第15話 ネグリジェ
浴場に入っていくロイゼを見送りながら僕はため息を吐いた。
ロイゼとの接し方、もうちょっと考える必要があるのかな。
今はともかくずっとこんなぎこちないままってわけにはいかないよね。
けどなぁ、どうすればいいのか分からない。だから困るんだよな。
もちろん別にロイゼが嫌なわけではない。というか嫌だったらそもそも買ってないし。
それどころか一緒に過ごして数時間だけどとても好感の持てる子で、彼女を買って本当に良かったと思っている。
見た目だけではない。礼儀正しいし謙虚だし、反抗する事もない。今のところ聞いただけだけど戦闘力だって高い。
本当にあんな子を僕なんかの奴隷になったってのが未だに信じられない。
ちょっと気を遣いすぎるところがあるけど、それだって無神経で失礼よりかはずっといい。
こんなにいい子日本では会ったことが無かった。
でも、だからこそ彼女と接するのを少し戸惑ってしまう。
こんなにいい子に僕なんかがどうやって接してあげればいいのだろうか。
しかも関係が関係なだけにどうするべきか余計戸惑ってしまう。
彼女とどうやって接するのが正解なのか分からないんだよね。
もちろん主人である事を利用してアレコレするつもりはない。…………今のところは。
ただでさえ色々あってまだ人に怯えている子なのだ。その状態で無理矢理やれば余計に怯えさせてしまう。彼女にそんな風にはなって欲しくない。
するにしてもある程度関係が深まってお互いの合意の元でだ。いや、する前提で話してるわけじゃないよ?
まぁ無理しても仕方ない。今はこのぎこちないままでいるしかないよな。
そういえば商館から貰ってきた寝着ってどんなのなんだろ?
この世界の寝着がどんなのかは知らないから想像出来ないな。
可愛いヤツか落ち着いた感じのヤツか。ロイゼはスタイルいいからな、何でも似合いそうだなぁ。
っといけないいけない、何考えてるんだ僕は。ロイゼに失礼だろ。
「あの……湯浴み終わりました」
そんな事を考えているとロイゼが湯浴みを終えて戻ってきたようだ。
「おぉ。どう、さっぱりした……で……しょ……」
顔を上げた僕はそれから言葉が続かなかった。そしてそれを自分で気がつくのは時間がかかった。
その原因は間違いなくロイゼの服装だった。
別に彼女の服装が特別変だったわけではない。彼女の服装はちゃんとした寝着だった。
ロイゼが着ていたのは紺色のネグリジェだった。
しかも肩が剥き出しになっていて、他にも胸元が大きく開いていたりと肌の露出があまりにも多い。
さっきまで着ていた服もかなり露出はあったけど、これはそれ以上だ。
しかもあれはボロ服だったために露出が多かったけど、これは意識して露出を多くしている。
だからある意味ボロ服よりも際どい格好に見える。そのためロイゼのスタイルもさっきよりもはっきりと分かる。
ロイゼもその自覚はあるのか恥ずかしそうに俯いていて身をよじっている。
その姿もまたそそるものがあってドキドキする。
そしてそのネグリジェもただ際どいだけではなくちゃんとロイゼに似合っていた。
ロイゼの褐色の肌とは系統の違う紺色のネグリジェは彼女自身をより引き立てていた。
サラサラとした銀髪もネグリジェによく映えていた。
元々綺麗な子だとは思っていたけど、こうやってちゃんとした服を着せてあげる事でより彼女の魅力が感じられた。
ファッションには基本的に興味ないけど、それでもこのネグリジェが彼女の魅力を引き立てているのは分かった。
正直奴隷に与えられる衣服って事でどういうものか心配だったし、あんまり酷かったら明日買ってあげるつもりだった。
けどそれは考えすぎだったな。彼女にこれ以上に似合うものは無いだろう。
僕はしばらくの間ロイゼを見つめていた。しかしそんな時間なんて気にならないほどに彼女に見入っていた。
「えっと……どうかしましたか?」
ロイゼに声をかけられて僕はようやく我に帰った。ジッと見られていたからか少し引き気味だった。
ヤバっ、もしかして結構な時間見とれてたか⁉︎
「あ、ごめん!ちょっと……気にしないで」
僕は適当に言葉を濁した。
さすがにロイゼ本人に見惚れてましたとは言えないからな。絶対今以上に引かれる。
それにしても失礼な事しちゃったな。以後気をつけよう。
でもこれ誰がチョイスしたんだ?
