第67話 蛮刀
「それでは、参りますよ。アルクリーチャー」
アルクンスリッシ、もといゴーレムバルバラは身構えると同時に、僕の方へと突っ込んできた。
大きな拳が僕に目掛けて振われる。
僕は腕を鱗のように硬化させた腕を交差させ、それを防いだ。
「くっ!」
しかし予想以上に強い攻撃に、僕の足が少しだけ地面に沈んだ。普通の人間なら一撃で砕かれていただろう。
「ッ! はあぁぁぁッ‼︎」
僕は振り下ろされた腕を受け流すと、僕は腕を振るった。鋭い爪がゴーレムバルバラの皮膚に掻き立てられる。
しかしギギギッと耳障りな音が響くだけで、深く斬り裂いた感覚がしない。
実際ゴーレムバルバラの皮膚には軽い爪痕がつくだけで、とてもダメージと言えるような攻撃は出来なかった。
「なぁッ⁉︎」
アルクンスリッシ直々来た時点で何となく察しは出来てたけど、そう簡単に勝たせてくれる相手じゃないか。
「ッ………なるほど、それなりの傷はつけられますか」
そう呟いたゴーレムバルバラは傷痕のついた腕を横に振るった。
僕は急いで跳び上がり近くの木に貼り付いた。
跳び上がった足の真下を、ゴーレムバルバラの腕が風を切って振われた。
ギリギリなんとかなった。重量に釣り合わない速度だな!
空振りした拳が近くの岩に擦り、砕けた岩が小石となり砂が舞う。
その光景に驚く隙もなく攻撃は続いた。鋭く重い攻撃が連続して僕を襲う。
改造人間としての身体能力を生かして辛うじてよけられているものの、屈強な腕が正確に僕を狙ってくる。
このままじゃ攻撃出来ない。かと言って向こうにダメージを与えずにここから逃げるのも難しいだろう。
僕に襲いかかってくる腕は地面を抉り岩を砕く。僕の動きも計算しているのか、逃げるのも段々と難しくなってくる。
僕が別の木へ跳び移ろうとすると、ヤツの大きな手が僕の右脚を掴んだ。
「捕まえましたよ」
そう言って口の端を釣り上げると、手に力が込められた。僕の右脚がミシミシと音を立てる。
「ぐっ!ぐあぁぁぁぁッ‼︎」
人工骨格と人工筋肉で強化されているはずの僕の脚が、簡単に軋んでいる。
翼を広げて逃げようとするが、よほど力が強いのかそれは叶わない。
このままだと脚を折られる!
瞬時の判断で、僕はゴーレムバルバラに向かったてブレスを吐いた。
「ッ! これは………」
「やあぁぁぁっ‼︎」
真っ青な炎がゴーレムバルバラの体を舐めた。一瞬怯んだ隙に、左脚を硬化させて右脚を掴む腕を蹴り飛ばした。
鋭い爪と鱗、それに加えて兎のような強靭な脚力によって、掴んでいた手の一部にヒビが入った。
何とか抜け出すと、翼を使って旋回し近くの木に貼りつく。
「っと………なかなかやりますね」
「戦いを重ねる事に進化して肉体と共に成長する。それが僕達、クリーチャータイプの取り柄ですから」
それにしても、コイツどんなエネルギーしてるんだよ。動きに全く緩みもブレもない。まるでロボットのようだ。
エネルギーの消費ほとんど無いに等しいんだ。だから動きがブレないんだ。
でもおかしいな。元が人間である以上、内包できるエネルギーにも限度がある。
どうやってこれほどの持久力を………
「って、そうか………純粋な戦闘力にエネルギーを全振りしてる、って事です、かッ!」
思考のまとまった僕は登り貼り付いた木から跳んで、別の木へと移る。
身体を動かす、それ以外に使うエネルギーをできるだけ削減してるんだ。
「おや、バレましたか。しかしそれだけではないですよ。そもそもエネルギーの内包量も高いので」
まぁだろうな。人工心臓のエネルギー回路に何か細工でもしたのかな。また面倒な事を。
でもこの前のマンドレイクヤヌアリウスみたいにその辺からエネルギーを奪う、みたいなことをしないだけまだマシか。
とにかく接近戦で戦うのは不利か。
僕は背中に提げたゲワーゲルフを手に取ると、ゴーレムバルバラに向けて引き金を引いた。
弾はもうリロードしてあったので、銃口からエネルギー弾が発射される。
乾いた音が森の中に響き渡り、幾千もの光が発射された。
空薬莢は排出されて地面に落ちると、土へと変わって散った。
発射されたエネルギー弾はゴーレムバルバラの体に傷をつけていく。
「くっ!………そういえば、ゲワーゲルフはあなたが基地から持ち出したのでしたね。一応それも私の作品なのですが」
「有効活用させてもらってます、よっ!」
僕は大きな木の上に登ると、そこからゲワーゲルフを構えて撃った。
トドメにはなるわけないが、間合いを開けるには十分だ。
今大切なのはコイツを倒す事じゃない、この場からいち早く逃げる事だ。
ただ与えるダメージもそれなりに深くないと効かないよな。
アイツは今あの改造人間の体を操っているに過ぎない。となると僕の攻撃によって痛みを感じている事は無いはずだ。
視聴覚は共有してても、自分からダメージを共有してるわけはないし。与えたダメージも、数値的にしか読み取れていないはずだ。
ただいくつか情報は欲しい。何とかして聞き出したいな。
「ッ!………あなたは射撃の腕は一流ですからね。それではこちらも」
ゴーレムバルバラが右腕を振るうと皮膚の一部が浮き上がった。
浮き上がった皮膚の隙間から砂が集まるようにして、何かが形成される。
それは蛮刀だった。長い刀身が日の光を受けて鈍く輝く。
見ただけでそれが常軌を逸した武器であるのは分かった。
「参りますよ」
そう言ってゴーレムバルバラは強く地面を蹴った。
刀身を受けたらダメだ!
