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改造人間と奴隷達の居場所  作者: 音数 藻研鬼
第3章
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第79話 思念

「ロイゼ………」

 僕達の間に割って入ってきたロイゼは、毅然とした様子で立っている。

「私も、微力ながらお手伝いします!」

 ロイゼは僕に微笑みかけると、ゴーレムバルバラに向けて刀を構えた。

「おやおや、まさかベフュールを振り切ってくるとは。お強いんですね。これはまた面倒な」

「私の力だけではありませんよ」

 すると山道の奥から何かが駆けてくる音がした。それはどんどん大きくなり、やがてその姿が見えてくる。

「グルアァァァァァ────────ッ‼︎」

 そこからは一瞬だった。駆けてきた大きな影は雄叫びをあげてゴーレムバルバラへと突撃した。

「何ッ⁉︎」

 ゴーレムバルバラは咄嗟の突撃に、すぐさま身構えた。しかし彼の巨体を持ってしてでも、その突撃は耐えられるものではなかった。

「くっ⁉︎ぐあぁッ‼︎」

 大きく吹き飛ばされたゴーレムバルバラは、大木に打ち付けられた。

 打ちつけられた大木がメリメリッと音を立ててへし折れる。それがゴーレムバルバラの方に倒れた。

「エレメンタルフェンリル!よくやった!」

 駆けてきた影・エレメンタルフェンリルは僕の方を向くと、嬉しそうに首を振る。

 するとエレメンタルフェンリルの背中からセルフィとシルフィが顔を覗かせた。

「もう!ロイゼお姉ちゃん、一人で勝手に突っ込んでいかないでよ!」

 二人はエレメンタルフェンリルから降りると、僕に駆け寄ってきた。

 セルフィはガントレットとメタルブーツ、シルフィはグローブとブーメランを装備している。

「オモト様ご無事で、って、ひゃあッ‼︎大丈夫ですか⁉︎」

 腕がもげて半身が焼き爛れている僕を見て、シルフィが悲鳴をあげた。今にも倒れそうなほど顔が真っ青になる。

「お、落ち着いてって。大丈夫だから」

 自分の腕を拾い上げると、肩と繋げて意識を集中させる。あっという間に腕がくっついて、ボロボロになった腕がある程度治る。

 これで元通りに動けるかな。

 腕の周辺の細胞組織だけを再生させて結合させたのだ。焼け爛れた他のところは一旦後回しだな。

 それと同じタイミングで、目の前に倒れていた大木が吹き飛んだ。下敷きにされたゴーレムバルバラが現れる。

「くっ!この狂犬が………相変わらずめちゃくちゃですね」

「まだまだ!終わらないよ!」

「やぁっ!」

 シルフィの放ったブーメランがゴーレムバルバラに直撃した。

 それだけでは終わらず、回転しながら美しい弧を描いて何度も彼を斬りつける。

「ふっ!はっ!たぁっ!」

 最初はゴーレムバルバラを後退させるだけで、体に傷つけることは無かった。

 しかし何度も斬りつけられるうちに体に傷がつき始める。

 ゴーレムバルバラはナノテクで再生させた腕のブレードではたき落とそうとするが、シルフィが上手くブーメランを操ることでそれを逃れる。

「ぐっ!くっ!ぐぁっ!人の発明品を、よくも………!」

「今度は私!」

 僅かに怯んだ隙に、セルフィがエレメンタルフェンリルの背中から飛び出した。

「おりゃあ!」

 飛び降りて威力の増したガントレットが、ゴーレムバルバラの顔面に突き刺さった。

 本来なら獣人とはいえ、子供の拳なんて何ともないはずだ。

 しかしガントレットの拳が尖っていること、魔法付与の筋力増加により、その拳はゴーレムバルバラにダメージを与えた。

「ぐはぁっ!くっ!………はぁっ!」

 ゴーレムバルバラはダメージによりバランスを崩したが、肩から小型ミサイルを展開した。

 至近距離で発射されて、とても避けきれる距離ではない。

 しかしセルフィは軽く跳び上がっただけで、ゴーレムバルバラの肩の辺りまで跳ね上がる。

「たぁっ!」

 飛び上がったセルフィは、その勢いを利用してゴーレムバルバラの肩を蹴り飛ばした。

 バキッという音がしてミサイルの発射装置が破壊された。着地するともう一発蹴りを見舞う。

「よっとぉ!ほら、どんなもんよ!」

 怒涛の攻撃を見せた白虎ツインズに、僕は思わず目を見張った。

「す、すごいな………」

 もちろん武器の強さが、彼女達の強さの大きな要因だろう。

 しかしそれ以上に彼女達の戦闘の素質が、武器を操るものとしての相応しさを示している。

 僕の側に控えていたロイゼを見た。これまで守らなければと思っていたロイゼが、今は武器を手に立ち向かっている。

 僕も見てるだけ、ってわけにはいかないよな。

 ロイゼの方を振り向くと、彼女は僕を見てにっこりと笑った。

 僕は頷いて繋がった腕を振るうと、ゴーレムバルバラに立ち向かっていった。

 その後ろからロイゼが刀を握り追ってくる。

 ババババッ!

