第44話 感知
「ハイルセンスの改造人間って……………本当ですか?」
「あぁ、この森の中にいる」
僕は警戒しながら辺りを見渡した。この感覚、間違いない。距離を考えれば絶対森の中にいる。
「もしかして、またオモト様を捕らえに来たとかですか?」
「まぁ可能性としてはあり得るかな。ただその可能性はちょっと低いかも」
僕を捕まえに来たなら、僕が向こうの気配に気がついた今この瞬間に襲ってくるはずだ。
しかもそれなら元から僕に勘付かれるようなマネは普通しないはずだ。
もちろんこれが陽動の可能性もあり得る。それなら僕が狙いって可能性もあり得るわけで。
ただ、だからといってそんな事するかなぁ。もうちょっとやりやすい方法があったはずだ。
となると向こうの目的は別にあるのかな?こんな田舎町で何やろうとしてるんだ?
とりあえず面倒事なったのだけは分かった。ここでやるべき事は一つだ。
「よしロイゼ、帰るよ」
「はい、分かりました…………って、え⁉︎ 帰っちゃうんですか⁉︎」
僕が森から出ようとすると、後ろからロイゼが呼び止める。
何言ってんだよ、そんなの当たり前だろう。
「どう考えても面倒事の予感しかしないだろ。そんなのに関わりたく無いよ」
ハイルセンスが厄介なのは僕が身をもって知っている。関わって得はない。
むしろ命の危険がある分損しかないような気もするんだけど。
「でも、ハイルセンスが何か悪さしてるかもしれないんですよね?それなのに放っておくんですか?」
「別にいいだろ。僕達に被害が無いなら無理して関わる必要は無いって。ロイゼだってハイルセンスの危険性は理解してるだろ?」
僕達に被害があるならまだ考えるけどさ、そうで無いなら下手に関わる必要はない。それは確実な自殺行為だ。
僕は別に正義のヒーローじゃないんだ。世のため人のために動くわけじゃないし、その必要も無い。
僕の知らないところで悪がのさばっていようとも、それによる被害が自分に無いなら動くつもりはない。自分の利益のために動かせてもらう。
それにまだ向こうの狙いが読めない。狙いが読めないということは、いる改造人間も持ってる手段も分からない。
その状態で突っ込むのは危険だ。
ある程度は対処出来るかもとはいえ、ハイルセンスは日々勢力を増しているからな。どんな武器や改造人間がいるか分からないのは危険だ。
勝てる可能性が少ないなら関わるのはちょっとね。うまくやり過ごせるなら問題ない。
「それは……そうですけど。でもこの森にいるって事は、この街で悪さする可能性があるんですよね?」
「ん〜まぁ確実、とは言えないけどね」
「それならそれって巡り巡って私達に被害が来る可能性があるのではないですか?」
あー…………………それはあり得るな。一概に否定は出来ない、というかその可能性は高い。
これが街にいたらまだ誰か個人を狙ってる可能性もあり得た。
でもここは冒険者がクエストで来るくらいモンスターのいる、人通りの少ない森の中だ。
山賊じゃあるまいし、こんな所で狙う人間なんていないとも言えないけど、まぁ少ないだろう。
そうなると目的はこの森か、あるいはこの街全体だ。
前者なら問題無いけど、後者の場合は間違いなく僕達に被害が及ぶ。
何が目的かは知らないけど、アイツらが人に被害を出さずに何かを成し遂げようとするなんて想像出来ない。
「やっぱり確認した方がいいです。邪魔するかどうかは見て決めるにしても、何をしようとしてるかは見ておいた方が良いかと」
それもそうか。別に無理して割り込む必要は無い。でも向こうが何をやろうとしているのかだけでも知っておくべきか。
大なり小なり被害が出るのは確実だ。その対策だけでもしておくべきだな。
「分かったよ。それなら僕が行くから、ロイゼは先に帰ってて」
「え?私は連れて行ってもらえないのですか⁉︎」
「危険すぎるだろ。万が一戦闘になったらどうすんだよ。危険だから大人しく戻っててくれ」
僕はついて来ようとするロイゼを嗜める。いくらなんでもロイゼを連れて行くのは危険だっての。
向こうの状態が分からない以上、下手な事はするべきでは無い。
「嫌です。たとえ危険であってもでも自分で提案しておいて、オモト様だけにそれを任せるなど。そんな無責任な事は出来ません」
めんどくさいなぁ。何というか、お堅いねぇ。
「そういうのいいから。というかお前はいても何も出来ないだろ」
僕がそう言うとロイゼはムッとしたような顔になった。
「絶対について行きます。それではあの時覚悟を決めた意味がないではないですか」
