第4話 奴隷
奥の扉から出てきた女性は興味深そうにこっちを見ていた。綺麗な人だな。
歳は二十代後半くらいで濃い赤髪を後ろで束ねている。軽い化粧をしていて露出の激しいチャイナドレスのような服を着ていた。
妖艶を具現化したような人だな。つい見てしまいそうになる。
っと見惚れてる場合じゃない。用事を済ませないとな。
「え、えっと……その、誰ですか?」
「それはこっちのセリフよ。私の商館に入ってきてそれはないんじゃない?」
あーここの人ね。というか私の商館?
「えっと……あなたがここの当主って事ですか?」
「そう、私はマルディア。君は?」
そう言って女性、マルディアさんはソファーに座った。
へぇ、こんな若い人が当主ねぇ。
なんかこの人と話すのはすごい緊張するな。
綺麗で若い女性って事で僕が話すにはにはちょっと、いやかなりハードルが高い。
「魑魅 万年青です」
「オモトくん、ね。それで用件は?」
「あ、あの、僕冒険者で。その……それでパーティーメンバーを探しに来まして」
吃りながらも僕がそう言うとマルディアさんはにっこりと笑った。うぅ、緊張するな。
「それでウチの奴隷を買いに来たって事ね。事情は分かったわ。とりあえずそこに座って」
「は、はぁ」
僕はオドオドしながらマルディアさんの向かい側のソファーに座った。あ、これ座り心地いいな。
僕はマルディアさんと向かい合った。
マルディアさんも座ってるから白い太ももがチラチラと見えててつい目が引き寄せられる。
何とか見ないようにしようとしてどうしてもソワソワしてしまう。
なんかマルディアさんニヤニヤしてるしわざとなんだろうな。
僕は落ち着くためにゴホンと咳払いをして話し始めた。
「その、まず聞きたいんですけど。僕みたいに冒険者がここに来る事ってあるんですか?」
ギルド職員にした質問を一応マルディアさんにもしてみた。
「ん?そうねぇ、この街だと多くはないけどそういう事はある事はあるわよ。あなたみたいに戦うためのパーティーメンバーが欲しいとか、荷物持ちが欲しいとか理由は色々だけどね」
そうなのか。やっぱりこの世界では冒険者でも奴隷を買う事は普通の事なんだな。
まぁ奴隷って使い方が無限にある商品とも言えるからな。重宝されてもおかしくない。
「奴隷って貴族とか商人が買うってイメージがあったんですけど」
「うーん、それは間違いじゃないんだけど、結局のところ奴隷はそれなりの値段がするからそういった上流階級の人間しか買わないってわけ。購入だけじゃなくてその後もそれなりにお金がかかるのよ。冒険者で買うのが少数派なのは、基本的に大金を持っていないからよ。冒険者ってその日暮らしの人が多いから」
なるほど、つまり必要なお金があれば誰でも奴隷は買えるってわけか。
「それで、どんな子をご希望なのかしら?ウチは色んな子がいるわよ」
どんな子をって。……そうだなぁ。
「とりあえず冒険者として戦えれば問題ないんですが」
「随分とザックリね。戦闘奴隷ならそれなりにいるけど、他に要望はないの?性別とか種族とか」
「そもそもここにどんな人達がいるのかを知らないのでなんとも言えないんですけど」
色々いるって言われてもそれなりに傾向はあったりするでしょ。
「それもそうね。それじゃあウチの奴隷達を見せるからこっちに来て」
お、見せてくれるのか。それはありがたい。
僕は立ち上がりマルディアさんについて行った。
マルディアさんは自分が出てきた部屋に入っていった。
この奥に奴隷がいるのか。どんな人達なんだろう?いきなり襲われるとか無いよね?
僕は緊張しながら部屋の奥に入っていった。
別に悪い事してるわけじゃないのに、これから万引きをするため緊張してる少年の気分だ。した事ないけど。
扉を開けるとそこはさっきとは打って変わって薄暗い場所だった。
そして部屋のあちこちに薄く白い服一枚を着ている人達がいて、首輪をしている。
この人達全員奴隷なのかな?
