第5話 ダークエルフ
えっと……あれは何だろう?
僕はモゾモゾ動いているものを凝視した。なんか大きいな。
何かが布被っているのは分かるんだけど、すっぽり被ってるから何かが分からない。
生き物……なんだよな?
「あの、すみません。あそこでモゾモゾ動いているの何ですか?」
もしかしたら聞かない方がいいかもしれないけど、どうしても気になったので聞いてみた。
僕がマルディアさんに聞いてみると彼女は僕の示した方を向いた。
「ん?……あぁ、あれも一応ウチの奴隷よ。人見知りが激しくて」
へぇ、そうなのか。てっきり番犬か何かが遊んでるのかと思った。
「見せてもらう事って出来ますか?」
「いいけど、すぐに顔隠しちゃうかもよ?」
「大丈夫です。」
それでもここにいる奴隷を一通り見ておきたいのだ。どんなヤツがいるかは知っておきたいし。
「分かったわ」
そう言ってマルディアさんは動いている奴隷に近づいてポンポンと軽く叩いた。
そうするとその奴隷はビクッと震えた。
「君を見たいって人が来ているのよ。顔だけでも見せなさい」
マルディアさんが声をかけると奴隷は被っていた布をゆっくりと外しながらこっちを見た。
その瞬間、僕は呼吸をするのを忘れるほどその奴隷に見惚れていた。
結論から言うと、その奴隷は女性でビックリするほど綺麗だった。
歳は僕と同じかちょっと下くらいだろう。
髪は銀髪で目はコバルトブルーの色をしていた。耳が尖っているから人間ではないんだろうな。
そして何より特徴的なのはその肌で、僕やマルディアさんとは違い褐色だった。
顔のバランスがとても整っていて、背も高くスタイルもマルディアさんに負けず劣らず良かった。
ここまで綺麗な人は見た事がなかった。
しかも着ている服は他の奴隷と同じで薄い服一枚だから体のラインがはっきり見えてしまう。これは目に毒だろ。
けど、彼女の目からすごい怯えられてるのが分かるんだけど。
彼女はしばらく僕を見ていたけどすぐに布を被ってしまった。
おっといけない、あんまりジロジロ見過ぎちゃったからかな?
僕は彼女から目を逸らしてマルディアさんの方を見る事にした。
まぁこっちも目に毒なんだけどさ。マルディアさんはこういうの慣れてそうだな。
「ちなみにこの子は戦えるんですか?」
「もちろん、この子はダークエルフだからね。身体能力はかなりのものだよ」
なるほど、ダークエルフならこの美貌も納得だ。エルフの類が綺麗ってのは定番だからな。
となるとこの子も候補の一人か。というかやっぱりダークエルフは身体能力が高いのか。
たしか普通のエルフだと弓矢とか魔法が得意なんだよな。
僕はしばらく考え込んだ。
「あの、いくつか聞きたい事があるので一回戻っていいですか?」
「分かったわ、いいわよ」
僕達は一旦奴隷達のいた部屋を出て商館の面会室に戻った。
それにしても戻るまでずっと部屋にいた奴隷がこっちを見てきた。もういいよぉ、怖いんだけど。
僕達はソファーに座って向かい合った。やっぱりこの人と向き合うのは緊急するな。
「それで聞きたい事って?」
「答えられなかったら答えなくていいんですけど、あのダークエルフの子は何で人を怖がるんですか?」
「あら、あの子の事気になる?」
マルディアさんがからかうように言ってきた。
気になるというよりかはどうにもこの子に惹かれるんだよ。
もちろん見た目の事もあるけど雰囲気になんか惹かれるものがあるんだよ。
何となくではあるんだけどな。彼女の表情かな?
「僕が見た時元々の性格って感じには見えなかったんですけど」
完全に性格から来てるものなら僕の事を見向きもしないだろう。
彼女に何かがあったからその影響で人に怯えてる。僕はそう考えている。
だから心の底にある元の性格からの興味心で僕の方を見たのではないだろうか?
「ふーん、意外と見ているのね。普通の人なら人見知りってだけで気にしないのに」
そうかな?そんな特別な事でもないだろ。
「まぁ買うとなるとこれから生活していくわけですからね。知れる範囲のことは知っておきたいんです」
性格や戦い方、好きなものや逆に嫌いなものなど色々知りたい。
「そうね。まぁ話せない事もあるから話せる事だけ話すわ」
そう言うと隣から店の人がお茶を持ってきた。
マルディアさんはそのお茶を一口啜った。また様になるねぇ。
「見て分かると思うけど彼女はダークエルフだからね。それで奴隷になっちゃったのよ」
ん?ダークエルフだから?どういう事だ?言ってる意味がよく分からない。
「すみません、話がよく見えないんですが」
「え?君知らないの?ダークエルフの森の事」
ダークエルフの森?たしかダークエルフ、というかエルフは森で生活するのがゲームとかでの定番だな。
けどそれがどうしたんだ?
