第84話:親衛隊
第一クオンリィが転生者とかいう話からしてフィオナには到底信じられない話なのだ、別に危害は加えないし何なら退場にならないようにしたいなとは思っているけれど……協力関係となると、協力しようにこうも思い込みの激しいタイプのバカはちょっと御免こうむりたい……。
そもそも、フィオナが勝手に潜り込んだだけで別にクオンリィとさえ協力関係ではないのだ……お友達だとは思っているけれどもね。……友達だよね?
「うん……? よくわからないけれどクラスメイトだし紹介はしてもいいヨ? でも失礼のないようにね?」
「クラス……? 親衛隊でしょ?」
「ああ、腕章してるから判った? そっちだったら余計にだよ、ヴァネッサ様絡むとクオンマジガチだからね? ええと、筆頭と副頭のリオネッサとギギも紹介する? バカマスクはいいや」
「リ……? ううん、ザイツだけでいい」
ナチュラルに失礼だなー、ジェシカ。まあいい、多分余計な事言って雷閃が迅る事になる気がしてならないけれど……。
――コイツどうせ死なないし。
事前にジェシカの死に戻り条件についてちょっくら聞き出して戻りポイント作ってもらってとっとと戻ろう。一回ぶっ殺されればさっくりと諦めるでしょう……。
もう巻き込まれるのも二回だ……そして……。
(頭使って損したわー……)
やっぱり死んでも戻れるから危機感がマヒしているんだろうか?
しかしジェシカとしても二回目という事は成長率が悪いにしてもそこそこジェシカも経験を積んでいる筈……だからこそだろうか? 自分の強さに慢心している……慣れって怖い、とまさに文字通り慣れながらフィオナは思う。
(……ってことは少なくとも二年生中盤まで成長したジェシカをデストローイできるクオンってマジヤバイ? ……でも転生者じゃ……ないよねぇあれは)
もし自分がクオンリィ・ザイツに転生したら?……自パイを揉みまくる。
柔らかいのかあれ? 筋肉か? 筋肉なのか? 休み時間に乳押し相撲でも挑んでみようか。確かめる! その弾力を!
oh……ノー……ノー……ノー……ノー。
少なくとも喧嘩祭りには持ち込まない、ソイヤが早過ぎる。暴れていいことなんか何一つないのだから……そもそも転生者だったらヴァネッサ様が怖くてあんなに暴れられないと思う。
気がついたらガトリングの銃口を向けられているような環境は御免である。
――
と、思ったら。
「お、オーギュスト!? オーギュスト・ギラン!?」
「リアクションがでけぇ、ミュリア先生に気付かれんぞ。 なんだフィオナ、知ってるんですか? はー……オマエってホントに持ってやがンな」
くりくりと前髪を指先で玩びながら、溜息がちにクオンリィが応えた、持っている? 何を? とは思うけれどそれは今重要じゃない。
「仕合って、え、なんで??」
「だから師匠の仇討ちですとさ? 受けない理由もねぇ……」
ニタァ……と愉しそうに口端を吊り上げている姿は、オーギュストを主人公にした熱血バトルものの序盤悪役丸出し……いやいや。
フィオナはオーギュストに関する情報を整理する。
1.オーギュストはクオンに惚れている。
2.やつは肉食獣、孕ませたいらしい。
(クッコロ強制種付けルート! ヤバイ!!)
フィオナは水色の瞳をくわっと見開いて、そっとクオンの左腕の袖に手を伸ばす、避けられることはなかった、キュッと袖をつまみながらクオンリィの顔を見上げる。
「ンですか? 心配してやがんのかぁ? 楽勝ですよ?」
ぴょこっ
【残弾数:5→8】
くつくつとシニカルに笑って見せるけれど、その柔和な顔立ちの頬が緩んでいる、お姉ちゃん属性の顔面を掴んで画面端に全力で叩き付けんばかりの花が咲いていた。
この顔が屈辱と涙とよだれやらで盛大にアヘる様は見てみたいけれど見たくない。
「油断しないで、オーギュストはたぶん強いよ……切り札は使わせちゃダメ、初撃でキメて……」
「…………オマエに訊きたい事はある、ですが、人となりはラスクから聞いています……」
ラスクは犬ですよ?わんわん。
「承知だよ、心配すんな、一刀を以て切り伏せますよ?」
鞘に添えられていた左手をスッと持ち上げて、桜色の髪に身長差があるから結構大きい掌が乗っかった。
放課後という事はきっとヴァネッサ様達も立ち会うのだろう……。
嫌な予感が拭えない、もしもオーギュストが≪聖剣≫を発動したらヴァネッサ様の目に留まる、それは原作でのオーギュストルートの入口なのだから……。
その先でヴァネッサ様は不貞を疑われ婚約を破棄され、発狂して討死する。
そうならないようにヴァネッサ様が行動する為の下地を悪役令嬢ものの世界の流れが作っているとしても、一度直接会って確信に近い思いがある……。
この悪役令嬢は、ヴァネッサ様は自分を曲げない。
『乙女ゲーム世界』の『悪役令嬢もの』で世界の中心にいても『乙女ゲーム世界』の誇り高き『悪役令嬢』であり続けている存在感がヴァネッサ・アルフ・ノワールにはある。
世界の流れなんざ関係ねえ、地雷原に馬車突撃である。
「見に来いと言いたかったですが……そうですか? レイモンドですか?」
「あー……でも紹介しろって話だし……クオンが無理なら断って……」
「行きなさい」
「――え?」
再び腕を組むクオンリィ、フィオナの位置は左側なのでその右眼がどんな光を宿しているのかわからない……けれど。
「ああ、紹介はNGですよ? お断りですよボケナスが。それを伝えなさい。あの女がどういうつもりで私を紹介しろなんて言ってきたのか……そこが気になりますね? 興味がありますよ? それにあの女はフェル兄ちゃんに近づいていますよ? どういう狙いか……私は勝つからテメェは探ってこい……」
クオンリィの右手が指折り折りたたまれる。
改めて、こいつは刀なのだ、ヴァネッサの誇り高き『悪役令嬢』であり続けている存在感を支える側近……おバカちゃんだけれど……勘がいい。
「……」
「……なんですか? 理解できませんでしたか? 首から上は飾りか?」
「フェル兄ちゃんって、フェルディナンド様」
「ああ、悪い……そっちは悪徳商人の娘が王子に股開いてやがる可能性があるから出来たら探れってだけですよ?」
レディが股とか言っちゃダメ!
端的に必要な事だけを指示しつつ、レイモンド商会はやばいぞ? とフィオナに情報を与えてくれる。
どういうつもりでジェシカが紹介しろと言ったのか、今の時点でもフィオナには説明は難しくはない、けれどもそれは話が長くなる……次の機会に明かそう、フィオナはこくりと頷きを返すのだった。
「気を付けろよ?」
「うん……応っ」
――
――ガガン!!
フィオナの背中に二連の大きな衝撃が走る。
[保護]が働いた、つまり今のはそういう攻撃だった。




