11話 秋の訪れ
「綺麗だね。」
僕の隣で繭が呟く。その言葉は僕や緋莉、茶眩に対してでは無く、今目の前に広がっている景色に向けての言葉だ。
僕達が出会った頃はまだ緑だった木々も秋となった今は赤や黄色などに染まっていて、時の流れを感じることが出来る。補足だが、この世界に四季や月日、時刻の概念は無い。だが、基本的な時間の流れは日本と殆ど同じなので安心出来る。
「ほんとに…綺麗だね。」
僕もそう返すと、繭は優しそうに微笑んだ。秋の訪れを感じさせる爽やかな風に吹かれた髪がサラサラとなびいて綺麗だ。
「じゃあそろそろご飯にしようか。」
そう言って繭は地面に座り込む。僕達は、昔来た湖に散歩に来ていたのだ。
持ってきていた紙袋から4人分のお弁当箱を出す。
そして、
「いただきます」
と言ってから蓋を開ける。
中身はハンバーグにエビフライ等の子どもに人気のあるおかずだ。と言っても本物のエビは居ないので、あくまで似た食べ物だ。
「美味しいね」
いつもの様に褒めると何故だか緋莉が頬を赤く染める。なんでだろうと考える前に、
「これ全部緋莉ちゃんが作ったんだよ!」
と繭が言った。褒めてもらって恥ずかしいのかと勝手に納得する。
「難しかったけど頑張ったんですよ!」
胸を張って緋莉が言う。その顔には嬉しさが漏れていた。
よく見ると、緋莉の指には絆創膏が貼ってあって、頑張った証拠が良く見えた。
「うん、美味しい…」
恥ずかしそうに茶眩も言う。みんなから褒めてもらった緋莉は満足そうに自分のご飯を食べていた。
「そういやそろそろパンプキンパーティーの季節ですね。」
突然茶眩が話し出す。パンプキンパーティーってなんだ?カボチャ祭り…。日本語にしても分からない。
僕がカボチャ祭りについて聞く前に繭が口を開いた。
「パンプキンパーティーって何?」
すると次は茶眩と緋莉が困惑した表情を浮かべる。
「もしかして…北の都市には無いんですか?」
緋莉が言う、多分そうなのだろう。聞いた事ないし。
「そうなの?大陸で共通の行事だって聞いたけど」
と茶眩。これ以上ややこしくして欲しくない。
「とりあえず、どんな行事か教えて欲しいな。」
話を進めるために僕が聞く。
「パンプキンパーティーは前夜祭と本祭があって、前夜祭ではみんなで大きなカボチャの中身をくり抜いてお面にします。。それを被って色々なお家に行ってお金を貰うお祭りです。勿論子どもがです。」
これだけを聞くとハロウィンみたいな物だと思う、お菓子がお金に変わっただけだ。
「本祭は大陸の安定や作物の豊作を祈る祭りです。その後にみんなで前日にくり抜いたカボチャの中身を食べて終了です。」
「なるほど。」
本祭の方は日本では無いようなお祭りだろう。もしあったとしても僕は聞いたことが無い。
「この村ではあるのかな?」
繭が聞いてくる。去年の今の季節はまだこの世界にいなかったので知らないのは当たり前だった。でもそんな事を茶眩と緋莉の前では言えないので、適当に誤魔化す事にした。
「村長に聞いてみれば分かるよ。」
この村で1番歳をとっている村長ならわかるはずだ。
「じゃあ行ってみよっか」
そう言って食べていたお弁当を片付ける。
片付けが終わったら村長の家凸だ。
#
コンコン
家の戸を叩き、中にいる村長を呼ぶ。
「お久しぶりです、村長。」
出てきた村長にそう声をかける。この人にはこっちの世界に来た時に相当お世話になった。
「雷さんですか、お久しぶりです。後ろの3人は…初めましてですね。」
僕の後ろを見ながら村長が言う。そして3人が自己紹介をした。と言っても名前を言っただけだけど。
「初めまして、この村の村長のヤマトと言います。これからよろしくお願いしますね。」
と村長のヤマトさんが言った。僕も名前は初めて聞いた。
「よろしくお願いします!」
後ろの3人が声を合わせて言う。
「それで、今日はどうしたんだい?」
