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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第三章
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第40話:課外活動

 お昼休みの鐘が鳴る、いつもは鐘が鳴る少し前に"勇者"ディランあたりの数名の男子がこっそり教室を出てスタートダッシュを決めているのだけれど、今日の一年一組は全員着席……いや、二名"馬歩の構え"でお昼休みを迎えた。


「それでは本日の魔法制御授業を終わります、本日お話しした魔力発揚のパターンについては『自分に合う形』を探る復習をしておくと良いでしょう……ただし、くれぐれもそこのバカ娘のように"お漏らし"はしないように。魔力発揚に留めるのも訓練になりますからね?」


 授業を終えた講師エイヴェルトは母クラリッサの顔に戻り、コロコロと笑いながら教室を出るべく"杖"改め"布にくるまれた抜刀伯の佩刀"を手に教室後方の娘の元へやってくる。


「クオンリィ、放課後教員棟へいらっしゃい『女子寮の廊下の窓』が壊されていたことについて伺いたいことがあります」

「……はぃ」


 母クラリッサは紫色の双眸をギラリと光らせて同じ色の単眼を覗き込み、お返事が得られると一度フィオナの方に穏やかな微笑を向けてから扉に向かい教室を出て行った。


 よーいドン


 いつもよりも確実に『出遅れた』男子たちが席を立って講師エイヴェルトに続いて教室を出ていく、廊下には確実に彼女の姿があるけれど、王立魔法学院の卒業生でもある講師エイヴェルトは廊下を走るなとも何も言わない。

 まさかのクラスメイトのオカンではあったし本当にすごい人だったけれどもそこは今まで通りだ。


 そして今日の一年一組にはその新情報に触発されたもう一つの流れ……"雷神の娘"に話しかけようという潮流が生まれていた。


「終わったか……ったく」


 "馬歩の構え"を解き、左手にずっと持ったままだった黒鞘の美麗な業物"魔鞘・雷斬"を腰の白銀のサッシュに差し込む、まだ会って数日だけれどフィオナにはそれがクオンリィが走ろうとしている準備なのだと察しがついて、自らも"馬歩の構え"を解いて床に四つん這いになりながら水色の視線を帯刀少女に向けた。


「き、きっつ……」

「だらしがねぇ、生まれたての小鹿ですか?子豚ですか?」

「わんわんスタイル」

「……"上等"だゾ……くっ、ですが今はあなたに構ってる暇はありません」


 クオンリィは優先順位がヴァネッサに偏っている、二組の主上へ『"雷神"が来るので午後の授業は寝たら危険』と伝えなければと意識がそちらに向かっているならこのくらいの煽りはスルーされる、フィオナの日々の観察と実践の賜物であった。


 その時、"勇者"が仕掛けた。


「あ、あの!おっぱ……いやザイツさん!"雷神の娘"だったのかよ!"雷神"って普段は……」

「邪魔だ、斬り捨てられてぇか?」


 "勇者"よ、おっぱ……何と言おうとした?


("勇者"よ、初手でその単語が零れそうになるアンタが幼馴染でアタシャ恥ずかしいよ……)


 ディランが文字通り即座一閃に斬り捨てられてせっかく生まれた潮流も「また今度にしようか……」というものに変わってゆく。

 これに眉を跳ね上げたのは悠然と教室を出ていこうとしていたジョシュアであった、僅か穏やかな表情に陰が差す。


 ジョシュアが速度を上げるのとクオンが廊下へ踏み出したのは同時!

 昼休みのフィオナの脳内に【戦闘BGM】が高らかに響きはじめ、廊下からドゴンとか重い音が聞こえた……。


(ほっとこ、ジョシュアは関わっちゃダメ)


 まず間違いなくジョシュアvsクオンリィが廊下で始まっていてとても観戦したいけれど自分のスタンスはあくまで『ヴァネッサを死の運命から救う』事、ジョシュアに極力関わらないようにすることは少なくとも彼女の【DEAD END】を回避する事には繋がっている筈だ。


(いつかは向き合わないといけない問題だけれどね……【課外活動勧誘】がうまくいくくらいには何とかしたいけれど)


 【攻略対象】達で課外活動パーティを組まなければ【ヒロイン】が≪封印≫の希少魔統に覚醒する事はできない、覚醒できなければ『ヴァネッサを死の運命から救う』どころかぶっちゃけ国が終焉を迎えてしまう【BAD END】だ……フィオナ自身も勿論【DEAD END】を迎えてしまう。


 よっとこせと膝立ちになるフィオナの前に男子の右手が差し出された、"巨乳派おっぱい聖の使徒"の手だ……施しのつもりか異端者め。

 その手を掴めば、男の子を感じさせる力強さでぐいと引っ張り上げてくれる、痛くならないように気を配ってくれているのはなかなか得点が高い、気に入った、今度うちに来たらラスクをモフらせてやろう。


「しっかし"雷神の娘"とはな、フィオナは知ってたのか?」

「いんえまったく存じあげておりませんでした」

「すげぇよな、オレ『雷女vs抜刀男~新婚初夜の決戦~』好きなんだよなぁ……」

「あんたの真昼間っからそのタイトルを堂々と口にできるエロ魔人っぷりにはあきれるわ……でもそれ絶対クオンに言っちゃだめだよ?」

「――なんで?」


 にへにへとしながらそっちで全国区のエロ小説の名前を口にする、なお"雷神"未公認だ、なんで?なんて不思議そうに緑色の目をキョトンと丸くしているアホには何を言ったらいいのやら、怒られちゃえとも思うけれども。


