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改造人間と奴隷達の居場所  作者: 音数 藻研鬼
第2章
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第60話 補給

 マンドレイクヤヌアリウスを倒した僕達は、素早くその場から退散した。

 割と大きめの騒ぎになっちゃったし、あんまりここにいると警吏の人が来てしまう可能性もあるからな。

 宿屋に戻った僕達は、部屋に着くと小さく息を吐いた。

「あの改造人間、何とか倒せたんですよね?」

「あぁ、お疲れ様。今日はもう寝るか」

 外はもう暗くなっている。今日はゆっくり寝るとするかな。

「えっと………ハイルセンスの事はあのままで良いのですか?このままでは騒ぎになりそうですが」

「大丈夫だよ。マンドレイクヤヌアリウスが倒されたのはハイルセンスの方でも分かっているはずだそれなら証拠隠滅くらいはやるって」 

 おそらくもう転送魔法陣は消されているだろう。アイツらがそんな簡単に周りに見つかるようなヘマはするとは思えない。

 今回は規模こそそれなりに大きいけど、用意したものなどに関してはそこまで多くはない。処理も楽だろう。

 今回転送されるかもしれなかった人達だって、たぶん招集は取り消されたとか何とか言って誤魔化すんじゃないかな。

「そうですか。でも………悪い事したのに隠蔽されてしまうというのは………少し残念です」

 ロイゼは少し落ち込んだような顔をした。

 たしかにあれだけのことをしようとして、何もお咎め無しなんておかしいよな。

 今回はマンドレイクヤヌアリウスを倒すだけだが、ロイゼの性格だから、本当はハイルセンスの悪行も何とかしたかったのだろう。

「ハイルセンスは規模や技術が常識からかけ離れ過ぎている。今の僕達がどう動いたところで文字通り消される未来しかないからな」

「分かっております。けど………」

「起きた物事をいつまでも完璧に隠蔽するなんて不可能なんだよ。どこかで絶対に暴ける日が来るって」

「はい、ありがとうございます」

 僕だってハイルセンスに追われている身だ。あんな組織潰せるならパパッと潰して欲しい。

 けど無闇に動いてもこっちが不利になるだけだ。今回だって割とヒヤヒヤしながら臨んだのに。

 そう考えると、今回は割と上手く立ち回れたのかもな。

 本格的に実行に移す前に何とか出来てよかった。そうでなかったらまぁまぁ面倒な事になっていたし。

「そういえば結局オモト様の事はハイルセンスの方に伝わってしまったのでしょうか?」

「さぁな。何せ唯一知ってて報告しそうなヤツがタイムラグ開けて死んじゃったからな。もう調べようがない」

 逃げている間に報告したかもしれないし、後回しにしたかもしれない。

 今となっては真相は闇の中だ。

 こんな事なら倒す前に聞いておくべきだったな。いやまぁ、そんな事してる余裕は無かったんだけどさ。

「この街に残ってて大丈夫でしょうか?」

「街自体には残っててもいいと思うよ。さすがにアイツらも街を襲うなんてこのはしない………というか最終手段だろうから、現段階ではしないでしょ」

 向こうだって公には出来ない組織だ。

 今回みたいにどこかの権力に寄生したとしても、さすがに街を襲撃なんてすれば危なくなるのは間違いない。

「それよりも問題はロイゼだよ?僕といるところをバッチリ見られた上で逃げられたんだから」

 これからロイゼが狙われる可能性が高くなってしまった。どうしたもんかな。

「え?いつかはこうなるとは思ってましたし、特に問題は無いのでは?」

「あのなぁ………想定してても危ないもんは危ないの。一人でいる時に襲われたりしたらどうするんだよ」

 こう言ったら失礼かもしれないけど、ロイゼだけだとベフュールだけでもまともに相手に出来るか危ういのに。

「たとえ危険でも、私はオモト様と一緒にいたいですから。これからもお役に立ちたいです!」

「いや、それは嬉しいけど………」

 たしかに今回の戦いでロイゼが邪魔どころか、結構役に立つということは分かった。

 けど根本的に危険性は変わってない。何とかしないとな。




「オモト様、今さらですけど領主様ってどうなるんですか?ガッツリハイルセンスに絡んだ上に、計画失敗しましたけど」

 そうだよね。こういう時秘密組織のやる事といえば………

「あぁ………良くて冤罪で逮捕。悪ければ暗殺、かな」

 まぁアイツの悪意があってハイルセンスに手を貸していたんだ。殺されても文句はないだろ。

 人を誘拐しようとした時点で否定の出来ない犯罪者だし、相応の制裁は受けとけ。

「それ何とかなりませんか?今から助けに行くとかして、それからハイルセンスの情報を聞き出すとか」

「たぶんあんまり情報持ってないだろうし、処分されるならもうされてるよ」

 その事と考えて最初は、マンドレイクヤヌアリウスと一緒に領主も連れてくる予定だった。

 けど現実的に無理だったのと、利益が無いのでやめた。

