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改造人間と奴隷達の居場所  作者: 音数 藻研鬼
第4章
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第81話 コールドスリープ

 ハイルセンスの総本部の中。

 アルクンスリッシはそこの廊下をのんびりと歩いていた。その足は自分のラボへと向いている。

 ここはハイルセンスの基地の中でも特に重要な施設であり、出入り出来る者は限られている。

 パスコード認証により自動的に扉が開くと、そこには十代後半くらいの表情の薄い少女が立っていた。

 鈍色の長髪を背中のあたりまで伸ばしていて、その髪色が透き通るような白い肌を強調している。

「アルクンスリッシ様、お疲れ様です」

「セイレーンセシリア、お迎えありがとうございます」

 セイレーンセシリアと呼ばれた少女は丁寧に頭を下げた。

 黒いメイド服を着ており、背中の大きなリボンが彼女の身体の動きと共に揺れている。

 その姿はどこかの屋敷に仕えるメイドそのものだった。実際に彼女はアルクンスリッシの身の回りの世話をしている。

「いつも言ってますが、わざわざ出迎えなくてもいいんですよ。まぁ、私としてはありがたいですがね」

 アルクンスリッシはセイレーンセシリアに白衣を預けると、近くの椅子に座って机に向かった。

 そこにはコンピューターや様々な設計図、生物のサンプルなどが並べられている。

 全てが今後の研究のためのものだが、それは昔よりも多い気がした。

 それを見て、アルクンスリッシはため息をつく。

「アルクンスリッシ様、ついこの前戦ったばかりでまだお疲れ。お休みしますか?」

「お気遣いありがとうございます。しかし、体はいたって正常ですし、こんな状況でのんびり休むというわけにもいかないでしょう」

 そうは言ってみたものの実際に思うように作業が進まないのも事実だった。しかしそれは体の不調なんかじゃない。

 その理由は………

「アルクンスリッシ様………また、アルクリーチャー様の事を、お考えになられている?」

「ふっ、相変わらずあなたは鋭い………いや、私が分かりやすいだけですね」

 アルクンスリッシは自嘲気味に笑うと、ラボの天井を眺めた。

 ふと頭に浮かんだのはこの前の戦い。

 彼はハイルセンスを拒絶し、ぶつかり合い、結局決着はつかなかったが、アルクンスリッシにとっては、そんな事どうでもよかった。

 あの戦いがアルクンスリッシの中で渦巻いて、それが彼の思考を鈍らせていた。

「セイレーンセシリア、私は変わってしまっただろうか?」

 アルクンスリッシに話を振られて、セイレーンセシリアは少しだけ首を傾げた。それからゆっくりと口を開く。

「………作業の速さは、落ちたと思います」

「おやおや、手厳しいですね」

 クスクスと笑うと、アルクンスリッシは手元にある描き途中の設計図を引っ張って見る。

 図面以外に何も書かれていない設計図を見て、アルクンスリッシはポツリと呟いた。

「昔に戻っただけと思っていましたが、意見を交わす者がいないというのは、存外つまらないものですね。張り合いがない」

 ラボの奥にある設計図には図面以外にも、たくさんの意見などが書き出されており、それはアルクンスリッシ以外の者が書いたものもある。

 アルクンスリッシはそれを憂げな目でぼんやりと眺めた。

 するとセイレーンセシリアが自分の肩にそっと手を乗せた。

「アルクンスリッシ様………私にできる事があれば、何でもおっしゃってください。お力に、なります」

「あぁ………すみませんね。本当に、気を遣わなくて大丈夫ですよ」

 そう言ってもセイレーンセシリアの心配そうな目は変わらなかった。

 彼女との付き合いも短くない。心中は読まれてしまっているのだろう。

「そうですね………久々にあなたの歌でも聴きたいところですが、今はこちらを考えるのが先決ですから」

 アルクンスリッシはコンピュータのフォルダの中からいくつかの映像を表示させた。

 それはこの前自らが操りアルクリーチャーと戦った、ゴーレムバルバラのメモリーデータだ。

 そこには立ち向かってくるアルクリーチャーや彼の奴隷であるロイゼ、セルフィ、シルフィの姿が映っている。

 アルクンスリッシは少しだけズレた眼鏡を戻すと、改めてその映像を見た。

「彼女達の武器、アルクンスリッシ様の作られた、物?」

「えぇ、結局盗られたままなんですよね………しかし」

 アルクンスリッシは自分の作った武器を振るうロイゼ達を眺めた。そして口の端を吊り上げる。

「これはこれで、非常に面白い」

 映像を表示しながら、画面に図面が表示された。それは彼女達に盗まれた武器の設計図だ。

 ロイゼの使った刀『シュテアート』、セルフィの使ったガントレット『シュトーパー』、シルフィの使ったブーメラン『ブーマーラング』

「この際です。少し試させてもらいましょう」

 アルクンスリッシは立ち上がると、セイレーンセシリアの方を向いた。

 セイレーンセシリア、第四区画の実験生物格納庫、コールドスリープカプセルの覚醒の準備をお願い出来ますか?」

 アルクンスリッシの指示を受けたセイレーンセシリアは、その衝撃に目を見開いた。

「え?………それって………」

「そろそろ、彼らを動かすにはいい頃合いです」

「し、しかし………」

「懸念は分かります。正直私も怖いですが………彼らなら、アルクリーチャーを確保出来るはずです」

「わ、分かりました………」

 セイレーンセシリアは戸惑いながらもラボから出ていった。

