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改造人間と奴隷達の居場所  作者: 音数 藻研鬼
第3章
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第65話 自我

「ッ⁉︎ 改造人間⁉︎あの人が………」

 さすがに三回目ともなれば多少は慣れたのか、ロイゼの行動は素早かった。

 シルフィとセルフィを素早く自分の後ろに匿う。

「ん?何故我々の名前を?それに私の存在まで知っているのです?」

 厳つい体格や荒っぽそうな見た目に合わず丁寧な口調の盗賊は、僕を覗き込むようにして見てきた。

 こんなヤツいた覚えがない。僕が逃げ出してから作られた改造人間なのか?

 すると盗賊は目を見開いて手を打った。

「おや!あなたまさか、アルクリーチャーでは?」

 僕は見たことないが、コイツは僕の事を知っているのか?

 それに今、僕の事を呼び捨てにしたな。

 一応これでもハイルセンスの幹部だった僕に対して、呼び捨てにしていた者はそう多くはない。

 ハイルセンスの中ではもう僕はただの敵、という認識だからかな?

「………だとしたら?」

「ハッハッハ!まさかこんな所で、しかもこんなに早く出会えるとは!運がいいですね!たしかに改造人間の共有シグナルが感じられる」

 くっ!さすがに改造人間である事を誤魔化すのは難しいか。

 僕は背中のゲワーゲルフにそっと手を伸ばした。相手が何であれ今のところ敵に変わりはないからな。

「という事は、やっぱりあなたはハイルセンスの改造人間、ですか」

「おやおや?その話し方はどうしたんですか?組織にいた頃はもっと寡黙で素っ気なかったのですが、やけに丁寧ですね」

 盗賊は面白そうに笑った。その言葉に引っかかる点があった。

「まるで僕を知っているみたいな言い方じゃないですか」

「それはもちろん。長い付き合いじゃないですか」

 何?どういう事だ?

 単純に僕の記憶の中から忘れ去られている改造人間とか?

「オモト様、ハイルセンスでのお知り合いですか?」

「いや、違う………はずだ」

 ロイゼの質問に僕は躓きながらも答えた。

 生憎と僕のハイルセンスでの記憶は曖昧だ。

 それでも組織の中で深く関わったヤツらの事は何となく覚えている。

 そもそも僕と対等に接するヤツすら少なかったんだし。その中にこんなヤツはいなかったはずなんだが。

「あなたのような改造人間は見た事がない」

「ふふっ、そうでしょうね。しかし私は知っていますよ?雰囲気がえらく変わっていたので気がつきませんでしたが」

 言っている意味が分からない。僕のことを誰かから聞いたとか?

 すると盗賊は口元を押さえて笑った。

「くっくっく………やはりこの姿では分かりませんか」

「何?………あなたは誰ですか?」

 今のこの感じ、どこか見覚えがあるような………何なんだ?

「これはまた、薄情ですねぇ。あなたにはよく、私の研究を手伝ってもらっていたのに」

 研究………?

 ハイルセンスの三分の一の軍を指揮していた僕が、そんな事で関わったのは一人しかいない。

 でも、そんな………まさか………!

