6話 自然の景色は美しい
繭と一緒に住み始め何日か経った。まだ慣れない事もあるが、普段の生活は前よりも楽しくなっていた。いつもの様に朝ごはんを一緒に食べていると、
「私たちが住んでる所の近くに海とかってある?」
と繭に聞かれる。確かこの町の少し北の方に湖があったはずだ。なので、
「北の方に綺麗な湖があったはずだよ。」
と答える。繭は無言で頷いていた。その後、
「明日と明後日って仕事休める…?」
とも聞かれた。最近は仕事も落ち着いてきているので、2日くらいなら休んでも大丈夫だろうと思い、
「休めるよ。」
と答える。すると繭は嬉しそうな笑顔で、
「約束ね。」
と僕の手を握ってきた。約束した事を破るつもりは無いので、
「わかったよ。」
そう返し、ご飯の続きを食べる。
ご飯を食べ終え、僕は仕事の準備をしていた。繭はまだ嬉しそうな顔でお皿を洗っている。出掛けるのがそんなに楽しみなのだろうか。
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仕事場(畑)に着き仕事を始める。明日と明後日の分を今日中にやる必要があるので、少し張り切って仕事をする。
半分程度仕事が終わると、お腹が鳴った。そろそろご飯にしようと休憩場へ向かう。休憩場の椅子に腰かけ繭の手作り弁当を食べる。繭のお弁当は栄養バランスが良くて、色とりどりのおかずが入っている。更にとっても美味しい。いつも疲れた体を癒してくれる。
ご飯を食べ終え、残り半分の仕事をする。流石に疲れたが、明日と明後日が休みならその疲れも癒すことが出来るだろう。そんな事を考えながら家に帰り、ご飯を食べお風呂に入り眠り、あっという間に一日が終わってしまった。
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「……い、…雷!起きて。」
次の日、僕の一日は繭に起こされる事から始まった。まだ眠たい目を擦りながら外を見ると、まだあんまり明るくない。普段起きてきる時間の1、2時間前くらいの明るさだろう。
「こんな朝早くどうしたの…?」
繭に聞く。そんなに急ぐことがあっただろうか、僕の記憶だと昨日寝るまでに、明日早く起きてなんて言われていない。
「街に行きたいの、なるべく早く。」
と繭から質問の答えが帰ってくる。街に行くために早く起こしたのか、と納得はする。けどこんなに早く起きる必要があったのかはちょっと疑問が残る。だけど2度寝したら絶対に寝坊するので、仕方が無く着替えてリビングに向かう。リビングのテーブルには完成した朝ごはんが乗っていた。まだ少し湯気が出ているので、作り終わってからすぐ僕を起こしに来たのだろう。昨日同じ時間に寝ているのにどうして早く起きてご飯を作れるのか僕は不思議だった。
ご飯を食べ終え、出掛ける準備を始める。歯を磨き、服を着替えて出かけるのに必最低限要な物を鞄に入れて、玄関で繭を待つ。 数分して繭も玄関に来た。前回一緒に街に行った時に買った服を着ている。試着して気に入っていたやつだ。見るのは2度目だがどうしても大きく開けた胸元に目がいってしまう。気付かれると困るので何とか目を逸らし一緒に出かける。
街へ行くための馬車に乗りながら、初めて一緒に街へ行った時のことを思い出していた。あの時は繭もはしゃいでいて楽しかった、女の子は買い物が好きだって聞いた事もあるし多分今日も繭ははしゃぐのだろう。
ふと繭の横顔を見ると、少し懐かしそうに何かを考えているような顔をしていた。多分繭も僕と同じく初めて街に来た時のことを思い出していたのだろう。
そんなふうに考えているとあっという間に馬車は街へ着いた。馬車から降りると、繭は早歩きで色々なお店を見ながら進んでいく。僕はそれに頑張ってついて行っていた。すると突然繭が足を止めた、僕は繭の真横に行き、荒れた息を整える。
「あった…。」
