第82話 通信機器
「えっと………オモト様、これはなんですか?」
「ん?あぁ、それは小型爆弾だな。さっきの腕輪でコントロールできるから」
「オモト様、これは?」
「これはね、このボタンを押すとワイヤーが出るんだよ。先にフックがあるから、これを引っ掛けて塀とかを登るんだ」
「オモト様、これは何でしょうか?」
「それは光線銃だね。ゲワーゲルフに装着出来そうだし、僕が貰っておくよ」
僕とロイゼ、そして新たに加わった奴隷である白虎双子のセルフィとシルフィは宿のへやに鍵をかけていた。
床には所狭しと装飾品やら武器が散乱している。
これは全てゴーレムバルバラとの戦いで、セルフィとシルフィが武器庫から盗んできた物だ。ほとんどがアルクンスリッシの作った物である。
それを使えそうな物と使えなさそうな物を分けて、誰が使うかを決めている。
部屋の隅っこではウチのペットとなったエレメンタルフェンリルが丸まっている。
「あ〜〜もう‼︎物多すぎ!いつまで経っても終わらないよ〜〜‼︎」
「セルフィがやったらめったらに盗むからでしょ?まったく、少しは物を確認してから盗みなよ」
「だってあの時そんな余裕無かったもん」
盗品の山の中で文句を言いながらセルフィが手を動かす。
この二人 (主にセルフィ)は手にしたマジックパックが大量に入るのをいい事に、物を確認せずに何でもかんでも突っ込んできたらしい。
ちなみにセルフィは主人である僕に気安くタメ口だが、それは僕が許した事だ。
一時期はロイゼとシルフィが直させようとしたが、小さな子供に無理して敬語を使わせるのもいかがなものかと思ったのだ。
それにあぁやって何事にも物怖じせずに気軽に取り組めるのがセルフィの長所だ。それを控えさせてまで敬って欲しくはない。
「オモト様の手を煩わしてしまってすみません。本来なら私達だけでやるべきなのに」
「別にこれくらいいいよ。ハイルセンスの物はシルフィ達じゃ分からないからね。まぁ、僕も全部知ってるわけじゃないけど」
謝ってくるシルフィの頭を撫でながら、僕は肩をすくめた。シルフィももっと砕けていいんだが、これが彼女の性分なんだろうな。
「それにこの街を出る前に、ある程度装備はしっかりしておきたいしね」
「オモト様。やはり、この街を出るのですか?」
「………まぁね。ハイルセンスに見つかった以上、もう僕にどこかに定住するのは無理だよ」
心配そうに僕を見つめるロイゼに、僕はなんとも言えない表情で答えた。
ハイルセンスに居場所を特定された僕達は、数日後にこの街を出る。荷造りも既に始めていた。
「なんか悪いね。ロイゼはこの街に思い入れもあるだろうに」
「いえ。オモト様のお隣が、私のいるべき場所ですから」
「ありがとうね」
ロイゼ達には迷惑かけちゃうなぁ。
申し訳なく思いながら僕は作業を続けた。
本来は開発者がいてくれればそれがベストなんだけど、いないモンは仕方ない。
世界を裏で震撼させている組織、ハイルセンス。そんな所から盗み出せた品物の数々、普通に考えればお宝の山だろう。
しかし………
「まさか、私達の手に入れた武器の性能があれほどのものとは。おかげで他のアイテムはほとんど使う機会が無さそうです」
僕の隣で使わない物をまとめていたロイゼがボヤいた。
そう、問題はそれだった。
ゴーレムバルバラと戦った際にセルフィが適当に引っ張り出した武器、後にそれぞれ名前が刻印されていた。
ロイゼの刀、セルフィのガントレット、シルフィのブーメラン、これら三つがとんでもないレベルの武器だったのだ。
あらゆる身体能力の大幅向上はもちろん、それぞれの戦闘スタイルに合った特殊能力など、元幹部である僕の使っているゲワーゲルフと同レベルの武器だった。
シュテアートは超高速移動と影分身、シュトーパーは筋力の大幅な向上と空気を圧縮する能力、ブーマーラングは魔力にさの大幅な向上とサイコキネシスの能力があった。
結果的に他の身体能力向上させるようなアイテムが尽くゴミに変わってしまった。
「でも、何故ハイルセンスはシュテアート達のような武器を量産せずに、こんな物ばかり持ってたんでしょうか?」
「たぶんこれは改造人間が使う物、というより人間に売りつける物だよ。改造人間なら、このくらいの身体能力は自前である。後、ロイゼ達の武器はそう簡単には量産出来ない」
とんでもないスペックの武器だ。そんなポンポン量産できるはずがない。それで代わりのこのアイテム達だ。
ハイルセンスが人間に売りつけるためのアイテム、と考えればこのスペックは納得できる。
「さてと、これでそろそろ終わり………って、ん?オモト様ー、何か変な物出てきた」
セルフィが片づきかけていたアイテムの中から、大きな銀色のケースを取り出した。
「何だこれ?ジュラルミンケースか?」
「何それ?」
「大切な物の取引とかで使われるケース、かな。とにかく頑丈なんだよ」
試しにガチャガチャ開けようとしてみるが開かない。鍵が必要なみたいだ。
