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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第一章
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第9話:フルドレス

 しゅるしゅるっとガンプレイで銃を回すと、彼の興味をもっと引けたようだ、黒い瞳が興味に煌めいている。ふふんそうでしょう?そうなんでしょう?

 アナタはこのヴァニィちゃんから目を離してはいけませんわ!


「かくれんぼですわっ、今のは見つかりましたけれどかうんたーが決まったのでわたくしの勝ちです。……次は油断いたしませんわ!さあ、五十数えてからかくれんぼ再開、あなたが"鬼"ですわよ!」


 頬を朱に染め「うふふっ、みつけられるかしら?」なんて一方的に宣言するヴァネッサは踵を返し、鼻歌交じりに再びぽてぽてとその場を離れていく、男の子は呆然とそれを見送りかけて……満面の笑みを浮かべて即座にその背中をダッシュで追いかけ始めた。


「ぎゃー!なんですぐ追いかけてきますの!ずるですわ!ずるいですわ!」


 ダッシュで逃亡である。


「ずるじゃないよ、だってボクは王子さまだから!きょーけんはつどーできるんだよ!ねえねえきみのお名前は?」


 ダッシュで追跡である。


 そもそもかくれんぼにカウンターは無い、ヴァネッサもずるいといえばずるいのだけれどもそんな事は子供の遊びで些細なことだ、かくれんぼから派生した追いかけっこは果たしてどちらの勝ちだったか……それは今でも両者ともにあの日勝ったのは自分だと言い張っているから定かではないけれど。

 気が付けば二人で仲良く手を繋いで"瑪瑙城"の探検に勤しんでいた。


 小さな庭石をうんしょと捲って首を傾げるヴァネッサ。


「おりませんわねぇ…………」


 残念そうに呟き、ぷくっと頬を膨らませるヴァネッサと庭石の下でうぞうぞと蠢く蟲を見比べ"王子さま"も大困惑である。


「その……ヴァニィ?きみのおともだちは……蟲?普通いないよそんなトコ?」

「まぁ!! ジョッシュはノエるんを蟲扱いしますの!?ノエるんはくらくてじめじめしたトコロが好きなだけですわ!!だからこういうところにいつも隠れますの」


 片手を腰に、もう片方の手で模造銃の銃口を"王子さま"に向けてふんす!と鼻息の荒いヴァニィ――ヴァネッサの様子に、"王子さま"ことジョッシュは両手を上げて笑う。

 お友達を紹介してくれるという黒髪の少女の決定に是も非もなく、二人の追いかけっこは再びかくれんぼへと帰結していた。

 "鬼"はヴァネッサとジョシュアだ。


 兎にも角にも新しいおともだちを紹介しように、まずは彼奴等をひっ捕らえなければいけない。


「でもさっきから庭石をひっくり返したり物陰の地面を掘ったりばかりじゃないか、おともだちは二人ともそんなとこにいるの?」


 ぱすっという気の抜けたような音と共にジョッシュの胸元に軽く衝撃が伝わった。ジョッシュの言葉はヴァニィのトリガーを引いたようだ。


「暗くてじめじめしたところや穴を掘るのを好むのはノエるんだけです。もう一人はどーせ呼べば来ます、ですからノエるんを見つけるのがこのかくれんぼのキモですの」


 ノエるんというのはずいぶんと変わった子で、もう一人の発見方法も随分と変わっている、かくれんぼって呼ばれて出て行ったらダメだよね?とは思うけれども、それにしても住んでる自分でも入った事のない区画がある瑪瑙城は正直広すぎる。

 いつからヴァニィ達がかくれんぼをしているのかは知らないけれど、子供の足ではとても探しきれるとはジョシュアには思えなかった。


「呼べばいいなら呼んだらいいんじゃないかな、三人ならもう少し探しやすいかもしれないし」

「ダメですわ、"クオるん"はおバカちゃんなのでよけーに混乱するだけですの」


 ヴァネッサはうそを吐いた。

 本当はジョシュアともっと二人だけでいたかっただけだ。


 互いに名乗りあって同い年と分かったけれど、槍の修練をしているという手はたくましくて、繋げばトクトクと胸が鳴る、優しげな黒い瞳と目が合うと、この瞳に自分以外の女の子を映したくないなんて思ってしまう。


 しかし。



 ――声が聞こえた、己の名を呼ぶ声が。


 大聖堂の祭壇で涅槃に瞑想していた黒いドレスに白銀のサッシュを腰に巻いた幼女がくわと紫色の双眸を見開くと、可愛らしい、微笑ましいと見守っていた聖職者や礼拝に訪れていた人々もぎょっと驚きに目を見開いた。

