第58話 醜い
怪人体となったマンドレイクヤヌアリウスは僕達を前に身構えた。
さてと、ここまでロイゼが体張って頑張ってくれた。ここからは僕の出番だな。
「フゥ──────ッ‼︎」
僕は全身にエネルギーを行き渡らせた。それと同時に目の前が赤くなり体が変化する。
真っ黒に染まった腕の皮膚は硬化すると、バキバキと割れて尖った鱗のようになっていき逆立った。
手の爪は大きく鋭利になると大きなナイフのような獣の爪になった。
足はグネグネと長くなって屈折していき、昆虫のような形状へと変化していく。
口は大きく裂けて歯が牙のように鋭くなっていく。額からは触角が生えてしなる。
その姿は人間をベースにしているものの、シルエットなどはとても人間には見えない異形な姿だ。
ガーゴイルアンブロジウスの時は、まだロイゼに正体を隠していたからやらなかったが、ここまで来たらそうも言ってられない。
コイツは結構油断ならない。出来る限り本気で立ち向かわないと、何があるか分からないからな。
「ふむ。前から気になっていたのだが、何故あなたはそんな中途半端な姿にしかならないのですか?まさか、元の姿に戻れないとか?」
「違いますよ。あの姿に………戻りたくないだけです」
たしかに僕の本当の姿はこんなものじゃない。とても人間とは思えないような異形な姿だ。
ハイルセンスにいた時はほとんどその姿で過ごしていた。
当たり前だよな。それが僕の本当の姿なんだから。
今の僕の人間としての姿は、あくまで仮の姿。化け物が人間の皮を被っているのだ。
その下にある醜い姿こそが、本当の僕の姿だ。
けどその姿に変わるのには抵抗がある。
それに僕だけならまだしも、ロイゼの前であの姿にはなりたくない。
この姿を晒すだけでも本当は嫌なのだ。あんな怯えた顔を思い出すと嫌になる。
ロイゼはそれでも受け入れてくれると言っていた。けど僕にとってはそういう問題じゃない。
あんな醜くなってしまった姿をロイゼに見られたくないのだ。
僕はマンドレイクヤヌアリウスと対峙した。
ロイゼは下がらせてある。さすがに危険だし、もう充分働いてくれた。
改造人間の相手は改造人間でなければ難しい。だから僕がやる。
「なるほど。言っている意味がよく分かりませんが、手加減はしませんよ?」
そういうとヤツの周りの植物がウネウネと動き出した。またアイツが操ってるのか。
とにかくあの能力は先が読めない。どうしたもんかな。
すると木に絡まっていた蔓が、一斉に僕の方へと伸びてきた。とんでもなく速い。
僕は飛び上がってそれを回避。近くの木の枝に止まろうとした。
しかしその木の枝がぐにゃんとねじ曲がって、僕の着地を拒んだ。
「何ッ⁉︎」
曲がった木の枝はビュンッとしなると、僕の方へと向けられる。
それはまるで鞭のように僕を遠くへ叩き飛ばした。
「ぐあぁッ‼︎」
数メートル先まで吹き飛ばされた僕は、そのまま地面に叩きつけられた。
「オモト様⁉︎」
「来ちゃダメだ‼︎近くに隠れてて‼︎」
駆け寄って来ようとするロイゼを叫んで止めた。今出てきたら危ない。
とりあえずあの植物なんとかしないとな。このまま好き勝手やられてたらだいぶ面倒だ。
ただアレがヤツの能力だとすると、どこかの器官を潰したところで意味はなさそうなんだよなぁ。
となると無力化してから倒すってのは結構難しくなる。
カラクリは大体分かってるんだけど、それを対処する方法が不明だ。
一番手っ取り早いのはこの森から植物を無くすことだけど、それをやるとなるととんでもなく大掛かりなことになり隠滅が出来なくなる。
この木々を全部切り倒すか焼き払うかだからな。まぁ常識的に考えて無理だろう。
だからそれをやっちゃうとわざわざこっそりと引っ張って来た意味がない。
そう考えるとこの森に引っ張り込んできたのは間違いだったかなぁ?
いや、この辺りに植物なんて山ほどある。どこに連れて行っても同じだったか。
あの能力がどの範囲まで有効か分からないし、街に連れ込むよりかはマシと思うか。
いや、待てよ………あるな、植物が無いところ。
けどそこに連れて行くまでと、その後の戦いがどうするかだな。
「ほぉ、今のを耐えましたか。さすが我らのトップだった改造人間ですね。しかし何度耐えられるでしょうか」
そう言うと再び植物達が僕に襲いかかってくる。
さっきと同じように飛び跳ねて避けるが、少しすればそれですらも追ってくる。
この植物達はマンドレイクヤヌアリウスの思った通りの動きをする。
つまりヤツが僕の動きに慣れてしまえば、それを阻止する事など容易いわけで。
爪で襲いかかってくる植物を斬り刻んでいるが、それだってずっとは無理だ。
こりゃ飛び跳ねてるだけじゃ何も出来ないな。というかこっちからも仕掛けないと。
とりあえず近づいて接近戦でないと。こんな攻撃されながら攻撃仕掛けるなんて無理がある。
と、考えたのはいいけど。どうやって近づく?
