表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第三章
57/175

第54話:オマエじゃない

 フェルディナンドのハーレム集団から一歩前に出て名乗った白い美少女は、白い髪もさることながら他の少女達と一番違うのは彼女だけが制服ではなく白い清楚なワンピースに袖を通している事だろう。

 何しろここは自宅でもある、フェルディナンドの為に一度部屋にあがって軽く身だしなみを整えて出てきたのだから、ぱっと見は普通の淑女に見える。


「……どこ地だよ……って、聞く迄もねぇか」


 紫色の瞳をすうっと細めジェシカを一瞥するクオンリィ、その顔は傍の"レイモンド商店"の看板へと向けられていた。


 クオンリィとノエルの二人はやおら姿勢をスッと正すと恭しくカーテシ―にて一礼、二人ともスカートではなくパンツ姿なので膝を曲げているのが丸見えとなってしまうけれども、挙動は洗練された令嬢のそれであった。


「ご丁寧に痛み入ります、私は西部ザイツ伯爵家が一女、クオンリィと申します。そしてこちらはガラン子爵家のノエルです」

「クオンリィ様のご紹介に与りました、ノエル・ファン・ガランに御座います」


 完璧な貴族令嬢としての名乗りだった。

 優雅で、凛々しく愛らしく……仕草だけ。


 なにしろ片方は帯刀したままだ。


 フェルディナンドの後方に居並ぶ女生徒達が息を呑むのがジェシカにも伝わってきたし、ジェシカもまたこくりと喉を鳴らした。

 なんだこいつらは。

 そういう戦慄と、明らかに貴族としての仕草は確かに堂に入っていたから気圧されてしまった。


 ジェシカの知る【黒い三連星】のクオンリィ・ザイツは常に不機嫌そうで、いつも顔を隠して、ヴァネッサの為に忖度し常に彼女のためにと【ヒロイン】妨害の実行を担ってきた少女。

 ノエル・ガランはもっと空虚な、そこにいるのにそこにはいない、ザイツを実質操作していたような"黒幕"ではなかったか?


(ザイツが"魔鞘・雷斬"をこの時点で持っているとか、私も知らない≪雷迅≫とか……ガランまでなんかコレジャナイ……)


「ザイツ様、ガラン様、申し遅れました、こちらのレイモンド商店が私の生家です。西部の商品も取り扱いが御座いますのでよろしければ今後ともご贔屓に」

「はははは!みーんなカタいなぁ!もー、学院では身分を考えちゃダメだよ?」

「ココは市井ですよ?バカ王子」


 仏血霧で一番不敬なのは第一王子に面と向かって"バカ王子"呼ばわりのクオンである。


 実際問題、ここは王城通りの店先、当然一般市街であり貴族は貴族で平民は平民。

 もっともだからと言って学院生徒は学院生徒なのでクオンリィ達の振る舞いはいわゆる『やり過ぎ』というものだろう。


 本来ならばフェルディナンドの前で膝を折らない王都民などあり得ない話ではあったけれどフェルディナンドが王立魔法学院生であることを知らない王国民などいない、会釈を送る者はいても周囲の喧騒はそこに王立魔法学院生がいるという以上の扱いをしない。

 むしろへりくだる者がいればそちらの方がよほど不敬だろう。


 クオンリィが無礼なのはフェルディナンドもまた一つ年上のお兄ちゃんとして幼馴染と言える間柄だから……ではない。単純に無礼を働いていい相手と認識しているのだ。

 "猛犬中尉(もうけんちゅうい)"の頭のロジックは犬のそれと大差ない。


「バカ王子はひどいなぁ~、ちっちゃい頃はおにいちゃんおにいちゃんってあんなに慕ってくれたじゃないか、ちゅーしてあげようか?」

「首から上を消し去れバカ王子」

「ばーかばーか」


 ついでに乗っかっているノエルはちゃっかり無礼である。

 大無礼の影から無礼を働く。


 実は下水ども、これを狙ってやっている。

 クオンは陽動、ノエルが本命の二人が言いたいことを言うジェットストリームであった。

 ……陽動が明らかに断頭台コースに乗っている。


 このやり取りにはハーレムの女生徒達も唖然呆然。

 驚きは【転生者】であるジェシカにも同様だった。


 ……しかし。


「クソバカ()()はほっといて、レイモンド商会ね?存じておりますよ?」

()()()()()()()()()()って、ウチの技師も褒めてたよー」

「今度寄らせていただきましょう……」


 文字通りの冷や水を浴びせられた、ジェシカとて生家の商いは良く知っている。

 綺麗事だけで商売はできないのは当たり前だ、多少危ない橋もそっと渡ろう。


 そっとではないぞ、西部ノワールはお前達を見ているぞ。


 伽藍洞の影、狂気の抜刀隊、荒野に響く銃士隊の咆哮、王国内で最もセメント勝負を強いる武闘派に目を付けられている。

 これは父に言わなければいけない、「手を引け」と……。


「ありがとうございます、西部のお菓子なども扱ってますよ!厚手のパイで挟んだコブラーとかも!」


「――そいつは南部ですよ……?」

「あるよねー、西部のコブラーって言いながらパイ包みなの」


 紫色と瑠璃に剣呑が宿る、どうやらジェシカは軽い地雷を踏んでしまったようだった。


「はっはっは、フツー違いなど判らないよ!」

「「ああん!?」」


 火を注ぐバカ王子、一気に"黒い双星"の剣呑が増した。

 これはまずい、そうジェシカが思った時……。



「はぁっはっはァ!民草を囲って何事かと思えば……やはりノワールか!」



 オマエじゃない、座ってろ。

 "瑪瑙城"の方角から銀朱の集団が現れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