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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第一章
7/175

第7話:ヒロイン

 ヴァネッサの去った高位貴族専用の出入り口のほうを、残されたレオナードの目は口惜し気でもなく、不敵でもなく……切なげに歪められて泣きそうになっていた。


 ――はて?


 レオナードにとってヴァネッサ様は不倶戴天の敵だった筈だ。とフィオナは思う。


(コレ……恋する少年の目をしてない?)


 【ヒロイン】に向けられるはずのソレを何故……不審に思ったフィオナは念の為にと≪前世の記憶≫の中から能動型の魔法を初めて発動させる。


 それは【好感度】可視化の目、どうしても相手を色眼鏡で見てしまうのでそういう魔法が自分の中に、≪前世の記憶≫の中にある事は知っていたけれどフィオナとしてはあまり使いたくなかった魔法なのだけれど……もしかしてこれは、という予感が使用を決意させる。



 ――――――――――――――――――――

 名前:レオナード・アルフ・ヴァーミリオン

 性別:男性

 年齢:十五歳


 フィオナ:50%

 ヴァネッサ:84%

 クオンリィ:25%

 ノエル:20%

 ロウリィ:71%

 ジ・・・

 ・・・

 ・・

 ・

 ――――――――――――――――――――



(――……ハイ、カットカットカット……やっぱりおかしい)


 フィオナは悶絶して転げまわりたい程の頭痛を感じ、慌てて【好感度センサー】を強制的にカットする。

 眼球もおかしくなるかと思った、まだ視界がパチパチする。いわゆるブラウザクラッシャー?ずらっと多分レオナードが認知している人間全員への【好感度】が列挙された、それも老若男女問わずだ、十五年も生きていればそれは結構な数になる。


 【ヒロイン】以外への【好感度】が存在するのがもうおかしい。


 十年追記だけで運用してきた数万行の『#show access-list all』をログ保存なしで読み取れとでもいうのかというレベルの流れ方だった、カットできなきゃ多分この場で吐いたし、数分虚空をガン見して立ち尽くすフィオナちゃんという超ド級の奇行を曝すところだった。

 今度から絞らないと使い物にならない、相変わらず使えないチートだなーと思いながら読み取れた欲しかった情報を確認する。


 レオナードのフィオナ自身への好感度は理解ができる、ぶっちゃけ初対面でありただ顔を知っている程度で『好きでも嫌いでもない』というのはその通りだ。

 クオンリィとノエルは『苦手』、それもまあ理解できる、クオンリィの方が高いのは何だろう?胸の差?

 は?殺すぞ可愛い担当。


 そして、やっぱり、という思いも正直あったけれど……ヴァネッサ様高すぎ。


 『好き、傍に居てほしい』という値だ、ありえないのだけれども残念ながら肝心なところで役に立たないくせに≪前世の記憶≫さんは嘘を吐かない、【()()()センサー】は()()()だ……。


 そして考えないようにしていた一つの可能性を思い返す。


 学園の入学式前に大講堂入り口で遭遇するのは誰の筈だった?

【攻略対象】であり第二王子のジョシュア・アルファン・サードニクス殿下だ、間違ってもその婚約者で【悪役令嬢】のヴァネッサ・アルフ・ノワール様と【黒い三連星】の勢揃いではない。


 それからフィオナの中に嫌な予感はずっとあった、こんなのあまりにも乙女ゲームの展開とは違い過ぎる……。

 まさか【続編】なのか、クソゲ過ぎて変に売れて製作が調子に乗ったパターンか。

 むしろそれよりさっきちらりと思ったパターンなんじゃないのかこれは、


 背中にじっとりと流れる汗の感覚にフィオナはぎこちなく頬を引きつらせて天を振り仰ぐ、



 ――これ【悪役令嬢もの】で私は【ヒロイン】だったかぁ……。



 ……



 【悪役令嬢もの】では転生などによって【乙女ゲーム】の【悪役令嬢】が主人公になり、自身の破滅を回避するべく足掻き、前を向いて頑張る姿が描かれることが主。

 足掻く過程において【悪役令嬢】は本来【ヒロイン】と結ばれるはずで、自らを断罪することになる【攻略対象】とも誼を通じて行き、逆攻略、逆ハーレムとでもいう状況を作っていく場合もある、そしてその過程あるいは結末には