「……ディラン……自分のルーツが公開されてるなんて知りたい?」

「……おお……キッツイなそれ」


 自分だっていやだ、逆の立場でパン屋の情事など発行されていたとしてもその内容が事実か判らない上に事実か確かめたくもない。

 ディランも元王領騎士というお母さんと鍛冶屋のお父さんの濃厚なぶつかり稽古でも想像してしまったのか苦々し気に口元をゆがませ目頭を抑えて天を仰いでいた。


「さ、わたしらも買いに行かなきゃ!いこっ!この時間なら正門屋台かな?」

「最近ちらほら一年も増えてきたんだよな……ああ、行こうぜ」


 二人して並んで教室を出ていく二人を、机を合わせて寮の簡易キッチンで作ったお弁当組のフレイ、ギギ、リオネッサが見送る。


「アイツら付き合ってんの?」

「んー、昔から仲いいよあの二人……」

「興味深いですね、ギギ……話せる範囲できゅんらぶなお話を!」

「あ!それなら明日休息日じゃない?フィオナはたぶんおうちに帰るし、ディラン君もきっと……」

「ほう、いいネタじゃねぇか……尾行(ツケ)るか?リオネッサ」

「では明日は――……」


 下世話かもしれないけれど、友人の恋路鑑賞が楽しくて仕方がない三人だった。


 ……


 明けて翌日、新入生たちにとっては初めての休息日である。

 とはいえ休息日は二日間しかない、これでは馬車で王領内の衛星都市でさえ帰りを考えるとかなり強行軍を強いられる行程だから、基本的に地方出身者は寮から出ずに自習に精を出す生徒、まだまだとても回り切れていない広大な学院内の散策に繰り出す生徒、王都サードニクスへの外出許可を取って市中で休息日に合わせて会いに来てくれた家族友人と過ごす生徒など多様様々。

 王都出身者も必ず家に帰るわけでもないから、地方出身者と大して変わらない。

 そしてどちらにも共通しているのが王都サードニクスへの外出許可を取って市中で遊ぶか、友人たちと課外活動に精を出すか。


 課外活動とは学院生が生徒同士で班を組み、研究であったり鍛錬であったりに励むいわゆる部活動。

 『課外活動の為』と申請すれば許可を待たずして学園の、王都の外へも外出が可能。

 そしてその課外活動の班で最も多いのが対魔物戦闘訓練……。


(ま、一言で言ってパーティ組んで【レベル上げ】)


 早速自宅に帰ろうとしたフィオナだったけれど、面倒な事になった。


「フィオナは課外活動行くの?」

「ンーどうしよっかなって」


 二本の白いアホ毛を揺らすジェシカ・レイモンドはお助けキャラである、原作ゲームで【ヒロイン】の課外活動パーティの初期メンバーになってくれるのだ、装備は片手持ちの弩と中型盾で、剣も使えるオールラウンダータイプ。そしておそらく現時点では一年最強、最強の仲間……なのだけれど……。


(【転生者】だから何をして来るか予想ができない……)


 とはいえ数日探って少しだけわかった事は、ジェシカはフィオナの【転生チート特典】≪前世の記憶≫と同じものはたぶん持っていないという事だ……。


 例えば≪前世の記憶≫【戦闘BGM】は認識範囲内……最近それも怪しい現象<※下水道の闘い>に出くわしたけれども兎も角戦闘行為が発生したと≪前世の記憶≫さんが判断すると勝手に発動する。

 フィオナは大体ピコン!と反応してしまうけれど、先日ジェシカと一緒に夕食に向かおうと寮内を歩いているときにまた【戦闘BGM】が発動、少しして上の方の階から遠く微かにガラスをぶち破る音がした時だった……。


(ジェシカは、【戦闘BGM】の発動に反応しなかった……。それなのに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!タイミングのずれの可能性もあるけれど、驚いたように()()()()()()()()()()()()!ジェシカには【戦闘BGM】が聞こえていない可能性が高い!……割ったの誰?たぶん猛犬中尉(もうけんちゅうい)


 もちろん、()()()そうしている可能性も排除はできない、だけれどそこまで警戒されているとも思えない。

 寝る前に床に就いたままジェシカとお話しする事はあったけれど、その内容は封印された魔王の話だったり【原作ゲーム】の話が多かった。もちろんフィオナは知らないふりか適当な相槌と寝たふりで返す。


 これらの事からフィオナが推測しまとめた内容はこうだ。

 ・ジェシカは前世の記憶がある【転生者】だけれど≪前世の記憶≫はない。

 ・フィオナの事は【ヒロイン】と認識しており攻略を進める意思がある。

 ・フィオナが【転生者】で≪前世の記憶≫持ちとは気付いていない。

 ・ヴァネッサが自分の【DEAD END】であることを知っている。


(そりゃ【BAD END】は全部終焉(おわ)っちゃうから、わたしが≪封印≫を意識してくれた方が都合がいいもんね……)


「んぅ?んー、そうだなーどうしよ……多分実家でラスクと遊んでる~!」

「あー、いいなぁわんちゃん。よろしく伝えといてね?」

「入学してなかなか会えなくなっちゃうと寂しくなっちゃって!」

「わかるわー」

「ジェシカは休息日なにすんの?」


「私?私はねー、えへへ、フェルディナンド先輩と課外活動(デート)行くんだ~!いいでしょ!!」

「ぶっほぉ!?」



 ――……お前今なんつった!?

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