第47話 情報
昼食を終えた僕達は、奴隷商館に来ていた。
今回の一件にこの街の領主が関わっているんじゃないかという事で、その領主の情報を得るためだ。
奴隷は本来貴族などの上流階級の人間が使うものだから、もしかしたらマルディアさんのところにも来ているのでは、と思っている。
実際に来てはいなくても、何かしらの情報は持っているかもしれない。
何せ相手は商人だからな。情報命の商人なら貴族などの情報を持っていてもおかしくない。
これが日本ならネットワークを通じて自分で色々と調べるんだけどなぁ。何せこの世界にはネットが無いからね。
これでも僕はそういったディープな情報をネットを使って集めるのが、ちょっとした趣味だったりする。
どうしようもなく暇になった時とかに、パソコンで色々な情報を意味もなく集めていた。
そもそも父さんを脅すための材料集めに覚えた知識や技術が思わぬ形で開花したわけだ。
一度やってみれば分かるけど、アレ結構面白いよ。クセになる
僕が日本にいた時は当たり前に存在したからよく分からなかったけど、無くなってみて初めてネットの偉大さを知ったような気がする。
この世界の情報収集は日本で言えば一昔前のもので、情報の内容もはっきりとはせずに信憑性もそこまで高くない。
そして何よりネットを使った時と比べて収集に時間がかかる。
日本なら椅子に座ってても情報が勝手にやってくる。でもこの世界では色んなところを知るためには全てアナログな方法でなければならない。
しかも電話なんかも無いから基本的には情報を得るために、こうやって歩いて向かわなければならない。元々インドアの人間には辛いよ。
この世界の人達はこれを不便だとか思わないのかな?それともそもそもこういう情報に関する技術をそこまで求めてないのか。
この世界の魔法の技術を使えば結構アッサリとできそうなものなんだけどなぁ。
というかそれこそハイルセンスならそういう機械をもう作っているだろう。あそこは地球の技術も取り入れているからな。
まぁハイルセンスがどうであれ、この世界はもう少し情報技術を発達させた方がいいんじゃないかな。そうすることで防げる危機もある。
それか今度自分で作ってみようかな?簡単な偵察機くらいなら僕にも出来そうだ。
さっきは不便だの何だの言ったが、それは逆に捉えればこの世界は日本と比べて、その辺の法整備が甘い。つまりやったもん勝ちだ。
せっかく色々と出来るなら色んなことをやってみたいよな。日本じゃ法律か邪魔で出来なかったことがこの世界なら出来るかも。
趣味ってのもあるけど、命の危険が高いこの世界で安全に暮らすためにも、色々やっておいて損はない。
「あの、オモト様。一つよろしいでしょうか?」
すると隣を歩いているロイゼが声をかけてきた、今さらだけど、こうやって隣を歩いてくれるのも成長した証だよな。
「どうした?」
「いえ、その………私から提案しておいてアレなんですけど、マルディアさんに領主様の事を聞いて大丈夫なんですかね?」
「というと?」
何か問題でもあるのか?今のところ一番いい手だと思ってたんだけど?
「この事を話すということはハイルセンスの企みも話すことになるのでは、と」
「あぁ、なるほどなぁ」
たしかにそうなるのか。普通に考えたら冒険者が領主の事を調べようなんて思わないからな。理由は気になって当然か。
「まぁその辺は問題無いと思うよ。ほら、いわゆる野次馬的な感じって思わせとけばさ」
一般市民ならともかく、貴族の事なんて気になる人はたくさんいるからな。
調べるとまではいかなくても、多少は気になるのは当たり前だと思う。
井戸端会議みたいな感じでなら、そこまで怪しまれる心配も無いだろ。
「そう、ですか………マルディアさんがそう簡単に納得してくれますかね?思いっきり怪しまれそうなんですが?」
「うーん、正直僕もその辺は気にしてるんだよなぁ」
大した根拠は無いんだけど、マルディアさんはそう上手く誤魔化せる人じゃない気がする。何となく雰囲気でだけど。
それに向こうは商人だ。話し合いは向こうが一枚上手だろう。
下手に怪しまれて誘導尋問みたいなことされたら面倒だな。
僕は多少慣れてるとはいえ、ロイゼがそこまで誤魔化すのが上手いとは思えない。
ハイルセンスの出方が分からない以上、今は下手にこの事を広めるのはマズい。
何せ向こうはこの街に潜伏してるわけだしな。変に刺激して面倒事が起こるのは避けたいよね。どうなるかすらも予想出来ないわけだし。
