第46話 酒場
「さてと、この辺なら大丈夫かな」
僕はロイゼを連れて森を出た。改造人間達にバレないように姿を消してこっそりとだけど。
それからギルドでクエスト達成の報告をして報酬を貰うと、そのまま宿には帰らずどこか人気のないところを探し始めた。
これから色々と話したいとは思うんだけど、宿だと誰かに聞かれる可能性もあり得る。
日本の宿、というかホテルと違ってこの世界の宿の部屋はただの木材だ。つまり防音機能が絶望的に無い。
そんな中で万が一誰かにこれから話す事を聞かれたら色々と面倒な事になる。
それなら他の人気の無さそうな場所を選んで話した方が良さそうだ。
幸いこの街はそういう場所が結構たくさんある。何せ近くに森があって街には建物がそれなりに並んでいるのだ。物影なんてあり余ってるし、何か隠れてやるにはもってこいの場所なわけで。
まあま何人かいるくらいなら全然構わないとは思うんだけど、一応ね。
こういった隠れられる場所が多いところというのは、内緒話をしやすいというだけでなく、一部の人間を除いてそういう話に鈍感になっていく。
ある意味当たり前とも言えるだろう。常日頃からそういう話が行われているのならそのうちそんな雰囲気にも慣れてしまう。
いくらあり得なさそうな事でも、それが周りで日常化していら、それは代わり映えのない日常となり注目されなくなる。それはいい事なのか悪い事なのか。
それは慣れていくと同時にそういう事への注意力の低下につながってしまう。
まぁこの場合はそれがありがたいわけだけども。人間というのはいつの時代でも刺激を求め続けるって事なのかな?なかなか面倒だと思うけど今は置いておく。
だからこうやってこそこそとした場所が当たり前な所なら、少しは人がいてもいいかもしれないな。
というか別に聞かれてもそんなに問題にはならないとな思うけどね。
そもそもハイルセンスの事を知っている人間自体少ないわけで、それなら多少話を聞かれても何のことだか分からないだろう。
それだったら、聞かれたところでそこまで問題になることはまず無いと思っている。
それでも最低限の注意は必要だったし、いくら聞かれてもいいとはいえ隠す努力はするべきだろ。
というわけで何かいいところ無いかなと探していると、ちょうどいい酒場があった。あそこなら問題なさそうだ。
それに僕達はまだお昼ごはんを食べていない。お腹も空いてきたしここで食べていくか。
僕とロイゼは酒場に入ると隅の席を陣取った。こっちにはロイゼがいるからな。どうしても目立ってしまう。
ロイゼ自身はどうやらもう周りから見られるのには全然慣れたらしい。しかしそれとこれとはまた話が違ってくる。
内緒話をするために人目が少なそうな所を選んだのに、注目を集めたら本末転倒だ。
というかこういったガヤガヤしてるところの中心に行ったらうるさくてお話しどころじゎなくなってくる。
だからあんまり人に見られないようにはしておきたい。それならこの辺が一番だ。
「さてと、これからどうするかな」
「どうすると言われましても………今の私達に出来ることは限られてくるのでは?」
まぁそうなんだけどさ。一応仕切り直しみたいなのね。
「とりあえず今の状況を整理してみますか?」
「それが一番だな」
そんな事を話しているとカウンターから頼んだ料理が運ばれてきた。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
僕達は料理を受け取るとテーブルに並べた。
といっても僕もロイゼもそこまで食べる方でもないから大したものは頼んでない。これくらいで充分。
僕はパスタでロイゼは軽い煮物だ。こういったお店での外食も悪くないものだ。
僕達は食事を始めながら、これまでのことをまとめ始めた。
「まずこの街の森の中にハイルセンスの改造人間がいたわけですが………それってあの人達全員ですか?」
って、そうか。ロイゼには改造人間が分からないから、判断ができないのか。
「あぁ、ただこの前のガーゴイルアンブロジウスみたいなランク以上の改造人間はいなかったよ」
そう言って僕はパスタを一口頬張った。お、これ思ったよりも美味いな。
全てが下級戦闘員のベフュールで間違いない。それくらいは何となく分かる。
だから正直あの場で改造人間達を倒す事は出来たんだけど、ここで倒しちゃうと計画のことが分からなくなっちゃうからな。
「となると今回はベフュールだけの計画って事ですか?」
「それは無いな。ハイルセンスの計画でベフュールだけはまず有り得ないよ」
まぁ細かい計画だけならベフュールだけの可能性も無くないけど、この街全体を巻き込んでの計画ならベフュールだけはあり得ない。