まぁ今のところ攻撃してスキを作る一択なんだけど、その余地があるかどうか。
この前のガーゴイルアンブロジウスみたいに、操るものの動きが単調じゃない。その辺も気をつけないと。
仕方ない。試せるものは全部試すか!
「それならまずは………」
僕は腕を元に戻した。背中に背負っているゲワーゲルフを構えると、マンドレイクヤヌアリウスに向かって撃ちまくった。
ババババッと小さめの発砲音が鳴り響き、エネルギー弾が発射される。
廃俠口から吐き出された空薬莢のようなものが、地面につくたびに土塊となっていく。
「ふっ、そんなもの………」
マンドレイクヤヌアリウスは木の枝を集めて盾のようなものを目の前に作った。
ついでに成長もさせているのか、ゲワーゲルフの光弾も届いている様子はない。
けどそれでいい。僕は撃ちながら腰を落とした。
そして狙いを外さないまま一気に飛び上がった。一瞬だけどその辺の木の高さなど優に超える。
伸びてくるヤツがあったらその都度撃ち砕く!
ちょうどマンドレイクヤヌアリウスの死線に入ったのか、弾丸が当たり傷が作られていく。
同じスピードで動いてたらずっと守られるからな。それなら瞬間的にでも素早くなれるようにすればいい。
これならいけるか⁉︎
「くっ!なるほど………」
するとマンドレイクヤヌアリウスは僕の方に向けて手を伸ばした。
その伸ばした手から小さな種のようなものが飛んできた。
こういう飛び道具もあるのかよ‼︎
僕は体を透明化させた。そして羽を広げる。これで近づくか。
『それならさっきから透明化で突っ込めよ』とか言われそうだけど、改造人間はお互いに位置が分かるようになっている。
透明化して近づいたところですぐに場所なんて分かるし、やっても意味がない。
良くて不意打ち出来た程度。そんなの意味ない。
だからこれはあくまで周りのためだ。羽を広げても周りの人達に見つからないように、透明化した。
僕は空を飛びながらひたすらに攻撃した。
僕とマンドレイクヤヌアリウスの放った弾丸はお互いに掠りながらも、ほとんどは周りに当たって乾いた破壊音をたてる。
やっぱり僕の場所は分かっているのか、透明化しても追尾されている。
さらに向こうは辺りの植物を自在に操れる。今はしてないけど、本格的に攻めたら間違いなくシェルターみたいなので籠る。
僕は縦横無尽に飛びながらマガジンを替える。ガシャッとマガジンを取り替えて、チャージングハンドルを引いた。
そのまま地上に着地して、そのまま撃ちまくる。
どんな角度から攻撃しても、防がれるか当たらない。
一応命中力にはそこそこ自信あるんだけど、こんな植物から攻撃されてる状態じゃあな。
どこかの軍隊よろしく木の影にでも隠れたいところだけど、それやるともれなく植物操作でゲームオーバーなんだよなぁ。
マンドレイクヤヌアリウスは動くことなく、僕の攻撃を捌いている。
クソッ!同じことが出来れば楽なんだけど、僕の力はそこまで高くない。
技のバリエーションでは勝てるが、個々の能力の度合いだと僅かに劣ってしまう。
その能力特化の改造人間じゃないからな。
「なかなかやりますね。それでは………ッ!」
するとマンドレイクヤヌアリウスの攻撃が止んだ。それと同時に周りの木の枝が一斉に僕に伸びてくる。
四方八方から飛んでくるそれらは僕の体に巻きついて縛りつけた。
「ぐっ‼︎」
縛られた僕は身動きが取れない。
爪で斬ろうとするが、手足が動かないのでは仕方ない。
それなら熱線で焼き斬る‼︎
僕はエネルギーを溜めて炎を吐き出そうとする。
しかし僕を縛っていた木の枝が分岐して、僕の胸を貫いた。それは僕の体内に広がる。
「かはッ‼︎」
僕の口から青い血が吐き出される。何かが吸われるような感覚がして、たちまち力が抜けていくのを感じた。
「さてと、本来の力を使えば勝てたかもしれないのに………これで終わりですね」
僕を縛る枝はギチギチとキツくなっていく。
力が………入らないッ!ヤバ………い………
その時
「やあぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ‼︎‼︎」
隠れていたはずのロイゼが剣を握り締めながら、駆け出してきた。
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