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改造人間と奴隷達の居場所  作者: 音数 藻研鬼
第3章
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第80話 お迎え

 アルクンスリッシこと、ゴーレムバルバラが消えてとりあえずは一件落着だ。

「さてと、それじゃあ街に戻るか。早いところマルディアさんの所に二人を届けないと」

「あ、そうでしたね。元々私達のやるべき事はセルフィの捜索でしたし」

「うえぇ、私絶対怒られる………」

「あぁ、その辺なら大丈夫。マルディアさんに事情は話したから」

「え⁉︎オモト様、マルディアさんにハイルセンスのこと話してしまったのですか⁉︎」

 あ、そうか。彼女達はマルディアさんが僕達が戦ったところを見てたの知らないんだった。

「まぁ、色々あってね。その辺のことは街に行きながら話すよ。さぁ、行くか」

「あ、あの、行くのはいいんですが………この子どうするんですか?」

「グルッ?」

 シルフィが困った表情でエレメンタルフェンリルを指し示した。それを見てエレメンタルフェンリルが僕達を見下ろす。

「さすがにこの姿のまま街に連れて帰るわけにはいきませんし。かと言ってここに置いてけぼりにするのも………」

「あぁ、それなら大丈夫。エレメンタルフェンリル!」

 僕が手を叩いて腕を前に出すと、エレメンタルフェンリルが体を光らせながら飛び上がった。

 体を覆うほどの大きな光はどんどん小さくなり、やがて僕の腕の中に収まった。

「くぅん」

 光が収まると、僕の腕の中には小さな黒い子犬に変わったエレメンタルフェンリルがいた。

 パッと見た感じはそのまま小さくしたような感じだが、凶悪さがとれて可愛らしさが目立つ。くりっとした目が僕を見上げた。

「「「か、可愛い〜〜〜!」」」

 そんなエレメンタルフェンリルを見て奴隷達三人が声を上げた。目を輝かせて集まり、頭を撫でたり指で突いたりする。

 アルクンスリッシが潜入活動にも利用できるように、エレメンタルフェンリルを改造した姿だ。

「うわぁ、毛並みもふもふです!」

「あんなに怖そうだった見た目がこんなに可愛くなるなんて!」

「信じられませんね!」

「はいはい、可愛がるのは一旦ストップ!帰ってマルディアさんに報告するのが先だよ!」

 興奮気味の三人を宥めながら、僕は街へと帰っていった。みんな可愛いもの好きなんだね。

 とりあえずマルディアさんの商館へと向かった。

「すみません、マルディアさんいますか?」

「あ!オモト君!みんな!」

 お店の奥にいたマルディアさんが、こちらへと駆けてきた。

「何とかなったんだね?よかったぁ」

 セルフィとシルフィがマルディアさんの元へと戻っていった。

 そのまま対談室に案内された。

「あの、僕が話したことなんですが………」

「もちろん、誰にも言ってないわ。周りにも上手く誤魔化しておいたし、安心してちょうだい」

 よかった。これを機にハイルセンスの事を世界が知る、なんて事やらない方がいい。敵の力は未知数だし、今は現状を動かすのは得策じゃない。

「そうですか。本当に、巻き込んでしまってすみませんでした」

「いいのよ、元々セルフィとシルフィが原因だったわけだし。こうして何事もなく二人とも無事に帰ってきたんだもの」

 しかしマルディアさんは少しだけ顔を歪めた。

「あ、ただね。実は一つ、お願いがあるのよ」

「お願い?」

「うん。この二人のことなんだけど」

 そう言ってマルディアさんはセルフィとシルフィの肩に手を置いた。

「この子達があんな怪物達に狙われてる以上、この二人をここに置いておくわけにはいかないわ。店の子やお客さまに被害が及ばないとも限らないし、何より私達じゃ二人を守れない。またここにいれば、今度こそ二人は捕まってしまうわ」

