第84話 三体
「いくぜ!オラァッ!」
僕達の前に姿を現したプロトタイプの改造人間達三人。そのうちの一人であるワーウルフが、問答無用で僕達に襲いかかってきた。
凄まじい瞬発力で僕達に近づくと、鋭い爪のついた手を振り上げる。
「任せて!」
それにいち早く反応したのはセルフィだった。僕達の前に出ると、シュトーパー装備した腕を交差させて攻撃を防ぐ。
「きゃっ!」
「ガキが邪魔すんじゃねぇ!」
しかしいくら強力なシュトーパーとはいえ、ワーウルフの力強い攻撃には耐えきれずに、その場で膝をついてしまった。
「くっ!やぁっ!」
「っとぉ」
力技では負けると思ったのか、セルフィは鋭い蹴りを放った。しかしワーウルフはそれを難なく避ける。
「何だ、こんなモンか?はぁっ!」
ワーウルフは駆け出すと、セルフィの周りを錯乱するように駆け巡った。
「えっ⁉︎速ッ!」
あまりの速さにセルフィは目で追いかけられなくなっている。ワーウルフの爪がセルフィの目の前に迫る。
「死ねや!」
「お姉ちゃん!はっ!」
姉のピンチにシルフィが手を前に翳した。彼女の手からエネルギー波が発せられて、セルフィをねじ伏せようとしたワーウルフを吹き飛ばした。
「ぐっ!このッ!」
「やぁっ!」
後退した隙にシルフィがブーマーラングを投げた。
激しく回転しながら弧を描いたブーマーラングが、ワーウルフの周りを回転しながら、身体を斬りつけた。たちまち体中に傷ができる。
「テメェ、舐めんじゃねぇぞ!」
ワーウルフは地面に左手をつくと飛び上がった。飛んできたブーマーラングを蹴り飛ばして叩き押す。
「チッ!アルクンスリッシが連れてる奴隷共も面倒な武器持ってるって言ってたが、随分と舐めたマネしてくれんじゃねぇか」
首を回しながらワーウルフが睨むと、彼の体中についた傷が一瞬に回復していった。
「ッ⁉︎そんな………!」
「これくらいの生ぬるい攻撃じゃ、擦り傷にもならねぇ、よっ!」
ワーウルフは爪を爪で研ぐと、セルフィとシルフィに一瞬で迫り飛びかかろうとする。
「二人共退がって!」
その瞬間、シュテアートを握ったロイゼが二人の前に飛び出た。峰でワーウルフの爪を受け止めると弾き飛ばした。
「はぁっ!」
さらにシュテアートを振るい、素早い剣撃を繰り出した。その速さはワーウルフにも勝るとも劣らない素早さだ。
「ぐっ!んだよ、速ぇヤツがいんのか。ったく、アルクンスリッシの野郎もめんどくせぇ武器盗られやがって」
「まだ止まりませんよ!」
ロイゼはワーウルフを僕達から遠ざけるように追撃を繰り返した。
「けど、遅ぇなぁ!ガアァァァァッ!」
「くっ!ぐふっ!」
ワーウルフは素早くロイゼの背後に回ると強烈な咆哮をあげた。ロイゼが怯んでしまう。
強く踏み込んだワーウルフがロイゼに蹴りを放った。咄嗟にシュテアートで受け止めるが、それでも衝撃は強くロイゼは後退する。
「ロイゼ!援護する!」
僕はゲワーゲルフを構えると、ワーウルフに向かって引き金を引いた。
ババババッ!
マガジンの中の弾が全てワーウルフに向かって発射される。ロイゼに反撃しようとするワーウルフを牽制した。
「ぐぁっ!」
「今です!」
一瞬できた隙を狙って、ロイゼが一太刀食らわせようとシュテアートを振り上げた。
しかしそれを阻むように僕達の間に、蝙蝠の大群が割って入ってきた。
「きゃっ!何ですかこれ⁉︎」
「ロイゼ、こっち!」
僕はロイゼの腕を引くと蝙蝠の群れの中から彼女を引っ張り出した。蝙蝠の群れは一つに固まるとヴァンパイアになる。
「まったく。ワーウルフ、一人で暴れてんじゃないよ」
「ヴァンパイア!余計なことしてんじゃねぇぞ!」
「アンタこそ、本来の目的忘れてるんじゃないよ。アタシらの目的はアルクリーチャー様の捕獲、奴隷を殺すことじゃない」
「むしろ………殺すな、言われてる」
「何だって?」
ヴァンパイアの隣でフランケンがボソボソと呟いた言葉に、僕は首を傾げた。
ロイゼ達を殺すな、という指令が出てるのか?まさかアルクンスリッシが?