 ゴーレムバルバラに向けてゲワーゲルフを掃射した。セルフィとシルフィがつけてくれた傷を主に狙い、さらにダメージを広げた。

「はぁっ!」

 その後にロイゼが刀を振るい追撃した。力強い横薙ぎが叩き込まれる。

 しかしゴーレムバルバラもやられっぱなしというわけではない。

 拳を握るとロイゼを吹き飛ばそうと腕を振るう。ロイゼは咄嗟に刀でそれを受け止めた。

「くっ!きゃっ!」

 さすがにあれを受け続けるのは無理だな。

「ガアァッ!」

 その拳を止めるために僕は炎を吐いた。ゴーレムバルバラのカメラアイを炎が舐める。

「ぐぁっ!ぐはぁっ!」

 炎に怯んだ隙に、僕は尻尾を伸ばしてその場で一回転する。振り回された尻尾がゴーレムバルバラを吹き飛ばす。

 さらにロイゼが刀の力を使って分身した。もちろんゴーレムバルバラは本物は見抜けるだろうが、それでも瞬間的な目眩しには充分だ。

 その分身を追うようにして、ロイゼはあらゆる角度から斬りかかった。素早く鋭い攻撃が繰り出される。

「くっ!このッ!」

 ロイゼの攻撃に怯みながらも、彼女の姿を捉えて右フックを繰り出す。

「ロイゼ退がって!」

 ロイゼが大きく飛び退いたタイミングで、僕は二人の間に躍り出た。

 腕を鱗で覆うと彼の拳を受け止める。力では負けるものの、それは問題なかった。

 翼を広げはためかせると、風を起こした。たたら踏ませると同時に体勢を崩させて優位に立つ。

「ぐっ!………これは、予想外ですね。まさか彼女達が、ここまでの適合性を示すとは………面白い!」

「えぇ、まったくですよ!」

 僕達は同時に後ろに跳び上がると間合いを取った。

「ふぅ、とはいえこれも任務。これ以上長引かせるのも得策とは言えなさそうですし、そろそろ終わりにしましょうか」

 ゴーレムバルバラは息を吐くと、左腕のレーザー銃を展開して構えた。

「ロイゼ、セルフィ、シルフィ。こうなったら仕方ない………いくよ!」

「「「はい!」」」

 ゴーレムバルバラの戦意に気圧されながらも、僕達四人と一匹も武器を構えて対峙する。

「さぁ、覚悟して………」

 ゴーレムバルバラがぶつかり合おうとした、その瞬間



 全身にゾワッと寒気が走った。次いで凄まじいプレッシャーが僕達を襲う。



「「ッ⁉︎」」

 一番最初に反応したのは僕とゴーレムバルバラだった。

 その理由はすぐに分かった。この感覚を、僕は知っている。

「ひぃっ⁉︎」「きゃあッ⁉︎」「ひゃあッ⁉︎」

 それからロイゼ達の身がすくみ上がった。あたりを見渡すが、特に何も変化は見られない。

「な、何、これ………!苦し、い………!」

 これまで感じたことのないだろう感覚に、三人は息が荒くなりガタガタ震えて膝をついてしまう。

「ぐっ!………アルクンスリッシ………この感覚は………!」

「あぁ、間違いない、ですね………しかし、ここで止まるわけには………」

〈やめて………〉

 その時、僕とゴーレムバルバラの頭の中にだけ声が響いた。澄んだ女性の声だ。

 新たに加わった圧力に、僕達は頭を抱えた。

「ぐふっ!」

 それは改造人間の間でのみに出来る通信による声だった。普段は負担がかかることはまずない。

〈やめて………やめて………〉

「くっ!ぐあぁぁッ‼︎あぁぁぁッ‼︎」

「ちょ、やめッ、ぐうぅぅッ!」

 しかし今は別だった。伝わってきた思念は僕達の頭に突き刺さり、頭を捻らんばかりに圧力をかけてくる。

「くっ!………がはっ!」

「ッ!うぅ………!」

「ひゃう!………くぅっ!」

 僕やゴーレムバルバラとは違いこの思念は送られてないはずだが、生身の生物であるロイゼ達はそもそもこのプレッシャーに対する耐性を持っていない。

