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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第四章
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第80話:黒い腕章

 ヴァネッサが変化しないものから何かに気付き始めているその一方、まさに目を付けられたフィオナはと言えば……。


「え、えっと? 何となく?」

「本当に……??」


 墓穴を掘って誤魔化すのに必死だった。


 事の始まりは今朝に遡る、帰寮したフィオナは当然自分の部屋に帰るわけだけれど当然そこにはルームメイトがいる、当たり前、二人部屋だもの。

 そしてフィオナのルームメイトと言えば……。


 ジェシカ・レイモンド。

 お助けキャラの【転生者】で死に戻りのチート持ち、≪セーブ≫する事で死んでも≪セーブ≫した時点まで戻る事ができる。

 そして、ヴァネッサに消し飛ばされる運命を背負った少女である。


 つまりジェシカにとってヴァネッサ及び【黒い三連星】とは敵である。

 不思議とあまり敵意は沸いてこないけれども、これまでに通算二回殺されている。

 一回目はヴァネッサに盾ごと。

 二回目はクオンリィにバッサリ。


 二回目に至ってはフィオナを置き去りにするという苦渋の決断をしただけにその日は実家で一晩祈り続けた、ずっと悔やみ続けた……。

 帰寮して、フィオナの居ない部屋を目の当たりにして昨晩はろくに眠れなかった、自死でも死に戻りは発動するのか? しかし当日の夜にクオンリィ&ノエルと遭遇した際に思わず≪セーブ≫してしまっている、今のセーブポイントでは何度戻ろうともう意味がない……。


「ごめんなさい、フィオナ……ごめんなさい……これで世界は終わってしまうの?」


【ヒロイン】フィオナの死、それは【BAD END】確定を意味する、このままでは来るフェルディナンドの卒業から始まる魔王復活の災厄に立ち向かう事が出来なくなってしまう……。


 しかし、どうする事もできないというのも事実であった。

 例え死の砦のセーブに戻る事が出来たとして、"魔鞘・雷斬"装備のクオンリィ・ザイツには到底勝てる気がしない……。何アレ、チート?


 そう、ジェシカは一つの疑惑を抱えている。

『クオンリィ・ザイツも【転生者】なのではないか?』というものだ、ちなみにルームメイトが【転生者】である事には気付いていない。


 原作ゲームにおけるクオンリィの最終装備が"魔鞘・雷斬"で、それを装備するのは原作ゲームでも終盤、魔王再封印隊のメンバーこと【攻略対象】が全員仲間になった後の筈だ……。


 そして、一回目の生でジェシカは"魔鞘・雷斬"と六対一で対峙して辛勝、二回目は惨敗もいい所である、一撃死。デストローイであった。


 それに希少魔統≪雷迅≫の発動シークエンスが変化しているのも気になる。


 一回目の生ではそう、ポーズキメて「変身!!」と言わんばかりに発動して全身に雷を纏っていた、各能力向上に即死攻撃追加。

 しかし二回目、休息日初日に遭遇した際には『≪雷迅≫という技に変化していた』……技の詳細内容なんかわからない、原作ゲームでもあんなものは無かったはずなのだから……。


 クオンリィは転生者で、原作ゲーム知識で自分の最強武器を初期段階で入手した。更に何らかのチートも持っていてそれで技が変化した……そういう疑惑がジェシカにはある。

 だとすれば、これから二年生の終わりまでの各種イベントで対峙する【黒い三連星】戦はとんでもない高難易度じゃないか……。


「ただいま~」


 悶々とジェシカが悩んでいると、ガチャガチャッと鍵を開ける音がして、能天気な声と共に扉が開かれ、大きめの鞄を抱えたフィオナがやって来た。


「フィオナ?」

「うん、なんで疑問形?」


「フィオナああー!!」


 座っていたベッドから跳び出し、がっしと飛びつくように抱き着くジェシカ。


 フィオナは咄嗟に鞄を足元に放り棄ててその勢いを胸でどっしりと受けつつ、ジェシカの腰に手を廻した。

 ジェシカはお助けキャラだ、したがって強い、しかし掴み合いならば魔法キャラのフィオナちゃんの土俵、どすこい! 腰周りを両腕で抱え込んでそのまま後方に綺麗なブリッジを描こう。