「んなモン知るか!文句あんならテメェらがやれや!」
吐き捨てるように叫ぶと、ワーウルフは僕達に襲いかかってきた。
「させません!」
ロイゼがシュテアートを振るうと、僕からワーウルフを遠ざけた。
しかしワーウルフが後退したのは一瞬で、すぐにロイゼの目の前から消えてしまった。
あまりの速さに目で追いつけずに、気がつけばワーウルフはロイゼの真横にいた。
「なぁッ⁉︎」
「ノロいんだよ!」
ロイゼはシュテアートの能力で避けようとするが、完全には避けきれずにワーウルフの蹴りを喰らってしまう。
「きゃあっ!」
咄嗟にシュテアートで防いだから致命傷にはならなかったが、それでも大きく吹き飛ばされた。
「ロイゼ!」
「大丈夫です!」
慌てて駆け寄ろうとするが、それを他ならぬロイゼが止めた。
そして加速するとシュテアートを振るいワーウルフを抑え込む。
「私なら大丈夫です!それよりも、他の改造人間達を!」
たしかに、ただでさえ厄介なプロトタイプの改造人間が三人、さすがにワーウルフだけに集中するわけにはいかないか。
「………死なないでよ」
「もちろんです!」
「このクソ女!退きやがれ!」
「退きません!」
ロイゼは自分の分身を作り出すと、ワーウルフを囲んで僕達から隔離する。
今はロイゼを信じるしかないか。僕とセルフィ、シルフィはヴァンパイアとフランケンの方へと身構えた。
「まったく、分かっちゃいたが、面倒なことになったね。仕方ない。フランケン、やるよ」
「………分かった」
フランケンは頷くと拳を構えた。大柄な体に似合わない跳躍力で跳び上がった。僕達に向けて拳を振り下ろす。
「くっ!避けて!」
大きな拳が僕達を潰す前に、僕達はすぐさま避けた。
フランケンの拳は近くにあった大岩を粉々に砕き、僕達のいた地面にめり込んだ。
その剛力に僕達は目を見張る。
「えぇっ⁉︎何あれ強ッ!」
「む………ッ!」
フランケンは拳を外したと分かると、すぐさま二発目を繰り出した。
「はあぁッ!」
それに対抗したのはシルフィだった。サイコキネシスでエネルギー壁を生み出して、フランケンの拳を受け止める。
「ッ!」
「きゃっ!」
しかしこの拳の強さはエネルギー壁をも圧倒した。破られてはいないものの押され気味だ。
このままだとマズい!
「シルフィ、もうちょい頑張って!セルフィ!」
「うん!」
僕とセルフィは同時に跳び上がると、エネルギー壁を越えてフランケンの後ろに回った。
「おりゃあぁッ‼︎」
セルフィがフランケンの死角から拳を繰り出した。
しかしそれを見越していたように、フランケンの体から生えている鉄板が飛び出した。
「うぉっと!」
素早いセルフィはそれを避けると、空気を蹴り飛ばしてフランケンの頭上から拳を振り下ろす。
フランケンはシルフィから間合いを取るとセルフィの方に集中した。
「ッ!」
「おりゃあぁッ!」
二人の拳がぶつかり合いエネルギー波が一帯に広がった。
「くっ!ひゃあっ!」
互角かに見えたが、元の肉体が改造されているフランケンに、武器だけを強化されているセルフィは敵わない。地面に叩きつけられると、蹴り飛ばされた。
僕は吹き飛ばされたセルフィを受け止めると、フランケンに向けてゲワーゲルフを乱射した。
しかしクンスリッシタイプの改造人間に物理攻撃は効きにくい。牽制してかすり傷はできても怯むことはなかった。
僕はゲワーゲルフを背中に背負うと、強く踏み込んで加速した。
マッハを超える速さでフランケンの後ろに回ると、長い尻尾を生やした。うねりながら伸びた尻尾が彼の首に巻きつけた。
身体のエネルギー回路から脳へと繋がっていて、且つ関節で脆い所。そこを集中的に狙えば!
