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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第二章
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第32話:"勇者"ディラン

 原作乙女ゲームの『世界の流れ』での【攻略対象】"勇者"ディラン・フェリは、幼馴染の【ヒロイン】が≪封印の聖女≫に『覚醒』して"魔王再封印隊"を結成するに至り、彼もまた【ヒロイン】への思慕に"魔王再封印隊"への参加を志願する。


 しかし、彼は聖女の幼馴染ではあっても所詮は平民、なかなかの戦闘力にそこそこ魔力は高いが強い魔力をもたらす希少魔統の持ち主ほどではない。


「キミの熱意は買う、熱意は買うし今まで課外活動を共にした身だ、無碍にはしたくはない、だけれど諦めてくれないか?これはキミの為に言っているんだ、【ヒロイン】さんはボクが守るよ、この槍で……だからキミはこの学院を護って待っていてくれないか?」


 ジョシュアが眼鏡の奥の優しい眼差しを苦し気に歪めながら。


「仲間に、いいや仲間だからこそ言わせてもらう、ディラン君は力不足だ……ジェシカ君がここに居ればディラン君も納得できたのかな……こんな時に彼女に一体何が……」


 既に魔法学院を卒業し、継承権は二位のまま"王太子"となった身ながら、その≪燦然(さんぜん)≫の魔統によりこの危険な旅には外せない最高位の回復性能を持つフェルディナンドが。


「貴様に出る幕はない、ここに残り家族を守れ……!いいな?……よもやは起こるかもしれぬのだ……ここを頼む、残れ」


 先日両親家族を魔王軍に殺されたレオナードの言葉は重い、かつての傲慢さは消え、威厳に満ちた朱の瞳は復讐に染まって深く昏い。……声変わりは済んでいないけれど。


「何なら、諦めさせてやるが?」


 オーギュストが佩剣の鍔元を鳴らしながら怜悧な視線を向けてくる、彼もまた平民ながら、彼は"剣聖の弟子"なのでジョシュアやフェルディナンドにとっての兄弟子にあたる凄腕で希少魔統≪聖剣(せいけん)≫の主であった。


 ディランにとって今まで課外授業を共にした、共に魔法学院で学んだ掛け替えのない友からの戦力外通告。


 ――そして。


「魔王再封印にはこのわたくしが同行して差し上げますわ、控えなさいな?平民」


 妖艶に微笑みながら肩にかかった艶やかな黒耀の髪をしなやかな指で背に払う【悪役令嬢】ヴァネッサ。


「やってやる!証明してやる!俺ができるって事を!――陛下!コイツ等五人!全員()したらオレを【ヒロイン】の旅に同行する許可をくれよ!!【ヒロイン】を護る許可をくれ!!ずっと護って来たんだ!今更生まれついての国家資格が必要だなんて言われてハイソウデスカと引き下がれっかよ!!」


「諦めさせられたい、と」

「馬鹿もここまでくると哀しいな、かつての己を見るようで憐憫を感じるぞ」

「力不足だと……わからせなければいけないか」


「……父上、防護結界をお願いします、すまないが兄さまは支援役だ、もしもの時の為に控えてくれ、ボクとレオとオーグ……そしてヴァニィの四人……一人づつ相手になろう――証明して見せろよディラン・フェリ、例えボクの槍からでも【ヒロイン】さんを護れるってことをね……!」


「ジョッシュ!わたくしに平民と一人で戦えと仰るの!?」

「ヴァニィ……ここは危険な旅の編成の場だよ?クオンがいなくなってしまってヴァニィが平静を欠いているのは理解しているけれども、ボクたちも……突然ジェシカがいなくなってしまってより確かな戦力編成をしなければいけないんだ、わかってくれるかい?」

「……っ……仕方ありませんわね」


 ヴァネッサと離れ背の槍を手に取ったジョシュアがヒュンヒュンと槍を鮮やか巧みに旋回させる。

 王家剣術指南役である"剣聖"から体術を学び、王領騎士団で"槍術"と"王領棍術"の功夫を積んだ彼は文字通りパーティの一番槍を務める"槍闘士"だ、ディランと共に前線を支える彼が一番手か。


 対するディランは両肩に装着していた大きめの肩盾を戦いを前に外すと、盾の内側に収納されていた手甲部を引き出して両の腕に()()()()()装着した、喧嘩"格闘術"と元"瑪瑙城"護衛騎士から学んだ"盾防護術"の融合。

 バランスは悪くなったが盾の遠心力が載った手甲拳撃は重く、タワーシールドの大きさ厚さは無いながらバックラーよりははるかに大きく重い肩盾二枚を腕に装着してあらゆる攻撃を受け、止め、いなし、弾く。

 人呼んで"盾闘士"、希少魔統を持たないディランが【ヒロイン】を守護(まも)るために考案したオリジナルのファイティングスタイル。


「ジョシュア!メガネ割れても知らねぇからなッッ!!」


 このパーティキャラ同士の三連戦とヴァネッサ戦、プレイヤーはディランを操作する事になる、ここでディランは希少血統≪勇者(ゆうしゃ)≫に覚醒する事になり、遂には実は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()【悪役令嬢】ヴァネッサ・ノワールの漆黒の思惑さえその拳で粉々に打ち砕いた。

 ディランがこれを偶然目撃していた事が後のヴァネッサの断罪へと繋がっていく事になる。


「証明して見せたね、ディラン……眼鏡が割れてしまったよ」

「このオレの炎すら凌いで見せたか……勝手にしろ」

「剣聖流剣術が防がれる、と、その力は本物だ……次は俺が勝つぞ、相棒」


「こ……こんな、こんなはずじゃ……このわたくしが?たかが平民に?ジョシュアの為にわたくしがわざわざ一緒に行って差し上げようとッッ!こんなもの納得できなくってよ!ああもうクオン!肝心な時に一体どこに行ってるの……!再戦よ!ノエルも加えて再戦を要求します!」


