第51話 意地
「それじゃあ、お仕事中失礼しました」
僕とロイゼは奴隷商館の入り口で、マルディアさんに挨拶していた。
「ううん。私こそ何かよく分からないけど、あんまり力になれなくてごめんね」
「いえ、結構助かりました」
とりあえず領主の人柄(噂)は分かった。まだはっきりとはしてないけど、関与してる可能性は充分にありそうだな。
「じゃあね。ロイゼも元気に」
「はい」
僕とロイゼは奴隷商館から出て行くと、街の通りを歩いていた。
そうしてしばらくしていると、ロイゼが話しかけてきた。
「それで、これからどうなさるのですか?今のところ決定打になりそうな情報はありませんが」
「そうだなぁ…………」
正直どうすればいいのか分からない。こうも情報が集まらない事も珍しい。
日本でも遊びでこんな事した事あるけどな、人の闇を暴くの。割とハマる。
でもこういう時って日本だったらネットで一発だからな、それが無いとなるとほぼ素人だ。
一昔前の刑事みたいな感覚でやってればいいんだけど、あぁいうのって人のツテとかがものを言うわけで。僕にそんなものはない。
「いっそのこと警吏の人を頼ってみてはどうでしょうか?マルディアさんに説明したように誤魔化せば動いてくれそうですよ?」
「この街の警吏なんだよ?そんなのすぐに領主にバレる。圧かけられて捜査が止まるのが関の山だよ」
「そう、ですか………」
それだけならまだいいけど、その情報源を辿られて僕達の事がバレたら、もっと面倒な事になる。
相手は領主だ。行動を気をつけないと不利になるのは僕達だからな。
「あ!オモト様は改造人間の場所を分かるんですよね?それならそれで改造人間の場所を特定して、直接倒しに行くというのはどうです?」
「効率は良さそうだけど、成功率がなぁ。それにもし、向こうが僕の事を知ってたら確実に対策されてるし」
「そうですね………」
僕もそれは一回考えた。ただ向こうの事をよく知らずに力づくはやめたい。何が起こるか分からないし。
それからしばらく僕達は頭を捻らせて考えた。
男女の冒険者(しかも片方はダールエルフ)が首を捻って街を歩いているのが珍しいのか、周りから注目を集めている。
しかしそんな事気にしてはいなかった。このままモヤモヤしたままは嫌だな。
あぁ、ネットがあればなぁ。情報なんてその辺に落ちてるのに。現代っ子にこの世界の捜査はお口に合わないようだ。
「あの、一つ提案があるのですが、よろしいですか?」
「ほい、何?」
「すごい初歩的なのですが、あの森に戻ってみるというのはどうでしょうか?」
たしかにな。ハイルセンスが冒険者の出入りする森に証拠を残すほど馬鹿とは思えないが、このまま街でグダグダしてても仕方ない。
少しでも情報がありそうなのはあそこか領主の屋敷だが、後者はやめとくか。
一応潜入とかもした事はあるけど、ちょっと危険だからな。館に改造人間が紛れてたら確実にバレるし。
「そうだな。それしか手はなさそうだし、そうするか」
「はい。それで、今から行きますか?」
「あぁ………と言いたいがこの時間からはちょっとやめとくか」
外はもう夕方だ。ずっとこのまま活動はロイゼにはキツいだろう。
久しぶりにハイルセンスに関わって、精神的にも疲れているはずだ。少しでも休ませたい。
でも明日まで待つのはなぁ。こういうのって人の出入りが少ない夜が定番だ。警備を握っている領主を取り込んでいるなら尚更な。
「一旦宿に戻って早めの夕ご飯にしよう。そしたら少し寝て、夜中に行く。それでどうだ?」
「分かりました。それでは宿に戻りましょう」
僕達は宿に戻ると、少し早めの夕ご飯をとった。そしてしばらくの間仮眠を取った。
それから数時間。外はすっかり暗くなり、虫や鳥の鳴き声が目立つようになった。
「行きますか?」
「そうだな………というか、別にロイゼが来る必要は無くないか?調べるだけなら僕一人で出来るよ?」
「いえ、私も行きます。オモト様に万が一のことがあったらどうするのですか」
そしたらロイゼも終わりだと思うんだよなぁ。
改造人間でも対処出来ない事を、ただのダールエルフであるロイゼが対処出来るとは思えない。
「危ないよ?」
「それを承知でオモト様と一緒にいる事を選んだのです。それに森の中での活動は慣れてますので」
それはそうかもしれないけどさぁ………正直心配だなぁ。
まぁ危険だの何だの言ったところで、ロイゼが納得するわけないのはよく分かっている。
でもここで無理矢理気絶させて、僕一人で行ったとする。明日もっと面倒な事になるのが目に見えているんだよな。
「ぶっちゃけさ、ロイゼの戦闘力だとそこまで助けになるとは思えないんけど」
するとロイゼは少しでもムッとした顔になる。
「偵察なのですから、戦闘を避けていれば問題無いのでは?それに外は夜です。オモト様の夜目とかを使うつもりなんでしょうが、それだと細かいところまでは見られませんし。ただでさえ見つかりにくに物を見つけるんですから、細かい視点は必要だと思います。それに………」
「分かった分かった、もういいって」
ダメだコイツ、意地でもついてくるつもりだな。
怒涛の勢いで反論されて、僕は少したじろいだ。
どうやら僕の発言が問題なのかな。助けにならないはマズかったか。
「私だって、自分が改造人間に勝てないのは分かってますよ…………。でも、私は………少しでもオモト様の力になりたいのです。こういうのは、実戦で培っていかないと」
そうは言ってもなぁ………それは一般レベルの話であって。それをハイルセンス絡みの事で引き合いに出すのはどうなんだ?