 【逆ざまぁ】


 といった展開も珍しくない。


 【逆ざまぁ】は【ヒロイン】と【悪役令嬢】の立ち位置が逆になった【断罪イベント】で、大体は調子に乗った【ヒロイン】が身の程知らずを曝したりして、一時は身を落とした【悪役令嬢】が再評価されて復権したり、ハードな場合は【ヒロイン】が処刑されたりもする。

 痛快なのか人気があったけれども、フィオナとしては【悪役令嬢】と【ヒロイン】の仲良しエンドの方が正直好みだし、あるもんならもはや目指す目標筆頭と言っていい。

 さて、おやおやクソゲと名高き【まじっくアドベンチャーwithラブ】で逆になったら何が変わりますかね?と軽く想像してみる。


 【ヒロイン全DEAD END】


 ……神さま、やっぱ転生先世界をチェンジできませんか?クーリングオフ期間過ぎてる?ですよね~。

 フィオナ人生ももう十五年、何なら≪前世の記憶≫に関係無い前世の記憶は既に結構薄れてきており、実は前世の自分の名前すら忘れてしまっていた。

 親?グラント・カノンとマーレ・カノンの他にいるんですか?というレベルで忘れている。たまに軽口めいた記憶は沸いてくるもののフィオナ・カノンにはフィオナ・カノン以外の何者でもないという自覚があるしその事に何の疑問もない。


 余計な事は覚えているが肝心な事は忘れている、とでもいうのが正しいかもしれない。

 誰に対して余計で誰に対して肝心で誰に対して正しいかはわからない。


(どっちにせよ【悪役令嬢もの】の【ヒロイン】とは……また……また……ん?……んーー?)


 ……やる事はあんま変わんないかな?怖いのは【逆ざまぁ】だけれど……確信はないけどヴァネッサ様は転生者じゃないと思うし……

 ちゃんと傲慢で我儘で天然ドSでしっかり悪意があって強引でばっちり人を人とも思っていないところがある外道……。

 多分私が【攻略対象】に近づいたら殺しにかかる勢いで嫌がらせされる……それなら普通と変わらない、方針変更はしないでよさそうかな?

 ……まあ……【攻略対象】の好感度がヴァネッサ様に傾きやすくて不利、ではあるか。

 そうフィオナは分析した。


 【悪役令嬢もの】の特徴にはシナリオ面の≪前世の記憶≫がほぼほぼ役に立たないというのもあるのだけれども、フィオナがそれに気付く日は来るのだろうか。



 …………


 大講堂内、高位貴族が並ぶ席で隣同士に座っているヴァネッサとクオンリィ、不意にヴァネッサの眉間に皺が深く刻まれ金色の瞳がギラリと輝いた。


「い、いかが致しましたかヴァネッサ様!?」

「いえ……今一瞬急にピンク髪をハチの巣にしてやりたくなりましたの」

「ノエるんはピンク髪じゃありませんよ?ヤツの頭の中ですか?頭の中ですね?」


 …………



 今度こそ方針は決まった、ならば行動あるのみ。

 とりあえずは、とレオナードの方へ一歩つま先を向けたところ、誰もいなかった筈の背後から声がかかった。


「こーんにちは」

「ふぅおあ!?」


 慌てて桜色の髪を揺らして振り返る、ちょっと首の骨がゴキッと鳴った。

 そこには黒い制服姿の小柄な少女、ノエルがニコニコと瑠璃色の瞳を笑みに輝かせていた、この相手なら急に背後に現れても不思議はない、さっき一度見たのだから。

 でも誰もいなかった場所からいきなり声がかかるなんて普通にホラー、こんなん知ってても驚く。


(な、ななななななななななななんで?い、いや落ち着くのよ私、私にはもう彼女達に敵対する意思はない)

「は、はは、はい!何ですか?ノエルさん!」


 ノエルはこの桜色の少女の反応に不審を覚える。


(なんでアタシの名前、そんな親し気に呼ぶかなー……?)