 不満を訴えるヴァネッサはノエルに諫められ、陛下の命で謁見の間から引きずり出されていった。


 ちなみにこの時のヴァネッサ様はなぜか親衛隊ガードだけは発動するが拍子抜けするほど弱い、少し前のイベントでもう後がないと必死になって魔導具"魔鞘・雷斬(ましょう・らいきり)"を持ち出してきた同じ【黒い三連星】クオンリィとの決戦が超強かったので余計に落差を感じてしまう事だろう。

 ジェシカの無念が置き土産か、それとも別の要因か。それは別の話。


 ディランはその実力の証明をもって魔王再封印隊への加入を認められたのだ。

 ジェシカという戦力の要を失った課外活動パーティはディランのパワーアップで総合力を整えて魔王再封印の為に旅立つのであった。

 そしてディラン個別ルートに入るとディランは再覚醒して≪聖女の勇者(せいじょのゆうしゃ)≫の魔統に目覚め、タンカー兼アタッカーでありながら名実ともにトップエース、戦力の要として活躍する。


 ……


 ――はずだった。


 "乳神信仰巨乳派おっぱい聖の使徒"となり下がりおったこの異端者は一体どこへ向かうのだろう。

 真の乳神信仰は大きいも小さいも愛でるものだぞエロ異端者め、幼馴染のちっぱいじゃ繋ぎ留められませんか?ちっぱいって言ったか?殴るぞ?


 女子更衣室の覗きに向かうのか?"勇者"よ。

 女子トイレの覗きは流石にサイテーだぞ?"勇者"よ。

 ……女子寮のお風呂覗きに向かうのか?"勇者"よ。

 ヴァネッサ様のお部屋は四階で内風呂までついておるから滅多に浴場にはいらっしゃらないぞ"勇者"よ。

 それでも挑むのか"勇者"ディランよ。

 フィオナが蔑みの眼差しをじっとりと購買部へと向かうべく廊下を歩く前を往く男子制服の背に注ぐ。


「うっへぇ、めちゃくちゃ混んでるな……ん?アレって"眼帯おっぱい"じゃねぇか?休みじゃなかったのか」


 このやろーおっぱい見つけるのはえーなこの人混みで……と一瞬思ったがフィオナにもクオンは余裕で見つけられた。


 長身の彼女はいかにも凶暴そうな光を紫の単眼に浮かべて、首の後ろで一つに束ね前髪は右眼の上で分けられた亜麻色の髪はふわと魔力発揚に浮き、周囲を軽く電気がパリッているのがこの距離からでもわかって。


 ――【攻撃範囲】が細く鋭くカウンター前に並ぶ生徒の列をがっつり貫いていた。


(こいつぁ巻き込まれたら大事故だ……)


 何せ昼休みに入って変わった【戦闘BGM】はクオン戦の曲だ、未だにずんずかずんずか鳴り響いている、ヤツァ戦闘中だ……何と戦ったらあんな大惨事になるのやら、くわばらくわばら。

 こそこそと逃げ出そうとするフィオナ。


(ディラン?ついてくるでしょ)


「あれ?おいフィオナ、声かけねーのか?仲良さそうにしてたじゃねぇか」


(ほらね、っつーかシャーーラップ!気付かれたらどうすんの!あんたあの【攻撃範囲】が……あ、ディランには見えないんだったわね、ほらさっきの授業で習ったでしょう!?あれが魔力『発揚』してもう電気パリッてらっしゃるから発動『準備』も終えた状態よ!……ははぁん、さてはお前さん目ェ開けたまま寝てたな……今度復習付き合ってあげる)


 単純にディランは理解しきれてなかっただけだが暢気にフィオナの隣に並びながらついてくる。

 まだあたしの幼馴染だ、「こいつは攻略済みなの」フィオナは少し嬉しくてなんだか胸が高鳴るのを感じていた……いーや、ヤベー現場に出くわしてどきどきしているだけだ、嬉しくなんかない。



「――そこまで、()()()()()クオンリィ・ファン・ザイツ中尉」


(ほぇ?クオンって中尉さんなの?ヴァネッサ様の側近だからもっと上かと思ってた)


 背後で何やら始まったのでこっそり振り返ると、まさかの亜麻髪左眼眼帯キャラ被り同士の対峙が目に飛び込んできた、しかも購買のおばちゃんは恰幅がいいがどことなくクオンにそっくり、お母さんですか?クオン将来ああなるの?ウケるー!

 叔母です。


 これは面白い事が始まりそうだと好奇心を羽箒でこしょこしょされて、フィオナはオーディエンスの一人となる事にした。

 あまり背が高くないのでよく見ようと背伸びしたりぴょこぴょこ跳ねていると後ろからディランが腰を掴んでグイと持ち上げてくれた、知ってたけどディランって意外と力持ち、乙女のウエストいきなり掴んだことは今は許してあげるんだから。


「デイム!ターエ・ジャクソン大尉殿ッ!ご無沙汰しておりますッ!デイム!」


 なんかすげーのはじまったなーとフィオナは完全に闘技場で演説パフォーマンスを眺める気分になってだらーと肩の力を抜いてアホ面浮かべるのだった。


「……フィオナ、脱力するな……重い」


 掴み上げられたまま後ろ蹴りで軽く蹴ってやった、今はこれで勘弁してやる。

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