 お昼寝してると思ったら起きていた、という驚きだ。


「往かねば、そーですね?」


 素早く身を起こすと傍らの竹光を掴み、祭壇からぴょいこら飛び降りる、思ったより高くて足がもつれ、ころころと祭壇前の絨毯の上を転がってしまった。

 そしてむっくり起き上がるとキリリと表情を引き締めて虚空を見上げる。


 呼び声などとても聞こえるはずがない、というか呼んでいないのだけれど、クオンには確かに聞こえたのだ、麗しき主の鈴の鳴るような声が『クオるん』とそう言った。そんな気がする、知らんけど。


 静謐な大聖堂から、亜麻色のポニーテールをぴょこぴょこ揺らしながらクオンは外へ駆け出していった。


 おバカちゃん出撃注意報である、仮にフィオナがいれば【BGM】の一つでも流れているだろう。


 クオンの移動は驚くべき事にヴァネッサ達がいる場所への最短距離をとっていた、本人は何となくそっちにいる気がする程度なのだけれども謎の直感をフル稼働させ、代わりに完全に『かくれんぼ』の最中である事を忘れていた。


 今回西部候一行に付き従って王都を訪れている西部方面軍騎士団の兵はおよそ三百ほど、侯爵の移動に付き従う兵には少ないけれど、国内の移動には十分多い。

 侯爵の歓待は本丸の者が準備するのだけれど、兵士は城内に司令部がある王領軍騎士団が歓待する()()()()だ。


 三百人を迎える晩餐会の準備に大わらわの厨房にクオンは躊躇いなく飛び込む。

 突然の竹光を持った幼女の登場に侍女や料理番達は一瞬固まるも、精いっぱい背伸びするその姿に侍女は皆母性を刺激されてしまい「かわいー!」と一斉に黄色い悲鳴が上がった。


「あらあら可愛い!どこから来たの?」

「かくれんぼ中につきひとくします、あー!だっこしちゃやですー!!」


 悲鳴など無視して、てってけと厨房を駆け抜けようとしたクオンはやたらたくましいドレッドヘアの侍女に捕まってしまった、彼女は元王領軍の女騎士で、妊娠結婚を機に侍女へと転身した経歴を持つ女傑だ。

 家に帰ればこのくらいの歳の腕白坊主がいるから女の子となれば余裕のよっちゃんである。


 丸太のような腕と全体的に豊満かつ引き締まった肉体は四歳のじたばたとした抵抗をものともしない。

 たちまち作業を放り出した他の侍女たちも周囲を取り囲み、料理番の男性は「お前ら仕事しろぉ!!」と叫び、侍女達にギロリ睨まれてすごすご自分達で盛り付け作業を進める。

「はーなーせー!ヴァニィちゃんが呼んでるのですー!」

「あらあら、お友達はヴァニィちゃんというのね?」

「かーわーいーいー!これ食べる?出来たてで美味しいよ!」


 クオンははっとした、主名を引き出された!「YOU、どう?」尋問だ、むぷーとむくれるが他の侍女が差し出したのは何という事だろう、はんばーぐではないか。


(卑怯ではありませんか?そんなものでこのわたしが――)

「はんばぁーーーーぐぅ!!」


 紫の瞳を輝かせ口をぱくぱくとさせる、即堕ちである。


 料理番が「おいここに出したハンバーグどこに……」と何か言いかけていたけれども別の侍女が指をバキバキ鳴らして黙らせる。

 今日の歓待の相手は西部の兵だ、それに合わせてかこの場に集められたのは元女騎士も含めて西部出身の侍女が多い。


 『西部女を怒らせるな』


 料理番達はいそいそと代わりのハンバーグとお子様用にクッキーの用意にとりかかるのだった。


「ちょっと!クッキーとかないの!?つっかえないわねぇ!!」

「今やっとりますよ!急かさんでください!!」


 あーんされたハンバーグは肉汁たっぷり、これは!北部の牛ですね、実に美味。

 もっきゅもっきゅと咀嚼するたびにひき肉になっても嬉しくなる弾力が歯に伝わる、弾力が歯に伝わると嬉しいのってなんでですかね?



 すっかり懐柔されてしまった、他人からはそう思われるかもしれない、できたてハンバーグを三つばかり平らげ「けぷっ」と満足の吐息を漏らすクオン。

 子供用ドレスのぽっけにはヴァニィちゃんとノエるんと食べるお持ち帰りのクッキーがこれでもかと詰め込まれている、いつでも抜けるよう手に持っていた竹光は腰のサッシュに差し込まれ、これも大変据わりがいい。

 手に持った方が馴染むがこのままでも抜けはする。


 代わりに手には棒付き飴を装備した、それもなんと両手(ダブル)だ。


 ――クオンリィ"完全装備(フルドレス)"。


 しかしどうだ、懐柔した筈の侍女たちはいつしかクオンの出撃準備を整えてくれている、涅槃で寝ていた間に崩れたポニーテールまで綺麗に結びなおしてくれているではないか、これがヴァニィちゃんが呼んでいるという神命が描く世界に違いない。