「すみません、僕遠くから来たのでこの辺りの事はよく知らないんですよ」
「そうなの、まぁこの辺りで起きた事でもないけどね。それじゃあそこから話しましょうか」
マルディアさんの話によると次のようだった。
昔からダークエルフ達は人里離れた森の中で隠れて暮らしていた。
文化もそれなりに発展して周りの国に頼る事なく森の中で生活していた。
ただこの世界にはダークエルフなどのようないわゆる亜人に対して偏見を持つ人がいるんだと。野蛮だなんだと差別するようなヤツらがいるそうで。
もっともそういうヤツらがいるからダークエルフのように人と離れて暮らす種族がいるんだろうけどさ。
そんな差別するようなヤツらからしたらダークエルフが住んでいる森なんて嫌悪感の塊みたいなもの。
そして今から六、七年くらい前に事件は起こった。
突如ダークエルフ達の森に何者かが侵入して森が焼き払われたらしい。
その中でその何者か達によりたくさんのダークエルフ達が殺された。
誰が何のためにやったかは明確化されていないが大方そういった亜人を差別するヤツらの計画に違いない。
とまぁこんな事があり、生き残ったダークエルフの多くは住む場所を失い流浪の民となった。
それでもどこか住める場所が見つかった者はよかったがそうでない者もいた。
ただでさえ差別されてるんだ住む場所以前に住む国だって限られてる。
そんなこんなやってればそのうちお金も尽きてくる。
働こうにも亜人だからって雇ってくれない所もあるから簡単にはいかない。
そうやって生活していく事の出来なくなったダークエルフ達は自ら奴隷となっていく。
「……なるほど。彼女もその一人ってわけですか」
「そういう事。それに彼女は自分からってより攫われたみたいなんだけどね。私にそれを調べる方法はないから」
何だそれ?そんなの無茶苦茶だろ。
「職業柄理不尽な目に遭ってきた人達には山ほど会ってきたし、私はそれを利用して利益を出してると言ってもいい。だけどまぁ考えるものはあるわよね」
どこの世界にも差別する人間ってのはいるもんなんだなぁ。
しかしそれだけでよく森を燃やそうなんて思ったものだ。
「それで彼女は奴隷になったんだけどね。ここに来る前に彼女の主人をしていた人がいたんだけどそれがちょっと変わった人だったの。人、特に亜人を痛ぶる事に楽しみを感じるような人でいつも殴られてたそうよ。それで殴っても何も言わなくなって面白くないって理由でここに売られたの。それが今から数ヶ月くらい前よ」
なるほど、これで大体理解出来た。
人に殺されかけてその上毎日暴力まで振るわれたらそりゃ人見知りにもなるって。
むしろ一瞬とはいえよくこっち見てくれたな。
「もちろん世の奴隷の主人がみんなこうってわけじゃないんだけど、中には自分の快楽のために奴隷を買うような人もいるのよね。まぁ私達はそれをどうこう言う権利は無いけど売ったものをボロボロにして突っ返されるのはあまりいい気分じゃないわ」
そりゃそうだ。その分価値だって下がるだろうし、買い手も減るだろう。
「でも意外ね。普通女性の奴隷を買う男性ってもうちょっと別の事聞くものなんだけれど」
そうなのか?まず事情を聞くのが先だろう。まぁ何を聞くかは大体予想がつくけど。
「ちなみになんて聞くんですか?」
「処女かどうか」
そんな事だろうと思ったよ!
「僕の話聞いてましたか?僕はパーティーメンバーを買いに来たわけでそういう相手を買いに来たわけじゃないんです」
「へぇ、その割には彼女見た時はぼぅっと見惚れてたようだけど?」
余計な事言わないでよ!恥ずかしいでしょ!でも本当の事だから否定も出来ない!
「一応彼女は処女よ。前の主人は殴ってばっかりだったから」
「聞いてない事答えないでください!」
僕は思わず叫んだ。
部屋の奥に本人いるんだからちょっとは気をつけて欲しい。
まぁ気にならないと言えば嘘になるけどさ。
「とりあえず私が話せる彼女の情報はこれまでよ。どう買う?」
そうだなぁ、どうしよう。
「そもそも彼女を買うとして値段はいくらですか?あまり高いと買えないんですけど」
「そうねぇ、まぁあの性格とはいえ見た目と戦える事を考えれば安くは出来ないわ。六十万バイスでどう?」
値段的にも問題なし。今すぐにでも買えるな。
たしかに今のところ買う分には問題ないと思うんだ。マルディアさんの言う通り彼女は優良物件だろうし、それが買えるなら願ってもない事だ。
けど、その前にどうしてもやらないといけない事がある。
「あの、ここまで引きずっておいてアレなんですが、彼女と話し合う事って出来ますか?」
「別にいいけど、何で?」
「いくつか確認したい事があるんです。出来るならお願いします」
僕が言うとマルディアさんは首を傾げながらも再び奴隷達のいた部屋に戻っていった。
まぁどうせ買うならこれくらいはやらないと。
最後まで読んでいただきありがとうございました。