第17話 感触
………ん………もう朝かな?
部屋の窓から溢れる朝日で僕は目覚めた。まだ意識はぼんやりとしている。
時間に追われる事の多い日本だとまず少ない起き方ではないだろうか。日が出るのが遅い冬場に学生は絶対出来ないヤツでしょ。
時間に常にゆとりのある引きこもりだからこそいつでも当たり前に出来るやり方だ。……そうとは限らないか。
でもこれって目覚まし時計とかで起きるよりも体にいい起き方なんだよね。
音とかで無理矢理起こすのではなく、日が昇った事により目覚めるという生物的な起き方がいい。
なんだか今日はやけに寝心地がよかったな。久しぶりに安心して眠れたというかリラックス出来た。
何か抱き枕のようなものを抱いていたような感覚があるのだ。
柔らかくて暖かい何かを。すごい抱き心地よかったな。特に胸板に押し付けられているものが心地よい。
こうやってぎゅーって……あれ?まだその感触が残ってる。
まぁ悪いものでもないし、もう少し楽しんでおくかな。
そう思った僕は微睡ながらももう一度それを抱きしめた。
「………んっ……」
ん?なんか今声が聞こえたような。気のせいかな?
それよりこの程よく柔らかくて所々スベスベしてて、温もりのある感触。昨日のままだな。ずっとこのままでいたい。
…………………………………………………………………………………………………………………ってちょっと待て。
僕そんなものこの宿に持ち込んだ覚えないぞ?
気になったので自分の腕の中を見てみると、そこには女性が一人。
昨日から一緒に暮らす事になったダークエルフのロイゼが僕の腕の中にいた。
彼女の豊満な胸が完全に僕の胸板に密着している。
「あ、オモト様おはようございます」
ロイゼは僕に気がつくと僕を見上げて挨拶してきた。
上目遣い、可愛いなぁ……じゃない‼︎
「ッ⁉︎うわあああぁぁぁ───────────── ────────────────────────────────────── ッッッッ‼︎⁉︎」
僕は驚きのあまり後ろに退けぞり勢い余ってベッドからドサっと思いっきり落ちてしまったが、そんな事気にならないくらいに焦っていた。
冬場に近いというのになんか変な汗かいてる。
「オモト様⁉︎だ、大丈夫ですか⁉︎」
ロイゼがベッドから降りて心配そうに覗き込んでくる。僕のことより自分のこと気にしたらどうなんだ?
「ま、まぁね。じゃないよ、何で僕の腕の中にいたの?」
ようやく落ち着いてきた。まったく、朝からどうなってるんだ?
「えっと……私もよく分からなくて……朝起きたらオモト様に……その……抱きしめられて、いました」
それじゃ寝ている間に抱きついていたんだな。どうするよ、寝相悪いってレベルじゃないんだけど。
でも、という事はさっきまで僕が感じていた感触はもしかして……。
「あのさ、抱きついていた間僕君に変なことしなかった?」
僕はジッと自分の手を見ながらロイゼに尋ねた。まぁ抱きついた事自体変と言えば変なんだけどね。
他にも色々と触っちゃいけないところとか触ったりしてないかな?
「えっと……特には。いきなりの事でしたのでびっくりはしましたけど……暖かかったですし」
するとロイゼは顔を赤くして答えた。となるとあの感触はネグリジェから露出してる肌の感触だったのかな。本当にごめんなさい。
「というかロイゼは今起きたのか?」
「いえ、もっと前に起きていましたが……その……抱きしめられてて身動きがとれなかったので。さっきまでそのままに」
「だったら抵抗とかせぇよ……」
何でそのままにしたんだよ。叩くくらいの事してくれれば起きたのに。まぁロイゼにこんな事言っても仕方ないか。
「ご、ごめん。嫌な事しちゃって。これからは普通に撥ね退けてくれていいから」
「いえ……大丈夫、です」
ロイゼが良くても僕がな。すごい気まずい。主に罪悪感で。
手を出さないと決めたのに、日を跨いだらもう手を出していましたとか情けなさすぎる。
「はぁ……最悪だ」
朝から何やっちゃってんだよ。昨日からずっとイメージ悪くしかしてない気がする。
するとロイゼは不安そうに怯えていた。
「あ、あの私、やっぱり迷惑でしたか?その……私が同じ所で寝てたから……」
「あ、いや、完全に悪いの僕だから。大丈夫だよ、気にしないで」
ここでロイゼを責めるのは違うからな。
はぁ、それにしても朝からなんかどっと疲れたな。というか昨日から疲れてばっかだな。ほとんど自業自得なんだけどさ。
「えっと……とりあえず着替えて朝食食べに行こう」
少し気分を変えるって意味も持って食事がしたい。