突然真横から声が聞こえる、探してた店があったのだろう。何を探してたのかそのお店を見ようとすると突然繭に手を捕まれ引っ張られる。そのまま繭が走るので僕は頑張ってそれに着いていく、僕は足が早くないので何度か転びそうになったが、それでも何とか着いていった。お店の前に着いたのか足を止める繭、その横で息を整えて顔を上げる。目の前にあったお店は、《《水着屋さん》》だった。困惑する僕の横で繭は早く入ろうと騒いでいる。
「水着欲しかったの?」
1度落ち着かせるためにそんな事を質問すると、
「湖あるんでしょ?明日行くから!」
と答えになってるようでなってない返答が来た。確かに湖で泳げる。楽しみにするのも分かる。だからってわざわざ水着を朝早く買いに来る必要はあったのだろうか。まぁそれほど楽しみだって事にして無理矢理納得することにしよう。
お店の中では繭が、
「これ可愛い! これも可愛い!」
と予想通りはしゃいでいた。楽しそうだ。暫く店内を見た後、何個か水着を持って試着室の方へ向かっていた。
「どれが1番似合ってるか教えて!」
と僕に言って試着室で着替える繭。
何分か待つと、水着に着替えた繭が試着室のカーテンを開ける。その水着は上下青色のごく普通のシンプルなヤツだった、とても似合ってる。
「どう…?」
と恥ずかしそうに聞かれる。
「似合ってるよ。」
と答えると繭は嬉しそうだった。
「じゃあもう1つのヤツに着替えるからちょっと待ってて!」
そう言ってカーテンを閉める。また数分待つとカーテンが開く。中には、さっきより露出の多い白色の水着を着た繭がいた。露出が少ないせいで逆に大きな胸が強調される。
「…どうかな?」
さっきより恥ずかしそうに聞く。そんなに恥ずかしいなら無理する必要は無いと思うのだけど…。
「ちょっと露出が、多い気が…」
そこまで言うと繭は顔を真っ赤にして勢いよくカーテンを閉めた。僕に指摘され恥ずかしさが限界になったのだろう。なにか申し訳ないことをした気がする。
また何分か待つと、来た時の服に着替えた繭が出てきた。片手には最初に来てた水着を持っている。もう1つのヤツは見当たらないので隠して持っているのだろう。
「レジ行ってくるから待ってて。」
とレジの方へ走っていこうとする繭。財布は僕が持っているので一旦止めようとすると、
「お金は大丈夫!色んな人のお手伝いして貯めたんだ!」
と言われた。僕が仕事してる時にそんな事をしてたらしい、お金くらいなら僕がどうにか出来るのに。
満足そうな顔をして繭がレジから戻ってきた。手には紙袋をひとつ持っている。
「帰る前にカフェでもよってくか。」
僕の提案に繭は嬉しそうに頷いていたので、前回街に来た時のカフェに行く。あそこの珈琲はとても美味しかった。前と同じ様に僕は珈琲、繭はパフェを頼んでいた。どうやら今回のパフェはバナナパフェらしい。
少し厚めに切ったバナナが盛り付けられていて、上からキャラメルソースが沢山かかっている。それを繭は笑顔でぱくぱくと笑顔で食べている。美味しそうに食べる繭の姿は何度見ても可愛い。
パフェを全部食べ終わると、繭は大きく息を吐いてお腹を撫でていた。おなかいっぱいになったのだろう。
僕も残っていた珈琲を全て飲む、喉が潤って気持ちがよかった。代金を支払ってお店を出る。空を見ると日が傾いていた。そろそろ帰る時間だ。
馬車に乗って家に帰る、吹く風は少し冷たかった。
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家に着き、僕は夜ご飯を作っていた。繭はさっきパフェを食べたから夜ご飯は要らないらしいので、自分の食べたい物を作る。
「よしっ、完成!」
出来上がった料理、ハンバーグをお皿に盛り付ける。
我ながら完成した料理は美味しそうだった。お皿をテーブルに運び、椅子に座る。
「いただきます。」
しっかりとそう言い、ハンバーグを食べ始める。3分の1程度食べた所で、リビングに繭が来た。
「いい匂いすると思ったらハンバーグ食べてんじゃん。」
