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改造人間と奴隷達の居場所  作者: 音数 藻研鬼
第2章
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第54話 水分

 僕とロイゼは改造人間に囲まれて身構えた。まぁこうなるんだよな。

「ロイゼ、大丈夫か?」

「はい。これからどうするのですか?」

「とりあえず最優先事項はこの場を切り抜けること。ベフュールは倒すとして、マンドレイクヤヌアリウスは退ければそれでいい」

「分かりました」

 正直向こうの能力がよく分からない状態で倒そうとするのは無理がある。

 僕はゲワーゲルフを構えた。

 一応使うのは慣れたけど、僕の意識ある状態で実戦で使うのは初めてなんだよな。上手くいくかどうか。

「ベフュールは私が何とかします」

「いや、それはやめてくれないか?ロイゼの実力はともかく、武器が耐えられない」

「うっ………分かりました」

 本当は手伝って欲しいと思わないでもないんだが、実力以前にその剣じゃ斬れても剣が折れる未来しか見えない。

 大体アイツらは生物系の改造人間。傷ついてもすぐに再生してしまう。

「退路と周りの状況の確認お願い。戦闘の活躍はまた今度ね」

「はい!」

 とりあえずこれからの方針は決まったな。

 僕は既に弾の込めてあるゲワーゲルフをクリーチャーベフュールに向けた。モードはフルオートだ。

 向こうが動く前に銃の引き金を引き絞る。凄まじい勢いで、銃口から火花が吹いた。

 発射されたエネルギー弾は、たちまちベフュール達を蜂の巣にしていく。

 もちろんこれだけで倒せすつもりはない。これはあくまで動きを止めるためのものだ。

 僕はゲワーゲルフを背負うと、素早くベフュール達に近づいていく。

 腕に力を集中させる。腕がボコボコッと変形して、黒い鱗に覆われた手から鋭く長い爪が伸びる。

 ベフュールの一体が、僕に向かって腕を振り下ろした。

 僕はそんなのお構いなしに腕を振るう。僕の爪はベフュールの腕ごと首を斬り飛ばした。

 それに怯んだベフュールが、隣のベフュールと組んで襲ってくる。

 それを避けるために、僕は近くの高い木の上まで一気に飛び上がった。

 そしてできた一瞬の隙をついて、僕は飛び降りて二体のベフュールを斬り倒す。

 そのまま僕は最後のベフュールの心臓を抉りとると、斬り刻む。

 ベフュール達はすぐに肉片の山となり、ドロドロに溶けていった。

「ふぅ、これで終わりかな」

 僕はベフュール達を倒し終えると、一息ついた。思ったよりはあっさりと終わったな。

「オ、オモト様………さすがです!」

 僕の後ろでロイゼで驚いたように叫んだ。

 尊敬してくれてるのは嬉しいんだけど、これ改造人間としての能力だし。

 というかこの光景に慣れつつあるな。果たしてこれはいいことなのだろうか?

「周りの状況は?」

「特に人の出入りは確認出来ません。改造人間も近くに潜んでいることは無いかと」

「了解。さてと、残るはあなただけ、ですよ?」

 僕はゲワーゲルフをマンドレイクヤヌアリウスに向けた。

 正直本番はここからだ。さっきの植物を操る能力は、割と面倒だったからな。気をつけないと。

「これは、驚きました。さすがアルクリーチャー様、ベフュールをものともしない強さ、感服いたしました」

「お褒めの言葉は結構です。どうしますか?」

 選択を迫ってみたものの、僕としてはここで帰すのはどうかと思っている。

 このまま逃したら、間違いなくハイルセンスに僕のことが報告される。

 そんなことになったら面倒なことになるし、ロイゼにも迷惑がかかるだろう。

 となるとここで処分するしかないんだけど、どうするかな?

「そうですね………私の任務はあなた方を倒す事ではない。ここは逃げるとしますかね」

 そう言うとマンドレイクヤヌアリウスの周りの植物が、ザワッと動いた。

 ヤバい、またさっきのが来る!

 とにかく動きだけでも止めるか。

 そのために僕はマンドレイクヤヌアリウスにゲワーゲルフを向けると、躊躇いなく引き金を引いた。

 再び弾が発射されたが、それはヤツに届く事は無かった。

「なっ⁉︎マジかよ………」

「おや、効きませんでしたね」

 僕は目の前の光景に思わず声が出てしまった。

 僕の撃つ前に先に動いた大量の植物が、マンドレイクヤヌアリウスの前に立ち塞がり盾のようになっていた。

 さっきは蔓だけだったのが、今度は樹木の枝がぐにゃんっと曲がってヤツの前に降りた。

 それにより僕の撃ったエネルギー弾は全て防がれてしまったようだ。

 でも変だな。あれくらいなら普通に防げるはずなんだが。

「オモト様!あの操られてる植物はおそらく強化されています!だからオモト様の攻撃も防いだかと」

「強化?植物に?」

 そんなの聞いたことないな。いや、でも植物も人間も同じ生物だ。

 人間の能力を上げる支援魔法なんてのもあるんだし、植物の能力を上げる魔法があってもおかしくない。

 とにかくコイツは植物のあらゆる事を操作出来るわけだ。何とも厄介な。

「そう。私は操る植物の強度や繁殖力などを高め、そのように操れるのですよ」

 なるほど、まさに思いのままに操れるって事か。面倒な能力だ。

 でも、所詮は有機生物………これなら!

