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改造人間と奴隷達の居場所  作者: 音数 藻研鬼
第4章
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第83話 バランス

 エントウィクラーというよく分からない通信機を手に入れた僕達は、いつも通りクエストに出かけていた。

 ハイルセンスにここにいるバレて、本来なら今すぐにでも逃げなければならない。

 しかしそのための資金や物資などを揃えなければならないため、すぐに出発というわけにはいかない。

 旅に必要なものはちょいちょい集めてはいるが、もうしばらくはこの街で暮らす必要がありそうだ。

 僕の力を使えばいくつかは省いても良さそうな気もするけど、僕一人ってわけじゃないしな。集められない事もないから揃えている。

「そういえばオモト様。旅に出るとはいうけどさ、移動手段どうするの?馬車?歩き?」

 森へ歩く道すがら、隣を歩いているセルフィが僕に尋ねてきた。

「今のところは歩きかな。急いでこの街を離れないといけないとはいえ、馬はいざって時に明らかに荷物になる。極力身一つの方がいいでしょ。それに御者出来る人この中にいる?」

 一応僕は過去にハイルセンスにいたためできない事はないが、それでもプロってわけじゃない。

「うーん………あ!荷台だけ買って、馬じゃなくてエリルちゃん繋げたら?」

「くぅーん」

 セルフィはシルフィの腕の中にいるエレメンタルフェンリルを見て言った。それに釣られるようにエレメンタルフェンリルがこちらを向く。

 ウチに来てからというものの、エレメンタルフェンリルは基本的に僕達と共に行動している。

 というのも今いる宿は基本的に部屋に動物を持ち込むのを禁じている。

 だから部屋に置いてきて万が一誰かに見つかってしまったら面倒な事になる。だから周りから隠しつつ、いつも一緒だ。

「なぁ、そういえば何でエレメンタルフェンリルのことエリルって呼んでるの?」

 そう、今セルフィの言ったエリルってのはエレメンタルフェンリルのことだ。気がついたらみんなそう呼んでいた。

「だってエレメンタルフェンリルって長いじゃん。何か他に名前があるわけでもないんでしょ?」

「個体管理番号2001-3002」

「そうじゃなくて、ペットみたいな名前だよ」

 そんなのあるわけないじゃない。あくまでハイルセンスの生物兵器なわけだし。開発者のアルクンスリッシは名前に頓着する人でもなかったし。

 まぁ呼びやすいに越した事はないし、問題無さそうだしいいか。

「それで、私の提案の答えは?」

「ん?あぁ、それも考えたけど、明らかに目立つでしょ。馬系のモンスターならまだしも、大きな犬が荷台引いてるなんてさ」

「身を隠すのが目的だもんね。普通に歩いた方がいいか」

 そういうわけだ。

 そんな事を話しながら森に到着した僕達は、周りの様子を警戒しながら進んでいった。

 しばらくして、目の前に犬の頭をしか小人、コボルトが現れる。

「よぉし!いっくよ〜!」

「セルフィ、いつも言っていますが、一人で勝手に突っ走らないでください」

「………はぁい」

 意気揚々と一人で勝手に突っ込もうとしたセルフィが、ロイゼに嗜められる。

 セルフィは独断行動に走りがちだが、その辺りはロイゼやシルフィがしっかり抑えてくれる。

「とりあえずいつもみたいに遠いのは僕とシルフィでやるから、近いのは二人で頼むよ」

「了解!行ってきま〜す!」

 僕が指示を出すや否やセルフィがシュトーパーを装備して鉄砲玉のごとくかっ飛んでいった。

「シルフィ、セルフィのフォローよろしく」

「あ、は、はい!が、頑張ります!お姉ちゃん待ってー!」

 ブーマーラングを構えたシルフィが、慌ただしくセルフィを追っていく。

「いやはや、若い子は元気だねぇ」

「オモト様も充分若いかと………それよりも、あの二人大丈夫でしょうか?シルフィはまだ戦場での空気に慣れてませんし、逆にセルフィは考えもせずに突っ込んでしまいますし」

「こういうのはバランスが大事なの。二人で程よくなってるし大丈夫だよ。それに、あぁいう極端な人がいた方が、いざって時に行動の舵を切りやすい」

「しかし、それでは統率に支障が………」

「いやいや、軍隊じゃないんだからさ。自分で考えて自分で行動する、そうして初めて人は戦場で成長するの」

「そういうものでしょうか?」

「マズいと思ったら瞬時に矯正すればいいだけだよ。さて、僕達もやるか」

「はい!」

 僕がゲワーゲルフを構えると、ロイゼが頷いてシュテアートを引き抜いた。




「はぁっ!」

「おりゃあ!」

「やぁっ!」

「よっと」

 それからかれこれ数分。コボルトを全て倒し終えた僕達は一息ついた。

「それにしても、この武器は本当に素晴らしいですね。戦力が何倍にも上がった気がします」

「だからって言って、あんまり人前で特殊能力を使わないでよ、目立つから。特にセルフィ」

「あはは、移動に便利だから、ついね」

 森の中でぴょんぴょん跳ね回りおって。人に見られたらどうするんだよ。

「さてと、これからどうするかな?」

「ギルドに戻って、依頼達成の報告をする、のでは?」

「まぁそうなんだけどさ。思ったよりも早く終わったから、旅の支度でもするかな」

 シルフィの言葉に、僕は肩をすくめて答えた。

「それでしたら、私達で準備を進めますので、オモト様でギルドに行かれてはどうしょうか?報酬を貰えるのはオモト様だけですし」

 たしかに、この中でクエストの報酬を貰えるのは、彼女達の主人である僕だけだ。人と話すの面倒だから奴隷もできるようにして欲しいんだけど。

「そうだね。それじゃあ任せ………」



 その瞬間、僕は全身が震えるほどの怖気を感じた。



「みんな避けて‼︎」

 僕の突然の叫び声にみんな驚いたが、反射的にその場から飛び退いた。

 その瞬間、さっきまで僕達のいた所に何かが凄まじい勢いで突っ込んできた。

 大きな音が森に鳴り響き土煙が舞う。

「な、何ですか⁉︎」

 突然の事に驚いたシルフィが僕の腕に抱きついた。

 やがて土煙が薄くなっていくと、その中に人影が見えた。誰かいるのか?

