第55話 引き
「それで、これからどうするのですか?」
「そう言われてもなぁ………」
お互いのベッドに腰掛けた僕達は話し合っていた。
外はガヤガヤと騒がしい。
警吏の連中がバタバタと外を走り回っている。その音に目が覚めたのか、民家も少しずつ明かりがついている。
原因はさっきの轟音だな。マンドレイクヤヌアリウスが倒した大木のせいで、周りの木も巻き込んで倒されたからな。
さすがにあの音はマズいだろ。とんでもない事態になっちゃったな。
クソッ、ただの偵察だったはずなのにこんな事になるとは。
まぁある程度欲しい情報は手に入ったから、やった意味がゼロじゃないのが唯一の救いかな。
「どの道早くあの改造人間は倒さないと、ですよね?オモト様の事がバレてしまったのですから」
「まぁそうだな」
ロイゼの言葉に僕はため息をついた。はぁ、問題事が増えた。
もっとも僕達が警戒してなかったのが悪かったから、自己責任ではあるんだけどさ。
「とりあえず得られた情報を整理しよう。森にあったのは大きめの魔方陣。しかも人間を転送するための」
「人間をどこかに連れ去るのが目的、という事でしょうか?」
「そうなるよな。それで、その計画に領主が絡んでいる事が確定したわけだが」
まさかハイルセンスの計画に人間が協力しているとは。それもよりにもよってこの街の領主が。
「一応確認なんですけど、今回のハイルセンスの計画がこの街で行われたのって、オモト様がこの街にいる事と関係あるのですか?」
「分からないけど、たぶん関係ないと思う」
マンドレイクヤヌアリウスは僕のことを見て驚いていたし。
たしかにあの魔方陣を使って、僕を連れ戻すって事可能性もなくは無いけど、今のところそれは無いな。
たとえ僕と今回の計画に関係あるにしても、どんな関係で今回の計画に結びつくか分からない。僕こんな計画知らないしな。
今回の計画に関係なく、ただ僕を僕を殺すか、捕まえる、あの魔方陣はついで、という可能性はある。
でもそれにしてはやり方が慎重すぎる。
アイツらは割と前からこの街に来ているらしかった。
本当に僕のことを知っているなら、作戦実行のタイミングはたくさんあった。
あの森にはクエストでいつも行っている。やろうと思えば、もっと早くやれたはずだ。
それに領主が絡んでくるような計画と僕を捕まえる計画。それを同時にやるとは思えないし。
「となると完全にたまたま出会ったって事ですか。それは………運がないというか………」
「全くだよ。どうしたもんか」
こういう悪い引きはいらないんだよなぁ。僕はただ平和に生活できれば、それでいいんだけど。
「けどハイルセンスは人に魔方陣を使おうとしてたんですよね?誘拐して何がしないんでしょうか?」
「問題はそこ。しかも領主側の兵士が『選出した』とか言ってた」
「つまり誰でもいいというわけではない、というわけですか。それもおそらく複数人」
まぁそうなるわけだな。
さらに話し方を聞いた感じどこの誰みたいな特定というよりかは、一定条件を満たす誰か、と言った感じだった。
「オモト様がハイルセンスにいた頃に、何か人が必要な事ってありました?」
「それはさっきから考えているんだけど………」
ハイルセンスにいた頃の事は全部思い出したわけじゃないからあやふやなんだよな。
でもハイルセンスにいて人間が必ず必要な時なんてあったか?
計画は大体改造人間がやるし、まぁ人間を使ってみる試みがあるのかもしれないけどさ。
でもわざわざ領主が選出するって事は、攫ってもバレないとか、そういう事じゃないと思うんだよね。
そんなのだったら改造人間がスラムなりに潜入して決めればいいわけだし。
領主の目が届きそうな場所で選ばれた人………
「そんな計画あったかな?」
「計画でなくても、ハイルセンス全体で見た時に必要、とか?」
ハイルセンス全体、ねぇ。うーん…………あ‼︎
「あったわ!」
「本当ですか⁉︎何なんですか?」
「被験体だよ!改造人間の被験体!」
常識的な話になるけど、改造人間の被験体には人間である必要がある。
改造人間を作るのに改造人間使うとか意味分からない。
「改造人間って誰にもなれるもんじゃなかったはず。その改造手術に耐えられる肉体を持つヤツだけだ」
さらに言うならいくら良い改造人間を作っても、結局は元の人間の個性は反映される部分はある。
その辺を考えれば領主の目につくような、目覚ましい能力を持った人間を選ぶのが普通だろう。
屈強な戦士や賢い知識人ってのは領主ならたくさん知ってそうだからな。
「な、なるほど!………しかし何故わざわざ領主様の力を借りたのでしょうか?ハイルセンスの改造人間でもそういう方々の情報は持ってそうですが」
「部屋に騒がられないためじゃないか?その手のすごい人って大抵名が売れてるからな。下手に誘拐すると騒ぎになる」
その点、領主なら割と普通に連れてこられそうだからな。ヘッドハントとかで何とかなりそう。
「あれ?でもたしか地図にあった魔方陣っていくつかあると言ってませんでしたか?いくつも作ったらバレやすくなるのに、何故でしょう?」
そういえばそうだな。たしか八つの印が街を囲むようにあった。
「予備用とかですかね?」
「そんな単純なものだったらいいけどな」
けどあの形が気になるな。何で等間隔で囲むように置いてあるんだ?