そう言い僕の反対側の椅子に座る。髪が濡れているので、お風呂上がりなのだろう。僕はハンバーグを一口サイズ(少し大きめ)に切って、フォークで刺す。そのままフォークを繭に手渡した。
「おいひい!」
ハンバーグを口に含んだままそんな事を言う。美味しいのは嬉しいが、その感想は食べ終わってからにして欲しかった。
結局半分位を繭に食べられてしまった。その事を想定して少し大きめに作ったおかげで僕もお腹いっぱいになるまでご飯を食べる事は出来た。
食事を終えお風呂に入る、お皿洗いは繭がやってくれるらしいのでよろしくと頼んだ。明日湖に行くのなら今日程とは言わずともいつもよりは早く起きないといけないので、早めに寝る準備を終わらせる。
「僕は先に寝てるから。」
とまだ寝るつもりの無さそうな繭に言い、布団に入る。いつもより早く布団に入ったので眠りにつくまで少し時間がかかると思ってたが、意外とすんなり眠りに落ちた。
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いきなりパッと目が覚める。外はまだ少し暗かった。いつも起きる時間の1時間くらい前だろうか。僕の布団の隣では繭がぐっすりと眠っている。繭より先に起きれたのは久しぶりだ。繭を起こす前に朝ごはんの準備を行う、その方が効率も良いだろう。
ご飯をお茶碗に盛り、お皿にウインナーと目玉焼きをのせ、テーブルに置く。朝ごはんの準備が完了した。冷めないうちに繭を起こしに行く。
「繭、朝だよ。」
一応呼びかけてみるが返事は無い。なので、少し肩を揺することにした。ちょっと揺すっていると、繭が目を開ける。眠たそうに1度大きな欠伸をして起き上がる。
「おはよう。朝ごはん作ったよ。」
と言って僕はリビングに行く。少し経ってから繭も来た。さっきまで眠たそうだったのに今は凄く元気そうだ。
「いただきます!」
と言ってご飯を食べ始める。久しぶりに自分で作った朝ごはんは美味しい。だけど繭が作った朝ごはんには少し劣るのがちょっと残念だ。
食事等を終わらせ、湖に行く準備を始める。泳ぐかは分からないが一応僕も水着を服の下に着ていくことにした。
「忘れ物は無い?」
繭に聞く。一応必要そうな物は全部僕が持っているが、他に何か忘れていないかを確かめるためだ。
「大丈夫だよ!水着も中に着てるし」
そう言ってスカートを捲り、中の水着を見せようとしてきた。それを全力で止める。
「じゃあ行こっか。」
と言って家を出る。しっかりと鍵は閉めた。
湖は僕達の家から北の方向に30分程度歩いた所にある。確か凄く綺麗な場所だったはずだ。
暫く歩くと湖が見えてきた、記憶通り綺麗で、同じく綺麗な空を映している。
「綺麗だね。」
繭が目を輝かせて言っている。テンションが上がった繭はそのまま服を脱ぎ捨てて水着姿になり、湖へ入っていった。
「早く来なよー!」
腰まで水に浸かる位の位置まで行った繭が振り返ってそんな事を言う。僕は砂浜の様になっている場所に荷物をまとめて置き、水着に着替えて繭の元へ向かう。
繭のすぐ近くまで行くと、いきなり水をかけられる。
「うわっ?」
いきなりの事で驚いて、変な声を出しながら転んでしまった。繭の笑い声がする。やられっぱなしは何となく嫌なので、立ち上がると同時に勢いよく水をかけた。驚いた繭が後ろに倒れ大きな水しぶきが上がる。
僕が笑っていると、また水をかけられる。その繰り返しだ。そんなふうに僕達は時間を忘れて遊んでいた。
疲れ果てて、2人で砂浜のような所に寝っ転がるように倒れる。繭の方を見てみると、その大きな胸が息をするのと同時に上下に動いていた。繭がこっちを見て少し微笑む。少し経ってから2人で砂浜に座る、広い砂浜に2人でくっついて。
綺麗な夕焼けを映している湖や目の前の景色はとても美しかった。だけど、隣に座る繭の夕焼けに照らされた笑顔は、どんな物より美しくて、そして僕の大好きなものだった。