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改造人間と奴隷達の居場所  作者: 音数 藻研鬼
第1章 
31/86

第30話 返品

 ロイゼは僕の話を黙って聞いていた。

 僕がさっきのガーゴイルアンブロジウスと同じ改造人間である事、過去には操られて破壊活動をしてきた事、脳改造が解けた事でハイルセンスを裏切った事、そしてそのハイルセンスとは何なのか。僕達改造人間はどういう存在なのか。

 ここまで関わらせてしまったのだ。知っている事はちゃんと教えてあげるべきだと思う。

 自分で話しておいて信じられないような話だと思うし、信じたとしても受け入れられるような話ではない。

 それでもロイゼはジッと僕の話を聞いていた。

 ハイルセンスの事とかはある程度話したけど、さすがに異世界転移の事は話さなかった。

 真実なんだし話しておくべきだとは思ったんだけどね。

 ただでさえハイルセンスのことで混乱するのに、さらにこことは違う異世界が存在するなんて聞いたら本当にロイゼが倒れそうだ。

 というかそういう事を簡単に人に話していいようには思えないし、話すにしても今この時では無いはずだ。

 隠し事をしているようで申し訳ないけど、ここで倒れられても困るからな。

 大体何分ほど経ったのだろうか。僕は今自分の知っている事の全てを話し終えた。結構時間がかかるものなんだな。

「………とまぁ、大体こんなところかな。これが僕のこれまでって感じ。何か質問は?」

「正直質問だらけなんですけど、何から聞けばいいのか分からないので今はちょっと……」

 まぁそうだろうな。今はこの話を飲み込む方が最優先だし、それ以上はやめておいた方がいい。

 ロイゼは俯いてジッと考え込んでいるようだった。

「えっと……大丈夫?何か信じられないような話なのは分かってるんだけどさ」

「いえ、その………まだ、ちょっと飲み込めてませんが、あんなもの見せられたら信じるしかないですよ」

 まぁたしかにな。目の前でバッチリ改造人間見ちゃったわけだしな。多少信じられない話でも信じちゃうよな。

「何か、悪かったな。本当はロイゼは巻き込まないようにするつもりだったんだけど、ね」

 今回僕は取り返しのつかない事をしてしまった。ロイゼをハイルセンスとの戦いに巻き込んでしまった。

 正直適当に逃げながら冒険者としての仕事を充実させていって、頃合いを見てロイゼを解放して後は一人でやるつもりだったのに。

 まさかこんなにもバレるのが早いとは思わなかった。完全に僕の思考力が足りなかったのだ。

 僕が今ここで何を言ったところでただの言い訳にしかならないんだけどさ。

 ロイゼはただでさえ色々と事情を抱えてるみたいだったし、ちゃんとそれと向き合って欲しかったのにこんな事になってしまった。

「あの、一つ聞いてもいいですか?」

「ん?何だ?」

「オモト様がさっきのような人達と同じという事は……オモト様も、あんな風になるの、ですか?」

 やっぱりそこは気になるよな。

 既に腕などは変化させていたが、それはあくまで一部だけだった。僕はガーゴイルアンブロジウスのような姿にはなってはいなかった。

「まぁ結論から言うと僕もあんな風になるよ。というかむしろそっちが今の本当の僕、かな」

 本当の僕はもっと醜く化け物と呼ぶにふさわしい姿をしている。

 ただ今回みたいに人に紛れて行動することもあるので、僕達は身体の一部だけを変化させることが出来るわけだ。

 普通の改造人間は身体全体を武器として使うため、そこまでこの機能を使うことはない。

 しかし僕はアルクリーチャー、様々な生物の能力を使うことが出来る。腕だけでもそれなりに万能性はあるって事だ。

 僕の今の姿は過去の僕の姿を真似して取り繕っているに過ぎない。

 改造人間というのはそういうものなのだ。化け物の顔の上に人の皮を貼りつけて、さも人間のように振る舞っている。本当は化け物以外の何者でもないのに。

 ロイゼに今見せている顔だって、僕の本当の顔じゃない。偽りの仮面だ。

 そんな僕がこれ以上は…………ダメだな。そろそろ行くか。

 とりあえずこうなったら自分のことなんか後回しだ。今はロイゼの安全の確保を何としてでも最優先にしないと。

「ロイゼ、もう大丈夫?クエストは中止だ。森を出て街に戻るよ」

 こんな事になってしまったら、もうクエストどころではない。

 とにかく街に戻らないと。色々と考える時間も欲しいしな。

「分かりましたが………どこに行くのですか?」


「マルディアさんの所だよ。君を返品する」


「………………え?」

 僕の言葉にロイゼは呆然とした。

「時間がない。早く行くよ」

「ちょ、ちょっと待ってください!何で私を返品するんですか⁉︎」