だからあの場でベフュールを倒しちゃうと、その上の改造人間が警戒してしまう可能性があった。それがベフュールを倒さなかった理由の一つだ。
「そうですか。それじゃあ今回も強めの改造人間がどこかにいるって事ですか?」
「そうだな。この前のガーゴイルアンブロジウスみたいな改造人間がこの街に潜んでるだろうな」
改造人間にもそれなりにランクがあるから、アイツ以上のヤツが来てる可能性もあるけどね。
あーでもたかがこの街だけのためにそこまでランクが高いヤツが来るとは思えないか。
「もしかして今この通りにも………」
ロイゼはそう言って顔を強張らせた。チラチラっと周りを見渡している。
その様子に僕は思わずプッと吹き出してしまった。面白い反応してるなぁ。
「その可能性も無くはないけど、まぁ今は無いだろうな。森の中で工作してるヤツがこの通りにいる可能性はないだろ」
それにあのベフュールが持ってた地図に記されてたのは森の中だけだ。
まさかベフュールだけに任せて街の通りにいるとは思えない。逆ならあり得そうだけどな。
「そういえば結局のところ今回ハイルセンスは何を企んでいるんでしょうか?」
「それを知ってたらさっきの時点で止めてるっての。分からないから現状の整理してるんだろ」
正直言って僕にもハイルセンスの狙いが全く分からない。
これが王都とかだったら国家政略とはの可能性があり得るんだろうけど、こんな田舎街に何の用があるのかな。
「そうですよね。やっぱりあの地図が決め手になるんでしょうか」
「まぁそうだろうな」
あのこの街の周りの森だけに記されてるのが決め手だとは思うんだけど、ただイマイチ分からないんだよな。
「森の印もそうですけど、あの領主様の館から続いてた道みたいなのも気になりますよね」
そうだよね。森の印だけならこの街を囲もうとしてるみたいな事を考えられるんだけどな。
でもこれだけはちょっと予想出来ない。地図に沿って描かれてたから何かの道なのは間違いないんだけど。
「普通に考えると今回の計画に領主様が関わってるってことですかね」
「そう、なるのかな」
たしかに領主の館から続いてきた道なら、領主が関わってるのかな。
「領主と結託してハイルセンスが何か企んでるって感じかな」
「改造人間を領主様が館に匿ってる、みたいなところですね」
ロイゼの言う通りなのかな。
まぁそれだけとは限らないけどな。領主の意思関係なく改造人間が領主の館に潜んでるとかな。
「でもだからって何であの地図に道が描いてあったんだろうな?わざわざ地図に描くような事でもあったのか?」
今回の改造人間が何をしたいのかは分からないけど、わざわざ描くような意味ってあるのか?
何に使う道かは知らないけど、改造人間なら空を飛んだり出来るし道という概念は捨ててもいいはずだ。記すような道なんか必要か?
「計画のために使う道、とかじゃないですか?何かの設置のためとか」
「それにしたってやっぱり飛べるなら必要ないだろ。大体、領主が匿ってるならこの街である程度の自由は効くだろうし、わざわざ道なんか必要ないだろ」
多少怪しくても領主を握り潰してしまえばそれで終わりだ。そこまで慎重になるかな?
「そういえばロイゼは領主がどんな人か知ってるの?僕はよく知らないんだけど」
「すみません、私は全く知りません。そもそも私はこの街に来てからオモト様に買われるまで奴隷商館にいましたし」
それもそうだよなぁ。一奴隷が、しかも買われてもないのに、領主を知る機会なんてあるはずないか。
………って、待てよ。
「なぁ、奴隷って本来貴族とかの上流階級の人間が買うものだろ?それなら領主も奴隷商館に来たことあったりするんじゃないの?」
「それは………そうかもしれませんが。私は………その………」
「あぁ、そうか。悪い」
「いえ………」
ロイゼはこの街に来る前に仕えていた貴族にされていた暴力のせいで、人に対して恐怖を感じるようになってしまっていた。
だから奴隷商館でも、他の奴隷には混じらずに隅にいたからな。そんな状況で領主が来たかなんて知るわけないか。
「あ、でもマルディアさんなら何か知っているかもしれませんよ。聞いてみますか?」
「そうか、それなら聞いてみるのも一つの手だな」
ロイゼの提案に僕は手を打った。
マルディアさんなら色々知ってそうだ。
「それならちっと聞いてみるか」
そんな事を話しているうちに僕達は昼食を終えていた。
「そうですね」
今後の予定を決めた僕とロイゼは、席から立ち上がると酒場を出るためにお会計に向かった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