僕がゲワーゲルフを背中に戻し、強い一撃を跳び上がってかわした。
しかしすぐにゴーレムバルバラは動きを変えて蛮刀を振るった。
鋭い攻撃を避けると、後ろに回り込み右腕を掴んで動きを抑えた。
「ナノテク、完全に使いこなせているみたいですね」
「えぇ。やはりレーター様のもたらしてくれる技術は素晴らしい」
今の蛮刀の出現の仕方、あれはナノテクだ。この世界にはあり得るはずのない技術だ。
ハイルセンスが強い理由はここにある。この世界には存在するはずのない技術を多く持っているのだ。
やっぱりハイルセンスは日本の技術を異世界に持ち込んでいる。
そんな事が出来るハイルセンス、いや首領のレーターは一体………
そこまで考えて、僕はゴーレムバルバラの腕に力が込められのを感じた。
腕を振われる前に、強制的に思考を切り替えて間合いを開けた。
「ここまで発展させるのには苦労しましたよ。あなたにはもっと驚いていただけると思ったんですがねぇ」
「まぁ、そういうトンデモ技術にはある程度耐性があるので」
「クックックッ………相変わらず面白い人だ。それではこれも驚きませんか?」
するとゴーレムバルバラの背中から蜘蛛の脚のような機械が出現した。あれもナノテクか。
その機械から青い熱線のようなものが発射された。咄嗟のことで、僕は横に転がって避ける。
熱線は地面に当たり、周りを黒く焦がし穴を開けた。そして避けた僕を追うように、どんどん発射される。
ただでさえ面倒なのに、あんなのもあるのかよ!
僕が熱線に意識を集中していると、ゴーレムバルバラが素早く間合いを詰めた。
「はぁッ‼︎」
ゴーレムバルバラが勢いよく蛮刀を横凪に払った。
もはや避けることが出来ずに、僕はそれを鱗を纏った腕で防ごうとした。
その瞬間、蛮刀が赤く輝きを放った。
蛮刀は硬化した僕の右腕をものともせずに斬り飛ばした。
斬り飛ばされた腕が宙を舞って地面に落ちる。そしてドロッと溶けた。
「ッ⁉︎ があぁぁぁッ‼︎ぐあぁぁぁぁッ‼︎」
焼きつくようななんて表現じゃ生ぬるい、形容出来ないような痛みと熱が僕を襲った。
僕は思わず膝をついた。斬り落とされた腕からは黒い人工血液がドクドクと溢れ出る。
それでも何とか立ち上がろうとする。
「おっと、動かれては面倒ですね」
さらに熱線が僕の左脚を焼き斬った。太ももから下が斬り落とされ、ドロドロに溶ける。
その隙をついてゴーレムバルバラが僕を蹴り飛ばした。僕はロイゼ達の所まで吹き飛ばされる。
「ぐはぁッ‼︎ ゲホッ‼︎ぐッ!ぐあぁぁぁッ‼︎」
「オモト様‼︎大丈夫ですか⁉︎」
ロイゼが駆け寄ってきた。今にも泣き出しそうな表情だ。
そんな顔するなよ………腕斬られただけなのに。
今すぐ再生したいところだけど、どうしても時間がかかるからな。敵が敵だし、一旦後回しか。
おそらく今のはあの蛮刀に熱が発生したんだ。それで僕の腕を焼き切ったんだな。
まさか変化させていた腕が斬り飛ばされるとは………思った以上に強いな。
「あら、斬れたのは片腕だけですか。胴を斬ったつもりだったんですが、まだこの体と完全に同調出来ていませんね」
ゴーレムバルバラは真っ赤に染まった蛮刀を軽く振るった。
もし今正確に胴を狙われてたら確実に死んでたな。これ以上戦うのはマズいかも。
「まぁ殺してはもったいないですし………斬るのは手足だけにしましょうか」
ゴーレムバルバラが僕の方へと歩み寄ってきた。
こうなったら、情報は諦めて逃げるしかない!
「ロイゼ!二人を抱えて!」
「は、はい!」
僕はロイゼに指示をすると、今度は翼を広げて地面の土を煽る。
一瞬だが、土煙がゴーレムバルバラの視界を遮った。
その一瞬をついて、僕は双子を抱えたロイゼを抱き寄せた。
翼をはためかせて飛び上がった。体を保護色にして、周りから見えなくする。
エネルギーが減っていくを感じながらも、無理矢理体を動かしてその場から逃げ出した。
「くっ………おや、逃げられましたか。まぁいいでしょう」
その場に残されたゴーレムバルバラは人間の姿へと戻った。
「アルクリーチャーが生きていた。これだけでもレーター様はお喜びになるでしょうしね」
そう呟いて森の奥へと姿を消した。
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