第12話 買い物
「さてと、これからどうするかな」
僕は空を見ながら呟いた。
空は夕焼け色をに染まっていて、お昼というにはちょっと遅く夜というにはまだ早いような絶妙な色だった。
人も少なくなっており、中にはもう閉めているお店もある。
何かやることは出来てもたくさんの事は出来なさそうだな。
このまま宿に帰るって選択もあるけど、ロイゼはこの街の外に出るのは初めてだからな。色々と街を見せてあげたい。
「君は何かやりたい事ある?」
僕はロイゼに聞いてみた。
僕の持っていた布を被っているロイゼはもう周りからそこまで目立たない。だからちゃんと僕のそばにいてくれる。
そんなロイゼにとっては久しぶりの外なんだ、やりたい事はそれなりにあると思うんだけどな。
「い、いえ特には……」
しかし予想に反してロイゼは何も無いそうだ。まだ遠慮してるのかな?
まぁ出たばかりじゃ何が出来るかも分からないだろうからな。そりゃ難しいか。
このまま帰るっていうのもアリといえばアリなんだけどなぁ。
……あ、そうだ。
「ねぇ、ロイゼってそれ以外の服とかって持ってきてないの?」
「? はい、先程買った寝着くらいです」
そうだよな。持ってるのその寝着が入った紙袋だけだもんね。
本当に何で寝着だけくれたんだろう?ちょっと不安なんだよなぁ。
「それじゃ、服買いに行こうか。何があればいいの?」
今すぐ使いそうな服だけでも買っておくべきだな。まだお店やってるといいけど。
他にも服以外に生活に使うものがあるかもしれないけど、宿にいる以上服が今のところ一番必要なものだろ。
ロイゼがクエストで使う武器は……明日でいいか。どうせ今日はクエストはやらないからな。
そういえばロイゼってどんな武器使うのかな?その辺は後で聞いてみるか。
そう思ってお店を探そうとするとロイゼが呆然と固まっている事に気がついた。
「ん?どうかしたの?」
「えっと……私は奴隷ですので、そのような事をやっていただく必要は無いのですが……」
え?そうなの?
とは言ってもなぁ。一応そのためにお金もそれなりに貯めておいたわけだし。
それに奴隷だとしても服は欲しいだろ。よく分からないけど。
というかずっとその格好ってわけにもいかないからな。これはこれで目立つし。
「まぁいいじゃん。別にあって困るものじゃないんだし、行こう」
「は……はい」
というわけで僕達はロイゼの服とかを買うことにした。
といっても僕もそんなに持ってないのでついでに買うつもりだけどさ。
目立つからやっぱり戦闘服以外の服も欲しいからな。
それからしばらくして僕達は服屋を見つけた。思ったより簡単に見つかったな。
中に入ると色とりどりの服が並べられていた。うーん、目がちょっと痛いな。
「えっと……自分のもの選べる?」
「え?……自分で選んで良いのですか?」
いや自分のなんだから自分で選びたいだろ。というか僕は女性のものなんて選べないよ?
店員に任せるとしても自分でやって欲しい。そんな事話せるようなコミュニケーション能力無いからな。
「何なら僕のヤツもついでに選んで欲しいんだけど。僕よく分からないからさ」
「は、はぁ……」
こうは言ったものの本音は面倒だからだけどな。だって興味ないんだもん。
それにこの世界の事もよく分からないから素材も分からない。それならロイゼが選んだ方がいいだろ。
というわけで僕達は店内を歩いて物色し始めた。ってこれ僕外にいても良くない?
それにしても服って本当にどうやって選べばいいのか分からない。
「えっと……どのようなものが欲しいんですか?」
ロイゼは服を見渡しながら僕に尋ねてきた。まず自分の選べばいいのに。
そうだなぁ……。
「……着れるもの」
僕が答えるとロイゼは戸惑ったように僕を見ている。
だって僕そんなこだわり無いし。ぶっちゃけサイズが合ってれば何でもいいよ。
私服を買うつもりだけど、そんなに長く着るつもりはないからさ。着れればそれでいいよ。
まぁ強いて言うなら派手じゃないヤツかな。目立ちたくないし。
まぁ店内を見た感じそこまで派手なものはなさそうだな。
っと、そうだ。大事な事忘れてた。
「それじゃ、後は任せたよ。僕ちょっと買うもの思いついたから。買えたらここで待ってて」
本当ならもっと早めに買おうと思ってたんだけど、これまでは無理だったからな。
「え?……あ、はい」
悩んでいるロイゼを放って僕は服屋を出た。
えっと……アレはどこで売ってるかな?
お目当てのものなあっさりと買えたので僕は服屋へ戻った。
ロイゼはどこにいるかな?