 ベリー to ベリー。


 綺麗なフロントスープレックスが決まりジェシカが顔面から女子寮の廊下に叩きつけられた、ズン! と重い音が響き、登校前の喧騒に満ちていた女子寮に静寂が訪れる。

 するりとホールドを解いてブリッジから腹筋で起き上がる、馬歩の鍛錬は無駄ではなかった、体幹が向上している。


 そもそも、まるで小型犬のように扱われているけれど、ラスクはデカイ。いわゆるセキトリーヌである、可愛がっている女子達が軒並み規格外なのだ。


「あーびっくりした、いきなりどうしたの?」

「」

「……ジェシカ?」


 素早く眼鏡をかけた女生徒が走り込んで来ると、廊下に突っ伏したジェシカの右手を軽く持ち上げ、手を放す……ぱたり。

 顔を覗き込むように見ると、すぐに立ち上がって両手を頭上で交差させる様に振った。


 ―― K.O.!!


 WINNER!! フィオナ・カノン!!


 高らかにフィオナの右手が掲げられる、その光景を遠巻きに見つめる二つの影。

 改造制服のスカートは全周囲どこからでもめくれ上がりそうに短くて、真っ白なニーハイソックスが作り出すのはいわゆる絶対領域、ピッチピチに制服を押し上げる大胸……お胸が描くのは乳袋。


 そう、ありえねーと言われても不可能ではないのだ、筋肉ならば乳袋は実現できる!! 伸縮の限界まで張りつめてブラのレース模様がモールドみたいに浮き上がっている、えっち!


「あの女子は?」

「うむ、一年一組の新入生だな、名はフィオナ・カノン」

「ほう!」


 何がほうなのかはわからない、『緋色』のタイが主の闘志を受けて真っ赤に燃える。


 ――バルクはない。ヒロインですから。


 ――カットも甘い。ヒロインですから。


 しかし、見事な投げであった。


「活きのいい一年ですわね、肝試しに欲しいな」

「ふふふ、なんだケリィ朝から滾っておるのか?」

「貴様もでしょう?リリィ……うふふふ」

「往くか」

「オトコが欲しいですわ」


 ザッ、と二人の益荒男が……益荒男? 女子、益荒女。踵を返す、登校時間である。


「ちょっ! ジェシカ! 起きて!! 遅刻しちゃう!!」


 ぺしぺしとのびたジェシカの頬を叩いて呼びかけるけれど、目を覚ます様子がない。

 顔面から落としたのはお前だ。

 結局ぎりぎりの時間になって二人して女子寮を跳び出す事になったのであった。


「いきなり投げられるとは思わなかったわー」

「急に飛びついてくるから」

「だからって投げないで……っていうかフィオナ……」

「なーに?」


 早足に最短距離になる庭園横断ルートを選択する二人、花壇の縁をあぜ道代わりに使えば短縮できる、このルートはジェシカの前回の記憶だった、先導するジェシカは軽く顔だけ振り返る、その怪訝そうな黄色い瞳が映すのは……。


「その黒い腕章……なに?」


「……んんッ」


 そりゃツッコまれる、何と返したものかとフィオナは天を仰いだ……。


「んっと……貰った」


「誰に!?」


「クオンに」


「クオン? クオンリィ・ザイツ!? 一体どうして!!」


「言ってなかったっけ? 同じクラスなんだよー」


「それは聞いているけれど!!」


 フィオナとしてはもうそういうものとして押し通すつもりだった、隠す理由もないし、何よりジェシカが転生者として原作ゲームを知っているのならば最終的にヴァネッサ様から自身が身を守らなければいけないと思っている筈。

 しかし、ヴァネッサ中心に運命の流れがうねる今、そのジェシカの判断が危険だとフィオナは判断した。


 ジェシカがヴァネッサ様に逆ざまぁを仕掛けるというのなら、フィオナとしてそれは断固阻止したい所存。

 何やらフェルディナンドに近づいているジェシカがヴァネッサを破滅させようというのなら、自分が転生者であることは明かさないままフィオナ自らが人質になってしまえばいい。


(転生者と知られるのはダメだッ人質の価値が下がる……何も知らないヒロインとして私はクオンを利用してジェシカに深読みさせる!)


 それに……。


(これ、ジェシカにとっても美味しい状況の筈なんだけれどな……)

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