表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第四章
81/175

第76話:無属性

 轟音響かせ落ちた雷は地面に強く打ち付けられ、春の瑞々しい地面は土煙の代わりに蓄えていた水分を一気に蒸発でもさせたのか、ぶわあっと真っ白な煙を爆発するような勢いで大量に発生させ、爆風のような圧と共に一気に周囲を真っ白に包んだ。


 たまらず顔を覆ってしまう者、なんかかっこいいから腕組して耐えようとして転んでしまう者、足元から湧き上がる気流にスカートが捲れないよう抑える者、飛ばされないようしゃがみ込むもの……飛ばされないようにですよ? 危ないからね。


 蜘蛛の如く地に臥せたスパイダーポーズの男子が数名いる。



「むう、あれは……臥竜の構え……!」

「知っているの!?リリィ」

「東部では強い海風が吹いて船が荒れる時、臥竜の構えにて下から覗け、東部拳法の奥義と聞く」

「ほう!」


 嬉しそうな声を上げる、爆風の中腕組をして平然と立つ筋骨隆々とした生徒が二人、タイの色は『緋色』三年生だ、スカートを抑えるなどと言う小娘ムーヴはせぬ。女子である。


 短めのスカートが捲れ上がりバルク十分、カッティングの深い大腿と乙女の譲れない一線『純白のおパンツ』を露わにしながら堂々たる仁王立ちである。


 少女達にはバタバタと翻るフラッグとスカートの差が解らぬ……流行りのニーハイソックスを装備すれば男子は入れ食いではなかったのか、解せぬ。


 尊敬するエリッサ先輩の薫陶を受け、徹底的に体を磨いてきたつもりだ。


 ビッグスリー、ベンチプレス・スクワット・デッドリフト、入学当初は一セットでも苦しかったそれに気がつけば勝利していた、まだだ、まだ先がある、今では五セットを余裕でこなす。


 ――never give up!


 諦めたらそこで終了だ、勝利者として結構な大きなお腹だったエリッサ先輩が卒業していくときにそうおっしゃっていたではないか。


 ……チャンスが来たのだ……今。

 水蒸気の白煙で視界の塞がれた今、爆風の圧をものともしないこの肉体がモノを言う、充分だ……。

 彼女達は女子とは見なされない、戦士である。


 しかし無駄ではなかったのだ、ゴリラと言われて笑われた日々は無駄ではなかったのだ。


「ゴリラ?否!我らはコングである!!」


 アルファン王立魔法学院女子課外活動班『肝試し研究会』はエリッサ・マーズエイプ卒業後も存続している。


 残念ながら男子寮攻略は五年前から成っていないのだけれど、しかし今年は活きのいい新人もいると聞いた、フィオナと言ったか? 研究会に勧誘してやってもいいだろう。


「すると彼奴等は肉食であるな?」

「然様……」


 ザッとコング二体が立ち込める水蒸気を割って歩き出す、この程度の風圧どの角度から受けても揺らぐ鍛え方はしていない、めくれない履き方はしていない。


 臥竜の構えで爆風の中果敢にパンチラを望む男子の視界の前に仁王立ちにて立ち塞がる。


「なっ!?」


 フゥワア~オ!


 パンチラどころかパンモロである、欲しかったのだろう? これが。くれてやろう。

 臥竜の構えで耐えていた男子生徒は目の前にドンと出された衝撃映像を見て、その場で完全に床に伏してしまうのであった。


「ハハ、ケニィ、童貞坊やたちには白ハイレグは刺激が強いらしい!」

「構わぬ! リリィよ、この場は水蒸気が晴れるまでに二、三人見繕えばいいのだから好都合よ!」


 充満した水蒸気も発生が一瞬だったのか、派生元である地面の水分が枯渇したか、持続的なものではなくて、生徒たちの悲鳴やドラミングが響くうちに穏やかな春の風に流れて消えていった。



 水蒸気が晴れた時、数名の男子が忽然と姿を消した……「お、おい!?どこ行ったんだ!!」『雷神の神隠し』と名付けられたこの失踪事件は意外な場所で決着を迎える事になるのだけれど、それはまた別のお話。



 さて、爆心地の様子はどうか?


 地面はオーギュストを中心に彼自身が両手を広げた程度の広さでまるで西部の荒野を思わせる圧倒的な乾燥力で変容していた、放電による熱の凄まじさを物語っている。


 しかしオーギュスト本人は外した?ドーナツ状の地面の変容は少し周囲を安心させたけれども、やがてパリパリと身体から放電し、全く力を失って膝から座り込んだオーギュストがそのまま仰向けに上体を倒したのを見て蒼褪めるのだった。


 "剣聖の弟子"の藍色のタイがボロボロに崩れ落ちていく、それは彼が『課外活動申請』をして[保護]をかけていたこと、そしてそれがぶち抜かれたことを如実に意味している……。


 胸は上下しているので息はある、息はあるのだけれど……[保護]が抜かれても安全マージンはとれている、という認識の学生たちにはとんでもない光景だった。[保護]を抜いて更に気絶するような一撃が存在するのだ。


 万が一自分が課外活動中にこのレベルのダメージを受けたなら?

 そもそも見るからに壮健で"剣聖の弟子"を名乗る少年に掛かっていた[保護]は相当強かったのではないか?


 考えを改めよう、奇しくもこの一件は[保護]に過信していた学生たちに防御魔法の重要性を意識させることに繋がったのだから。これはさす"雷神"! ですよ?


「ヴァニィちゃん……これが手加減です」


「ば、抜刀ママ……」

「なるほど?このくらいならオーケーという事ですね?」


 慄くヴァネッサに変わりうんうんと頷いているクソおバカちゃんズが左右に入ってフォーメーションが完成してしまう。

 ヴァネッサとしては完全にやりすぎだと思うのだけれど、そんなこたぁないです!行けるよ!と謎の自信が左右からビンビンくる……。


 ――困りますわ。


 クオンリィがこの程度の認識で抜けば、まさに阿鼻叫喚であろう、ストッパーになる能力があるノエルはすっかり肉欲方面に振り切っている気がしてならない……ヴァネッサが手綱を握らなければいけない……。


「クオン、ノエル、正しい手加減とはこうですわ」


 右手で姉短銃(ろざりぃ)をホルダーからさっと抜き、しゅるしゅるしゅるしゅるッとガンプレイで回しながら軽くポーズをとる。

 本人にそのつもりがあるのかは別として講師エイヴェルトにはヴァネッサの発揚した魔力が著しく『整って』行くのが見て取れる、きっと舞う様なその姿勢移動と正確な回転が良いのだろう、長く培ったからこそ……。


「――ヴァネッサ様!! いけません!!」


 はっと引き留めるように叫ぶエイヴェルト、彼女は適当に庭園に向け≪魔弾≫を撃とうとしているのであろうけれど……!


 ――ドッ。


 これまでも描いてきた、消し飛ばしたと。

 ヴァネッサ・ノワールの≪魔弾≫は無属性である。

 それは突き詰めれば消失の力、無を司る属性の使い手がヴァネッサである。

 ガード不能でジェシカを貫いたのもこの力なわけだ。


 ヴァネッサはガード不能射撃。

 クオンリィはガード貫通攻撃。

 ノエルは即死投げ(コンビ技)と、黒い三連星はなかなかの危険物に育ったようだ。


 見事な制御で整った無の魔力が短銃から庭園に向け放たれて、ヴァネッサが思った以上に大きなその≪魔弾≫はその軌道上の生垣などをを消失させるのであった。


 そして……人に当たった。

ヴァネッサの属性については……多分みんな予想していた通りです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