「えぇ〜、中身分からないの?」
「相当大切な物みたいだよ。簡単にはいかないな」
「お姉ちゃんの力や、私の能力でもダメですか?」
「それも………無理っぽいな」
シルフィ提案にケースを眺めてみるが、あまり期待出来そうにない。
ピッキングで開けられれば今すぐにでもやるが、これはそれに輪をかけて魔力による指紋認証のロックがかけられている。開けられるのは開発者のアルクンスリッシだけかな。
セルフィの力技やシルフィのサイコキネシスによる破壊も無理そうだ。
いや………待てよ………
「セルフィ、そのケース貸して」
僕はセルフィからケースを受け取ると、鍵穴に向けて出力最大のブレスを一本の線にして放った。
何千度にもなる炎がレーザーとなり鍵穴の中、そして魔力のロックの配線を焼き切った。
やっぱり、この熱線には耐えられないか。
「これで後は普通に………よし、開いたよ」
「おぉ!で、中身は中身は?」
三人が僕の周りに集まってきた。何かトラップがある可能性もあるので、ゆっくりと開ける。
「ん?…………何だ、これ?」
そのケースの中身を見て僕は目を丸くした。
「オモト様、何でしょうかこれは?」
「いや、僕にも分からない」
ケースの中にあったのは、武器でもない装飾品でもない、何かよく分からない装置だ。
僕の手くらいの大きさの銀色の装置で、小さな小窓とレバー、ダイヤルが付いている。それが三つ入っていた。
それからこの装置を閉まっておくためのベルトも三本ある。
警戒しつつ慎重にケースから取り出してみる。
特に何か起こるわけでもなく僕の手に収まった。ついでにベルトも取り出す。
「このアイテム達の中にあったという事は、これも改造人間ではなく人間が使う物なのでしょうか?」
「そうだろうけど、本当に何なのか分からない」
僕はためつすがめつ装置を眺めるが何も分からない。しまったな、何かの魔道具なのは確かだけど、どんな魔法が付与されてるかは僕じゃ分からない。それはアルクンスリッシの専門だ。
「使ってみれば分かるんじゃない?ちょっと貸してよ」
「え?ちょ、セルフィ⁉︎」
セルフィはヒョイッと僕の手から装置とベルトを奪うと、躊躇いなく装着した。
どんな効果があるかも分からないのに何やってるんだ!
「おい、今すぐ外せって!」
「ん?別に何ともないよ。装置をつけるのは………あ、ここかな」
セルフィはベルトの左横にあったスリットに装置をつけた。
特に何か変化があるようには見えない。
「セルフィ、どう?」
「いや、特に何もないね。せっかく三つあるんだし、シルフィとロイゼもつけてみれば?」
セルフィはケースから残りの装置とベルトを取り出して二人に渡した。
そういえばセルフィってロイゼのこと呼び捨てにするようになったな。まぁいいか。
ロイゼとシルフィも受け取ると装着した。二人も問題無さそうだ。
「で、結局これは何なんでしょうか?」
「う〜ん、何かイジってみれば分かるんじゃないかな」
「お、お姉ちゃん!何が起こるか分からないんだから慎重に!」
シルフィが止める間も無くセルフィが装置をイジりだした。さっきから躊躇いないな、さすが。
「………ん?」
その時、セルフィがダイヤルをカチカチ回していると、僕はふと違和感を覚えた。
「セルフィ、もう一度ダイヤルを回してみて。ちょっとゆっくりめに」
「ん?こう?」
僕の指示でセルフィはダイヤルをゆっくり回した。
カチカチと………お!
「セルフィ、そこでストップ!」
僕はセルフィを止めると目を瞑って意識を集中させる。
『………セルフィ、聴こえる?』
「え⁉︎オモト様?何か頭の中に声が聴こえる⁉︎」
セルフィがビクッと驚いて僕を見た。何も分からないロイゼとシルフィは首を傾げる。
「やっぱり。これは改造人間との通信機器だね。ロイゼとシルフィも、セルフィと同じところにダイヤルを合わせて」
「あ、はい」
二人がダイヤルを合わせると、僕はもう一度目を閉じて心の中で話した。
『三人とも、聴こえるね?』
「わっ!本当にオモト様の声が聞こえます!」
「こ、こんなことが………」
「改造人間は遠距離で連絡が取れるようにテレパシー能力があるんだよ。これを人間がつけると、それと同じように改造人間と通信できるようになるみたいだね」
「という事は、前みたいに捕まっても連絡取れるという事ですか。これは便利ですね」
ロイゼが感心して装置を眺めている。
たしかにすごい装置だけど………それだけか?
ロイゼ達の持つ高スペックの武器ですらそのままで閉まっておくアルクンスリッシが、わざわざケースに入れて、厳重なセキュリティをかけてまで閉まっていた装置。
そんなものがただの通信機器?ちょっと引っかかるな。
改めてケースを見ると、装置が埋まっていた所には文字が彫られていた。この装置の名前だな。
『エントウィクラー』それがこの装置の名前だった。
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