「それに改造人間はお互いを察知出来る能力があるのでしょう?それだとそれに引っかかるのでオモト様は思うように動けなくなるのではないでしょうか」
それはそうだな。改造人間は全員同じ改造人間を察知出来る能力がある。
ただでさえ集団で活動しているんだ。連携を取るためにも常にその能力を使っている可能性は高い。
となると僕が不用意に近づこうものなら一発でバレてしまうだろう。
その点ロイゼは例えいる事がバレても、ただのダールエルフの冒険者だ。ハイルセンスにとって危険でも何でも無い。
向こうも余計な波風は立てたく無いだろうから、スルーされるか騙して追い払おうとするだろう。
ロイゼの言う通り戦闘を最小限に抑えていれば大丈夫、かな?
「けどなぁ………」
「と・に・か・く!行ってみるだけなのですから、それならある程度は人がいた方がいいでしょう?」
ロイゼは僕に詰め寄るようにして言った。
…………はぁ、ダメだ。これ以上話してもロイゼは曲げないだろうし、連れてくしかないか。
強く言えば引き下がってくれるかもしれないけど、ロイゼの言う事にも一理あるからあんまり強く言えない。
特に向こうにバレる事だ。そうなったら偵察の意味をなさないし、ここでの生活も危うくなる。
その察知能力の対策も考えてはいるんだけど、今のところ決定打は無し。
となれば僕の代わりになる人員は必要となる。そして今の僕のコミュニティでそれは、ロイゼ以外はあり得ない。
連れてくしかないのかなぁ。
危ない事はして欲しくないんだけど、何ぶん僕は全部を感情で決められるような人間じゃないもんで。
まともな理屈があれば、感情そっちのけで理屈の方に食いつくのは昔からの癖だ。
「分かったけど………危ない事はしない、戦闘は極力避ける、何かあったらすぐ逃げる。いいね?」
「はい!」
はぁ、本当に大丈夫なんだろうか………まぁ、ロイゼが強いのは知ってる。ダールエルフなんだし、森に慣れてるのも本当だろう。
極力避けるつもりだが、戦闘にしたって素人というわけではない。
問題はそれが改造人間相手に通用するかどうかだ。
人間の強いと改造人間の強いは違う。生物としてのレベルが違うんだから。
そしてそれは訓練だとかいった努力程度で埋まるようなものではない。それはロイゼも分かってるはずなんだけど。
ネズミがいくら努力したところで、原爆を落とされたら勝ち目はない。極端な話それくらいの差はある。
種類の差というのはそれくらい大きいものだ。食物連鎖だって種類によって分けられているくらいだし。
「本当に気をつけてよ」
「もちろんです!オモト様のお力になれるように頑張りますね!」
やっぱり置いていこうかな。まるで分かってないぞ。
「それでは行きましょう!」
そう言ってロイゼは部屋のドアに向かって、意気揚々と歩き出した。
僕はそれを急いで止める。
「ちょ、ストップ!どこに行くんだよ」
「え?森に行くのですよね?」
「もう宿は閉まってるから外には出れないよ。宿の人起こすわけにもいかないし」
そもそもこんな夜中から宿を出て行くなんて、普通はあり得ないからな。
「あ、そうでした。ではどうするのですか?」
「ちょい手荒いけど、時間もない。窓から出よう」
「はい。………って、窓から?」
戸惑っているロイゼを無視して、僕は荷物を彼女に預ける。
そして荷物を持ったロイゼをおんぶした。
「ひゃっ!……….え?オモト様?」
ロイゼがわけがわからないように混乱しているが無視だ。
背中に柔らかいものが二つ当たったが、首を振って気を取り直す。
部屋の窓を開けると、虫やヤモリのように宿の外壁に張り付いて外に出る。これも僕の能力だ。
外に出ると部屋の窓を閉める。部屋が冷えるのは嫌だからな。
「あの、オモト様?もしかして………」
「はい、奥歯しっかりと噛んで、落ちないようにちゃんと捕まっててよ」
僕はロイゼの準備したのを確認すると、グッと力を込める。
そして僕は素早く隣の建物の屋根に飛び移った。着地もそこそこに次の建物に飛び移る。
それを繰り返して、僕は夜の街を駆けていく。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




