第85話 プロトタイプ
「ぐあっ!」「くっ!」「痛ッ!」「きゃっ!」
プロトタイプの改造人間から何とか逃げ出した僕達は、一旦宿に戻った。
しかしこのまま戻れば周りの人を驚かせてしまう。
保護色で隠れながら宿に入ると、ダメージで力が抜けて部屋の中に入り崩れ落ちた。宿に人が少なくてよかったな。
予想以上のダメージに体が思うように動かない。
「ぐっ!みんな、大丈夫………?修復機使って」
「は、はい」
ロイゼ達は頷くと、荷物の中から細長いポイズンリムーバーのようなものを取り出す。
それを傷口に当てて上部のスイッチを押すと、使った者の遺伝子情報を読み取りナノマシンによる傷の修復が行われる。
セルフィ達がこの前基地の中で奪ってきたものの一つだ。
「まさか、ここまでやられるとは………」
「ふぅ………思ったよりもやられたね。シルフィ、大丈夫?」
「くっ!ふぅ………う、うん………」
とりあえず三人は問題無さそうなので、僕も自分の回復に専念する。
体に魔力を巡らせると、瞬く間に傷が修復されていった。
ふぅ、ここまでやられると回復も一苦労だな。
全員の回復が終わり痛みも退いてくると、ロイゼが僕の前で頭を下げた。
「オモト様、申し訳ありませんでした。このような強力な武器まで与えられておきながら、オモト様をお守りすることが出来ませんでした」
「いや、全員生き残れただけでも大したものだ。まさかプロトタイプが三人とも解放されていたとはな」
それほどまでにハイルセンスは僕を捕まえようとしている、ということなのだろう。
「あの、そもそもさっきから言ってる『プロトタイプ』ってどういうこと?」
セルフィの質問に、そういえばまだちゃんと説明していないことを思い出した。
「旧型………これまで戦ってきた改造人間よりさらに前に作られた改造人間だ。もちろん、使われてる技術も昔のもので、今の改造人間の土台みたいなものだよ」
僕やアルクンスリッシのような幹部を除いた汎用型の改造人間。それらの試験運用型として造られたのがさっきの三人だ。
クリーチャータイプのワーウルフ、クンスリッシタイプのフランケン、ガイストタイプのヴァンパイア。
「それなら何であんなに強いの!昔に造られたなら、普通の改造人間より弱いんじゃないの?」
「昔の技術とは言っても、パワーや出力といった面での技術は今と変わらないよ。彼らを旧型たらしめているのは、制御プログラムだ」
普通の改造人間はこの世界のモンスターの凄まじい力を人間に埋め込むが、それは使用者の精神をも蝕み、やがてはただの獣へと変えてしまう。
それではただのモンスター軍団だ。改造人間の意味がない。
そこで開発されたのが、その力を制御する『守護聖人』と呼ばれるプログラムだ。
そしてハイルセンスの中のネットワークと繋げる役割も果たしている。
それによりモンスターの精神を抑え込み、それにより減退したパワーをシューツパトンから出力する。
それが現行の改造人間のシステムだ。
だがプロトタイプの改造人間にはそのシューツパトンが存在しない。
「それだけであれほどの力が出るのですか?」
この中で僕の次に改造人間と出会ってきたロイゼが首を傾げる。
「開発者だって馬鹿じゃない。初めから制御プログラムが必要か否か、それ自体は検討していた」
シューツパトンがあれば、人の理性を永遠に持って活動できる。しかしそれはモンスターの精神を抑え込むことになる。
結果として本来なら使えるモンスターの力の多くに蓋をしてしまうことになった。
もちろんシューツパトンで補強はされるが、そのエネルギーはモンスターのエネルギーとは完全に融合はしない。
それによる差は大きく、旧型と現行の改造人間とではパワーは桁違いだった。
それだけモンスターの力、というか改造人間の力というのは精神に左右される、とも言えるな。
今回はコールドスリープから目覚めたばかりということもあってあのレベルだが、次会った時はどうなっているか………
「つまり………力か理性か、という問題で今は理性を取っている、ということ、ですか?」
シルフィが僕の話を分かりやすくまとめてくれた。
「そういうこと。そしてプロトタイプは力を取った場合の改造人間。人の精神でモンスターを抑え込めるかもって造られたんだけどね………」
「無理だったの?」
「あぁ。運用の初期段階では問題無かったんだ。けど、改造人間の力を引き出せば引き出すほど、人の精神が擦り減り、やがてはモンスターの力を制御できなくなってしまった」
「その時はどうやって対処したんですか?」
