第37話 ライフル
とある日の朝食後の事。
「えっとこれは………ここでいいですね、っと。これで荷運びも終わりですか?」
「あぁ、そうだな」
僕は自分の荷物を部屋の片隅に置いて一息つくと、その場に座り周りを見渡す。
そこはいつもと変わらない宿屋の部屋。しかし一点だけ違うところがある。
それはベッドだ。前まではダブルだったのが、今目の前のベッドはツインになっている。
早い話がダブルの部屋からツインの部屋に部屋を変えたのだ。
元々初めてロイゼをここに連れてきた時に、彼女には一人部屋を与えようと考えていた。
ただ奴隷にそれは出来ないと言われたのでこうやって二人部屋で一緒の生活となったわけだ。
その時にツインの部屋は満室だとかで(僕がその辺を気にしなかった事もある)、仕方なくダブルの部屋になったわけだ。
ただやっぱり結婚してる夫婦とかならまだしも、そうでない男女が同じベッドで寝るのはちょっとなぁって前から思ってたんだよ。
そして今回、ツインの部屋が空いたという事で、僕とロイゼはそちらへ部屋を変更することとなったわけだ。
そして今はその荷運び中だったわけで。今ちょうど終わったわけだ。
それでロイゼも一人で寝られるってわけだな。さすがにいつも僕と一緒は嫌でしょ。
最近何か起きるとすごい近くにロイゼがいるんだよな。出来るだけ離れるようにはしてるはずなんだけど。
これでそれも無くなるわけだ。やっぱり気をつけるのは面倒だからな。
というかこうでもしないと僕がどこかでロイゼを襲いそうで怖いんだよな。それだけは絶対にしたくない。
荷運びも終わったし、少しゆっくりしようかな。
まぁ元々大した量の荷物は持ってなかったんだけどさ。
そもそも僕達が元々持ってた荷物自体そんなに多くないし。
ロイゼの荷物って言ったら夜着てるネリジェくらい。僕に至ってはハイルセンスから盗んできたもの以外は特に無しだからな。
それから色々と買ってきたとはいえ、基本的には荷物は少なめである二人だった。
「でも良かったのですか?特に悪い点は無かったですし、慣れている部屋を無理に変える必要は……。変更するのにお金もかかりましたし」
僕の隣でロイゼが心配そうな声をあげる。
「別にあれくらい大丈夫だよ。それにロイゼだって自分用のベッドあった方がいいでしょ?」
「私は………あのままの方が………いえ、ありがとうございます」
何か途中ゴニョゴニョ言ってたけど、ロイゼは受け入れてくれた。
とりあえずこれでやる事は終わった。そう思っていると、ロイゼに肩を軽く叩かれた。
「ん?どうかしたの?」
「あの、前々から一つ気になっていた事があったんですけど、聞いていいですか?」
気になっていた事?一体なんだろう?
「いいけど、何?」
「あれのことなんですが………」
そう言ってロイゼが指差す方には、僕の荷物の山がある。
ちなみにこうやって荷物をまとめてくれているのはロイゼだ。僕はあまり強くはしないようにしてます。
その中の一つに大きめの白い布に包まれた物が置いてある。
あぁ、あれのことか。
「あれって何なんですか?何やら大きいようですけど、使っているのを一度もお見かけしていなかったので」
まぁロイゼの前では使わないようにしてたからな。ただ、もう彼女になら話してもいいだろ。
「これは僕がハイルセンスから抜け出してきた時に、ナイフと一緒に持ってきた物だよ」
「という事は、もしかして武器ですか?」
「あぁ、そうだな」
実際に使っていたはずなんだし、使い方も覚えているんだけどな。その時の記憶が曖昧なものだから、本当に自分が使っていたという実感がない。
僕は立ち上がるとそれを手に取って布を剥がした。布に包まれた物が露わになる。
それは一丁のアサルトライフルだった。
「これは………見た事のない武器ですね。刃や突起がないので遠距離用の武器ですか?ボウガンのように見えますが」
「あぁ、武器のカテゴリー………種別としては銃と呼ばれるものだよ」
「ジュウ、ですか?」
僕は答えながら持っているアサルトライフルを軽く撫でる。
この世界の一般的な武器の中に地球にあるような銃は存在しない。
そんなものファンタジーの定番、魔法でいくらでも代用できるからだ。そんな中で銃が誕生するわけがない。
ではこの世界にあるハイルセンスが何故銃を作り上げられたのか。
異世界人の僕を何の不思議も持たずに改造してる辺りから大体想像出来るだろうけど、ハイルセンスは異世界の存在に気がついている。
それに異世界の技術を応用して、こういう武器や僕みたいな改造人間を作っている。もちろんそこには地球の科学技術も使われている。