 相当の負荷を負わされているようで、今にも倒れそうになっている。

 それを見たゴーレムバルバラが声をあげた。

「分かった、分かりました!戻りますから!もうやめてください!」

 ゴーレムバルバラが思念を送っている者に叫ぶと、フッと圧力が無くなった。思念も止まって全身にかかっていた負荷が消える。

 負荷の消えた僕達は脱力してその場にしゃがみ込んだ。

「ぐはっ!………はぁっ!はぁっ!………アルクンスリッシ、今のは………」

「えぇ、()()ですよ。まぁこうなることは大体予想してましたがね。いやぁ、やっぱりこれはキツいですねぇ。動力部の魔力回路の一部がショートしてる」

 ゴーレムバルバラの体を用いたアルクンスリッシは、頭を押さえて首を振った。一部故障したのか、体の動きがぎこちない。

「この作戦、あなたの独断専行だったんですか?」

「そんなわけないでしょう。元々共有されていた計画に、私の個人的な目的を混ぜて、個人的に動いていただけです」

「それを独断専行と言うんですよ。僕達を巻き込まないでください」

 さっきまで戦っていたにも関わらず、僕達は掴み合うことなく話していた。

「もしかしなくても、彼女は思いっきり反対していたのでは?」

「はい。ですから彼女が介入する前に何とかするつもりで、少しだけ荒っぽいことをしたんですが………それもここまでですね」

 ゴーレムバルバラはフラつきながら立ち上がると、軽く体を伸ばした。

「それでは、私はここで失礼させていただきますよ。そこの奴隷さん達の武器も取り上げたいのですが………()()のお説教タイムが待っているので、またの機会にさせていただきますよ。それでは、また」

 ゴーレムバルバラが頭を下げると、彼の体は霧のように消えていった。

 今回は見逃してもらえた、のかな。

 体を起こそうとするが上手く動かない。僕も神経回路を一部やられたかな?

 とりあえず今はロイゼ達の安否が先だ。

「ねぇ、みんな大丈夫?」

 何とか体を動かして三人に近寄った。

「え、えっと………何とか、大丈夫、です」

「まだ、身体が震えて………思うように、動かないけど……」

「こ、怖かったぁ………」

「落ち着いて、もう大丈夫だから。しばらくそのままでいな」

 今のプレッシャーがよっぽど応えたのだろう。三人はまだ震えたままだ。

「お、オモト様………今のは、一体………」

「改造人間だよ。別のハイルセンスの改造人間が横槍入れてきたんだ」

「別の、改造人間?一体誰なんですか?」

「僕やゴーレムバルバラの神経回路に支障をきたすレベルの出力の圧力を出せて、尚且つアルクンスリッシが任務を放り出さないといけなくなるレベルの改造人間は限られてくる」

 アルクンスリッシはハイルセンスの幹部だ。そんな彼に命令出来る、つまりは彼以上の権力を持った人物だ。

「まさか、ハイルセンスの首領?」

「いや、いくらアルクンスリッシでもレーターに逆らうような真似はしない。つまり、横槍を入れてきたのは僕やアルクンスリッシと同じ………ハイルセンスの幹部だ」

「オモト様と同じ、幹部………」

 人工物・クンスリッシタイプの改造人間を束ねる科学者、アルクンスリッシ。

 生物・クリーチャータイプの改造人間を束ねていた僕、アルクリーチャー。

 そして魔力の使い方ならトップレベル、精神体・ガイストタイプの改造人間を束ねるハイルセンスの魔女




「ハイルセンスの幹部の一人、アルガイストだ」

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 評価、感想等ありましたら、ぜひよろしくお願いします。

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