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改造人間と奴隷達の居場所  作者: 音数 藻研鬼
第3章
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第66話 触角

「さぁやりなさい、クンスリッシベフュール!」

 アルクンスリッシが手を振るうと、僕達を囲んでいる男達の顔がひび割れていく。

 手足の肌の色が剥がれ落ちて、次々へと人間の皮膚から鋼鉄の皮膚に変わっていく。

 銀色の体にいくつも回線が接続されている。関節が剥き出しになっていて、腕にはエネルギー銃が装備されている。

 絵に描いたようなアンドロイドが僕達を見据えた。僅かな機械音が聞こえてくる。

 アルクンスリッシが率いる人工物をモチーフにした改造人間の戦闘員、クンスリッシベフュールだ。

 結構いるな。一々やってたらキリがない。それなら………

「さてと、それじゃあやるか」

「ダメッ!コイツら無茶苦茶強いの!」

 シルフィに肩を抱かれたセルフィが叫んだ。

 そうか。さっきの森にあったクレーターは、セルフィがクンスリッシベフュールの攻撃から逃げてたものか。

 よくもまぁ無事だったもんだ。いや、被験体として連れていくために傷つけないようにしてたのか。

「大丈夫ですよ。オモト様はとても強いんですから!」

 シルフィとセルフィを下がらせたロイゼが自慢げに言う。

 おいロイゼ、あんまり期待を上げるなよ。

 体は違うとはいえ、相手は僕と同じハイルセンスの幹部なんだからさ。

 ………けどまぁ、ロイゼの前で無様なところは見せられないよな。

 まぁベフュールなら何とかなるか。僕はゲワーゲルフを構えた。

 それを合図とするかのようにベフュールは僕にエネルギー銃を向けてくる。銃口が妖しく光った。

 集まった光がエネルギー弾となって僕に撃ち込まれる。

 その寸前に僕は足に力を入れて大きく飛び上がった。バッタのように数メートル跳んでエネルギー弾を避ける。

 そしてイモリのように近くの木の幹に貼りついた。

 撃ち込む僕が消えた事により放たれたエネルギー弾は、対角線上にいたベフュールに当たってしまう。

 おかげでベフュールが半分くらい潰れてくれた。よし、上手くいったな。

 そのまま木の幹から木の幹に跳び移りながら、ベフュール達の囲いから逃れた。

 そして逃れた隙をついてゲワーゲルフを構え直す、フルオートでマガジンの中の弾丸を撃ちまくった。

 ババババッと籠った銃声が森の中に響いた。

 鋼鉄より硬い肌を持つクンスリッシベフュールは、魔力付与がされた矢や剣すらも弾き返す。

 しかし僕の持ってる武器は、ハイルセンスの幹部用の武器。威力だってその辺の武器の比じゃない。ベフュールくらい余裕で貫くエネルギーがある。

 たちまちベフュールの皮膚は蜂の巣になっていく。倒れたベフュールはドロドロに溶けていく。

「ギッ!」

 それを見た生き残ったベフュールは背中を少し曲げた。

 背中のユニットが変形してジェットエンジンとなった。そこから起動音と炎が発された。

 残りのベフュールが空へと飛んでいった。空中浮遊をしたまま僕にエネルギー銃を構える。

 それと同時に僕に向かってエネルギー弾の雨が降ってきた。ダダダッと地面を深く削って焦げ跡をつけていく。

 それを防ぐ事も逃げる事もなく、僕はエネルギー弾の弾幕に包まれた。

「オモト様!」

 ロイゼは鋭い声で叫んだ。その間にも僕にはエネルギー弾が降り続ける。

 やがて攻撃が止むと、ゆっくりと弾幕が晴れていった。

「ギッ………」

 ベフュールが弾幕の辺りを浮遊して、降りようとした瞬間。




 弾幕の中から二本の太い糸のようなものが伸びてきた。




 それは硬いはずのベフュールの心臓部を確実に貫いた。

 一体だけでは無い。糸はどんどん伸びて五、六体のベフュールの心臓部を貫いた。

「ギギッ!」

 心臓部を貫かれたベフュールはその場に落ちて動かなくなった。

 弾幕が完全に晴れると、そこにはエネルギー弾を浴び続けたはずの僕がいる。

 ただし背中には鳥のような大きな翼が広げられていて、それが全てのエネルギー弾から僕を守ってくれていた。

 もっともあの程度なら皮膚を硬化させれば充分だけど、それはまぁ後々のことがあるので。

 そして僕の額からは虫のような黒い触角が伸びていた。それは長く伸びてベフュール達の心臓部を貫いている。

 さっき弾幕の中から飛び出してきたのはこれだったのだ。

「さてと………」

 僕は触角を引き抜くと、大きく翼をはためかせた。

 風圧で心臓部を貫かれたベフュールはバタバタ落ちていく。

 そのまま翼を動かして僕は空に飛び上がった。残りも片付けるか。

 手に意識を集中させると、僕の手が硬化してビキビキとひび割れていく。それは鋭い鱗へと変わった。

 爪は鋭く長いものへと変わり、手から腕までが真っ黒に染まる。

 腕から生えたヒレが鋭利な刃物のように鋭くなる。