けど、今それを深く考えても仕方ないか。とりあえず今からどうするかを考えないと。
「そういえば、今街の警吏隊がさっきの森に向かっているんですよね?森を捜索してるならあの魔方陣見つかりませんか?」
「それならそれでいいんだけど………まぁあんまり期待しない方がいいよ」
アイツらがそんな簡単にバレるような事するとは思えない。
逃げる時に消したか、バレないように偽装したとかな。
「それにたとえ見つかっても領主が握り潰すよ。たぶん無かったことになるね」
「あぁ、そうですよね」
ハイルセンスとの関係が無かったとしても、意味不明な転送魔方陣が領内にあるなんて、領民や周りの貴族から不満を買うだけだし。
「それじゃあやっぱり私達が解決するしかないわけですか」
「そうだな。出来るだけ早くしないと、面倒な事になる」
まず第一優先はマンドレイクヤヌアリウスを倒す事だ。口封じとしてね。
もっとも、もうハイルセンスに知られてしまっているかもしれないけどな。
この街にいる事がバレたら、間違いなく改造人間を送られる。
僕だけならまだしも、ロイゼに万が一の事があったら大変だ。
「ロイゼも平和な方がいいでしょ?」
「私は………別に。オモト様と一緒にいられるならどこでも、構いませんが」
え?………何それ?
「えっと………ロイゼ?」
僕がロイゼの言葉に首を傾げると、ロイゼなハッとしたように跳ねた。
顔を真っ赤にしてあたふたしている。
「い、いえ!その………変な意味とかではなくて!その………わ、忘れてください!」
「お、おぉ………そうか」
何かよく分からないけど、これあんまり触れない方がいいヤツだな。
触れたら面倒事になるのが何となく分かる。
それからロイゼが落ち着くのを待って、今後のことを話し合う。
早く何とかすると言っても、向こうは領主だからな。迂闊な行動は逆に命取りとなる。
僕達がどんなに計画の証拠を持ってても握り潰されるだろうし。
となるとカッコいい頭脳戦、みたいなのは期待出来ないか。割と無理矢理になりそう。
慎重に、且つ早く行動しないと。どうしたもんかな?
「また改造人間達が動き出すのを待ちますか?」
「いや、さっきの事で向こうも驚いているはずだ。これまでより行動は慎重になると思う。そうなると次動くのはいつになるか」
だからやるならこっちからやらないと事態は好転しない。もちろん物理的にな。
けど向こうは表向きは館でガチガチに固めてる。プラスで改造人間も徘徊してる。
「さっきみたいに透明化して潜入、とかどうですか?」
「やってみる価値はあるけど、見つかる可能性高いよ?」
潜入が出来ないとは言わないが、めちゃくちゃ難しいしバレたら領主の館に侵入って事で社会的に追い詰められる。
かと言って強行突破なんてもっての外だし、それこそ社会的にアウトだ。
それに館の人間の全員がグルとは思えないし、無関係の人間を巻き込むのもなぁ。
要は改造人間の事を知らない人達には見つからないように潜入して、改造人間のみを叩かなきゃいけないわけだ。
しかもさっきのせいで向こうも警戒してる中に、だ。
それに仮に潜入出来たとしても、戦う時に向こうが騒ぎ出したら、それもそれで騒ぎになり面倒な事になる。
ハタから見たら賊以外の何者でもないわけだし。向こうが被害者ヅラしたらそれで終わる。
「倒すにしても、改造人間のみを館から引っ張り出す必要があるわけだ。それもバレないように」
「難しいですね」
僕達は頭を捻らせて考える。どうしたもんかな?
それともどうせ追われるなら強行突破もなり………って、それじゃあ倒す意味無いわ。
この街で暮らすためにやるんだから。その辺は弁えないと。
するとロイゼがガバッと顔を上げた。
「あ!いい事思いつきました!」
そう言ってロイゼはにっこりと笑った
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