「何でって……危険だからに決まってるだろ。少なくともあそこで奴隷として過ごしていれば君は安全だからね」

 こうなったら仕方ない。予想よりも随分と早いけど、ロイゼを手放すしかない。

 元々ロイゼは僕の冒険者としての活動の色んな手助けをして欲しかった。

 そしてある程度冒険者として稼げるようになって、一人でも周りから目立たないようになったらハイルセンスに狙われる事を考えて手放すつもりだったのだ。

 彼女にはハイルセンスの事を知ることなく、当たり前の生活をして欲しかった。

 本当ならちゃんと奴隷から解放して生活できるだけのお金を持たせてあげたかったけど、こうなってはそれは難しい。

 一般市民として生活してしまうと、情報漏洩の可能性からハイルセンスに狙われてしまう。

 でもマルディアさんの所で奴隷として生活していれば、狙われる事はないはずだ。奴隷の信じる人はほとんどいないみたいだからな。

 それはハイルセンスも分かってるはずだから、狙ってくる事はないだろう。

 彼女をまた奴隷にしてしまう事は嫌だけど、これが彼女の身を守るために一番いい方法だ。

 マルディアさんなら信用出来るし、返品の理由もそこまでは深くは聞いてこないだろう。

 マルディアさんに押し付けるようで申し訳ないけど、こうなってしまってはもう僕が出来ることは少ない。

 ちゃんとした居場所を与えて、出来るだけいい所に居させてあげることしか出来ない。

 ハイルセンスは様々な情報網を持っている。僕の居場所もそれで知ったはずだ。

 どうやってロイゼを奴隷から解放しても、その事を知られるのは時間の問題だ。

 ちゃんと知られても問題のない所に居させてあげる必要がある。

 ロイゼのこれからの事を考えると不安でしかないが、他にやり方はない。

「理由は適当に考えて君の評価には被害のないようにするよ。君に飽きたとかそんなところでいいだろ」

「そ、そんな………」

 返品するって事はその品に不満があるって事だ。そうなるとロイゼやマルディアさんの店の評価に影響が出てしまう。それでは彼女達を苦しめているだけだ。

 幸い奴隷というものは買った人の趣味嗜好に左右されるもの。僕の趣味嗜好が変わったとか言っておけばロイゼに被害はないはずだ。

 とにかく急がないと。ガーゴイルアンブロジウスを倒した事でハイルセンスも警戒心を強めるはずだ。いつ新しい改造人間が来てもおかしくはない。

「そういう事だ。ほら、行くよ」

 僕はロイゼを連れて森を出ようとした。しかし


「ちょっと待ってください‼︎」


 ついて来たと思ったロイゼに呼び止められて、僕は足を止めた。

「どうして一人で何とかしようとするのですか!私だって戦います!」

 ここまできっぱりと叫んだロイゼを見るのは初めてだった。

「さっきの光景見てなかったのか?普通の人間が立ち向かってどうこうなるヤツらじゃないんだよ」

 たしかにロイゼは強いよ。でもそれは人間基準での話だ。

 改造人間の前では人間の強さの差なんて微々たるものでしかない。その辺の子供も剣豪も同じようなものなのだ。

「そうだとしてもそんな敵にオモト様一人では危険です!もしもの事があったら!」

「僕はいいんだよ。そもそもこうなる事分かっててハイルセンスを裏切ったんだから。命を狙われる事も分かってたんだよ」

 僕は基地を逃げ出す時にこうなる事は予想していた。思ったよりも早かったけど。

 でもロイゼは違う。彼女はハイルセンスの事など何も知らずに巻き込まれただけなのだ。

 そんな彼女をこれ以上危険な目に遭わせてはいけない。

「君にはちゃんと向き合わないといけない事があるでしょ?無理して危険な事で命を落としたらダメだよ」

 彼女には彼女のやるべき事がある。僕のことなんかに構っていてはいけない。

 数日一緒にクエストを受けてみて分かった。彼女はこれからきっといい戦士に成長する。

 それに彼女は前よりも変わっている。今なら人と関わることも出来るだろう。

 僕のことなんか忘れて自分のことをちゃんと磨けば、もっといいところに買ってもらえるはずだ。

 それこそ冷遇なんてされない。ちゃんと彼女の価値を理解してくれる人に。

 こんな化け物について来て何の得も無く、無駄に命を捨てるようなことはやめた方がいい。

「ここで見たことは忘れて、普通の奴隷として生活しな。そうすれば……」

 僕が言い終わる前にロイゼが動いた。

 僕の方へと突っ込んでくると、僕の背中へと腕を回した。僕はその勢いで後ろへ倒れてしまう。

 僕に抱きついてきたロイゼは僕の胸に顔を埋めて叫んだ。


「嫌です‼︎私は何があってもあなたと一緒にいたいんです‼︎」

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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