第26話 寛容
諸事情により投稿し直しました。
僕は木陰から出てきた男達をため息を吐きながら見ていた。
男達は誰一人として息切れをしている人はおらず、それが彼らの異常性を示している。
まぁ僕と同じ改造人間なわけだから、それを知っていれば何の不思議もないんだけどね。
男達の目には光がなく、死んでいるような目だった。
街にいた時は街の人達と何も変わらなかったのに、今ははっきりと違うと分かる。
「え?何で私達は森の中へ…………ってあの男達がここへ⁉︎逃げきったのでは⁉︎」
僕が逃げている間目を瞑っていたロイゼは、わけが分からないという風に驚いている。今日はこれまでで一番多くの表情が見れそうで嬉しいな。こんな状況じゃなければ尚更いいんだけど。
それにしてもやっぱり追いつかれてるよな。少しは振り切れたりしないかなって期待してたんだけど、難しいかな。
この分だともう一回逃げても追いつかれるか。ここで何とかするしかなさそうだ。
混乱しているロイゼは今はちょっと置いておいて、僕は男達と向き合っていた。
とりあえずこれでご丁寧に帰っていただくのはまず無理そうなのが何となく伝わってきた。
向こうは何が何でも僕を狙うつもりらしい。こうなったら多少戦うのは仕方ない。
というかそのためにわざわざ逃げるようにして戦う場所を確保したのだ。僕だって元から暴れるつもりだ。
男達は僕達を逃がさんとばかりに取り囲んだ。どうやら意地でもここで何とかするつもりのようだ。
これから起こるであろう事を頭に思い浮かべて、僕は思わずため息が出た。ロイゼになんて説明すればいいのやら。
「オモト様、お下がりください!ここは私が……」
男達の殺意を感じ取ったのか再びロイゼは剣を構えようとしたが僕はそれを止めた。
「ありがとう。でもここは僕がやるから大丈夫だよ」
「しかし……」
「大丈夫だから。剣を収めて。それと出来れば下がっててくれると助かる」
僕がそう言うとロイゼは、相手から目を逸らさずに剣を収めた。
というかこの状況でまだそれをやる余裕があるのか。さすがだな。
でもとてもロイゼが敵う相手じゃない。それなら余計な警戒心は与えるべきじゃない。ただでさえロイゼが向こうにどう見られているのか怪しいんだから。
するとその男の一人、中年で髭を蓄えたおじさんが僕の前にスッと出てきた。他の四人よりも強い改造人間はコイツみたいだな。
その男は軽く礼をすると僕に話しかけてきた。
「お久しぶりですね。アルクリーチャー様」
久しぶりに改造人間としての名前で呼ばれて、一瞬僕はそれが自分の名前だと気がつかなかった。
「僕をその名前で呼ばないでください。僕は魑魅万年青ですよ」
改造人間としての名前で呼ばれると、どうしてもハイルセンスにいた時の事を思い出してしまう。
それに関してはあまりいい記憶がないからな。掘り起こしたくないのだ。
「おや、性格もだいぶ変わられたのですね。組織にいた時とは口調が変わっていらっしゃる」
「生憎、これが僕の元々の性格なんですよ」
僕達の会話にロイゼはついて来れずに首を傾げている。
ハイルセンスにいた時の僕は結構口調が変わっていたのは、何となく感じていた。もうちょっと寡黙だったのだ。というか色々と一人で考えることが多くて人と話してなかった。
「それで用件は?一応聞いてもいいですか?」
「もちろん、あなたを連れ戻すように指令を受けています」
僕が聞くと男から僕の予想と少し外れた答えが返ってくる。
「殺せってわけじゃないんですね。僕一応裏切り者扱いかと思ったのですが?」
ハイルセンスが裏切り者を殺さないとは珍しい。ハイルセンスは裏切りを許さないはずだ。
「たしかに一部の間では殺せと言われていますが、これはレーター様直々のご命令です」
「首領の?」
ハイルセンス首領,レーター。
その存在は絶対的なもので、彼の一存でハイルセンスの全てが決まる。
なんで首領がそんな事を?というか首領が直々に命令ってのも珍しいはずだ。少なくとも僕の記憶の中では首領から命令を受けた覚えはない。
僕がアルクリーチャーだからか?殺すわけにはいかないって事なのかな?
