第78話 闘争心
「ギッ!」「ギギッ!」
ロイゼの周りをクンスリッシベフュールが取り囲んだ。
さっきまでは逃げるしか出来なかった。生身で立ち向かって勝てる相手ではない。
けど、今は違う。
ロイゼは手にした不思議な剣・刀を手にした。
明らかに魔法が付与されており、強い魔道具であることは明白だ。
その魔力はロイゼに伝わり、彼女の闘争心に火をつける。
「いきます!」
ロイゼは力強く踏み込んだ。勢いよく駆け出す。
その瞬間、ロイゼの身体が分裂した。
五人となったロイゼは一斉にベフュールに立ち向かった。
当然ベフュール達は分裂したロイゼに驚いた。分散してそれぞれ対抗しようとする。
しかし五人中四人のロイゼは、ベフュールとぶつかると同時に消えてしまった。
「⁉︎」
ベフュールがその力を理解した時には、もう遅かった。
唯一残ったロイゼは、目にも止まらぬ速さでベフュールの間を縫うように駆け抜けた。
刀は光を浴びて閃光の如く輝いた。
「ギッ………!」
そして全てのベフュールが胴から上を斬り落とされた。その場に崩れ落ちて溶けていく。
小さく息を吐いたロイゼは呆然とした表情で刀を見る。
「こ、これが………この武器の、力………すごい」
機動力向上、そして幻影による錯乱がこの刀の能力だった。
そしてこの切れ味。万年青のナイフでしか攻撃出来なかったベフュールの胴体を、いとも容易く斬り裂いた。
多少クセがあり扱いにくいが、そんなの気にならないほどの性能を持っている。
すると上空から新たなベフュールが襲ってきた。
対抗しようとロイゼは素早く身構える。
「おりゃあ!」
しかし自分の頭の上を何か人影が飛んできた。それは飛んでいたベフュールを殴り落とす。
ベフュールの心臓部が砕けると同時に、人影は地面へと着地した。
「これすごいね!」
着地した人影、セルフィは嬉しそうな声をあげた。
装着したガントレットとメタルブーツを打ち鳴らして喜んでいる。
いくら獣人のアルビノ種とはいえ、子供の彼女にここまでの力は出せない。
この力は彼女の武器の力だった。
「あ、また来た。よっし!」
さらに来た援軍を見て、セルフィは気合を入れる。
そして地面を蹴って飛び上がると、さらに空中を蹴った。
「やぁっ!」
空を飛ぶベフュールと変わりない高さまで飛んだセルフィは、身体を捻って拳を振るう。
拳がベフュールの腹にめり込んだ。
別の角度から光弾を撃ち込まれるのを見ると、再び空を蹴りバク宙する。
「とぉっ!」
勢いをつけた彼女の蹴りが、ベフュールの頭を蹴り飛ばす。
セルフィはそのまま綺麗に着地………しようとして尻もちをつく。
「痛っ!」
「ちょ、セルフィ⁉︎大丈夫ですか?」
「ま、まぁね。いてて………」
しかしそんな二人をベフュール達は待ってくれない。すぐに新たな援軍がやってきた。
すると遠くから何かが飛んでくる音が聞こえる。それはどんどん近くなっていった。
飛んできたそれは、ロイゼ達を囲むベフュールを片っ端から斬り飛ばしていった。
回転しながら斬る武器、ブーメランだ。もっとも物理法則も何もあったものじゃないが。
ブーメランは回転しながら大きな弧を描き、放った者、シルフィの手元に戻っていった。
セルフィの手には魔道具となっているグローブが装着されている。それでブーメランを操っていた。
周囲にあるエネルギーを吸収し、それを力に変えるブーメラン。それがシルフィの手にした武器だった。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「シルフィ、ありがとう。って言うかそれもすごいね」
「い、威力強すぎるよぉ………しょ、正直使うのちょっと怖い………」
ウキウキの姉に対し、妹は若干引き気味だ。
「まぁ無理して使うこともないよ。この戦闘員だけなら大丈夫だと思うし、ね?」
そう言ってセルフィは少し離れた方を手で示した。
「グルアァァァァァッ‼︎」
そこではエレメンタルフェンリルが咆哮をあげて、衝撃波でベフュールを吹き飛ばしていた。
さらに火の玉を吐きベフュールを燃やしている。
もちろんベフュールも反撃しようと光弾を放つが、そんなものエレメンタルフェンリルにとっては羽虫のようなものだ。
「グアァッ‼︎」
臆することなく巨大な体で防ぐと、そのまま鋭い牙でベフュールを噛み砕く。
尻尾で空を飛ぶベフュールをはたき落とし爪で斬り裂く。
あっという間にベフュールを倒し終えた三人と一匹は、既に近くに万年青とゴーレムバルバラがいない事に気がついた。
「えっと、これからどうしますか?」
「もちろん、オモト様を助けに行きます!」
「そうこなくっちゃ!ねぇ、また私達乗せてくれる?」
「ガウッ!」
武器のおかげで身体強化された三人は、了承したように頷いたエレメンタルフェンリルに飛び乗った。
「オモト様のところまで、お願い!」
「グルアァァァァ──────ッッッ‼︎」
雄叫びと共にエレメンタルフェンリルが駆け出した。
「ッ!はっ!」
「くっ!ふっ!たぁっ!」