するとロイゼがオドオドした様子で聞いてきた。
「え……あの……それは……私も、ですか?」
「ん?もちろん」
昨日も一緒に食べたんだからさすがに抵抗はないだろ。
「えっと……昨日の夜にお食事をいただいたばかりのに、朝もなんて……」
「そんなの気にしないでよ。ちゃんと三食食べられるようにはするつもりだよ?」
この世界に来て急に食事の態勢を変えるってのも難しい話だし、ロイゼには合わせてもらい。
「で、でも私は奴隷なのに……」
え?そうなるの?面倒だなぁ。
「だから、僕達はこれから冒険者として戦うんだから、ちゃんと朝食は食べておかないとでしょ?」
「は、はぁ。そうですが……」
別に食事節約しないといけないほどお金に困ってるわけでもないしね。
「それなら早く行こうか」
さてと着替えは……っと、あったあった。
食事の時も私服でいいのかなとは思うけど、どうせ後から着替えるんだし、今のうちにね。
「そ、そうですね。それでは……」
ロイゼはそう言うと顔を赤くしながらそっとネグリジェを脱ぎ出した。
後ろを向いているので艶かしい背中が露わに……っておい‼︎
「ちょ、ストップ‼︎何やってるの⁉︎」
僕は凝視しそうになるのを我慢しながら、目を逸らして叫んだ。
「えっと……オモト様が着替えるとおっしゃられたので……」
いや、それはそうだけど。だからって目の前で脱ごうとしないでよ‼︎
って仕方ないのか。僕がここにいるけどロイゼはここにいるしか無いんだから。
「僕お風呂場で着替えるから終わったら言って‼︎それじゃ‼︎」
僕は急いで着替えを持つとお風呂場に直行した。もちろんロイゼからは目を逸らして。
はぁ、色々言いにくいのは分かるけどさ、頼むからこういう時くらいは発言してくれ。こっちのメンタルが保たない。
というか僕もそろそろ女性と一緒に暮らしているという自覚を持とう。一人の時とはもう違うんだ。昨日からこんなのばっかだ。
正直これまでの事をご褒美みたいとは思わなくはない。何ならちょっと楽しみたいとも思っている。
事実ロイゼに抱きついていると分かった後もしばらくそのままにしたいという気持ちはあった。
けどそれを素直に受け取るのはちょっとロイゼに悪いし、そうなるとこういうのを避けるしかないわけで。
だからロイゼにはそういう感覚を持って欲しい。
おそらく奴隷であるという事から自分がやっていい事を見失っているんだと思う。
せっかく自由にさせるつもりなんだから、その辺はちょっと考えて欲しいかな。
まぁ慣れるまでは僕の方で気を回すしかないのかな。
僕はお風呂場に入り昨日の余ったお湯で顔を洗うとパッパと着替えた。
もちろんロイゼの着替えを覗いたりはしないよ。……善処する感じだけど。
あ〜顔洗うとスッキリするんだよなぁ。
まぁ眠気がって意味で気分的にはまだちょっと疲れが残ってるけど。
しばらくしてお風呂場の扉が叩かれた。
「オモト様、着替えが終わりました」
「わ、分かった」
さっきの事もありちょっと緊張しながらも扉を開けると、そこには昨日買ったのであろう服チェニックというらしいを着たロイゼがいた。
綺麗だなぁ。やっぱりちゃんとした服を着れば彼女は光る。
昨日のボロ服よりかは露出が少ないけど、それでも肩はガッツリ剥き出しになっている。ちょっと直視しづらいかな。
でも動きやすそうな服装ではあるな。
「えっと……それは私服?それともクエストの時の戦闘服?」
「いえ、どちらもですよ?私生活でもクエストでも使えるようにしました。その方がお金を使わずに済むかと……」
なるほど、それで動きやすそうな服装なのね。そういうのもアリか。
「それじゃ、行こうか」
「はい」
僕達は部屋を出ると一階に降りていった。
昨日の夜と同様に宿のおばさんから食事を受け取った。
するとおばさんが声をかけてきた。
「ねぇ、さっきの大声ってもしかして君のかい?」
「あー、やっぱり聞こえてましたか。すみません」
僕が起きてから僕以外に大きな声を聞いていない。となるとおばさんの言ってるのは間違いなく僕のことだろう。
「朝から何やってるかは知らないけどね。出来るだけ声は抑えておくれ。まだ寝てる客だっているんだ」
「はい……すみませんでした……」
何も言う事が出来ずに僕は席へ着いた。ロイゼもぼんやりの後をついて席に座る。
はぁ、色々と気を付けていかないとだな。
そう思った僕はお皿の上のパンを食べ始めた。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
色々あって投稿し直させていただきました。