「あなたがいなくなってから組織は未だに混乱していますよ。幹部のあなたがいなくなってしまったのですから」
そんな事言われてもなぁ。僕だって好きで幹部やってたわけじゃないし。
でもたしかに単純に考えれば僕の失踪により組織の……三分の一くらいかな?それくらいの戦力が使えなくなったんだもんな。そりゃ混乱もするって。
「レーター様はあなた様のご帰還を今でも心から願っておられます。そしてそれはあなたの配下………それに我が主もです」
我が主と言われて僕は一瞬動きが止まった。アイツが……僕の事を……。
ハイルセンスでの記憶の中で唯一悪くないと思えた記憶が、僕の頭の中を駆け抜ける。
「アイツは……元気にしてますか……?」
僕は何となく聞いてみた。この場で聞くような事でもないが、どうしても気になったのだ。
「そうですね。今は組織の中で誰よりもあなたのことを気にしていらっしゃいますよ」
「そう、ですか……」
僕のことがあってアイツにも何か被害があったんじゃないかと心配だったが、杞憂だったようだ。
その事がずっと気になっていたため、僕は少し安心した。
「今回アイツはここに来ていないんですか?いてもおかしくなさそうですが」
コイツが役不足ってわけじゃないんだけど、僕を捕まえることが目的ならアイツが来た方が納得出来るんだけどな。
「我が主もご自分がやる事を望んだのですが、レーター様の許可がおりなかったそうです。ですので、私が来た次第で」
なるほど、首領もその辺は分かってるのね。まぁ僕としてもそっちの方がありがたいからいいんだけどさ。
「さてと、それでは私と一緒に帰っていただきますよ。レーター様も今帰れば今回のことは不問にするそうです」
「ほぉ、また随分と寛容な話ですね。なんでそこまで僕を捕まえることにこだわるんですか?」
改造人間なんていくらでも替えは効く。僕を壊して新しく作るのが普通なんだと思ってた。
「それはあなたが『アルクリーチャー』という特別な存在であるからです。私達と違い、そう簡単に替えがある存在ではないのですよ」
なるほどね。たしかにそんな事を言われたことがあるような。
話を聞くだけなら今すぐハイルセンスに帰った方が正しいのかもしれない。ここまで寛容なんだ。今のうちに従っておくべきかもしれない。
僕がいくら特別な改造人間とはいえ、ハイルセンスとずっと戦い続けられるかと聞かれれば答えはノーだ。
僕もそこまで強くない。ハイルセンス相手にずっと戦うなんて無理だ。僕だって無闇に死にたくはない。
でも…………
「すみませんね。僕はもう……ハイルセンスに戻るつもりはありませんよ」
僕は男の目を見てきっぱりと言った。
「……それは我らハイルセンスと敵対すると同義ですが、分かっていますか?」
「もちろんです。それでも、僕はこの生活の方がいいので」
生憎僕は生きるために自由を捨てる人生はやめると決めているんだ。
たとえ醜くても無様でも生きるために自由を捨てる事はしない。難しい事かもしれないけど、それが僕の生き方だ。僕なりの正しさなんだ。
どうせこのまま帰ったらまた脳改造をされて、自分の意思が奪われるだけだ。これ以上ハイルセンスにいいように使われるなんてゴメンだ。
「あなたはこれから一生ハイルセンスに狙われる事となるでしょう。いずれは我が主からも……」
男のその言葉は地味に僕の心に大きくのしかかった。アイツとも……戦う事になるのか。
でも、たとえそうなるとしても、僕は自由を捨てたくない。何の取り柄もない僕には自由こそが全てなんだから。
それに……今の僕には守らなきゃいけない人がいる。それこそこれから一生絶対に守りきると決めた人が。それはつい最近の事だ。
僕はロイゼの方をチラリと見ると男に向き直った。
「そうですか………それなら仕方ないですね。我が主が悲しむ事になりますが………致し方ないですな」
男はそう言うと指をパチンと鳴らした。
するとその男以外の者の身体が震え始めた。
そして男達の身体は変化し始めた。
目は赤く爛々と輝き、皮膚がグネグネとうねった。身体の中から硬そうな突起物が頭、肩、腕の皮膚を突き破って飛び出した。
背中からは大きな蝙蝠のような羽が生えて、口が大きく裂ける。
ハイルセンスの戦闘員の一体のガイストベフュールだ。やっぱりコイツらだったか。
「ヒ、ヒィッ!ば、化け物……」
僕の後ろにいたロイゼは顔を青くして今にも倒れそうだ。体も小刻みに震えている。
「ハイルセンス幹部……いや、裏切り者アルクリーチャー。あなたは……」
そう言いながら男の身体も豹変していく。
皮膚は変形して尖り硬化した。手の爪は大きく鋭いものへと変わっていく。身体のサイズも二回りほど大きくなる。
ガイストベフュールと同様に大きな羽が生えて、口には鋭い牙が生えて口は大きく裂ける。
額からは大きな角が二本、皮膚を突き破って生えるとグルグルと捻れた。
「このガーゴイルアンブロジウスが処刑しましょう」
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