 ヴァネッサ様に対してなら実に業腹だけれどわかる、他ならぬ当事者として――途中からは人垣に混ざっていたけれど、当事者としてヴァネッサ様のあのお姿を観たのだから、しかし自分はその前座に≪伽藍洞の足音(がらんどうのあしおと)≫を披露しただけ、注目は浴びたけれど、親し気に好意を持たれる理由はない。


 それはさておき、ノエルには少女に用があったのだ、不審を感じたことなど露ほど顔に出さず、わずかに首を傾けて水色の瞳を覗き込んで。


「さっきはありがとうね!!」


 一層深めて白い歯を見せる笑顔は伽藍洞ではない本物の笑顔、浅葱色の髪も瑠璃色の瞳も白い肌も、まだまだ幼さを残すその顔立ちも、フィオナには妙にハッキリと認識できた。


「え、い、いえいえいえいえ、私そんなお礼言われるようなことなんて!」


 鮮やかな色彩に笑顔の花咲く少女は、フィオナの目から見ても可愛かった。ヴァネッサ様の怜悧な美しさやクオンリィの優し気な柔和さ――クオンリィは見た目だけだけれど。

 ノエルの可愛らしさは二人にも全く引けを取らない、ちょっと幼いのも魅力を邪魔するのでなく一助となっている。


「クオるん……ああ、あのノッポね?クオンリィにあんな目にあわされたのに……それなのにあそこでレオちゃんとの前に割って入ろうとするなんて……助けようとしてくれるなんて、やるじゃん!だからちゃんと言いたかったの、ありがとう!」


 フィオナにしてみれば言われてみれば、という感じだった。とはいえあれはもうセーフだったし……割って入ったのは『レオナードの好感度が上がりそう』だったのとあわよくば【黒い三連星】、特に暴力装置のクオンリィに恩を売って手加減してもらおうという完全な下心である。


「え、えへへ、デュへ、デュへへへへ……そ、そうですか?それほどでもぉ」


 フィオナは後ろ頭に手をやり、照れながらも超卑屈な気持ち悪い笑みを浮かべる。

 素直な照れもあるのだけれど、何せアルファン王立魔法学院に来てから、フィオナの下心通りに行ったことなんてはじめてだ。


 これできっと【黒い三連星】に敗けても【DEAD END】の可能性はかなーり減ったはず。


(もしかしたら信頼されて、ヴァネッサ様救済もうまくいきやすくなるかも??「今日からこれを身に包む事を許可します」なんてヴァネッサ様に言われて黒制服来ちゃう!?私黒服デビュー!?)


 【黒い三連星】の半歩後ろに並び立ち、タイトスカート型の黒い制服で伊達眼鏡くいっくいしてる自分を空想してぐふふと含み笑い。


(立ち位置?参謀……は欲しがり?でも戦闘系と密偵系の二人よりは知性系よね、オペレーター、「敵十二時方向!来ます!」とかやっちゃったりして?なんせセンサー能力には事欠かないしね……ああ夢が広がりンぐ……ぐっふっふっふ)


 なお、クオンリィに恩を売っても「せめて一思いにやってやる」が関の山である。

 そして十二時方向は正面である。


「……う、うん、すごい顔してるよー?――……とりあえずっ!アタシはノエルッ、ノエル・ファン・ガランッ、って……学院内でミドルはナシだねー、ノエル・ガランだよ、西部出身。アナタは?」


 差し出された手をおずおずと握り返しながら、ふと思う。

 左手の握手……『不信』



――oh…………



「ふぃ……フィオナ・カノン、王都民です……」


(――あっるぇぇぇぇえぇぇえぇえ!?)


 敵対する意思はない。『()()()()には』

 変な笑いしたせいではないと思いたいフィオナだった。

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