 一つの可能性に行き着いた僕は、それに驚いて目の前の盗賊を見た。




「あなたは………アルクンスリッシ………?」




「ほぅ!私の事を覚えていてくれていたんですね。嬉しいですよ」

 当たり前のこどく肯定した盗賊、いやアルクンスリッシに僕は愕然とした。

 なんて事だ………こんなタイミングで………

 それと同時に今の事態に対する危機感が一気に上昇し、焦りが込み上げる。

「オモト様?どういう事ですか?あの改造人間は何なのですか?」




「ヤツはアルクンスリッシ。僕と………いや、昔の僕と同じ、ハイルセンスの幹部だ」




「なぁッ⁉︎ か、幹部?………あの人、が?」

 ロイゼは目を見開いて驚いた。

 これまで散々強さを見せつけられてきたハイルセンスの改造人間。その幹部の登場ともなれば当たり前だろう。

「お久しぶりですね、アルクリーチャー。いえ、今は魑魅 万年青と呼ばれてるんでしたっけ?」

 クスクスと笑いながらアルクンスリッシは、僕に手を挙げて言った。

「あなた………その姿は何ですか?そんな見た目ではなかったはずですが」

 目の前にいる盗賊。言われてみればたしかに口調はアルクンスリッシとよく似ている。

 でもその姿はどうだ。

 僕の知ってる限りアルクンスリッシはもっと細身だったはずだ。こんな野蛮そうな顔でもない。

「おや、せっかくこうしてまた会えたのです。ゆっくりとお話でもしましょうよ」

「そもそもあなたとはそんな仲じゃないですから」

「態度がそっけないのは相変わらずですか。これでも私はあなたのことは高く評価しているのですが」

「それは()()()()()として、でしょう?」

 僕はゲワーゲルフを構えたまま、ゆっくりと間合いを広げていく。

「まぁ確かにそれもあります。しかしそれ以前、あなたのその個性にも、大変興味がある」

「話が逸れてますよ。その体は何ですか?整形にしてはやりすぎですよ」

「生憎自分の見た目に興味はありませんから。整形なんてしてませんよ」

「? それならその姿は?僕の知ってるあなたとは随分違いますね」

「ふふっ、分かりませんか?組織を抜けて、少し想像力が低下したようですね」

 のらりくらりとした言い回しに少しカチンときたが、それをグッと堪えた。

「………僕のことはいいでしょう。それに、予想がないわけでもありません。脳移植で体を入れ替えた、とかそんなところでしょう?」

「ほぅ、いい考え方ですね。しかし惜しい。たしかに私はこの改造人間の頭にいる。しかしこんなセンスのない厳つい体なんてごめんですよ。」

 ん?それなら一体………




「ッ⁉︎ そうか………遠隔操作で………」




「お!気がついてくれましたか。そうです、私はこの改造人間を遠隔操作しています。だから私の体はまるっと基地の中です」

 そういうことかよ。

 この改造人間は自我を持っていない。代わりに遠隔操作のためのチップみたいなのを内蔵してるんだ。

 アルクンスリッシはそれを使って基地からこの改造人間を操ってるのか。

「この改造人間は私の手足のように思い通り動きます。おかげで素材選びに頭を考慮してする必要も、脳改造の手間も無くなりましたよ」

 なるほど。アルクンスリッシはハイルセンスの中でもトップレベルの頭脳の持ち主だ。

 そんなヤツが操る改造人間なんだから、頭脳の面で心配することなんかあるわけない。

 だから改造人間の素材の人間探しも、肉体の強さのみに焦点を当てて探すことが出来る。

 それに自我を無くして脳改造の必要が無くなれば、僕みたいに裏切られる心配も無くなる。

「ちょ、ちょっと待ってください!それじゃあ、その改造された人の自我はどうなるんですか?」

 僕達の話し合いに入り込んできたロイゼが、アルクンスリッシに尋ねた。

「何だ君は?そんなことも分からないのかい?そんなもの消してあるに決まってるだろう。私の手足に自我なんて必要無い」

「そんな………酷い………」

「そうかい?この人間は元々盗賊だ。あっても害なだけの命の再利用。社会的にはいい事だと思うが?」

 こういうところは変わらずか。いや、僕は人のこと言えないな。

「まぁいいです。そんな事より、何でこんな小さな子供を狙っているんですか?」

 僕は後ろにいるセルフィに目線を向けた。どう見てもこの子を狙ってたよな。

「あぁ、そうでした。その子供をこちらに渡してください」

「あなた相手にそう言われて渡すとでも?」

 ゲワーゲルフの銃口をアルクンスリッシに向ける。あんまり騒ぎは起こしたくないんだけどなぁ。

「はぁ………どうも自我が戻って少々面倒な性格になったようだね。君が人助けをするようなヤツだとは思いませんでしたよ」

「そんなんじゃないです。事情により僕はこの子を探していたんです」

 まさかただの冒険者のクエストがこんな事になるとは。まったくツイてない。

「それはそれは、奇遇ですね。しかし私も任務ですので。この前の埋め合わせとして」

「埋め合わせ?」

「マンドレイクヤヌアリウスのですよ。あなた達が妨害したのでしょう?」

「知っていたんですか………」

「いえ。元々予想していて今確信しただけですよ。よくもまぁ我々の情報網を潜り抜けてあんな事が出来たものですね」

「別に、大した事じゃないです。それより、アイツの埋め合わせ………という事は、改造人間の素材集めですか」

 この前マンドレイクヤヌアリウスはこの街の人間の優秀な人間を、改造人間の被験体として送ろうとしていた。

 それを食い止めたけど、まさかこんな事になるとは」

「えぇ。まったく、あんな簡単な任務もこなせないとは。情け無いものです」

「それでわざわざあなた自身のお出まし、ですか」

「私としても今回の事は自分で集めたいので。ただそのために私の体が汚れるのも嫌なので、こんな形でやらせもらったのです」

「………なるほど、あなたがこの子を………いや、この双子を狙う意図は大体分かりました」

「さすがですね。本当はそこの子を捕まえた後に、後ろの妹さんも捕まえるつもりだったのですが。まさかこうやって向こうから現れてくれるとは。運が良かったです」

 そう言うと、アルクンスリッシが手を挙げて指を鳴らした。

 その合図で森の中から盗賊の格好をした男達が何人も出てくる。

 コイツら………全員戦闘員、ベフュールか。

「さぁ、その子供たちをこちらへ。そうすれば痛い思いは………と言いたいところですが、ついでです。あなたもここで捕まえましょう」

「まぁそうなりますよね。ロイゼ、二人を頼む」

「分かりました。気をつけてください」

 ロイゼは二人を抱き抱えた。それを横目で確認して、敵を見据える。

「ふふっ、さてさて今のあなたの戦闘力がどれほどか。そしてこの体が実戦でどれほどの威力を引き出すのか、見せてもらいましょうか」

 アルクンスリッシは僕を見てニヤリと笑った。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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