その他にもこの店の人らしき人達が何人がいたけど奴隷の方が多いな。
それにしても
「本当に色んな人達がいるんですね」
僕は思わず呟いた。
性別はもちろん背の高さや体格、パッと見た感じの第一印象もバラバラだ。
そして何より明らかに人間とは違う種族も何人か見つけた。
耳が尖っている人、猫耳や犬耳に尻尾が生えている人、体に鱗が生えてる人など様々だ。
「そうよ、見た目や性格もそうだけど種族もバラバラに揃えているわ。どんな要望にも答えられるようにね」
マルディアさんは自慢げに言った。へぇ頑張ってるんだな。
そうだよな、色々な用途があるのが奴隷の特徴なわけだから、色んな人がいた方がいいよな。
ただ……
「何人かが僕を睨んでくるのは何でですかね?僕歓迎されてないですか?」
主に男性の奴隷からなんだけど異様に睨まれている。何なんだよぉ、怖いんだけど。
「あぁ気にしないでいつもの事よ。舐められないようにしてるだけだから。自分の力をアピールしてるの」
そんな一昔前の不良みたいな事してるのか?威嚇するのがアピールって。
それで怖がられて買われないんじゃ意味がないのでは?
「あなたが彼らを買ったら彼らにとってあなたはご主人様になるのよ?少しでも優遇してもらうためには自分がすごいって所を見せないとでしょ?」
でしょ?って言われてもなぁ。たしかにこんな態度見せられたら良くしようとは思うよな。それ以前に買うつもりも無いが。
この世界の人がどうだかは知らないけど少なくとも僕はそんな睨むような人を買いたくはないな。
「すみません、戦えればいいって言いましたけどなるだけ穏やかな人お願いします」
「分かったわ。睨んでこないならほとんど穏やかな子って思っていいから」
そうですか。分かりやすくていいけど、一々睨まれなきゃならないのか。
早いとこいい人見つけて退散するとしよう。
なんだろうな、ハイルセンス抜け出してからの僕に対する精神的ダメージが結構大きいんだけど。そろそろ倒れそうだ。
すると睨む人とは逆に僕に無関心そうな素振りを見せる人もいた。無気力というかなんか舐められてる気がする。
マルディアさんに聞いてみると、そういう人達は自分に自身がある人なんだと。
自分に自信があるから無駄に頑張ったりしなくても買ってもらえると思っているようだ。
技能が高いならちょっと惹かれるところはあったけど、やめておいた。
こういう人達もやめておこう。一緒にいて嫌な気持ちになりそうだし。
それにしても色んな人がたくさんいるから迷うんだよな。
そもそも戦う人にも色んなタイプがいるからな。
力自慢、スピード自慢、知性的に戦う人、勢いで戦う人様々だ。
僕と相性のいい人が一番なんだけど、それがどんな人か僕知らないんだよな。
一応戦った事はあるにせよ、それか改造人間として能力をフル活用している時であって普通の人間として戦っている時ではない。
まさか普通のクエストで能力を使うわけにもいかないし、そうなると実質戦闘経験ゼロなんだよな。
まぁ今のところ僕の戦闘能力をカバー出来る人が僕と相性がいいって事にしておくか。
僕は戦う事が得意ではないからそれをしっかりと補える人が必要だ。
さて、どうしたもんか。
「そういえば、ここの奴隷って全員金額は同じなんですか?」
「そんな事ないわ。見た目や戦闘力によって金額はマチマチね。種族によって金額も違うし。ここにはいないけど奴隷によっては百万バイス近くはする子だっているのよ。ちゃんとした教育を受けていたりすごい強い子なら結構高いわ」
やっぱりか。そうなると僕の所持金で買えない可能性も出てくるのか。
けどそこを気にしても仕方ない。買えなかったらその時はその時だ。
「そういえば買った後もお金がかかるって言ってましたけど大体どのくらいなんですか?」
「そうね、細かいことは買う時に説明するけど税金とか食費とか色々ね。奴隷に最低限の生活を送らせるのが主人の義務なのよ」
なるほどね、そりゃたしかにお金がかかるな。その辺も考えて買わないと。
僕は奴隷達がいる部屋の奥まで来た。これで最後かな?
「どう?良さそうな子見つかった?」
うーん。僕は首を捻った。イマイチ決まらないんだよなぁ。
「まぁそれもそうよね。君は希望が少なすぎるのよ。どんな奴隷がいいか、もう一度考えてまたいらっしゃい。その時には今よりも奴隷が増えてるかもしれないし」
たしかに、今焦って決めるよりも、次にもう少ししっかりと考えてから買う方がいいか。
それまでは多少目立ってもソロでやっていこう。一、二回ならそこまで目立つ事もないだろうし。
とりあえずは自分一人で色々やってみて必要なところを見つける。それを奴隷に補ってもらう。これでいいだろ。
僕は部屋を立ち去ろうとした。
しかし、僕はそこでふと立ち止まった。
奴隷達が僕にアピールしようとしているのか前に出てくる中、その後ろで何かがモゾモゾしているのだ。
僕が身につけているのと同じようは白い布を被った何かが蠢いている。
…………何だアレ?
最後まで読んでいただきありがとうございました。