「フッ!」

 浮かび上がった僕は、翼を大きくはためかせてベフュールへと突っ込んでいく。

 鋭い爪の生えた手でベフュールの胸を貫いた。心臓部を掴むと力任せに引きずり出した。

「ッ!」

「ギッ、ガァッ!」

 ベフュールの胸から人工体液に塗れた心臓部がズルルッと出てきた。

 それに握りつぶすと、近くにいた他のベフュールを右肩から左腰にかけて斬り落とした。

 すると遠くにいたベフュールが僕に向けてエネルギー弾を撃ってきた。

 僕は斬ったベフュールを掴み近くの木の幹に貼り付いた。ベフュールを木の枝に引っかけた。

 エネルギー弾を翼で防ぎながら、斬り落としたベフュールの左腕を掴んだ。

 翼ひエネルギー弾がどれだけ当たっても、僅かな傷しかつかず、その度にすぐ再生される。

「このッ!」

 斬った上半身を引きちぎって振り回すと、遠くにいたベフュールに投げつけた。

 その隙にそのベフュールの首を掻き斬って、脚を掴むと、体を縦に真っ二つに引き裂いた。

 僕は飛んだまま肩にかけたゲワーゲルフを構えて、残りのベフュールを一掃した。

 全てのベフュールが溶けて消えていく。

「な、何………これ………」

「オモト、様………?」

 木の影で様子を見ていたセルフィとシルフィが呆然として、その様子を見ていた。

 しまった。後でこの二人になんて説明しよう。

 ゲワーゲルフの説明一つとっても面倒なのに、能力まで使っちゃったからな。

 まぁ僕の前にベフュール達を見てるんだ。それなりに耐性はあるでしょ。

 正直使いたくなかったんだけど、いくらベフュールだけとはいえ、ゲワーゲルフだけだとどうしても限界があるからさ。

「ふぅ、これで終わりっと………」

 僕はそのままゲワーゲルフをアルクンスリッシに構えた。

「残りはあなただけ、ですよね」

「なるほど。脳改造が解けて反動で戦い方を忘れたと思ってしましたが、その考えは都合が良すぎましたか。ベフュールだけとはいえ、まさかここまで戦えるとは」

「あれからしばらくは経っています。さすがに思い出せますよ」

 まぁ、使えない技は無いけど、使いたく無い技はあるんだけどね。

「そうですか………やはりあなたは素晴らしい。私の生み出した力を最大限に引き出せるのは、いつもあなたでした」

 そりゃ大方の仕組みが分かってたからな。そういう意味ではそうなのかもしれない。

「あなたを破壊してスクラップにしてしまうのは非常に惜しい。その頭脳だけでも、せめてレーター様へとお土産としましょう」

 アルクンスリッシがゆっくりと前に出てくる。

 これまで見たことのない改造人間。どんな能力を持ってるのか分からない。

 ましてや頭脳はあのアルクンスリッシだ。特に注意しないと。

「それでは、参りますよ」

 アルクンスリッシは腰を低くして身構えると、勢いよく踏み出した。

 僕よりも一回りほど大きな巨体がドリルのように突っ込んできた。

「なぁッ⁉︎」

 見た目からしてスピードはそこまで気にしていなかったが、どうやらそうではないようだ。

 予想以上に素早いな。普通のモンスターと能力値を同一視するべきじゃないか。

 僕は避けながらゲワーゲルフの照準を合わせた。大きく跳び上がって後退しながら、フルオートで発射する。

 しかしゲワーゲルフの弾丸は、アルクンスリッシの体を貫く事なく、弾き返されて地面に穴を開けていった。

 人工皮膚からの甲高い金属音が森に鳴り響く。全部弾かれたか。

 多少傷ついたとはいえ、体の頑丈さは見た目通り硬いのか。まぁこんな事だろうと思った。

「ふむ。不意をつけばアルクリーチャーとも渡り合える俊敏性。ゲワーゲルフの威力とも釣り合う耐久力。概ね予想通りの能力値ですね」 

 アルクンスリッシは顔を上げると体の汚れを払った。

「さてと、それじゃあ次は………こちらの姿でお相手してもらいましょうか」

 するとアルクンスリッシの代わりの体がブゥンとブレた。

 体の色が落ちて銀色の鋼鉄の皮膚が露わになる。それは変形してより屈強に、より禍々しくなっていく。

 やがて僕の目の前に現れたのは、僕の1.5倍程の大きさのロボットのような改造人間だ。

 体を大きくしたというより、人工筋肉のストッパーを外して展開した事で大きくなったようだ。

 さっきよりもさらに太くなった腕はその力強さが見ただけで伝わってくる。

 一見すれば肉弾戦がメインだと言わんばかりだが、その他に手足についている禍々しいユニットがそれを否定してくる。




「改めまして、ハイルセンスの新改造人間、ゴーレムバルバラです」




 動かないままアルクンスリッシ、いやゴーレムバルバラが目を爛々と光らせた。

 変形したパーツから余ったエネルギーが湯気になって立ちのぼる。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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