「クオンちゃん、気を付けてね?転んだりしないようにね?城壁の外に出ちゃだめだよ?」


 折角整えなおした髪型が崩れないよう優しく頭をなでるドレッドヘアの侍女に、ぐっと親指を立てて応える。

 ハンバーグをあーんしてくれた侍女にもにっかりと笑みを向けた。

 ゆうに小一時間時間を潰したけれどハンバーグはとても美味しかった。


「クオンリィ・ファン・ザイツは"完全装備(フルドレス)"で出ますっ!」


 てってけと走って厨房を出て行った。

 厨房では残された彼女のフルネームに元騎士の者達があれってあの"抜刀伯"の娘かとギョッとした衝撃を受けていたけれども、おなか満タン、お菓子満杯のクオンの勢いはすさまじく既に遠くで角を曲がっていくぴょこぴょこ揺れるポニーテールが一瞬確認できただけだった。


 "完全装備(フルドレス)"は伊達ではない、時折すれ違う衛兵が「なんでここに幼女が!?」と驚いている隙に、クオンは棒付き飴をぺろぺろ舐めながら結構な速さでとっとことっとこと軽快に走り去ってしまう。

 とっさに追いかけ始める衛兵達だけれど、クオンは大人の通れない柱の隙間等をするすると器用に通って逃げてしまう。


 そんな事を繰り返していれば当然のように追いかける衛兵は一人二人と増え気が付けばすっかりちょっとした騒ぎになっていた。


 "瑪瑙城"は中庭だけでも広大だ、青々とした生け垣は丁寧に手入れされており、国賓を迎えるパーティの会場にも使われる中庭に逃げ込んだクオンを衛兵たちは追いきれなくなりつつあった、流石に生垣の根元を潜られたりされると城仕えの兵士としてはおそらくどこかの貴族令嬢であろう幼子一人の暴走の為に庭師達を怒らせたくはない。


「む……!!」


 亜麻の髪に緑の葉っぱをいくつもつけたクオンはついに中庭の一角に建てられた温室の中に見慣れた黒髪のツインテールの後頭部を見つけた。


「ヴァ――…………」


 紫色の両眼を輝かせ、諸手を上げて舐め終わった棒飴の棒を放り投げ全身で喜びを表現して「ヴァニィちゃん様!馳せ参じましたわ!!」と叫びかけたクオンは、ヴァネッサの正面で楽しそうに笑っている灰の髪に黒い瞳の少年を視界に捉えてそのままの体勢で固まり、一気に真顔になり両目から光彩が消える。


「…………だれ?――なんですか?――なに笑っているのですか?――ヴァニィちゃん様もそんなに肩をゆらして……まさか笑っているのですか?――()()にいるのは()()()()でも()()()でもないですよ?――ッ()()()()!」


 ぐんぐんとゲージを溜めながらゆ~っくりと温室に向けて歩き出すクオン。

 このままでは主従の絆もブレイクしかねない『お呼びでない突入』をすることになり、それはほぼ間違いなく誰も幸せにならない。


「どうして――」

「――クオンちゃん、見ぃつけたぁ」


 突如として空間が割れ、そこからすっと伸びた女性のものと思われる手がクオンの首根っこを掴み、虚空へと引きずり込んで消えた。

 偶然それを目撃してしまった衛兵はその衝撃の光景に眼球が零れ落ちんばかりの衝撃を受けた。



 ――おわかりいただけただろうか。



「お、おいっ!今、手が!女の手が幼女をッ!!い、いや城内で[空間転移]が使われたのかもしれない!!あの女の子が浚われた!!」

「はぁ?流石にお前[空間転移]魔法はないだろう、仮にそうなら今頃緊急指令が来てるさ」

「だったら今の手はもっとヤベーものって事かよ!!」


 同僚への訴えは一笑に臥された。彼はこの一件の後で過労を心配され一週間の休暇を貰った、でも十一年後の今も彼は酒場で強い酒を飲みながら赤ら顔で言う。


「あれは[空間転移]魔法だった、そうでなければ何か?瑪瑙城には幼女を連れ去る幽霊(ゴースト)が本当にいるとでもいうのか?数代前の子に恵まれずついには発狂して側室の子を次々と殺したと言われる王妃の伝説は真実だったとでもいうのか?――真実だったんだ!瑪瑙城には子供を浚う()()が棲んでいる!!」


 と。


 そんな話はどうでもいいことだ、温室の中で自慢げに花の知識を披露するヴァネッサにも。

 自分の城の事であり当然のように花の名前など知ってはいるがそんなヴァネッサの様子がとても愛らしくて、胸の高鳴りを悟られないよう平静を保って笑うジョシュアにも。

 温室の中はすっかり()()()()()で外の事なんかどうでもよかったのだから。

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