「それは………そうですね」

 普通の人間がハイルセンスに対抗するのは無理だろう。周りの人への気概も考えれば、二人はここには置いておけない。



「だからね、オモト君。この二人を貰ってくれないかしら?」



「え⁉︎」

 これは少し驚いた。

 いや、たしかに僕であればある程度ハイルセンスから彼女達は守れる。我ながら適任と言えば適任だ。

 しかし………

「い、いいんですか?だってこの二人、とても価値が高いんでしょう?」

「えぇ、アルビノ種の双子だなんで、世界中探しても他にいるかいないか分からないわ。私としてもこれ以上にない儲ける機会よ」

「そ、それなら………」

「でもね、そんな大切な商品だもの。ちゃんと大切に扱える人に渡したいわ」

「マルディアさん、本当にいいんですか?」

「もちろんタダってわけにはいかないから、特別な割引き価格で今回の報酬から引かせてもらうわ。それでもちゃんと報酬は残るけど。どうかな?」

 なるほどな。たしかに報酬額は減るけど、価値の高い奴隷二人が手に入る。

 僕としても二人がハイルセンスの手に渡るのは避けたい。確実に面倒な改造人間となって僕の前に来るだろうし。

 しかもそれでもお金はちゃんと残るらしいし、損な話ではないか。

「えっと………二人はどうかな?今回一緒にいて分かったと思うけど、僕達には常に危険が伴うし、その割にいい待遇は出来ない。それでも、来てくれる?」

 僕はしゃがむとセルフィとシルフィと目を合わせて聞いた。

 どんな状況であっても、僕は彼女達に決めてほしい。

「自分の危機管理は自分でするべきだよ。そのために僕の元に来るか、それともここに残り高値で売られ、いい待遇を受けるか。決めるのは君達だ」

 二人は顔を見合わせてすぐに頷いた。

「私達は、オモト様と一緒がいい!」

「私も、オモト様といたいです!」

 躊躇うことなく二人は僕の方を向いた。あれだけ一緒にいて出した結論だ。尊重してやるべきだろう。

 なんだかんだで一番長くいたロイゼの方を向くと、納得したようで頷いてくれた。

 それなら………

「それじゃあ二人とも、これからよろしく」

「うん!」「はい!」

 こうしてセルフィとシルフィが僕の元にやってきた。





「ふぅ、まったく………遠隔操作というのは、結構頭にきますね。体が元は人だからでしょうか」

 アルクンスリッシはコントロール装置から体を起こすと、ゆっくりと伸びをした。隣に置いておいた眼鏡をかけて白衣を着る。

 基地のあらゆるシステムを管理するメインコントロールルーム、そこは静かで冷たかった。

「さてと、とりあえずレーター様にご報告………の前に。そこにいる方、誰かは分かるので隠れる必要はないでしょう?」

 アルクンスリッシが言うと、何かが壁をすり抜けるようにして現れた。

 それは一人の女性だった。長く青い髪を靡かせてやってきた。

 細身の身体には大きめのローブを着ていて、その下に肌の露出が多くレースのあしらわれた黒いドレスを着ている。

 肩が剥き出しになっていて、豊満な胸がぴっちりと身体にフィットしたドレスを押し上げている。

 赤と青のドミノマスクで目元を隠して、口元を薄い布で覆っている。



「これはこれは、お迎えありがとうございます………って、雰囲気じゃなさそうですね、アルガイスト」



「………!」

 アルクンスリッシが戯けたように肩をすくめると、女性、アルガイストの身体から重苦しいプレッシャーが放たれる。

 この艶かしさを振り撒くような格好をした女性こそが、ハイルセンスの幹部の一人、アルガイストなのだ。

「おっと、怖いですねぇ。何かご意見があるなら言葉で言ってください。あなたのそれは私の神経回路に支障をきたす可能性がありますので」

「………あなた、どういうつもり?」

「と、言いますと?」

「惚けないで。今回のあなたの勝手な行動のことよ。あの区域の指揮官は私よ」

「一応レーター様には、事後報告という形で途中経過はご報告したはずですが。伝わっていませんでしたか?」

「私はそれを良しとは言ってないし、その旨はレーター様から伝わってるはずよ」

 たしかにアルクンスリッシのやろうとしてることを反対してることは、レーターから聞かされていた。

「大体、あの区域にあなたの配下がいること自体、私は聞いてないわ。そのせいで被験体にだって逃げられたんじゃない」

 セルフィが逃げたのは、アルクンスリッシが指揮するクンスリッシベフュールに気がついたから。

 そしてクンスリッシベフュールがスタッドの街にいること自体、アルガイストは知らなかったのだ。

 そのせいで作戦はめちゃくちゃになってしまった。

「それに、これで間違いなくアルクリーチャーは私達を警戒してあの街から出て行くわ。せっかくここまで上手くいってたのに」

「それを言われると弱いですが、だからこそなんとかしようと私なりに立ち回っていたんですよ」

 悪びれる様子もなく、アルクンスリッシは飄々とした様子で返した。

「やっぱりあなた………一人で勝手にアルクリーチャーに接触しようとしてたのね」

「あなたがいつまでも彼を連れて来ないからでしょう。いつまでこんな回りくどいことをしているんですか?」

「………」

 眼鏡の奥の鋭い目がアルガイストを捉えた。その言葉にアルガイストは黙ってしまう。

 それを見てアルクンスリッシはため息をついた。

「はぁ………一応言っておきますが、私だってあなたのやり方を否定したいわけじゃありません。感情的には、概ね賛成ですし、あなたがこんなことする原因の一端は私にもありますからね」

 アルガイストがここまでアルクリーチャーを回りくどく捕まえようとする理由、それをアルクンスリッシはちゃんと分かっていた。

「しかし我々には時間がありません。早く彼の力を手に入れる必要があります。それに、これはあくまで予想ですが………あなたのやり方は、彼を余計に苦しめる可能性もあるんですよ」

「それは………分かってるわ」

「まぁ、この状況じゃ何の犠牲も無しに終わらせるのは無理ですからね。とにかく、私は私で動かせてもらいますよ。あと、ついでにレーター様のご報告もよろしくお願いします、指揮官殿」

「アルクンスリッシ………」

 嫌味っぽくニヤッと笑って、アルクンスリッシは部屋を出て行こうとする。しかし扉の前で止まると、小さく呟いた。

「あ、そうそう。結果的には今回の作戦は失敗でしたが、あなたも()()したでしょう?」

 その言葉にアルガイストが目を見開いた。

「ッ⁉︎………あなたまさか………彼女達が基地で暴れたのも、全部計画通り………?」

「いや、エレメンタルフェンリルのことは想定外です。他は………どうでしょうね?」

 そう言ってアルクンスリッシは部屋を出て行った。小さなため息をついて。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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