ベフュールをロイゼ達に任せた僕は、アルクンスリッシこと、ゴーレムバルバラを攻めながらそこから離れていった。
ゴーレムバルバラが腕に装備されたブレードを振るうが、身を翻してそれを避ける。
しかし彼の背後から出現した光線が僕の肩を焼く。
「ぐっ!」
接近戦は危険だな。やるにしてもヤツの武器を減らさないと。
僕の腰の辺りから長い尻尾が生えた。鱗に覆われたそれは、ゴーレムバルバラの首に巻きつき、一時的に動きを止める。
「ぐぁっ!このッ!」
ゴーレムバルバラがブレードで僕の尻尾を切り落とそうとするが、その前にゲワーゲルフを構える。
フルオートで弾丸を撒き散らし、ゴーレムバルバラの後ろにある照射機を破壊した。
「ふっ!」
尻尾の拘束を解くと同時に、跳躍力を生かしてゴーレムバルバラの後ろに回った。
腕のヒレを硬化させて刃すると、彼の首を斬り飛ばそうとする。
しかしそれを読んだゴーレムバルバラは、ブレードを振るって僕の腕を受け止めた。ギチギチと嫌な音がする。
「ッ!思ったよりも、躊躇いなく力を使いますね………!」
「相手があなたです。当たり前でしょう!」
ブレードを弾き返すと、飛び上がって近くの木の上に降り立った。そこからブレスを吐く。
「がぁっ!」
体の周りを炎が舐めるのも構わず、ゴーレムバルバラは突進してきた。
攻撃される前に飛び降りると、その場で回転して尻尾を振るった。
勢いのついた尻尾はゴーレムバルバラに命中し、彼の体を大きく後退させる。
「ぐはっ!………やぁっ!」
しかし怯んだのも束の間、ゴーレムバルバラは拳を握ると再び突進してきた。
その瞬発力は予想外で、腕を交差して何とか受け止める。
それでもパワータイプの改造人間の拳だ。腕の鱗にヒビが入り骨が軋んだ。
「ぐっ!………フ───ッ!フ───ッ!」
「ッ!今のあなたが力を多用すればどうなるか………分かっているでしょう?」
「………」
「連れて帰りますよ。絶対に」
ゴーレムバルバラは拳を引くと再び構えた。
この攻撃を連続で受けるのはマズい!
そう思った僕は、跳び上がって間合いをとった。
背負ったゲワーゲルフを再び構えて、ゴーレムバルバラに向けて乱射した。
普通の弾丸なら余裕で弾く体も、ゲワーゲルフは効くのは分かってた。
そこまで深くないとはいえ、少しの間怯む程度の傷はつけられた。
「ふっ!」
その隙に僕の尻尾の先の毒針が、ゴーレムバルバラの首の関節に突き刺さった。素早く毒が注射される。
「ぐっ⁉︎ぐあっ!」
僕の神経毒は、機械の体だろうと関係ない。神経回路に異常をきたし動きを鈍らせる。
毒が回り足元のふらついたゴーレムバルバラは、ガクッと膝をついた。
「くっ!これは………!」
腕を鱗で覆って、爪が鋭利な刃物となった。
さらに擬態能力で周りの景色と姿を同化させた。
アルクンスリッシが作った改造人間だ。もちろんこんなのすぐに見破られるが、一瞬でも隙ができればこっちのものだ。
「はぁっ!ふっ!たぁっ!」
僕は俊敏さをフルに活用して、錯乱しながらゴーレムバルバラを何度も斬りつけた。
ゴーレムバルバラに力で勝つのは難しいが、その分素早さでは負けない。
ダメージが蓄積していったからか、ゴーレムバルバラの動きがだんだんと衰えていく。
「ぐっ!くっ!………ぐはっ!このままではマズいか」
さすがにこれだけ動けば、彼も僕の居場所を特定した。身構えて応戦しようとする。
僕も決着を着けるべく、大きく踏み込んで跳び上がった。
「「はあぁッ‼︎」」
僕の腕とゴーレムバルバラの腕がぶつかり合い、爆発音と何かが砕ける音がする。
「ぐはぁッ‼︎」
砕けたのは、僕の腕だった。滴り落ちる人工体液の中に僕の右腕が肩から落ちる。
「ぐっ!………があぁぁぁッ‼︎」
「はぁ、はぁ………紙一重、でしたね。ミサイルが残っててよかった」
ゴーレムバルバラの肩には小型ミサイルが展開していた。
ぶつかり合う瞬間に発射したそれは、僕の腕を吹き飛ばし右半身の皮膚を爛れさせる。
「ぐうぅッ‼︎」
「まったく………つくづく、あなたを敵にすると厄介ですね」
ゴーレムバルバラが腕のブレードを僕に向けた。
「これ以上暴れられても面倒なので、一旦気絶させますよ?」
そう言って彼は腕を振り上げた。
その時、僕達の間に一筋の閃光が走った。
次の瞬間、ゴーレムバルバラの右腕がゴトッと音を立てて落ちた。
「ッ⁉︎」
ゴーレムバルバラがそれに気がつくより前に、その何かが動いた。
その攻撃により彼の小型ミサイルは破壊され、追撃によりゴーレムバルバラの巨体が退いた。
「ぐっ!………はぁ。こんな事なら、早めに処分しておくべきでしたかね」
破壊された箇所から火花を散らしながら、ゴーレムバルバラが顔を上げた。僕も現れた者を見上げる。
「ろ、ロイゼ………」
僕達の間に割って入ってきたダークエルフの少女・ロイゼが手にした刀を構えながら僕の方を振り向く。
「オモト様、お待たせしました!」
最後まで読んでいただきありがとうございました。




