかけられたその男は睨むように振り返った。

 男の眼に映るのはワタシの姿、スラリと背の高い女だろう。大きなマスクをした異様な女。


――ワタシ、キレイ?――


 ワタシの問い。

 男はワタシを爪先から頭の上までゆっくりと見上げると、どこか面白そうに笑って答えた。

「そうだな。綺麗なのでは?」

 男の答えにワタシはどこか恨めしく、しかし楽しくなった。


――これでもぉ?――


 マスクを外す。

 そこにあるのは大きく裂けた口だ。

 ワタシはその口を印象づけるように、大きく顎を開きながら笑った。


 口裂け女。1979年ごろに流行った都市伝説。

 マスクをした女が道行く人に自分が綺麗かどうかを訊ね、答えると襲われるというもので、ワタシはその()()だ。

 怪異の権化。いわゆる妖怪に近い存在。

 ワタシはいまだに日本中を彷徨っている。人知れず、力を高めながら。

 この男も、すぐにワタシの糧になるだろう。

 

「フン」


 あれ? どうしてこの男は笑っているの?


「それで『醒化(せいか)』しているつもりか? ずいぶんと中途半端だな。試験モデルか?」


 なんて?


「だが、覚醒体(エルバツフエン)が出てきたということは、情報通りやはりこの先が貴様らの基地らしいな、RUE(ルーエ)

 

 なにが?


「RUE、リリーフ・フォー・アルティメット・エボリューション……究極的な進化のための救済、か? 貴様らのやっていることは、ただの邪悪な人体実験だ! 絶対に許さん!」


 え! なんかいきなり殴りかかってきたんですけど!

 都市伝説であるワタシに、生ける怪異であるワタシに仕掛けてきたんですけど!

 しかも、しかも……


「はあ! せやっ!」


 めっちゃ速くてめっちゃ強い!


「遅い!!」

 男の蹴りをかろうじて避けたワタシの後ろで電柱がへし折れる音がした。


 ひいっ!


 思わず反撃するワタシの攻撃は男に軽々受け止められ、いなされた。

「さあ、基地の入り口はどこだ! さらわれた人はどこにいる!」


 痛いイタイ痛い! なんて力で関節極めてくるの!

 おかしい! 絶対こいつおかしい!

 現代まで数十年もの間力を蓄えてきたのに、なんでこいつには通用しないの!?

 だいたい知らない! さらわれた人とかワタシ知らない!


「楽しそうだな、アルマート・ワン、矢崎(やざき)(りよう)


 なに!? 今度はなに!?


「イルガイスト!」


 誰!? なんか真っ黒でトゲトゲの人が崖の上にいる!

 っていうかなんか全身タイツみたいなのが周囲にいっぱいいる!


「三将軍の一人がわざわざお出迎えとは、よっぽど知られたくないことがあるらしいな! だが残念だったな、門番はこの通り役立たずだ!」

「なんのことだ? そもそもそれは誰だ?」


 ただの妖怪です! もう帰して! おうち帰して!!


「とぼけたって無駄だ! ここで人間を使った新型覚醒体の実験を行っていることはわかっている!」

「ほほう、よく調べたな……いや、そうか、以前から我々のことを嗅ぎ回るネズミがいたな。そいつからの情報か。なるほど、その女がそのネズミというわけだな!」

「なんだって! キミが情報提供者だったのか!?」

「おおかた逃げ出した実験体の一体だろう。丁度いい、この場でまとめて始末してやる! やれ、ゲドラ兵!」


  知 り ま せ ん ! 

 ワタシ知りません! 腕離してよぉ!


「いいだろう、ここで決着をつけてやる! 『醒化』!」


 ひい!

 まぶしい!

 なに! なんなの!?

 ええー!?

 なんか、なんか、へ、へへ、変身したよぉ!?


「覚醒戦士アルマート・ワン! イルガイスト、貴様の野望もここまでだ!」


 銀色で目立つなにかに変わった男はワタシを放すと、襲い掛かる全身タイツと戦いはじめた。こわい。

 全身タイツもかなり身体能力が高いのに、銀色は数人まとめてふっとばす。こわい。

 全身タイツは倒れたあと泡になって消えていく。なんなの人間じゃないの!? めっちゃこわい!!


「ギエーイ!」


 全身タイツがこっちにもきたー!

 ええいこの鎌で!

 な、なんとかなった?


「キミ、隠れているんだ!」


 隠れるっていうか今すぐ逃げたいよ!!


「イルガイスト、次はお前だ! マックスアーム、スタンバイ!」

〝Megablast〟

「イグニッション、シュート!」


 なんか腕輪をいじったと思ったら、特大の火球が黒いトゲトゲに飛んでいって爆発した。

 トゲトゲはなんとか耐えたみたいだけど、苛立ちながらその姿を消した。

 ワタシはしばらく呆気にとられていたんだけど、男、ナントカワンっていうのに声をかけられて我に返った。


「さっきは悪かったな、キミ。イルガイストを追えば基地の入り口がわかるはずだ、さあ、行こう!」


 ワワワタシ、用事があるから! 自分がキレイかどうかみんなに聞かないといけないし! うん!


「大丈夫、キミは綺麗だよ。オレ達は姿形こそあいつらに変えられてしまったが、心は綺麗な人間のままだ」


 ワタシ身も心も妖怪なんですぅ!

 ちょっと、ひっぱるのやめて! 違うんです! 誤解なんです!

 キレイじゃなくていい! 答えなんていらない! 口が裂けてるとかどうでもいい! こわい! 

 力! シンプルに力が強い! 腕をつかむ力が強いぃ! こわいよぉ!

 誰か! 誰か助けてぇ!!



 * * * 


 


 数年後、世界征服をたくらむ秘密組織RUEを壊滅させた戦士アルマート・ワン。その横には常にマスクをした女戦士がいた。この話は、人々の間で新たな伝説となった。

 



劇場版 覚醒戦士アルマート・ワン エピソードゼロ ~悲しみの女戦士~ 完

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