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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第二章
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第30話:絶対変な娘だと思われた!

 入学式夜の女子寮、目の前の白い少女がとんでもなく危険な事に気付いてしまったフィオナは何処かぽかん、とした表情でジェシカを見つめていた。


「あ、あはは、ごめんごめん混乱させちゃったよねこの話は」

(まずいッ!没頭し過ぎた!!)


 ジェシカが話を終わりにしようとするが、申し訳ないけれどそうはいかない……この機会に少し確かめさせてもらうっ!とばかりに、手早く日記等を鍵付きの棚にしまい込み施錠して夕食に出かける準備をしながら問いかける。


「ううん、その転生って生まれ変わりの事だよね?うちのお婆ちゃん『次は貴族令嬢に転生してワシのテクでブイブイ言わせるんじゃ』って絶叫しながら死んでいったけれど……転生する前の事覚えていられないんじゃないの?覚えてられたら自分の子供とかの様子見にきたりしてもっと騒がれてるよね」

「ヤバイねフィオナのおばあちゃんキレッキレじゃん。でもまぁ、その転生。……で、私は転生する前の記憶があるんだなぁこれが」

「うっそ!!え?わたしを助けるって……まさかわたしが生まれる前に死んじゃったお爺ちゃん!?女の子だよねぇ!?」


 お助けキャラに転生したからと言って主人公を助ける義理なんてきっとない、でも彼女は、ジェシカはルームメイトのわたしを助けようとしてくれている、ありがたい、嬉しい。


(だから……ごめんね……?()()()()()()()()ッッ!……ジェシカは危険、超危険だ……でも、()()()()()()()……!!)


 改めて二人で会話を続けながら一旦部屋を出て扉の鍵をかける、鍵は部屋に案内されたときに寮母さんから貰ってフィオナが開けたので、ジェシカの鍵がちゃんと使えるのか確認する意味も兼ねてジェシカが鍵を閉める。

 毎年数組片方の鍵が違って閉め出されたり施錠できなかったりする事があるらしい、古い建物なのと……ルームメイトの鍵を盗んで恋人に渡してしまう生徒が多いからなのだとか。


 二人並んで女子寮の廊下を歩き、まずは女子寮の出口へと向かう事になる。

 食堂や購買は教室棟の隣にあるので一旦外を歩くのだ。


「フィオナちゃん大きくなったねぇ、おじいちゃんが助けてあげるからねぇ……って違うわ!」

「おじいちゃん……!!」

「だから違うってば、子犬のよーな目で見詰めないで!んー、私転生する前は高校……あっちゃー……こっち高校とか無いじゃん、は、ハイスクール……あー英語で言いなおしてどうするのよ!!」

「え?スクールって学院だよね?ハイってハイローラーのハイ?」

「さっすが【乙女ゲー】世界ッ!緩い!そうだよハイローラーの……っていきなりギャンブル用語出てくるとは思わなかったわ……あー、そうね、みんな封印行かないでカジノ入り浸るもんね……」


 ジェシカとしては『自分以外の中身が入っているヒロイン』を分析しようとしているのだろう、言葉の端々に原作とこちら側をすり合わせようと情報収集しているのをフィオナは感じていた……下手は打てないなぁ。


「あたしはカジノより闘技場が好きッ!武術大会とか超燃えない!?」

「えっ……!?」


 ――下手打ったーーーーーー!!!!!!


 闘技場観戦、血生臭いながらも近年はエンターテインメント性も重視するようになり、ヒーロー選手、ヒール選手に何となく分類され、固定タッグチームや軍団派閥もいる。

 試合中の乱入や審判への暴行、実況席破壊、超巨大魔法水晶ディスプレイに映し出されるバックヤードでの急襲、そして敢行される馬車突撃。


 今の死んだんじゃ?と思われてもご安心、主催のマクマード王領伯爵の希少血統は≪復元≫という『事前に契約を交わした者の完全回復』という出鱈目なものだ、ただしかなり制限が多く、強力な回復系魔法であるが王家の誰も契約していない……なにしろその契約には『マクマード伯が命ずる試合に必ず出場しなければいけない』という隷属契約に近い強制力も含まれるからだ。


 無論全試合賭け試合「ベットしないならお帰り下さーい」、そのくせ乱入無効試合でも強気の払い戻し無し!こんなん、一五歳の小娘が入り浸る趣味ではない……観客席おっさん荒くれ飲んだくればかり、そこに咲く一輪の愛らしい花。


「いけぇええブッ殺せええ!!」「たーのしー」「お前に全財産賭けてんだよ!!勝ってよ!!」


 フィオナちゃんの為にも言い訳させてほしい、最近は少しづつ、少しづつ女性人気も上がっているんです。

 女性闘士とかもスライムとか相手ばかりじゃなく女性闘士同士の試合も組まれる様になりましたし……vsオーク戦?フィオナちゃん未成年の一五歳なんで夜の部は観戦できませんけどなんですかね??

 これが王族や他高位貴族がマクマード卿と契約しない一番の理由である、キズモノにされても回復できるがいろいろキズモノ確定である。

 民衆の支持と莫大な資産で地位を保っているが、なければ王領騎士団暗部が黙ってはいまい。


「……っあ、いや、平気よ?引いてない、引いてないから…………やっぱバトルだけは凝ってたからかなぁ……」

「ちょ、ちょちょちょちょちょっと待って!?わたしは……」


(まずいっ!【戦闘BGM】とか言ったらバレル!)