さすがにこうやって恥ずかしがっているロイゼが自分でこの服を選んだとは思えない。
商館の人が選んだのだろうか。
「そ、そうですか……。あ、これをどうぞ」
そう言ってロイゼが差し出してきたのは小さな紙切れだった。
「? 何これ?」
「マルディアさんからです。これに着替えてから渡せばオモト様なら分かると」
何だそれ?嫌な予感しかしない。
さっきみたいにジッと見つめてしまうかもしれないのでロイゼから少し目を逸らしながら、僕は紙切れを受け取った。
折り畳まれていた紙切れを広げてみるとこのように書かれてた。
『ロイゼのネグリジェどうだった?似合ってるでしょ。もしかして見惚れちゃった?
それ娼婦の子用のヤツなんだけど、私が直々に選んでみたよ。
本来は戦闘奴隷を買ってもらう時にこんなサービスしないんだけど、君にやったら面白そうだったから特別にしてあげたよ。お代も通常の半額。
他にも着せたい服があったらウチに来てね。
湯浴みは別にしたんだろうけど、夜は二人でじっくりと後は楽しんで!異種族間で子供はできにくいし、ロイゼも覚悟は決めてるからさ。
マルディア』
とても商人が客に送るようなものとは思えない手紙を読み終わると、同時に僕は紙切れをくしゃくしゃに丸めた。
あの人は本当に何やってくれてんだよ‼︎ いらん事やりおって‼︎
色々と文句が体の底からたくさん湧き出てくるが、ロイゼのいる前でそれを漏らすのは憚られた。びっくりさせちゃうからな。
そうでなくてもさっき本当に見惚れちゃったから何も言えない。
それにしても娼婦用の服か。道理で露出が激しいわけだ。
というか商人がそれやって大丈夫なのか?ちゃんと客の要望に沿ったサービスしてくれや。
けどこれでようやく分かった。
寝着だけ商館で用意してくれるなんておかしいと思ってたけど、ただのマルディアさんの悪ふざけかよ。公私混同はやめて欲しい。
あの人は何でこう人をからかうかなぁ。いい加減に疲れてきたんだけど。
しかも何がタチ悪いかってこれを渡すのが今だって事だ。
これが日のある間に渡してくれればまだ買い替える事が出来たのに、こうなってしまっては今日はこのままでいるしかない。
ただ本当に似合ってるんだよなぁ。これを変えるのか……なんかもったいないな。
ってダメだ、完全にマルディアさんの掌で転がされてる。悔しいなぁ。
でもせっかく似合ってるし、すでにあるものを捨ててまで服に出費するのはなぁ。たぶんその辺も読まれてるな。
「なぁ、その服とこの紙切れ渡されて何か変だと思わなかったか?」
「? えっと……マルディアさんの商館では女性の奴隷はみんなこれを与えられると、マルディアさん本人がおっしゃられていて……。初めて知りました」
なるほどねぇ、これが常識と教えたわけか。手が込んでるというか何というか。悪ふざけでここまでするか。
今度あったら文句の一つでも言ってやりたい。いや、それ言ったらすぐさまカウンターが来そうだからやめておくかな。
「あの……どうかなさいましたか?」
「いや、大丈夫……大丈夫だから」
僕は心配そうに覗き込んで聞いてきたロイゼに手を立てて言った。
ちょ、やめて。胸元が余計に開くから。
まぁここはロイゼを責めたって仕方ない。彼女は何も知らないんだから。
何だろう、湯浴みしてちゃんと疲れを落としたはずなんだけどまた疲れてきた。
でも、そうか……ロイゼも覚悟はできてるのか……。
まぁ用途関係なく女性の奴隷は『そういう事』をするのが当たり前みたいなところがあるんだろうな。
それなら……大丈夫なのかな……。でも怖がらせたらなぁ。
けど、こんなに綺麗なロイゼをこのままにするなんて出来るかなぁ。ロイゼだってそれ前提で僕のところに来たわけだし……。
僕は少し悩んでから行動に出た。
こうなったら考えるのはやめだ。
ゆっくりとロイゼの腕を掴んでベッドに座らせた。
ロイゼが少し体を硬直させたのが分かった。やっぱり緊張してるんだな。
僕はそっとロイゼの隣に座った。その影響でベッドが少し軋んだ。
ちゃんと準備はしてある。さっきロイゼが湯浴みしてる間に色々考えながら用意はしていた。
背は僕の方が少し高いため、ロイゼのこの格好で並んでいるとどうしても大きく開いた胸元が目に入る。
お互いの距離も近くなってしまっているので、どうしてもドキドキしてしまう。
そのため図らずもロイゼの腕を掴む手に力が入ってしまう。
一応改造人間として力は普通の人間の何倍もある。間違ってロイゼの腕を砕くなんて事が無いように気をつけないと。
「優しくするからさ、力抜いて」
「は、はい……」
僕は言うとロイゼはゆっくりと力を抜いた。ちゃんと出来るかな……。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