そう言うロイゼの顔は真剣そのものだ。本気でついて来るつもりらしい。
真面目だなぁ。これが本来のロイゼ、なのかな?そんなの気にしなくてもいいのに。
というかロイゼって何か最近頑固になったよなぁ。芯が通ってると言えば聞こえはいいんだけどさ。
何となくだけど、こうなったら言う事聞かなさそうだな。真面目ゆえ、なんだろうけど。
まぁ最悪戦闘になっても、僕ならロイゼは隠すなり、連れて飛んで帰るなり出来るしな。
後々面倒になるけど、その場凌ぎでいいなら問題ないか。
それにロイゼはその辺は分かってくれているだろう。うまく立ち回ってくれるはずだ。
「それじゃあ行ってみるけど、とにかく安全第一、そこ忘れるなよ」
「もちろんです!オモト様は必ず守ります!」
いや、安全にするのは僕じゃなくてロイゼの身なんだけどな。
はぁ、何かこれからの将来に不安が出てきた。何というか尻に敷かれる未来が過るんだけど。
まぁロイゼだって戦闘なんかでの隠密行動のイロハくらいは分かってるわけだし、最悪分からなくても勘で出来そうだ。
それならやる事は無くても足を引っ張る事は無いだろう。
もっともだから完全に拒絶出来ないんだけども。
この前もそうだけど、何かこうも真面目にいられると僕がどうするべきか困るって言うかさ、色々と戸惑うんだよな。
僕みたいに適当な人間は、こういった真面目な人といるとどうしても流されやすい。勝手なグイグイ進んでいくからな。
というわけで結局僕とロイゼで確かめに行くことになった。周りを警戒しながら森の中を進んでいく。
「そういえばオモト様は改造人間としての感覚で、向こうにハイルセンスがいる事が分かったんですよね?それなら向こうもオモト様の事に気がついているのでは?」
森を歩いて行く中でロイゼが尋ねてきた。
たしかに向こうが僕に気がついている可能性は充分にあり得る。というか向こうが僕のことを追って来たなら間違いなく分かっている。
「たぶん問題ないよ。僕もたしかに感じだけど結構微妙だった。これなら意識しないと感じ取れないよ」
この前のガーゴイルアンブロジウスの一件以来、僕は起きている時には基本的に改造人間としての感覚を鋭くしていた。
改造人間による予期せぬ襲撃というものを無くすためにね。
自分で言うのもアレだが、元々感覚が鋭いのは生物型改造人間の特徴の一つだ。
そのトップである僕はある意味改造人間の中で一番鋭いとも言える。
その僕が微妙でしか感じ取れなかったんだ。向こうの改造人間のタイプが何であれ、感じ取れる可能性は極めて低い。
そうでない可能性も充分あり得るけど、それでビクビクしてたら始まらない。多少のリスクは承知の上だ。
とにかく今は近づいてみるしかないか。多少遠くからでも、僕なら視聴覚強化で分かるし。
そこで僕達に被害が出るようなら、その時点でゲワーゲルフで攻撃する。念のために持ち歩いててよかったよ。
姿は僕の能力で消せるし、取れる安全は全て取っておこう。
やがて改造人間の反応が強くなっていった。近づいているみたいだな。
「そろそろ近づいてきましたね」
「あぁ…………って、分かるの?言っても至近距離ってほど近くじゃないはずだよ?」
「そうなんですか?何となく近くだなぁって感じがするんですけど」
相変わらずの天才である。戦闘面においてロイゼがパーティーメンバーになったの本当に助かる。
それなら一々状況を教える手間も省けるってもんだ。こっちとしてはありがたい。
「あ、あそこに他の冒険者がいますよ」
ロイゼが指差す方には、剣や斧を提げた冒険者のパーティーがいた。辺りを警戒するかのように見渡している。
「ここで改造人間との戦闘になれば彼らの巻き込まれると思います。避難させますか?」
「いや、その必要はないと思うよ」
僕はそう言って彼らに近づいた。今僕達は姿を消しているから、あのパーティーには見えないはずだ。
「間違いない…………………アイツらが改造人間だ」
「ッ⁉︎」
さすがにこの状況で叫び声をあげるような事はしなかったものの、ロイゼは驚きを隠せていない。
見ただけなら普通の冒険者のパーティーだ。でも僕には分かる。アイツらは僕と同じ改造人間だ。
「どうしますか?」
そうだなぁ。今は目立って何かしているようには見えないからな。それなら無理に動く必要はない。
「しばらくは様子見とするか」
さてと、この森で何をしようとしているのか。ちゃんと見させてもらいますかね。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