「戦ッ……士達の厚い筋肉とかがね?スキなの……」


 お互い歩きながらではあるけれど若干?気まずい沈黙が流れるのだった。


 ……


(お互いあれからは当たり障りのない会話して寝たけど……絶対変な娘だと思われた!筋肉フェチ且つ闘技場の売店の激安モツ煮で『やっぱりこれよ』とか言いながら昼食をとってると思われた!……後者は事実だけれども……)


 ほぅ、と溜息を吐くと、カラーンカラーンと鐘の音が響く、二限目終了だ。


「はい皆さん、本日の魔法学の授業は終了です。本日の個所はしっかりと、特に『発動シークエンスと制御』については習っていても日々習慣で使用している魔法ですから誤解しがちです、正しい法則をしっかりと覚えるように。質問がある方は個人別に、余計な事を聞くと雷落としますからね」


 講師が教科書を手に退出し始めると、昨夜の夕食時に先輩と交流して何か聞いたのか購買に一目散に走る生徒や講師へ質問しようとノーとを手にその背を追う生徒、ジョシュアは数名の男女取り巻きを従えてゆったりとした歩みで出て行った。

 他には友達同士で部屋備え付けの簡易キッチンで作ったお弁当を食べる為机を並べて……。


「ギギィ?リオネッサァ?バカマスクゥ?……わたし聞いてないんですけれどおおぉおぉぉおおぉ!?」


「あ、フィオナ!悪ィ悪ィ!昨夜西部壮行会で話してさ!姐御には『私はヴァネッサ様の所に行くので結構です』なんて言われちまったんだけど、じゃあうちらはってな!つーかお前なんで来なかったんだよ、姐御の『余興』すっごかったんだぞ!!」


「私とギギは正式にヴァネッサ様派閥に加入しましたわ、それもクオンリィ様の推挙で親衛隊に!私が一年筆頭なんですよ?」

「私も親衛隊―!フィオナちゃんち宅配サービスもやってるんだね、今朝ちゃんと寮に届いたよー。今日もいただきまーす!」


(来なかったんじゃなくてそれどころじゃねぇところでヴァネッサ様をお守りしてたんですーバーカ!余興!?何それ!!……え?親衛隊!?へ、へぇ……わ、わた、わたしは四人目の【黒い三連星】ですしおすし……ってちょっとパパああああぁぁああ!?何それ言ってよ!私宅配してたとか知らないんだけど!?食べ飽きてるけど!食べ飽きてるけど食費が浮くのに!……ってかフレイは親衛隊じゃないの?ああ、フレイはクオンのほうか)


 フレイ、リオネッサ、ギギの言葉に内心でツッコミまくりながら、ぐぬぬと悔し気に歯噛みしていたフィオナ。

 別にフィオナの父グラントも隠していたわけではない、実家の朝の手伝いをちゃんとしていたら宅配していたことも知っていたかもしれないのだけれど、朝早すぎてフィオナは寝てるか起きてもラスクとお散歩に行ってしまうので知らないだけである。

 だけれど、この時フィオナにはティン!と来た!


 急にイヤに余裕のある笑みを浮かべて三人を睥睨すると、しゃなりしゃなりと歩いてから席を立って鈍った体を解すよう伸びをしている男子の襟を後ろから引っ掴む。


「うぉっ!?……ってなんだお前かよ、なんだ?あいつらと飯食わねーの?女子は群れるんだろ?」


 その男子、ディランはワイルド系のイケメンだった、雑にかきあげた金髪、大型のネコ科を思わせる目尻の上がった緑の目、顔立ちも精悍さが際立っていて、結構クラス内の女子でも人気が高い。

 フィオナは頬杖着いてボンヤリ雲を眺めているので前の休み時間も話しかけられずクラスの女子の輪からちょっと浮いちゃったから知らなかっただけである。


「ディランもどーせ一人だと思ったから付き合ってあげようと思ったのよ!って言うかアンタ昨日アタシの事見捨てたわね!?」


「い、いや、見捨てたとかじゃ……な、仲いいのかな?って」

「もー!じゃあ今日のランチおごりね?」

「ぅえ!!せめて購買弁当にしてくれよー!あんま小遣い残ってねぇんだよ!」

「そんなの休日に闘技場行けば取り戻せるわよ!」

「お前が『入学前だから勝たせてくれるに違いない!三倍になる!』っつった結果がこの惨状なわけだが!?」

「はじめは勝ったでしょう!?……っと、三人とも、()()()()わけだから」


 呆然と見送るリオネッサ、ギギ、フレイの三人、特にフレイは愕然としている。なんだね?気が有ったのかね?

 勝者の笑みを浮かべ、ディランの肘に手を通してヒラッヒラ片手を振るフィオナ。残念ながら攻略済みなんですぅ~!


(勝った!!)


 フィオナがクラスメイトになかなか下水マウントを決めたところで、フィオナの頭の中に流れていた【戦闘BGM】が変わった。


(!?……このイントロ……クオンリィ戦4だ、やっぱ朝から暴れてたんだねーほんとバーサーカー……まぁ、下手にジェシカって女に気を付けてなんて言っても逆に怪しまれるだけだし、今のところは……うん、クオンに打ち明けるのは、意味がない……と思う。ゆっくり話はしたいけど巻き込まれたくはないしそっちはそっちで頑張って!)


「さ!いいわよ購買ね?一番高いの買うんだから!」

「勘弁してくれよ……」


 水色の瞳を輝かせディランの腕を引っ張るフィオナ、困ったように眉間に皺を寄せながらも力なくとも朗らかに笑うディラン。

 何処から見ても幸せな若い二人だった……。


 フィオナが残弾を無駄に減らすまで……。

 フィオナが幼馴染にパンツ丸出しで笑い転げる姿を見られるまで……。


 ――あと、少し。

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