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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第四章
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第78話:繰り返す

 左の半身を前に押し出したい衝動を必死で堪えながらも、嗚呼……クオンリィは柄にそっと白い指先を添わせながら右手の親指がカタカタ震えて仕方がなかった。


(抜きたい抜きたい抜きたい斬りたい斬りたい斬りたい抜きたい抜きたい抜きたい抜きたい抜きたい抜きたい抜きたい抜きたい抜きたい抜きたい抜きたい抜きたい斬りたい抜きたい斬りたい抜きたい抜きたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい斬りたい……でもヴァニィ様に加減しろ(ステイ)と言われている……ステイステイステイ斬りステイ斬りステイ……)


 お前本当は妖刀か何かの転生体なんじゃないかと言いたくなるようなクオンちゃんの頭ン中である。


「……あなた、そんなに"私"が欲しいですか?」

「欲しい!!」


 オーギュストが頬の赤みを増しながら即答すると、クオンリィはふむと、一時的に紫の瞳から剣呑を消して、ぱちくりと瞬く。

 これはオーギュスト的に1キュンであった、可愛い。頭ン中あんなんですけれどね。


 一度ヴァネッサの方に顔を向けるクオンリィ、そして、小さく首を左右に振る金眼とアイコンタクト……。


(ステ~イ……ステイよ)

(でもヴァニィちゃ~ん……"私"希望みたいですよう?左前に構えてもいいでしょう?)


 軽く左肩を動かして構え変更の要求。

 当然ゴーは出ない。やめろと言っておりましてよ?


 仕方がない、眉尻を下げて少し考え込むような顔でオーギュストへと向き直るクオンリィ、何か、許可が出て爽快にぶった斬るいい一手はないだろうか?と結構本気で悩みはじめた。


 穏やかな顔立ちの少女が目の前でこてりと小首を傾げて困惑顔で長考している、というのはオーギュストにとって初めての経験で追加の1キュンであった、可愛い。考えている内容はお前の斬り方です。


 いきなり公開告白をする勇気はまさに勇者、ディランがリストラされるかもしれないピンチだけれど、あのスケベ勇者は何処に向かっているのかわからない。


 しかし告って返事待ちの間にこんな顔をされるという事はやはりだめなのではないか、ああ、片恋はここに散るのか、不安ばかりが心を支配する。

 武辺者の霊が手招きしているような幻覚が視えそうだ。


 そこへ、雷光の如き鮮烈な手が指される。

 クオンリィ・ファン・ザイツ、無い頭でい~っぱい考えた、その結果。


 悩み顔から一転、ぱっと笑顔の花が咲いた、毒花だけどな。

 1キュン追加である、いや、2でも3でも追加したい、愛おしさがフルバーストしてこの場でその唇を奪い押し倒してしまいたくなる衝動に必死に耐えるオーギュストの思考に続く言葉で紫電が迸る。


「……抜いて欲しいですか?」


「ぬっ!? ほっ!?」


 ワオ。


 うら若き令嬢がここに来て唐突に下ネタに走るとは、全く予想の範疇に無かったオーギュストは落雷でも受けたような衝撃を受け、思わず裏返った声を上げてしまった。

 抜くどころじゃない事がしたいですという下心が読まれてしまったのか?


(こ、これが抜刀の術理か!?)


 一瞬冷静になって、大事な事を思い出しそうになったオーギュストだったのだけれど、そこにすっと送り足でクオンが顔を近づけてくるのでスコーンと抜けた。キュンどころではない、ギューンである。


「抜いて欲しいんですよね? ねえ?」


「そっ……!? えっ……!?」


 とんでもないオープンドスケベトークが始まった。

 恥ずかしそうに顔を赤くする者や「不潔」と嫌悪を浮かべる女子、意味が解らず首を傾げる純粋無垢な生徒など反応はさまざま。

 ちなみに『肝試し研究会』の二人はと言えば恥ずかしそうにしなを作っている、そこの男子は悩殺されてもよいのだぞ?

 ……されどここで!? と期待していいやら戸惑うやら突発性の変則的すぎるエロ検定に男女問わずどよめきも上がろう。


 当然こんなものは下水令嬢のワナである、許可を取る為「抜刀して(ぬいて)欲しい」と言質を取ってしまおうという下水謀であった。


 オーギュストは師から抜刀術使いの間合いの忠告を受けていたにもかかわらず、既にイン・ザ・殺し間である、しかも構えているのだけれど思考の外へ行ってしまった。


 幼馴染ズにはクオンリィが何を考えているのか当然筒抜け、ノエルはニッコニコだけれどヴァネッサなど目頭を抑えて深々と溜息を吐いている。


(少しでもコイバナを期待したわたくしがおバカちゃんでしたわ~……)


 ヴァネッサがちらと横目で庭園側を見れば、例の姿が見える……タイミングはちょうど同じくらいと確認するように一度目を伏せた。


「"私"で、抜いてあげますよお?」


「――ッッ!!」


「朝から男子相手に下品な言葉を連発しているバカ娘はどこのザイツ伯爵令嬢さんですか? 落としますよ?」


「――ンホォォ!?」


 繰り返す前と同じ結構ガチめの≪落雷≫[遠距離位置固定式雷属性持続型攻性魔法]がクオンリィの頭の上から落っこちた。

 予定通りの雷神降臨である。


「ふうん……これは繰り返す、と……」


「ヴァニィちゃん、なんか言った?」


「いいえ、それよりノエル、クオるんがおパンツ晒しになってしまっています、[暗黒空間]を」


「らじゃ!」


 ヴァネッサが指示してエビ反りムーヴのクオンリィのおパンツ晒しをこの場で止めさせた。

 クオンリィがビックンビックンしているのは少し離れているのでこれでノエルが捕まれることはない筈……。

 自発的ではなくヴァネッサからの指示に変わったという心算である。


上等(ジョートー)ですわ、何だかわかりませんけれど、繰り返すと仰るのなら意地でも変えてさし上げます)


 繰り返すという事は再び誤射をする可能性があるという事……冗談も程々にしてほしい。

 運命の流れvsヴァネッサ、直接対決の様相であった。

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