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改造人間と奴隷達の居場所  作者: 音数 藻研鬼
第1章 
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第6話 質問

 しばらくしてマルディアさんがダークエルフの少女を連れて部屋の奥から出てきた。

 やっぱり綺麗な子だな。目を惹かれる。

 日本に彼女と釣り合うほどの美女が一体どれほどいるだろうか。少なくとも僕はここまで綺麗な人を見たことがない。

 少女は布は被っていなかったがまだ僕を怖がっているようで、怯えた表情でこっちを見ている。

 さっきも充分綺麗だと感じられたけど、今は布を被ってないからさっきよりも彼女の綺麗な顔立ちやスタイルがよく分かる。

 別に怖いなら布被ったままでもよかったのに。大丈夫かな?

 というか直視すると僕が緊張するからむしろ被って欲しかった。

 なんか悪い事した気分だな。出来るだけ優しくするしてあげよう。

「お待たせ、改めて紹介するね。ウチの奴隷で名前はロイゼ。ロイゼ、こちらがお前を買おうとしているオモトさんだ。挨拶しな」

 そう言ってマルディアさんが彼女、ロイゼの背中を押してやると彼女は遠慮がちに前に出て言った。

「こ、こんにちは。ロイゼと申します」

 僕はそこで初めて彼女の声を聞いた。綺麗な声してるなぁ。

 なんだろう、なんだか僕とは不釣り合いなんじゃないかと申し訳なくなってきた。

 っとボーッとしてたら失礼か。

「あ、うん、どうも。ぼ、僕は魑魅 万年青よろしく、ね」

 僕も立って挨拶した。一応お辞儀しておくか。

 なんかどう返していいか分からなくなって変な答え方しちゃったな。

 初対面なのにタメ口で話しちゃったし馴れ馴れしいって思われたかも。

 ヤバいな、自分で呼んどいてアレだけどすごい緊張するな。

 同年代の人とまともに話すのは何年振りだろうか?そもそも話したことあったっけ?

 まぁあったとしても大抵向こうが高圧的な感じなのでそれが会話と言えるかどうかはちょっと考えものだけど。

 こうやって下の立場の人がいる事自体僕にとっては初めてでどうやって接したらいいのかが分からない。

 ハイルセンスにいた時ってどうやってたのかな?僕と同い年くらいの人もそれなりにいたはずなんだけど。

「と、とりあえず立ったままってのもなんだから座ったら?」

「え?い、いえ、私はこれで大丈夫ですので」

 あぁそうなの?

 どうも遠慮してるのは見て分かるんだけど、座るくらい大丈夫じゃないのかな?

 しばらくの間部屋の中に沈黙が広がる。

 これは、こっちから話始めないとか。

「……え、えっとさ、いくつか質問があるんだけど、いい?」

「は、はい。何でしょう」

 ロイゼはこっちを見ながら聞いてきた。

 よかった。見た感じ怯えているようだが拒まれてはいないようだな。

 これならはっきりと聞いても問題無さそうだ。

「君さ、ここで何かやりたい事とかってある?」

「…………え?」

 ロイゼは何を言ってるのか分からないと言った風に首を傾げた。

 マルディアさんも「コイツ何言ってんだ?」みたいな視線を向けてくる。

 え?おかしいの僕なのか?割とまともな事聞いたつもりだったんだけど。

「それは、どういう意味でしょうか?」

 いやそのまんまだよ。なんだどういう意味って。別に深い意味はないんだけど。

「ほら、もしここでやりたい事があるならここから連れ出すのは嫌だろうなぁって」

 まぁここでやりたい事というかやれる事があるとも思えないけど一応ね。

 無理矢理連れ出してもいい事無いし。そこは確認しておきたい。

「どう?何かある?」

「……い、いえ、特には」

 そうか、遠慮してるわけじゃ無さそうだし本当の事なんだろう。

「分かった。それともう一つ、僕は冒険者としてのパーティーメンバーが欲しくて来たんだ。つまり君を買ったら君も戦う事になるんだけど、それでもいい?」

 なんか見た感じ戦いが得意そうには見えないんだよな。こう言ったら悪いけど気弱そうだし。

「は、はい。ある程度は戦えますので大丈夫です」

 今度は早めに答えてくれた。

 マルディアさんの話によると身体能力が結構高いらしいから楽しみだな。

 とりあえず確認したい事は聞けたな。フゥ、無駄に緊張しちゃったじゃないか。

「この子、いいかもしれません」

「そう、よかったわ。それじゃあこの子を買うって事でいいのね?」

 そうだな。この子ならパーティーメンバーとしては問題ないだろう。

 多少周りから目立つとは思うけどそれだってうまく隠してあげればいい。


「はい。それでは今日はこのくらいで失礼します。それでは、また今度」


 僕はマルディアさんとロイゼにお辞儀をして店を出ようとした。

「え?ちょ、ちょっと待ってよ!」

 すると後ろから声をかけられた。どうやら声をかけたのはマルディアさんだ。

 驚いているようだけどどうしたんだ?