「? でも、改造人間を倒したのはついさっきですよ?今から行けば何とか………」

「いや、それは関係なくてな………ちょっと見てみるか」

 僕は部屋の窓を開けると、視覚を拡張した。領主の館に視線を向ける。

 色々仮説立てるよりこっちの方が早くて確実だ。



 するとやっぱりそこに領主の姿はなかった。



「やっぱりいない。もう処分されたかな」

「そんな………何で………」

「簡単だよ。人間を選び攫う体勢を整えてやればハイルセンスにとって領主は不必要。それどころか秘密保持の観点から見れば邪魔だからね。消されて当然だろう」

 僕はそのまま館の領主の部屋らしきところを探る。

 お、テーブルの上にお酒が置いてある。あれに毒でも仕込んで、倒れたところを処分したってところか?

 おそらくマンドレイクヤヌアリウスが僕達に引っ張られる前にやったな。

 明日の朝には領主失踪の記事が新聞に載る事だろう。

「そう、ですか………」

 ロイゼは気を落としたような声を漏らした。

「そう肩を落とさないの。領主自身悪意を持ってハイルセンスと協力してたんだ。ある意味自業自得だよ」

 そりゃ失敗したら殺されるなんて聞いてないかもしれないけど、それ相応の事はやっていた。

 それなら当然の結果とも言える。それをロイゼが悲しむ必要はないのに。

「そう、ですよね………申し訳ありません。分かってはいるんですが………」

 まったく、無関係どころか何なら敵の死なんかに心を痛めるとは。僕にはイマイチ分からない感覚だ。

 甘いなぁ………でも、嫌いじゃない。こういうヤツがいた方が面白い。

「とりあえず僕達が今回の一件で、これからやらなくちゃいけない事はないと思うから、大丈夫だよ」

「はい。オモト様もお疲れ様でした」

「ありがとう。ロイゼも手伝ってくれてありがとうな」

 今回はロイゼのおかげで何とかなったようなもんだからな。

 命懸けで領主の館に潜入してくれて、マンドレイクヤヌアリウスを引っ張り出す事に成功した。

 心配なのは変わってないけど、ありがたかったのも事実だろう。本当に助かった。




「あの、そういえば一つ疑問が残っているんですが」

「ん?何?」

 寝る準備をしていると、ロイゼが声をかけていた。

 相変わらずのネグリジェ、何とかならないかなぁ。毎回目のやり場に困る。

「結局あの改造人間は何で植物を動かしている時に、一歩も動かなかったんですか?オモト様は何か気がついているようでしたけど」

「あぁ、それね。別にそんな難しい話じゃないよ」

 そういえば説明後回しにしてたっけな。すっかり忘れてたわ。

 最初は僕も不思議だったが、よく考えたら結構当たり前のことだった。



「単純にエネルギーが欲しかったんだよ」



「エネルギー、ですか?」

「あぁ。普通に考えて周りの植物を操るなんて芸当、いくら改造人間でも難しいからな。それなりのエネルギーが欲しかったんだよ」

 テレキネシスとかではなく自体を動かしたり変形、果てには成長まで。

 そんな事をしてエネルギーが必要にならないわけがない。

「無駄なエネルギーを消費しないために動かなかったって事ですか?」

「それもあると思うけど、それ以上にエネルギーを補給したかったんだよ」

「補給………って、どこからです?」

「たぶんだけど地面、じゃないかな」

 あの時僕達には見えなかったけど、地面に自分の体から生やした根を張り巡らせたとしたらどうだろう。

 そこからエネルギーを吸い出せばいいわけだ。植物の改造人間ならあってもおかしくない。

 もっとも地面である必要はないだろうけどね。

 その証拠にアイツは僕の血液からエネルギーを得ようとしていた。

 たぶんあの能力は想像以上にエネルギーを消費するのだろう。

 だから消費したエネルギーを賄わないと動けなくなるって感じだ。

「そうか………地面に根を張り巡らせていたら、そこから動けなくなりますね」

「あぁ。それにそもそもエネルギー供給が絶たれたら、あの能力自体が使えなくなるからね。あの能力を使うには常にエネルギーを取り込んでいる必要があったんだろ」

 何とも燃費の悪い改造人間だけど、何かの量産型改造人間か何かだったなのかな?

「それで動かなかったんですね」

「そういう事。さぁ、そろそろ寝ようか」

「そうですね」

 もう夜も遅い。ロイゼの事だからどうせ明日もいつもと変わらず朝練するんだろう。それなら早めに寝た方がいい。

「あの、オモト様………」

「どうかした?」

「私………これからもオモト様のお役に立てるようなりますね」

「…………ほどほどにね」

 まったく、何でこんなに献身的なんだか。大したもんだよ。

「はい。オモト様、おやすみなさい」

「おやすみ」

 僕達はそれぞれベッドに潜るとそっと目を閉じた。


 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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