 僕はゲワーゲルフを構えて、その人影に照準を合わせた。

「へぇ、こりゃ驚いたぜ」

 すると土煙の中にいる人が声を発した。若い男の声だ。彼はゆっくりとこちらに歩いてくる。

 男の姿が徐々にはっきりとしてきた。

 上半身は黒いタンクトップで下もズボンとブーツのみというラフな格好。髪は逆立っていて、目が鋭く吊り上がっている。腕には刺青が見られる。

 荒々しい印象があり、見た感じは野生味の溢れた山賊か何かだ。

 一瞬山賊に襲われたのかと思ったが、状況からして人間技じゃないのはたしかだ。

 それにこの感覚は………

「あの寡黙なアルクリーチャーサマが女侍らせてるって言われて、まさかとは思ったが。本当だったとはな」

 男の言葉にロイゼ達が目を見開いた。

「お、オモト様………この人、まさか」

「あぁ、ハイルセンスの改造人間だ」

「そ、そんな………」

 僕の側に控えている三人はそれぞれの武器を手に取った。僕達の間に緊張が走る。

 それとは別に、僕の中には疑問も浮かんだ。何故なら彼は………



「アンタねぇ、いきなり突っ込んでいくヤツがあるかい」



 すると僕達の真後ろの木陰から、別の人の声がした。振り向くとそこには一人の女性がいる。

 さっきまで全く気配を感じなかった存在が後ろにいた。

 僕よりも年上で妖艶な雰囲気を漂わせている。

 露出の激しい紅いドレスを着て、肩や背中など白い肌が剥き出しになっている。唇には紅が薄く塗られている。

 艶のある長い金髪には黒い蝙蝠の髪飾りがあしらわれている。



「………」



 そんな女性の後ろから大柄な男がのそのそと歩いてきた。

 生気の無い目をしていて、口を小さくモゴモゴさせている。

 少しだけ擦り切れている服を身につけているが、その上からでも筋肉で盛り上がった肉体が分かる。

「オモト様、これは………」

「全員、戦闘体勢に入って。ちょっと………これはマズい」

 僕は静かに三人に指令を出した。ただならぬ雰囲気に僕達は体勢を立て直して身構える。

 衝撃の出来事に額から冷や汗が流れた。

「な、何故あなた達がここに………?」

「おや、アタシ達のこと覚えてくれてるのかい?アルクリーチャー様に覚えてもらえてるなんて嬉しいじゃないか」

 女性は口の端を吊り上げて笑った。

 やっぱり、間違いないのか………

「オモト様、彼らは一体何なんですか?三人とも改造人間、なんですよね?」



「改造人間は改造人間なんだが………ただの改造人間じゃない。彼らは全員、プロトタイプの改造人間だ」



「プロトタイプ?」

 聞き慣れない言葉にロイゼが首を捻った。

「久しぶりだね、アルクリーチャー様。アタシらが眠る前だから、一年近く前か」

「あなた達はコールドスリープ状態にされていたはず。何故ここに………?」

「んなモン決まってんだろ。アルクンスリッシサマが俺らを叩き起こしたんだよ」

「………あなた様を、戻すため」

 なるほどね。アルクンスリッシが、彼らのコールドスリープを解除したのか。僕を捕まえるために。

「というわけだ。抵抗するって話だったし、悪いけど力づくでも連れて帰るよ」

 プロトタイプの改造人間達が僕達を囲んだ。彼らの身体がみるみるうちに変化していく。


 山賊のような男の全身の筋肉が膨張して衣服を破いていく。それから茶色い毛が全身を覆った。

 赤い目が爛々と輝き、口が大きく裂けて鋭い牙が伸びる。

 手足の爪は鋭く伸びて、肩からも鋭い突起が突き出した。


 女の身体は血の気が失せたように真っ白になり、全身の血管が浮き彫りになった。

 口から鋭い牙と背中からは大きな翼が生えて、目が輝き耳が長く伸びる。


 大柄な男は全身の皮膚がボロボロと腐り落ちるように剥げていく。ツギハギの肌とゴツゴツとした鉄板や鉄球、ボルトが突き出した。

 皮膚が剥げたことで、目が飛び出しギョロギョロと動く。



 プロトタイプの改造人間、ワーウルフ、ヴァンパイア、フランケンがその姿を表した。

「さぁ、久々のシャバだ。暴れようぜ!」

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 評価、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。


 なお、小説とは関係無い上に私ごとで申し訳ないですが、この度Youtubeチャンネルで動画投稿を開始しました。

 少しでも興味のある方はぜひ下記のURLからご視聴ください。


↓URL

https://m.youtube.com/channel/UC_oOKv3S_0O4hOX9DPydBnw

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