 僕は大きく息を吸い込むと、身体中に魔力を溜め込む。

 そのまま息を吐くと、口からは大きな炎のブレスが発射された。

 僕の予想通り、吐かれた炎は容赦なく植物を焼いでいった。

 構造を変えられないと仮定すれば、植物相手は炎が一番だ!

 すると焦げた植物が灰となって舞い散る。

 そして操られていた植物が引っ込むと、マンドレイクヤヌアリウスは大きく後退した。

「くっ!やはりあなた方と戦うのは得策ではないようですね」

 そう言うとマンドレイクヤヌアリウスは近くにあった植物に手をかざした。

 そして手をかざしたところを強く蹴り飛ばす。バキッという音と共に木がこっちに倒れてくる。

 クソッ、今のは木の水分を抜いていたのか!それで脆くなったところを蹴り倒したんだ!

 バランスを崩した木はロイゼの方に向かって倒れようとしていた。

 突然の事でロイゼは反応しきれていないようだ。そのままだと木の下敷きになる!

「ロイゼ‼︎」

 僕は速度を一気に上げると、ロイゼの方に駆けて行った。

 そのままロイゼを抱えると、隣の木に跳び上がった。

 大木は僕達のスレスレを通って倒れた。それと同時にとんでもなく大きな音が鳴り響いた。

 そして倒れた大木は、まるで発泡スチロールのように脆く砕けた。

 こんなに脆くなってるのは、水分の抜けた木だからか。

 砕けた破片はおが屑と一緒になって僕達の前に舞い散る。

 このために改造人間なら絶対に倒せる木の水分を抜いたって事かよ!

「くっ!見えない………!」

 飛び散ったおが屑のせいで一瞬視界が奪われる。ロイゼも顔を隠している。

 僕は手で周りのおが屑を払うと、すぐに視聴覚を強化して辺りを見渡した。

 しかしマンドレイクヤヌアリウスの姿はどこにもない。

 クソッ、逃げられたか。やられたなぁ。

「ロイゼ、大丈夫?」

 僕は抱えられたままのロイゼの周りのおが屑も払ってやる。するとロイゼはゆっくりと目を開けた。

「は、はい………オモト様、改造人間は?」

「悪い、逃げられた」

「そう、ですか………何も出来ずに、申し訳ありませんでした」

「いや、その辺は僕も反省だ。まさかあんな事が出来るとはな」

 もうちょっと慎重にやるべきだったかなぁ。能力にばり気がいってて、その度合いを知ろうとしなかった。




 すると僕はふと周りの様子が気になって、視聴覚を強化したまま街の方を眺めた。

 あ、ヤバい………。僕は顔を引き攣らせた。

「ロイゼ、ちょっとこのまま宿に戻る」

「え?しかしもう少しこの辺りを調べた方が………」

「そうしたいのは山々なんだけど、今の木の倒れた音で街の警吏が動き出した。すぐにこっちに来る」

 僕の視界には明かりのついた詰所から、慌ただしくこの森の方へと走ってくる警吏の人達が見えた。

 ったく、面倒な事にしやがって!

 と、そんな風に敵に毒づいてても仕方ない。とりあえずここにいるのは得策じゃないな。

 身を隠す事は出来るけど、今ので宿の方も人が起きたかもしれない。

 万が一僕達がいるかどうかの確認されたら面倒だからな。

 色々調べたいところだが、それは宿に戻ってから視聴覚強化でするとしよう。

「ロイゼ、このまま急いで帰るから。ちゃんと掴まっててよ」

「え?……あ、はい!」

 僕はロイゼの返事を聞くと、しっかりと彼女を抱きかかえた。今さらだけどこの体勢ちょっと恥ずかしいな。

 そんな考えを急いで払拭すると、僕は姿を周りから見えなくした。

 そしてその木の枝を踏み台に強く駆け出した。何かバキッて音したけど、構ってる余裕はない。

 そのまま森を抜けると、行きと同様に建物の屋根をひょいひょいと跳んで移動した。

「───────ッッッッ‼︎‼︎」

 ロイゼが声にならない悲鳴をあげているが、今はちょっと我慢してくれ。

 僕はテンポよく宿まで駆け抜けると、宿の外壁に貼りついた。

 そのまま壁を這って自分の部屋まで移動して、窓を開けた。

 周りから見えないように急いで部屋の中に入ると、窓を閉めてロイゼを下ろした。それから一息ついた。

「ふぅ、何とかなったな」

「そうですね………」

 とりあえずこれで怪しまれる事はないだろ。

 まぁ向こうに僕達の存在が知られたから、面倒な事にはなったけどな。

 どうしたもんか………

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

 ハーメルン様の方での投稿に力を入れていたので、こっちの方の投稿ペースが落ちています。

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