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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第四章
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第82話:小賢しい

 気がつけば女子寮を出たところだった。

 フィオナは素早く周囲に視線をやって状況確認を急ぐ。


(しくじったッッ!! でもまずは考えろッッ!! 庭園ルートをジェシカが提案したのはいつだった!? 今は庭園ルートが決まった前!? 後!? 気を付けないとわたしが巻き戻りの記憶を保持している事を悟られるっ!!)


 分析系ヒロインフィオナちゃん、流石の冷静さである。


「――ッは」


「ジェシカ? どどどどどどどどうしたの?」


 へたくそか。


「――え? フィオナ?」


「いやいやいやいや今ビクって! ビクってしたから!」


「……」


「……」


 攻撃範囲が無言のジェシカを中心に広がったので反射的に範囲外に出るフィオナ、華麗なワンステップである、ふうん? 徒手空拳の間合い。ふっ、近接系にこのフィオナちゃんを傷付けることは不可能……。

 おかげでジェシカの胡乱な視線をビンビン感じる。


「……よくわかったね?」


「なななななぬが?」


 ピンチ! おバカちゃん三号!

 おバカちゃん一号はそろそろ感電する頃です。


「今……私が腹パンしようとしてた事」


「いきなり!? それより教室! 教室急がなくちゃ!」


 学舎の方を指差してブンブンと大きく腕を振るフィオナ、クッソ怪しい挙動である。


「……」


「……なななななに?」


 水色があっち向いたりこっち向いたりと忙しない。

 これは完全に怪しまれている、


「そだね!いこっか!!」


「そうそう!」


「……フィオナ、行かないの?」


「……んんっ!?」


 行き先は二つ、普通に歩道を学舎に向かうルートと、庭園に直行するルート……正直庭園ルートは何処から入るのかもうろ覚え……三つ目の植木だったか四つ目の植木だったか……近付けば先輩達が踏み均したおかげで下草が生えてないから判るのだけれど、それは今朝ジェシカに教えてもらった情報であった……。


(部屋を出る時にいい近道がある……みたいなことを言われた気がするんだけれど)


 軽く左腕の腕章の上から腕を握る、腹をくくろう、学舎に向かうルートにまっすぐ走り始めると、ジェシカは特に何も言わずついて来た。


「……フィオナ」


「ななななに!?」


「いい近道があるって言ったじゃん」


「うん、だからどっちなのかなーと思って」


 とっとっとと軽快な足取りで石畳の歩道を二人並んで蹴る、少なくとももう庭園ルートを通るには引き返す必要がある。けれど、庭園ルートが『ない』事はお互い分かっている。

 あんな意味不明の攻撃は喰らいたくもないし、フィオナもタイミング次第では避けられないかもしれない。

 でも、フィオナは『ないから』選択したのではなく『知らないから』選択したとしなければいけない。


「もう過ぎちゃったよ、まあ、いいけれど……」


「ちょ、近道教えてよ!?」


 教えてよ、とは言っているけれど、言うとも思っていない。


 一方、ジェシカもまた、迷っていた。


 斬られたと失言してしまった以上、ザイツ転生者疑惑をフィオナに打ち明けておく必要があると思っていた。

 そしてフィオナから得られた情報で疑惑を確信に持って行くつもりだったのだ。


 それにもしかしたら、ザイツは味方にできるかもしれない。

 転生者ならヴァネッサが何をするのかも自分の決着もわかっている筈。


 しかし


 しかしだ、ここに来て別の疑惑。

 確かに転生先としてはスタンダード? むしろ転生している前提の原作だってある。


 フィオナ転生者じゃない?


 だとしても解せない、ヒロインとお助けキャラが転生者コンビで協力関係ならばヴァネッサの妨害をものともしない筈なのに、彼女はよりにもよって親衛隊に入ってしまった。


 ヴァネッサ親衛隊。

 原作ゲームのバトルパートにおいてはヴァネッサのスキルとして活躍する。

 相手の足止めの為にしがみついて諸共ぶち抜かれたり、盾に使われる役。冗談では無い扱いだ。


 記憶があるならそんな所に飛び込むなんてアホとしか思えない……しかし。


 走りながらフィオナの前方に滑り込む様にスライディングをしようとすると、フィオナの足の回転が落ちて後方に回られてしまった。


 これだ……おそらく今回のループ直前フィオナは『事前に避けた』

 そんな事ができてたまるか、そうは思うけれど……試しに仕掛けた二回ともを実際に避けられるともうそういうものがフィオナにはあると考えた方がいい。


(そしてその上、私の≪セーブ≫が分かっている?)


 チート級の能力……盛りだくさん、転生でもなければ持っているわけがない。

 実際の所これは思い込みで我が儘だから通用しないとかいう出鱈目なのもいるんですけれどね。


「ねえ、フィオナ、なんで後ろに回るの?」


「え、えっと? 何となく?」


「本当に……??」


(フィオナが転生者だったとしたら……)


 これまでのフィオナの行動を思い返す……そもそもジェシカの知る【ヒロイン】と名前からして違うのだ、しかしその経歴や生い立ちは前世の友と大きな差がない……それはフィオナルートの世界に自分がやってきたからだと思っていた……。

 前世の友は剣士だった、アホの子だった。フィオナもアホの子だけれど術士だ……やたら投げ技が巧みで妙に小賢しいけれど。


 そう、小賢しい。


(そういえば私が前世の記憶の事を話した時も妙な反応をしてた……)


 闘技場好きという謎の属性はてっきり原作ゲームでプレイヤーが自由に動けるようになると東部候都アズールのカジノに入り浸るからそういう性癖になってしまったのだと思ったけれど、違うのではないか?


 そして転生者ならば……。


(ザイツが転生者である事にも気付いている筈……だから? だからあそこで一緒にいた? 一足先に協力関係にあるって事?)


 自分同様にザイツを味方につける方向性に行くのは納得はできる、では、これは?


(……私と距離を置く理由は何?)


 これではフィオナは信用できない、魔王再封印隊を組む気があるのだろうか。


 確かめる。その必要がある。

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