第63話 双子
「そうですね。もうちょっと詳しく話を聞けませんか?何か手がかりとかは無いんですか?」
マルディアさんからもっと詳しく話を聞く事にした僕は、質問してみた。
「それがねぇ、あっという間にいなくなっちゃったから。どこに隠れたかも検討がつかないのよ」
なるほど。
ふと隣を見ると、ロイゼが不思議そうな表情をしていた。
「ロイゼ、どうかしたの?」
「え?あ、いえ………」
「何か気になるなら言ってみ。こっちも情報は欲しいし」
「あ、はい………その、逃げた子って、種族は何なんですか?護衛の人達から逃げるって、よっぽどだと思うのですが」
「あぁ、言ってなかったわね。獣人族よ、歳は割と小さくて、君達よりも歳下」
獣人族の子供………なるほど、それならたしかに逃げられてもおかしくない。
獣人族は身体能力、特に敏捷性や五感に優れた種族だ。
動物の耳や尻尾が生えていて、いわゆるケモミミっ子ってヤツだな。大人もいるけど。
それが子供なら、素早く逃げて隠れるなんて得意中の得意だろう。
「その奴隷に不審なところは?」
「そうねぇ………そういえば、逃げる少し前に何か周りを気にしてたって」
どういう事だ?逃げ道を探してたのかな?
「他に手がかりは?ここまでの状況で探すのは正直厳しいですし、面倒なんですが」
「うーん。手がかりは無いけど、探すのに心強い助っ人ならいるわよ」
何だそれ?探索専用の奴隷とかじゃないよな?
「どんな人なんですか?」
「そうね。それなら今からウチに来ない?話すより見せた方が手間も省けるし」
そうだな。まぁその方が効率的か。
「分かりました。ロイゼ、行こう」
「はい」
僕とロイゼは荷物をまとめると、マルディアさんについて行って商館に向かった。
街をしばらく歩いて僕達は商館に到着した。
「ただいま、今帰ったわよ」
マルディアさんはドアを開けると、近くにいた人に店員に声をかけた。
「マルディアさん。おかえりなさいませ」
「留守番ありがとう。ねぇ、例の子を談話室まで連れて来てくれないかしら」
「はい。分かりました」
そう言うと店員は商館の奥の方へと行ってしまった。
「ここで話すわけにもいかないし、ひとまず談話室まで来てくれない?」
「分かりました」
僕とロイゼはそのままマルディアさんと談話室に入る。またここに来る事になるとは。
しばらくすると、談話室のドアがノックされた。
「入っていいわよ」
マルディアさんが声をかけると、ドアが開いた。
そしてさっきの店員が入ってきて、その後ろから誰かがついて来た。
それは奴隷なんだろう。首にロイゼと同じ首輪がついていた。
小さな女の子で歳は十歳前半といったところだろう。くりくりとした綺麗な赤い目が僕達を捉える。
どこか薄汚れてはいるものの、顔立ちは結構いいんじゃないだろうか。ショートカットの髪がゆらゆらと揺れる。
初めて会う僕達に少し怯えているようにも見える。
身体を縮こまらせて店員の後ろを恐る恐るついて来ている。
その子が人間、いわゆる人族ではないのは一眼で分かった。
頭からはふかふかの毛が生えた丸い耳と、腰の辺りからは長く細い尻尾が生えている。
そしてその二つの全てが縞々模様だった。
獣人だ。虎の獣人なんだ。
「えっと………この子は?マルディアさんのところの奴隷ですか?」
「えぇ、名前はシルフィ。見ての通りの虎の獣人の女の子よ。ほら、挨拶しなさい」
「は、はい………シ、シルフィです………」
小さな女の子はビクビクしながらも、僕達に頭を下げた。
やっぱりか。実際に見るのは初めて………なはずだ。
獣人族に対する知識もそうだけど、この感覚はどうしても慣れない。
僕は体感的にはこの世界に来て、すぐにハイルセンスの基地を飛び出した。
しかし実際は違う。
ハイルセンスによって改造手術を施され、それから一年近くヤツらの尖兵として活動しているのだ。
もちろんその中で身につけた経験、知識はちゃんと頭の中にある。
つまり体感的には、自分の頭の中に知らない情景や知識、言語などがたくさんあるのだ。
しかもそれは穴があるものの、自分の中ではちゃんと処理出来ている。
それがすごく気持ち悪い。
いや、何も知らない状態でほっぽりだされても困るから助かるにゃ助かるんだけどさ。
一度体験して見ると分かる。すごい変な気持ちだ。
「あの、まぁ色々聞きたいことはあるんですけど、一ついいですか?」
「何かしら?」
「この子普通の虎の獣人じゃないですよね?耳と尻尾白いんですし」
そう。この子の耳や尻尾。
本来の虎の獣人なら黄色と黒の縞模様のはずなんだけど、この子のは白と黒の縞模様だ。
ちなみにこれに対する知識も、ちゃんとあるんだよなぁ。学んだ覚えはないのに。
「それも含めて今から話すわ」
そう言うとマルディアさんは運ばれたお茶を啜った。
「この子はね、獣人族の中でも珍しいアルビノ種なのよ」
やっぱりか。
アルビノ種
それは獣人族の中でごく稀に生まれる、特別な人達の事だ。
特徴はやはりその身体の色だ。ふさふさの耳や尻尾の毛が本来の色とは異なり白い者を指す。
ちなみに地球にもアルビノ種っているよね。リスとかヘビとか。
あと人でもいる。先天性白皮症状だったっけ?