ってアレ?服屋の前にいると思ったのにいないじゃん。
という事はまだ服屋の中かな?そこまで悩むか?
僕が服屋に入るとさっきいた所でオロオロとしているロイゼを見つけた。
手には選んだのであろう服を持っている。
アイツ……何やってるんだ?決まったならさっさと出ればいいのに。
「おーい」
「あ、戻ってきたのですね」
そう言ってロイゼは綺麗にお辞儀した。堅いなぁ。
「何してるの?もう決まったなら外で待ってなよ」
「えっと……私はお金を持ってないので……買えないんですが……」
あ、そうだ。すっかり忘れてた。そりゃそうだ。買えないんじゃ外には出られないか。
「ごめん、渡しておくべきだったな」
謝ってロイゼが選んだものを確認した。どれくらい選んだのかな?……ってあれ?
「ロイゼ、自分のヤツ選んだ?少なくない?」
見たところ三、四着しか無いんだけど。
しかも見た感じ全部男物 (分からないけど)みたいだから、これ全部僕のものって事だろ?
するとロイゼは狼狽えてしまった。ん?どうした?
「えっと……その……本当に私のを選んでいいんですか?」
はい?何言ってるんだ?
「もちろん、私服とか欲しいだろ?いつもそのままってのも嫌だろうし」
それに室内でその布は使わないだろ。となるとそのボロ服になるわけだ。
ずっとその格好だと周りから目立つし、僕が目のやり場に困る。
「そう……ですか……」
ロイゼは小さく呟くと再び店内を見渡し始めた。
それじゃ僕はロイゼの後について行ってゆっくりしてるかな。
しばらくしてロイゼは何着か服を選んだ。ずっと僕をチラチラと見てたけど何かあったのか?
「えっと……選び終わりました」
お、終わったのか。結構早かったな。ちゃんと選べたのだろうか。
「それじゃ、レジに行くか」
「は、はい」
僕はロイゼを連れてレジへと向かった。
お金を払って全部を買うと僕達は服屋を出た。ってロイゼに今ここで買ったもの着させてあげればよかったな。
まぁいいや。さてと、買うものは買えたし宿に戻るかな。
「よし、宿に帰るから来て」
僕はロイゼと一緒に宿に帰った。
宿に着くと僕は部屋に戻る前にカウンターに向かった。
「すみません。ちょっといいですか?」
僕はカウンターに座っていたおばさんに声をかけた。
「ん?何だい?」
「この子の部屋を借りたいんですけど」
僕は隣にいたロイゼを前に押し出した。
やっぱりちゃんと一人部屋の方がいいだろうからな。僕にとっても。
「え?えっと……あの……」
するとロイゼはまたオロオロしてしまった。どうしたんだ?
そう思うとおばさんもしばらくロイゼを見ると苦い顔をしている。
嫌そうというよりかは困っているようだ。え?何々?
「なぁ、その子ってもしかして奴隷かい?」
おばさんは少し言いにくそうにしてから僕に聞いてきた。
あ、布の隙間から首輪が見えてたか。
ロイゼが少し顔を俯かせてしまった。なんか悪い事したな。あまり気にさせないつもりだったのに。
「ま、まぁ一応」
「そうかい。……それなら悪いんだけど、この子に一人部屋は無理だよ」
は⁉︎何で⁉︎
「どういう事ですか⁉︎お金ならちゃんと僕が払いますよ?」
というかそれが奴隷の主人の義務だろ。住む場所与えないといけない、だっけか?
「いや、金の問題じゃないんだよ。というより私はあまり気にしたくないんだけどね。奴隷だけの部屋は与えられない決まりなんだよ」
えー⁉︎何だそれ⁉︎
「何でですか?何か問題があるんですか?」
「あー……この子の前で言いにくいんだけど、奴隷は物って認識だろ?宿屋ってのは人に部屋を貸す所であって、物置じゃないからね」
………そういう事か。なるほどね。
僕が今やろうとしているのは世間からすれば物置のために一部屋貸してくださいって言ってるようなものか。
たしかにそれだと宿屋として成り立たなくなっちゃうもんな。それはダメか。
「……分かりました」
「すまんね。私個人としてどうでもいいって思ってんだけど、これ決まりなんだよ」
おばさんは苦しそうな顔をしている。本当にどうでもいいと思ってるんだな。
「それなら今の僕の部屋を一人部屋から二人部屋にしてもらう事って出来ますか?」
「あーそれなら構わないよ。ただツインは今満室だからダブルでいいかい?」
何だそれ?よく分からないけど、まぁはい以外の選択肢は無いか。
「それでいいですよ」
「それじゃ追加料金頼めるかい?一人部屋よりも高いからさ」
僕は言われるがままにお金を払った。
はぁ、ちゃんと主人としてしっかりしないと。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




