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天命

作者: 藍緒 弦

 一人の男の下に天の使いが舞い降りた。

 彼女は男に言った。


「あなたの魂は前世において、父によって死の運命に定められた多くの人間を救いました。よって、その前世による報いが、あなたの運命となって訪れるでしょう」


 彼女はそれだけ言い残すと、光の粒子になって消えた。

 男は特に人より優れているところも劣っているところもない平凡な人間だった。また、これまでの人生において、これといって素晴らしい出来事もなかった。そのため、男はこの天使の言葉にたいそう喜び、期待した。

 それからしばらくして、男と離れて暮らしていた彼の両親が事故で死んだ。

 崖上の道路で飛び出した動物に思わずハンドルを切った結果、車が崖下へと転落してしまったのである。

 男の下には両親の遺産が転がり込んだ。男は大いに悲しんだが、先に天の使いに言われていたことがこれなのか、と思った。確かに両親の遺産は、男の今後の人生を考えた時、過ぎた金額ではあった。恐らく何もなしに両親を失ったのであれば精神的に耐えられず、遺産どころではなかったかもしれない。そういう意味であの使いの言葉は救いだったのだろう。そう思うと得心がいった。

 ところが、両親の葬儀を終えた男が自分の家に帰る途中、皮肉にも両親が事故に遭ったのと同じ場所で、居眠り運転のトラックと正面衝突を起こした。男は大けがを負ったものの、大手術の後に一命をとりとめた。トラックの運転手はその事故で死亡したため、両親の遺産に加えて運転手の遺族からの慰謝料によって、男の今後の生活は約束された。

 これが本当に、あの使いが寄越した前世に即した運命だったのか。

 なにかの手違いだったのではないのか。

 男はそんなことを考え続けたが、それしかできなかったとも言えた。

 なぜなら、男の身体は、もはや目玉しか動かなかったのである。

 それが男に相応しい運命だった。

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