「パンプキンパーティーってヤツについて聞きたいんですけど…」
ヤマトさんの質問に答え本題に入る。するとヤマトさんは嬉しそうな顔をして答えた。
「パンプキンパーティーなら次に日が登ったら前夜祭が始まりますよ、私も楽しみです。」
次に日が登ったら、言い方はややこしいが明日が前夜祭という事だろう。村長も楽しみにしているという事は結構大きめのお祭りである事が想像出来る。
「このお祭りはこの大陸共通なんですか?」
後ろから声がした。繭が村長に質問をする声だ。
「そうですよ、紅葉が色付き始めてきたら全都市の1番偉い人で話し合い、祭りの開かれる日を決めるのです。」
季節の概念が無いので少し分からずらいが、秋になったら偉い人で話し合い、開催日を決めるという事だろう。
「分かりました、ありがとうございます。」
と感謝を述べ、礼をする繭。
そのまま村長の家を出て、自宅に向かう。
「楽しみですね!前夜祭は凄いんですよ!」
帰り道で茶眩が興奮しながら話す。やっぱり祭りは子どもにとっては楽しみなのだろう。
「私も楽しみです。あと、明日手伝うことがあったら教えて下さい。」
緋莉もそう言う。カボチャの中身をくり抜くのは大変そうなので、暇そうだったら手伝ってもらおう。
「とりあえず、カボチャ買いに行くか。」
そう言って、周囲を見渡しカボチャの売ってそうな店を探した。
「あそこ売ってるよ。」
と、繭が指を指す。そのお店は、お店の前に
「パンプキンパーティー用カボチャ!!!」
とでかでかと書いていた。
「わかりやすいな…」
と呟き、その店へと向かった。
「ありがとうございましたー!」
店主の声が響く。こういう所の人は声が大きい、頭に響く。
カボチャを4つ持って僕達は自宅に向かう。
「重っ、手伝って誰か!」
中身がギッチリと詰まったカボチャは予想以上に重たかった。手が痛い。
「しょうがないなぁ〜」
繭がそう言い半分持ってくれる。すると、
「全然軽いじゃん」
と言って残りの2つも持ってくれた。力持ちだな。
「僕にも持たせてください」
茶眩がそう言い、カボチャを繭からとる。
「楽勝じゃないですか〜」
そう言ってカボチャ4つを片手で持つ茶眩。袋には入っているが、片手は凄い。力持ちが過ぎる。
「私もいいですか?」
緋莉が控えめにそう言う。
「わかったよ」
茶眩が袋を手渡す。それを持ち、
「軽いですね〜」
と言っている。
「お兄さんが力無いだけじゃないですか。」
と、茶眩。他の2人も頷いている。僕がおかしいの?納得いかない。
「そーですか、力無いですよ僕は。」
と返す。その後筋トレを勧められたがしっかりと無視した。
#
家に着き、食事を終えた。お風呂には今は緋莉入っているはずだ。リビングには僕と繭の2人だった。
「パンプキンパーティー楽しみだね!」
繭が子どものようにはしゃいで言う。確かに楽しみだけど、そんなにはしゃぐ事なのだろうか。
「そうだね。僕も楽しみ。」
そう答え、珈琲を1口飲む。温かくて美味しい。
「そういや繭はハロウィンも好きだったよね。」
今思い出したことを懐かしそうに語る僕。
「そうだね、大好きだよ。」
そう答える繭も懐かしそうに一人で頷いていた。
「繭が仮装して色んな家に行ったよね。僕大変だったんだよ?」
昔言えなかった事を話す。今なら笑い話にできるが、当時はほんとに大変だった。何キロ歩いたんだろ。
「あははっ。ごめんね笑」
その頃を思い出したのか笑いながら謝る。
「今回も歩くから沢山寝ないとね。」
繭が笑いながらそんなことを言う。
「そうだな。じゃあそろそろ寝るか。」
と返し、寝室へ向かう。お風呂は既に済ませてあった。
「おやすみ!」
後ろから元気な繭の声が聞こえてくる。
「うん、おやすみ」
そう言って、明日のための休息を取るために、早めに寝る事にした。
楽しみだな、パンプキンパーティー。名前は変だけど。




