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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第四章
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第69話:男子寮

 男子寮と女子寮は明確に距離がある、女子寮は校舎に近いけれど男子寮は校内の端っこだ。

 端っこという事はあの蔦の這った重厚に聳える≪大結界≫の外壁傍というわけで、これが実に日当たりが悪い。

 昼なお暗い蔦の這った外壁は、学生の侵入外出に困らないという素敵仕様。


 いつでもおいでませ女子諸君!



 来 な い け れ ど な !



 なお女子寮の隠れた伝統『肝試し』の行き先がこちらで御座います。年一回開催。

 五年前伝説の"剛拳"エリッサ・マーズエイプが三年連続踏破した、それ以外の挑戦者は誰もが引き返した男の牙城。


 勿論エリッサ嬢はお馴染みの西部産の伯爵令嬢です。

 現在は西部方面軍黄金峡谷警護師団に所属しつつ、二児を育てながら戦う若きシングルマザー。

 魔統≪獣化≫で峡谷を縦横無尽に舞う舞姫。

 ちょっと獣化しないでもドラミングできちゃう系の巨乳の持ち主で、リンゴは三つまとめて握り潰す。


 五年前の男子寮攻防戦は凄絶だったという。

 "剛拳"エリッサのドラミングと咆哮が響き渡り、男子寮特別編成有志防衛隊が震え上がった。


 ――身柄は要らぬ、胤だけよこせ。


 戒律は一つ、優れた魔統をハントせよ。


 超肉食系女子の宴、それが『肝試し』。

 当然原作乙女ゲームでは全く縁のないイベントである。


 ちなみに現在登場している女子で一番肉食なのはヴァネッサとノエルの従妹コンビである。

 あとは結構純情。

 履いてない露出狂のくせに純情。



 さてそんなマンハントの舞台でもある男子寮だけれど、きっと疑問に思われていると思う。


 王子二人もいるの?


 いません。


 王子二人は何と別棟である、しかも一人一棟。


 特別扱いが過ぎないか?とは思うけれど……。

 軋む板張りの廊下を歩きながらディランは思う。


(寮生活って大変だなぁ)


 何しろ老朽化した廊下の板材はところどころ穴が開いている、初日に気になって覗こうとしたら寮監にかなり強く止められた。

 穴の奥には強烈な呪詛があるとの事……。


(取り壊せよ……)


 おっとディラン君、きみは呪詛られる側だ、イケメンマッチョの格闘系。

 もてなかった男、ふられた男、チェリーランサー、あらゆるラブサバイバー達がここに思いを遺した。

 取り壊したならばきっと、全ての愛を呪う何かが復活する事だろう。


「やぁ、ディラン君、君も朝帰りかい?」


「っと、フェルディナンド先輩、おはようございます!……本棟に居るなんて珍しいですね」


「ふっふっふ、僕はこちらにも部屋があるんだよ」


 ディランが廊下の穴を気にしながら歩いていると、一年上のやんごとなき御方が気さくに話しかけてきた、流石に男子寮内でハーレムは引き連れていない。

 当たり前のように現在の男子寮でヒエラルキーの頂点に君臨するのはこのフェルディナンド・アルファン・サードニクス第一王子殿下に他ならない。


 ディランは初日でなぜか名前を憶えられてこうして気さくに話しかけられる栄誉を得ていた。


「おお、これは殿下、それにディランも、おはようございます」


 そこに掛かるのは昨日の夜のうちに寮に帰った半日ぶりの声、オーギュストであった。

 腰に佩びる愛剣ドライツェン、どうも魔導具らしいけれど詳しい事はディランも聞いていない、それを知るのはむしろ……。


「ふふふ、やぁオーグ、殿下などと呼ばないでおくれ、兄弟子は君なのだから」

「や、しかし、私はアルファン王国の剣なれと研鑽しておりますので」

「真面目だねぇ、ふふふ、嫌いじゃないよ」


 オーギュストは王家剣術指南役である"剣聖"の一番弟子である。


 それは王家剣術指南役になる前からの弟子で、そうなると弟子としての序列はオーギュスト→フェルディナンド→ジョシュアという王国内でも稀有な序列になるのだ。


「いえ……」

「つーかオーギュスト、なんでお前朝っぱらから帯剣してんだ?」


 そして剣聖一門ではないディランにとっては師匠の知り合いの弟子、対等である、武門とはかくもわかりにくいものである。


「ああ、先程彼女……クオンリィさんを見かけてね……ふふ、鞘を当ててみようかなと」


 鞘を当てる、帯剣帯刀する者同士が嫌う行為ではあるけれど、男女になると少し変わる。


 イイネ!


 的に使われる事も多いのだ。


 けれど。


 ヤツがそれを理解するかは、少し後のお話。

次回、弟子vs娘

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