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改造人間と奴隷達の居場所  作者: 音数 藻研鬼
第2章
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第56話 領主

 ここは領主邸。

 普通の民家ではまず見ることのないような装飾が、辺り一面に施されている。

 その頂上、領主の寝室では賑やかな声が鳴り響いていた。

「ハッハッハ!それでは計画は順調、という事だな?」

「えぇ、あなたのおかげです。ここまで大っぴらに行動しても何も無いのは領主様だからこそです」

「なに、こちらも報酬を貰っているのだ。気にするな」

 外には護衛の騎士が二人、そして部屋の中央には二人の人物が楽しそうにお酒を飲んでいる。

 一人はハイルセンスの改造人間、マンドレイクヤヌアリウスだ。

 森での変装は解き、屋敷にいてもおかしくないような豪華な服を着ている。

 そしてその向かいに座っているのは、この街の領主のクレバー・ベルバラドだ。

 歳は四十代後半。生え際は後退していて、体はやや太り気味だ。

 一般市民では決して手に入れることの出来ないような、質の良い派手な服を着ている。

 それだけでは足らないとばかりに指輪はブレスレットをして、その豊かさを示している。

 飲んでいるお酒も西の地方で作られた上物のワイン。機嫌のいい領主はここぞとばかりに振る舞っている。

「最初に見た時はどんなヤツらかと警戒したが、こうも話が通じるとはな。いやはや、世界にはどんなヤツがいるか分からんな」

「私も、ここまで協力していただいてありがたい限りです」

 二人は楽しそうに話しながらお酒を飲む。

「それで、最初に送っていただく人間のリストは?」

「あぁ、これだ」

 そう言ってクレバーは隣に置いてある羊皮紙を差し出した。

「ほぅ、これはこれは。かなりの強者を揃えていただいたようで」

「優良物件は早めに送った方が良いだろう?」 

「そうですね。強い戦力は早めに欲しいものです」

 マンドレイクヤヌアリウスは羊皮紙を丸めて傍に置く。

「偽装工作は心配するな。リストの者には街の極秘任務と言ってある。他所に漏らす心配も、いなくなって騒がれる心配もない」

「それはそれは。こちらも安心というものです」

「一人一人にそれなりの金を積んだからな。抜かりは無いぞ」

 そう言ってクレバーはグラスを煽る。小さく息を吐くと、目を上げる。

「それで、報酬の方は信用していいのだろうな?」

「もちろん。人間の転送が確認され次第、お金はお支払いします。それにあなたの戦闘力として改造人間の手配。その一人目が私ですから」

 マンドレイクヤヌアリウスはクレバーの報酬の一部だった。領主個人の私兵として。



「頼むぞ。ワシの目的には不可欠だからな。ワシがこの国、いや、世界の王となるためのな」



「もちろん。私達はそのための協力を惜しみません。送られた人間を改造人間にして、その一部をお譲りしましょう」

「うむ。強いモノを頼むぞ。今から楽しみだ」

 クレバーは改造人間の力を使って、武力でこの国を支配しようとしていた。

 今の国王にとって変わり、自分がこの国の国王となろうとしている。

 もちろん一街の領主がそこまでの戦闘力を持っているわけない。

 そんな者はまず国王に仕えるか、個人で活動する。

 しかしそんな者達を優に超える存在。それが改造人間だ。

 その力を使えばどんな軍隊だろうと無力に過ぎない。それほどの力を持っている。

 そして武力でこの国を制圧し、自分がその王座につく。果てにはこの世界の全てを治める。

 クレバーはそんな果てしない野望を秘めていた。

 おそらく彼の中では目の前の改造人間すらも、既に自分の部下にして利用しているつもりなのだろう。

 しかしそんな自分が逆に利用されている事に彼は気が付かない。

 改造人間製造のために必要な人間の転送。そんな大切な役目が別にクレバーである必要はない。

 こんな田舎な街の領主でなくても、もう少し都会の街だったり、何ならどこかの国王の方がいい人材は集められるだろう。

 何かで脅す事が出来れば、そんな事簡単に協力させられる。

 そうすれば国を丸ごと乗っ取ったも同然だ。本来はそうするべきなのだろう。

 しかしなぜハイルセンスがわざわざクレバーを選んだのか。

 それは単純に快く協力してもらえると思ったからだ。

 その野心に漬け込めば、脅すという手間も省けて協力者となれば警戒される事も無くなる。

 ただそれだけの事だ。替えはいくらでもある。

 ここで失敗したら他を当たればいい。ここで成功したらここを中心に、他の傀儡となる貴族を取り込む。

 ハイルセンスの力を求める人間は、世界に何億人といる。彼らは協力してもらう体を装っているものの、実際は協力させてやっているのだ。




「そういえば、昨日の夜に森で何やら騒ぎがあったようだな?お前達の仕業か?」

 昨日の夜。街の森で大きな木が倒れるという事故があった。

 一応世間にはモンスターによるものとされているが、マンドレイクヤヌアリウスの行動を知っているクレバーは彼らと関係あると考えたのだ。