「僕達幹部が全力で止めたよ。その後廃棄処分も考えたけど、彼らの力は凄まじかった。だから最低限の制御が出来るようになるまで、彼らの戦闘データを一旦リセットして、冷凍睡眠状態にさせるはずだったんだが………」
「それが目覚めた、ということですか。そんな危険な人達を?」
「この前ゴーレムバルバラを追い詰めたから、いよいよ本腰入れ始めたみたいだな」
おそらくアルクンスリッシはある程度彼らを制御できるようになってるはずだ。けど完璧な制御はできていないはず。
そうなると短期で一気に攻め落とそうとするだろう。居場所がバレてる以上、また近いうちに狙ってくるな。
「何とかして倒さないと、私達だけでなく街の人にまで被害が及んだら………」
シルフィの不安は僕も同じだった。
アルクンスリッシがそんな事許すはず無いが、それじゃあ気にしないでいいかと言われたら、それはそれで違う気がする。
「その制御プログラム以外に、何か彼らの弱点のようなものはありませんか?」
少しでも解決策を探ろうと聞いてくるロイゼに、僕は首を捻った。
「そうだなぁ………強いて言うなら、モンスターSDを狙えば、あるいは………」
「もんすたーえすでぃー………って、何ですかそれは?」
ロイゼが訳がわからずに眉を顰めた。
あぁ、そうか。そこから話してやらないとだな。
「さっき言ったでしょ?改造人間はモンスターの力を引き出して戦う。その力のデータの源となってるのがモンスターSDだ」
言ってみれば改造人間の中核のようなものだ。それを人体に埋め込む事で、初めて改造人間として機能する。
ガーゴイルアンブロジウスなら『ガーゴイルSD』が、マンドレイクヤヌアリウスなら『マンドレイクSD』がインストールされている。
アルクンスリッシが施す改造手術は、そのモンスターSDに体が適合するように処理をする、というのが目的だ。
中核をデータ化する事で、改造人間がより簡単に複製、強化することができるようになっている。
さらにバックアップを取っておけば破壊されても問題無し、というわけだ。
「それじゃあ、オモト様の中にもそのモンスターSDというのがあるんですか?」
「もちろん『クリーチャーSD』ってのが埋め込まれてる。まぁ僕のような幹部の場合は少し特殊なんだけどね。全ての改造人間にそれぞれあるよ」
「ん?全部の改造人間にあるなら、これまでのと変わらないよ?」
「いや、プロトタイプとの違いは、『モンスターSDが体内に残るかどうか』だ」
普通の改造人間は万が一倒された場合の秘密保持のために、モンスターSDはインストールした時点で体内で粒子化して分散する。
だから倒してもそんなものは出てこなかった。けどプロトタイプは違う。
そのプログラムを組み込む前に彼らはコールドスリープ状態になった。
そして何より彼らにはバックアップがない。何せハイルセンスのネットワークと繋ぐシューツパトンが無いのだから。
だから彼らの体内には、今でも尚モンスターSDがそのままの状態で残っているはずだ。
それさえ壊せれば戦力は激減する。
「まぁ、彼らのSDを壊すには、彼らを攻撃しないといけないから、そもそも難しいんだけどね」
「そう、ですよね………どうすれば………」
「何か確実に倒せる方法って無いの?」
「基本フル装備で動いてるんだよ?そんなのあったらさっきやってる」
「だよねぇ」
彼らを倒さないことにはこの街から出られない。この街で彼らに対抗できるのは僕達しかいないのだから。
その街全体が襲われれば、人間にはどうすることもできない。
「と、とにかく、今は警戒を強めるしか無いと思います。こちらからは何もできないわけですから」
「それもそうだな。エントウィクラーもある、何かあったらすぐに連絡するように」
「うん!」
「分かりました」
体の修復も終わり、ある程度動けるようになった。僕はベッドに腰掛けると外を見る。
「確実に倒せる方法、かぁ………」
僕は一つ嘘をついた。
彼らプロトタイプの改造人間を確実に倒せる方法が、一つだけ思いついている。
今の僕が怪人体に変身すれば…………
「いや、ダメだな」
「オモト様?どうかされましたか?」
「ん?あぁ、何でもないよ」
気にかけてくれたロイゼに肩をすくめて返すと、装備を解除している彼女達を見た。
みんなの前であんな姿見せるわけにはいかない。
それに今あの姿になったら………僕は、僕でなくなる。
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