チロシナーゼっていう酵素が生成出来ない、または不活性のためにメラニンっていう色素が作られずに肌が白い人の事。
日光に弱いんだっけ?あとほとんど弱視だ。
そしてアルビノ種の獣人は、本来の獣人よりも身体能力や魔力量が高い。
地球と違って日光をガンガンに浴びても問題無いし、メラニンが作られないのは原因ではないんだろう。
そんなわけでただでさえ獣人は奴隷として価値が高いが、アルビノ種はそれに輪をかけて高額で売買されている。
そんな知識が頭に浮かんだ。本当に気持ち悪い感覚だ。
それにしても白い虎の獣人か………見方によっては白虎としてめでたいとも言えるが………
「ライオンじゃないか………」
「オモト様?どうかしましたか?」
「ん?あぁ、何でもないよ。それで、彼女がどうしたんですか?見たところ探す予定の子にかなり似ていますが」
たしか探す子も獣人の小さな女の子だろ?その条件をコンプリートしてるじゃん。
「それもそのはずよ。探してもらうのはその子の双子のお姉さんなの」
「双子⁉︎」
そりゃ珍しいな!
ただでさえアルビノ種なんて珍しいのに、その上双子とか。どんだけ珍しいんだよ。
「探してもらうのはセルフィ。虎の獣人のアルビノ種で、シルフィの双子のお姉さんよ」
「なるほど。それでその子、シルフィにそれを手伝わせる、と?」
「うん。彼女達は小さい頃からずっと一緒にいてね。お姉さんの隠れそうな所に心当たりがあるんですって。それに妹が探しに来たら、セルフィも出てくるかもしれないでしょ?」
そういう事か。たしかにそれは心強いな。
何も知らずに一から探すよりかはよっぽどいいはずだ。
「この子は逃げなかったんですね」
「そうなのよ。仲はすごい良いから置いて行くなんて思わなかったわ」
「そのセルフィって子が逃げた時は、この子はどうしてたんですか?」
「逃げたのは夜だから寝ててセルフィが逃げたところは見てないんですって」
そううまくはいかないか。でも、仲良いなら何で置いていったんだろう?
そもそも逃げた理由すら不明だからな。それが分かれば少しはマシになるんだけど。
「あ、あの………」
するとシルフィは僕の方をジッと見てきた。
そんな警戒しなくても良くない?別にいいんだけどさ。
なんかロイゼと初めて会った時の事を思い出すな。今は僕に強く言う事もあるけど、ロイゼも昔はこんなだった。
きっとこの子も人見知りなんだろう。ちょっと面倒だなと思ってしまう僕だった。
「お姉ちゃんの事………探して、くれるんですか?」
「う〜ん。それには君の力が必要になってくるんだけど、協力してくれる?」
「は、はい。私でよろしければ」
シルフィは小さく、だが力強く頷いた。どうやらやる気は満々みたいだ。
「というか、この子ってやっぱり戦闘奴隷ですか?」
「そうね。何と言ってもアルビノ種だもの。まぁ後は娼館、だけど………さすがにこの見た目じゃあねぇ」
ぶっちゃけ年齢なら小学生か中学生だもんな。一般的にはちょっとね。
まぁ一部の人にはそれでも需要はあるとは思うけど。見た目結構良いし。
「それなりに戦闘の訓練も積んでるから、森に入ってモンスターに会っても大丈夫よ。ちゃんと戦えるわ」
それはありがたい。逃げてる女の子を探しながら、別の女の子の護衛なんて。出来ないとは言わないけどめんどくさい。
「あのさ、シルフィ。お姉さんが逃げちゃった理由とかって分からない?」
「………す、すみません、分かりません………何となくソワソワしてるな、とは思ったんですけど………それ以外はいつも通りでしたし」
一番近くにいる妹すらも分からないか。
でもソワソワしてたってのは一つヒントだな。さっきマルディアさんも言ってたし。
「後の事はその子に聞けば分かるわ。それじゃあ頼んだわよ。ちゃんと連れ戻せたら報酬はたっぷり出すから」
そりゃあ双子のアルビノ種の獣人の捜索、プラスに秘密事項で口止め料込みだからな。
報酬は相当なものだろう。まぁお金はあるに越した事は無いからな。
「はい。それじゃあ行くか、ロイゼ。シルフィも」
「はい」
「は、はい!」
シルフィはガチガチになって頷いた。あぁ、こりゃ慣れるまで時間かかるな。
そんなわけで僕達は奴隷商館を出た。さてと、まずは現場かな?
「それにしてもオモト様」
「ん?どしたロイゼ」
「最初はノリ気じゃなかったのに、何だかあっさり引き受けましたね」
…………はッ⁉︎しまった!つい会話の流れて面倒事を引き受けてしまった‼︎
こうして流されるようにして、僕達の奴隷捜索が始まった。
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