「それでもこれ以外に確実に領主の情報を手に入れる方法は無いわけだし、やるしか無いよ」
これで僕達にもう少し人脈があれば、他にも色々と当たれる所はあったのかもしれない。
こういう所も情報技術の進歩の遅れの弊害だよな。
地球なら情報収集に人脈なんて関係ない。パソコン一台とこの身一つであらゆる情報が手に入っていた。
「それは………そうですけど………」
ロイゼが言い淀んで僕を見た。その目はどこか心配しているようにも見える。
「まぁ最悪マルディアさんには話すよ。僕が改造人間なのを隠しとけばそこまで問題無いって」
これまで僕が改造人間である事を隠していたのは、自分が改造人間である事がバレる事で起こるであろう面倒事を回避するためだ。
ただの冒険者が裏組織の事を知っているなんてまずあり得ないからな。確実に怪しまれる。
僕だけなら別にいいんだけど、今の僕にはロイゼがいる。彼女まで危険な事に晒すわけにはいかない。
だからこれまではハイルセンスの事をよそに話せなかった。
でも今回はこの街でハイルセンスが行動しているのだ。それをたまたま見たと言えばそこまで不審では無いだろう。
実際能力を使ったとはいえ、僕達が見たハイルセンスの計画は本当に実在して、それが領主に繋がるの証拠もこの目で見たのだ。
決して憶測などで言ってるわけじゃないし、その辺は言ってしまっても問題無いだろ。
たまたま見かけた事にしても何もおかしくないからな。僕に火の粉が降りかかる事は無いだろう。
「分かりました。私も出来る限りフォローします」
「それはどうも。でも、間違いなく面倒事になるから僕に任せてよ」
気持ちは嬉しいけど、聞くのは僕一人でやるつもりだ。つーか、ロイゼはそういうの出来るのか?
こう言ったら失礼かもしれないけど、ロイゼはこういう事に向いていない。良くも悪くも正直だ。駆け引きとかなんて出来るわけがない。
極力マルディアさんには話さない方向で行くなら、そういう疑われるような事は避けないとな。
それにこういうのは基本的に一人でやった事が困惑することが少なくていいものだ。
そもそもこれくらいの会話ならフォローはいらないっての。さすがにそれくらいは出来る。
「ロイゼは周りに変なヤツがいないかを見ててくれないか?ハイルセンスの改造人間が近くにいる可能性も充分にあり得るし、そうでなくても領主の騎士がいる可能性もある。色々と警戒しておいて欲しいんだよ」
「はい、分かりました」
改造人間なら能力で探す事が出来るけど、普通の人間は無理だからな。
もちろん五感を研ぎ澄ましてみたり、元々の第六感に頼っても出来なくはないしやるつもりだよ。
でもせっかく二人いるなら出来るだけ会話に集中さしたい。
とにかくどこにどんな目があるのか分からない。そういう意味でもマルディアさんは問題無いだろう。まぁこれも何となくだけど。
何とも情け無い話だけど、この街というかこの世界で百パーセント信用出来る人というのがロイゼくらいしかいないもんでね。
ちなみ今のところそういった感じの人は改造人間も普通の人間も合わせていないはずだ。
ロイゼも周りを警戒しているようだが、問題無さそうだな。
さっきまで森で感じていた改造人間の気配は………何となく感じるんだけど、微妙すぎてどこか分からない。
相当遠くに隠れたか、もしくは隠れるための場所なりアイテムなりを手に入れたか。どちらにしてもこっちから今すぐ仕掛けるのは無理っぽいな。
そもそもさっき見た改造人間達がバラバラにいるのか、個人を特定するのが難しい。
ベフュールは感知はしやすいけど、ここまで多くがバラバラにいるんじゃ、むしろその感知し易さが個人の特定の邪魔をしている。
領主の遣いは………こっちも問題ない。
人の気配はもちろんそれ以外で僕達をそういう目で見てる目線はない。ほら、ハイルセンスなら犬を偵察に使うくらいはするからさ。
たまに感じる目線はロイゼに向けてだろ。
今でも目立つんだよなぁ。本人が気にしなくなったからよかったけど、もうちょっと気を遣えよっての。
全体にまばらにいるみたいだな。今頃何をやってるんだか…………。
「あ、オモト様着きましたよ」
するとロイゼが奴隷商館に着いた事を教えてくれた。僕達は扉を開けて中に入る。
「いらっしゃいませ………って、オモト君にロイゼ?」
ちょうどソファーで寛いでいた、相変わらず露出の激しい格好のマルディアさんは、突然の僕達の訪問に驚いたような表情をした。
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