フランケンを首を締めつけると、バチバチと火花が飛び散った。
しかしフランケンは特に苦しむ様子は見せない。
「………俺は、痛み、感じない」
小さく呟くとフランケンは、自分の首を締めつける僕の尻尾を引っ張った。
咄嗟に手をついてイモリのように地面に貼り付こうとするが、その強さに引っ張られてしまう。
そして今度は僕がフランケンの大きな手に首を掴まれた。片手で僕を待ち上げると、強靭な人工骨が軋むほどの握力で締め上げられた。
「が、あぁッ!………かはッ!」
肺の中の息が吐き出されて窒息した。
僕は真空でも活動できる改造人間だから窒息死することはないが、このままでは首をへし折られる。
何とか手を引き剥がそうとするが、手を僕の力じゃ動かすことすら出来なかった。
「暴れては、困る」
首を締め上げる力を強めると、フランケンの手から高出力の電流が流れ込んできた。
「ぐっ!ぐあぁぁぁッ‼︎」
身が焼かれるような痛みが全身を襲った。人工皮膚でなければ黒焦げになっていただろう。
ブレスで跳ね除けようにも、電気を放っている相手に炎は通じないし、この状況じゃ大した出力が出ずに、下手すればイオン風で消えてしまう。
「「オモト様!」」
僕の危機にセルフィとシルフィが飛び出してきた。
「「やぁっ!」」
シルフィがサイコキネシスでフランケンのバランスを崩すと、その隙にセルフィが僕の首を掴んでいる腕を殴り飛ばした。
いくら痛みは感じないとはいえ、それだけの衝撃を与えられれば離してしまう。
着地と同時に僕は飛び蹴りを喰らわせて、それに次ぐようにセルフィも飛び蹴りを放った。
形成逆転しそうになったその瞬間、僕達とフランケンの間にヴァンパイアが割り込んできた。大きな翼を広げて僕達をはたき落とす。
「そうはさせないよ」
「ぐあっ!」
叩かれた僕は後退すると、ヴァンパイアに向けてゲワーゲルフの引き金を引いた。
しかしヴァンパイアは木の影に溶けるように消えてしまった。気配すら感じない。
「あれ⁉︎どこいったの?」
辺りを見渡すセルフィの影から、いきなりヴァンパイアの手が伸びた。
そうだ、ヴァンパイアは影から影へ移動できるんだった!
「お姉ちゃん危ない!」
咄嗟にシルフィが手を出してエネルギー波でヴァンパイアを吹き飛ばそうとした。
その瞬間ヴァンパイアの身体が真っ黒に染まり、再び蝙蝠の群れとなった。散開してエネルギー波を避ける。
その群れはシルフィに狙いを定めた。一斉にシルフィを取り囲むと、ヴァンパイアの姿に戻ってシルフィを捕まえる。
「ちょっと、アンタの生命力貰うよ」
「きゃっ!何言って、きゃあぁぁぁッ!」
ヴァンパイアがシルフィの首に触れると、そこからシルフィの生命力が吸われていった。顔色がどんどん青白くなる。
「シルフィ!」
セルフィはシルフィを助けようとヴァンパイアに飛びかかった。ヴァンパイアはシルフィを離すと、蝙蝠になって拳を避ける。
マズい………コイツら、再改造を施されてるな。僕の知ってる頃よりも強くなってる。
「オラァッ!」
「ぐぁっ!かはッ!」
僕達から離れたところではワーウルフの速さに追いつけずに蹴り飛ばされたロイゼが、大きく吹き飛んで木に叩きつけられた。
「ロイゼ!大丈夫?」
「ぐっ!オモト、様………」
これ以上はマズいな。一旦退くしかないか。
相手は三人、となると………やり方は一つしかない。あんま森ではやりたくないんだけどな。
「があぁぁぁッ!」
僕は自分達の周りを取り囲むようにしてブレスを放った。紅い炎が僕達を包む。
「シルフィ、頼む!」
「くっ!………はい!」
生命力を吸われて衰弱しながらも、シルフィは僕の意図を察するとエネルギー波を全方向に広げた。
調節された波が炎を辺り一帯に広める。
「ぐっ!このッ!」「む………!」「おっと」
炎が彼らを襲っている隙に、僕はみんなの姿を消してロイゼを、セルフィはシルフィを抱えてその場から逃げ去った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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