「あぁ、そうですよ。少し想定外の事態が起こりましてね」

「想定外の事態?大丈夫なのか?」

「えぇ、今のところ計画に支障はありませんよ」

 魔法陣は無事だし、やられたベフュールはどの道用済みだった。

 むしろ裏切り者としてハイルセンスが追っていた、アルクリーチャーを発見する事が出来た。

 下手に周りに流すと手柄を横取りされる可能性があったので、まだ誰にも話していない。

 明日の定期報告の時に首領であるレーターに報告するつもりだ。

 ハイルセンスは裏切り者を許さない。そんな中であの改造人間だけは基地を脱出し、未だに生き延びている。

 この辺りにいたガーゴイルアンブロジウスが消息を絶った時点で、何かあったのは察していたが、間違いなく彼に倒されたのだろう。

 ここでアイツを捕まえるか倒すかすれば、この功績は大きい。レーターにも認めてもらえるだろう。

 そうでなくても、生きてこの街にいる事を伝えるだけでも褒美はあるはずだ。




 自分達クリーチャータイプの改造人間の頂点にしてリーダーであるアルクリーチャー。

 あらゆる生物の能力の使える特殊な改造人間だ。ハイルセンスでも幹部クラスの立ち位置にいた。

 特別な人間から作り出した改造人間とは聞いていたが、その力には驚いたのは一回や二回じゃない。

 能力だけでなく、様々な知識を持っていて頭の切れる男だった。

 常に無表情で、何を考えているのか分かったのは()()()だけだった。

 作戦の指揮を頻繁に任されていたのも、単にレベルの高い改造人間だから、というわけでは無いだろう。

 そんな強い改造人間が組織を裏切って基地を脱走したと聞いた時、マンドレイクヤヌアリウスはとても驚いた。

 誰もが羨むような立ち位置にいながら、何故逃げてしまったのか。彼にはそれが分からない。

 トップがいなくなった事により、クリーチャータイプの改造人間達は今でも混乱している。

 しかしこれはチャンスでもある。

 そのトップに変わり、自分がハイルセンスの幹部となれるのだから。

 そして今こうして成果を上げつつあるマンドレイクヤヌアリウスは、一番それに近いとされている。

 何やらよく分からないダークエルフの女を連れていたが、見たところただの奴隷だ。処分は適当にすればいい。

 一体奴隷なんて買って何がしたいのか。それは全く分からないが、彼がハイルセンスの裏切り者なのには変わりない。

 昨日の妨害からして、彼らは自分達の計画を止めようとしている。

 それなら今も動いているだろう。どうこうする機会ならいくらでもある。

 正直彼と戦う事に忌避感がないといえば嘘になるが、勝つ見込みがゼロというわけではない。

 昨日の夜に戦った時に、彼は改造人間としての本来の姿に戻らなかった。

 もしかしたら力の使い方を忘れているのかもしれない。それなら勝算はある。




「警吏が出動する事態にもなっている。私も上手く立ち回るが、気をつけてくれよ」

「もちろんです。こちらも最善の手は打つつもりですから」

「頼むぞ。ここまで来て失敗など許されないからな」

 ハイルセンスがクレバーと手を組み始めたのは、今から半年以上前。

 それから少しずつ少しずつ計画を進めてきたのだ。ここで潰すわけにはいかない。

 いくら替えがあるとはいえ、それはまた一からやり直しというわけだ。それには手間や金がかかる。

 そうなればハイルセンスでの立場も悪くなる。そんな事はあってはならない。




 それからしばらくの間クレバーとマンドレイクヤヌアリウスは部屋でお酒を楽しんでいた。

「さてと、私はそろそろ失礼しますよ」

「何だ、もう出かけるのか?」

「はい。計画の最終調整がありますので。昨日の一件で魔法陣がどうなったのかも確認しませんと」

 一応クレバーの私兵が見張っているが、それでも誰かにバレてる可能性もある。

 特にアルクリーチャーだ。昨日の夜に計画についてはほとんどバレてると思っていい。

 もしかしたら今あの辺りにいるかもしれない。釣れた魚は早めにシメなければ。




 そう思って部屋を出たマンドレイクヤヌアリウスは、すぐ隣を見てギョッとした。

 部屋を護衛していた騎士の一人がその場に倒れているのだ。

「どうしたんだ?」

 そう言って辺りを見渡そうとした瞬間だった。



 扉の影からもう一人の騎士が飛び出してきた。



 その手には自分達が作り上げた転送魔法陣が描かれた紙がある。

「まさか………ッ!」

 そう思った時にはもう遅かった。

 紙を床に置くと、魔法陣が発動。あっという間に周りが光に包まれる。

 そして光が収まり目を開けると、そこは森の中だった。自分達が転送魔法陣を設置した場所の一つだ。



「おぉ、何とか上手くいったか。よかったぁ」



 すると頭の上から声がした。

 ハッと見上げてみると、そこにいたのは自分が狙っている元リーダー、アルクリーチャーだった。

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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