「何ですか?」

「え……君この子買いたいんだよね?」

「ま、まぁ、そうですけど」

 何を今更。今さっき言ったばっかりだろ?

「買って行かないの?お金もあるんでしょ?」

 マルディアさんは不思議そうに聞いてきた。

 あーそういう事か。いけないいけない頼むの忘れて帰るところだった。

「それなんですけど、今日は買いません。また日を改めて買いに来ます」

「何で?今すぐ買わないの?」

 そう言われた僕はロイゼの方を見た。彼女も不思議そうにこっちを見ていた。

「彼女を買うかどうかは彼女に決めてもらいたいんですよ」

 だからこそさっき色々と聞いたんだ。彼女が僕に買われるのをよしとするかどうか。

「別に君が彼女を買うのに彼女の同意はいらないのよ?君が買うと言えば彼女は君の物よ?」

 それくらい知ってるよ。というかなんとなく分かるよ。

「それでも僕は彼女に決めて欲しいんです。彼女の居場所は彼女自身が決める事だと思うから。自分で価値を見出さないと」

 僕は彼女を彼女の望まないまま連れて行く事、居場所が無い所に連れて行くような事はしたくない。

 それはやり方が違うだけで人の居場所を奪ってしまうイジメなどと変わらない。

 人間ってのは有利な立場にいると、どうしてもそういう人の意見を無視してしまう、つまり共感能力が下がる事が研究によって分かっているからな。

 人間の感情とはいえ、そこはしっかりと気をつけて行動しないと。

 他人の何か大切な事を決める時に『上の人だって人間だから仕方がない』なんて言い訳は使いたくない。

 世間的にはそれが当たり前なのかもしれないけど、だからといってそれは僕がやっていい理由にはならないだろ。

 僕はロイゼに近づいて言った。それでも緊張するから目線は合わせられないけど。

「えっと、その、なんだ……僕は君がパーティーにいてくれるととても嬉しいし君を殴るような真似はしないよ。でも僕について来るって事はクエストで傷ついたり、周りから奴隷として蔑まれたりする事でもある。そこは分かるでしょ?」

 僕がそう言うとロイゼはコクンと小さく頷いた。

 ちゃんと僕について来る事の不利益も教えておかないとな。

 本当ならハイルセンスの事も教えておくべきなんだろうけど、さすがに来るかどうか分からない状態でそれはね。そこはゴメン。

 とにかくその辺をはっきりと分かっていない状態で決めても、そんなもの詐欺と変わらない。

 ここまで聞いて彼女が僕について来る事で居場所を得られるなら買うし、得られないなら彼女は買わない。

 そしてその居場所は僕一人の判断で決めていいものじゃない。もちろんマルディアさんの判断でもない。

 彼女自身が自分の価値観を持って決めるべきだ。「いつまでに決めろなんて言わないから、君が僕に買われていいかどうかちゃんと自分で考えて。嫌ならそれでいいよ、何も仕返しとかしないから」

「わ、分かりました」

 ロイゼはコクリと頷いた。

 自分のこれからの人生を決めると言っても過言ではないのだ、今日明日で決められるはずがない。

 時間をかけてゆっくりと決めて欲しい。

 彼女は立場上どうしても自由が少ない。僕にはそう思えた。

 奴隷なんだから当たり前かと思われるかもしれないけど、それはこれから生活するにはちょっと不便だ。

 自分で何かをする時に自由な発想って結構大事だったりする。

 そしてそれは普段から自由であるからこそ思いついたりするものだ。

 だから彼女には大変かもしれないけど出来るだけ自分の意思で物事を考えて欲しい。

「というわけですみませんマルディアさん。お手数をかけてしまう事になりますが、ちょいちょいここ通るようにはするのでロイゼが決断したら教えてください」

 僕は彼女のためにと思ってやっているとはいえ、マルディアさんには確実に迷惑をかける事になるからな。

「それくらい構わないけど、いいの?この子が悩んでいるうちに他の客に買われちゃうかもよ?」

「その時はその時です。仕方なかったって事で」

 さすがにそこまで対処して欲しいとは言えない。

 マルディアさんにとって僕は大勢いる中での客の一人に過ぎないのだから。

 ロイゼには悪いけど悩んでいる途中で他の人に買われたら諦めてもらうしかない。

 先にお金を払っておくという方法もあるけど、それだと彼女を買っているも同然だ。

 彼女には今のこの自由な状態で考えて欲しい。そうでなければこれの意味はない。

「……分かったわ。まったく、こんな事を頼んできたのはあなたが初めてよ?」

「そうですか、まぁこれに関する追加料金は払うつもりなので、よろしくお願いします」

 僕はもう一度二人にお辞儀をして商館を出た。

 さて、伝えたい事は全て伝えた。後は彼女次第だな。

 出来れば一緒に来てもらいたいけど、それ以上に彼女自身の意思が大切だ。

 それにこれはロイゼの人生を買うという事に等しい。そんな重いものを一人で背負えるほど僕は立派な人間じゃない。

 だから彼女の人生は彼女自身に背負ってもらうしかない。それならちゃんと自分で決めないとな。

 そんな事を考えながら僕は宿に帰った。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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