そこで僕の考えなんだけど、おそらく僕をこの世界に引っ張り込んだのもハイルセンスではないかと思ってる。
というかそうである方が色々納得出来る。それなら目が覚めた時に手術台の上だったのもそのためだろ。
となるとハイルセンスの中には僕以外にも異世界人がいたのかもしれない。
っと、話が逸れた。銃の話だったな。
ハイルセンスは地球、もしくは他の世界の存在を知っていて、そこにある銃を再現した。それがこれだ。
もちろん今述べた通り魔法に比べたら、銃は連射速度以外勝ち目がない。
だからハイルセンスの作っている銃に実弾銃は無い。魔力を集めて使う銃、いわゆる魔力銃と呼ばれるものだ。
中にはゲームとかでそういうの見た人は『それ普通はハンドガンじゃない?』と思う人がいるかもしれない。
ただ射程や連射性、諸々の事情からアサルトライフルの方がいい。だからこれにもちゃんとセレクターがついている。
かなり無骨だが、ハイルセンスの武器はすへこんなのばっかりだ。
これはビジュアル込みで考えるゲームの武器ではなく、現実の戦いで使う武器なのだ。
不必要な装飾なんてない。より効率的に敵を倒せるかが重要視される。
銃の形はM4A1に似ていて、というよりモデルがたぶんそれ。バレルはもちろんリアサイトやフロントサイト、マガジンなどの形もよく似ている。
色は黒紫。特に柄があるわけではなく、ご丁寧にサイレンサー付きだ。
魔力銃でサイレンサー?と思う人もいるかもしれないが、これは皆が想像しているようなサイレンサーとは違う。
形こそ似ているが構造は全く違う。魔力銃専用のものとなっているわけだ。
そして『実弾銃じゃないのにマガジンってどういうことだ?』と思った人。少し待ってほしい。これを説明すると長くなる。
とりあえずこれが僕がハイルセンスから持ってきた武器の一つ。僕がまだハイルセンスの改造人間として活動していた時に使っていたぶきのようだ。
これまで使わなかったのは、当然周りから目立つのを避けるため。
銃はこの世界の一般には存在しないものだ。そんなものを持ち歩いている人がいたら間違いなく目立つ。
だからロイゼが来てからも出来るだけ隠すようにはしてたし、万が一見つかっても適当にやり過ごすつもりだった。
ただこの前僕がハイルセンスの改造人間であることがロイゼにバレた。
もちろんそれの影響で僕の全ては話したわけではない。
彼女は僕が異世界人だとは知らないわけだし。まだハイルセンスについて話してない事も多い。
でもせめて晒せる部分は全て晒していきたいと思っている。
でも話せることは話していきたいと思った。ここまで彼女を巻き込んでおいて全てを隠すってのは失礼だ。
それに一緒に戦ってくれるなら情報の共有は不可欠だしな。
だからこうやって銃を積極的に隠す事はやめた。僕の装備も一応知っていてほしいからな。
「強そうな武器ですね………。これはどのようにして使う武器なのでしょうか?教えていただけますか?」
ロイゼに聞かれたので、僕は答えようとして止まった。
「そうだな………なぁ、これからクエスト行く?」
「? それは、もちろんそのつもりです」
「ならそこで見せてあげるよ。ここでごちゃごちゃ言うよりかは何倍も分かりやすいだろうし」
百聞は一見にしかずだからな。実際に使って見せた方がいいだろ。
かといってここで実際使ってみるわけにもいかない。いくらサイレンサーがついているとはいえ下手すりや宿から追い出される。
「分かりました。ありがとうございます」
「別に。これからのためだよ。ロイゼにも知っておいてもらいたかったし」
これからもしかしたらロイゼが使うことがあるかもしれない。
だから僕の武器の使い方はロイゼにもちゃんと知っていて欲しい。
これから何があるか分からないからな。色んなことを想定すると、今のうちに色々な事が出来る様になって欲しい。
「それじゃあクエスト行くか。ようやく荷物も運び終えたし、時間的にもいい感じでしょ」
「そうですね。分かりました」
僕とロイゼはクエストの準備をすると、宿の部屋を出て行った。もちろん僕の手には銃が逃げられている。
部屋を出た僕達は一回に降りて、メイさんに荷運びが終わった事を伝えると宿を出ていった。
さてと、ロイゼは銃を初めて見るわけだけど、驚いてくれるかな?
そんな期待を胸に僕達は宿を出て行った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