 セイレーンセシリアを見送り、アルクンスリッシはさらに別の設計図を表示させた。それを見てニヤッと笑った。

「後の問題はこれだけ、ですね………はてさて、どう転ぶのか」




 レーターの謁見の間。そこにアルクンスリッシが入る。

 すると後ろの扉が開き、同じハイルセンスの幹部、アルガイストが入ってきた。

「アルクンスリッシ。私をレーター様の前に呼び出して、一体何のつもり?」

「アルクリーチャーの事で、一つ提案がありまして。レーター様を交えてお話ししようかと」

「………アルクリーチャーのことは、私が何とかするって言ったじゃない。これ以上余計な事はしないで」

「そうは言ってられないと、私も言ったはずです。私たちには余裕がない………アルクリーチャーにだって」

 そう言われてアルガイストはアルクンスリッシをジッと見つめた。

「………はぁ、分かったよ。付き合ってあげる」

「すみませんね」

 すると目の前の壁に取り付けられたハイルセンスの紋章が光り輝いた。

『アルクンスリッシ、アルガイスト』

「「レーター様」」

 ハイルセンスの幹部二人は、光る紋章に向かって跪くと頭を下げた。

『してアルクンスリッシ。何用だ?』

「アルクリーチャーによって、我が軍の力は衰退しております。ベフュールの数は激減し、行動隊長を務める改造人間が二体破壊。これ以上の損害は見過ごせません」

『それに関しては、アルガイストに一任してあるが………何か策でもあるのか?』

「はい」

 アルクンスリッシは頷くと顔を上げた。



「コールドスリープ状態にあるプロトタイプの改造人間。彼らを覚醒をさせます」



「何ッ⁉︎」

 レーターの前だというのに、アルガイストはアルクンスリッシの言葉に声をあげた。

「あなた、本気で言ってるの⁉︎」

「えぇ、性能面で言えば、アルクリーチャーに対抗できるのは、我々を除いて彼らしかいない。それは分かっているでしょう?」

「それは………そうだけど」

 少しだけ落ち着きを取り戻したアルガイストは、レーターの方を見た。紋章が再び輝く。

『しかし、ヤツらをコールドスリープさせるよう命じたのは、他でもないお前だぞ』

「あの時とは違います。改造人間の技術も格段に上がり、肉体や精神の拒絶反応(リジェクション)も抑えられます。再改造を施せば、必ずや我々の主戦力となるでしょう」

『しかし、ヤツが本来の力を使えばどうなる?その強さは、お前が一番よく分かっているはずだ』

 レーターの言及に、アルクンスリッシの体がピクッと震えた。吐き出した息を飲むと言葉を続ける。

「アルクリーチャーは怪人体になることを嫌っています。意思が拒む限り、変身する事はないかと」

『………分かった。お前の好きにしろ』

「ありがたきお言葉」

『アルガイストも、よいな?』

「………仰せのままに」

 レーターとの通信が切れて、二人は外に出た。

「アルクンスリッシ」

「何でしょうか?」

「………頼んだよ」

「えぇ」




 ハイルセンス総本部、第四区画実験生物格納庫。

 滅多に入ることのない施設の最奥部では、アルクンスリッシとセイレーンセシリアで最終チェックが行われていた。目の前には大きなカプセルが三つ並んでいる。

「被験体の状態に問題ありません。ケーブル接続完了」

「システムオールグリーン。覚醒、開始」

 セイレーンセシリアのチェックに頷くと、アルクンスリッシはスイッチを押して、レバーを少しずつ引いた。

 コールドスリープカプセルに接続されたケーブルから魔力が流し込まれていく。

「血圧、体温、共に異常無し。魔力循環にも問題ありません」

「出力、上昇させます」

 レバーを最後まで引き切ると、格納庫の中が眩い光に包まれた。

 やがて光が収まると、カプセルがゆっくりと開いた。冷気が一気に溢れ出す。

 その様子をアルクンスリッシは固唾を飲んで見守っている。



「んあ?どういうことだこれ?」



 開いた一つのカプセルの中から声がした。荒々しい印象の男の声だ。

 その声の主はカプセルの中からゆっくりと体を起こした。その姿はまるで狼だ。

 全身をゴワゴワした茶色の毛が覆い、腕にはタトゥーが掘られている。

 手足には鋭く大きな爪があり、肩には角のような長い突起が生えている。

 大きく裂ける口からは全てを噛みちぎりそうな鋭い牙が生えて、野生味溢れる眼光がアルクンスリッシに向けられた。



「ほぉ、アタシらを覚醒させてくれたのかい。嬉しいねぇ」



 その隣のカプセルから出てきたのは、一糸纏わぬ姿の美女だった。

 血の気のなさそうな真っ白な肌と対照的に真っ赤な目。長い金髪から尖った耳が見える。

 鋭い八重歯が口の中から覗き、背中には黒くて大きな蝙蝠の羽が生えている。

 妖艶な身体を見せつけるように伸ばして、髪をかき上げた。



「………」



 最後の一人は何も言わずに、黙って起き上がった。アルクンスリッシの1.5倍はある大柄な男だ。

 ずんぐりむっくりではあるが、力の強そうな体つきをしている。

 灰色の体をしていて、ツギハギが至るところに見られる。目には生気が無く、ギョロギョロと辺りを見回している。




「お久しぶりです。目覚めた感覚はどうですか?ワーウルフ、ヴァンパイア、フランケン」

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 評価、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。

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