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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第二章
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第27話:むなしい勝利

 

 一方、女子寮のノエルはクオンが多分ガラスを破って外に飛び出したと思われる音が聞こえて間もなく、当初の予定通り一人になれたので扉をカツッ!とかかとで掠らせる様に蹴って音を発生させ、≪伽藍洞の足音≫の[空間転移]で空間に割れ目を作って無事室内への帰還に成功していた。


(ヴァニィちゃんは……よし、起きてない……!)


 ノエルにとってこれは最後の大博打だった、蹴った音がヴァネッサ様の耳に届いて起こしてしまっていたら、伽藍洞から出た直後の一歩目を撃ち抜かれてしまう。

 幸いにしてヴァネッサ様も眠る時は短銃姉妹(ろざりぃ&しゃーりぃ)を手放すので小型拳銃(ぱりす)の一発だろうけれど、扉をクオン諸共スッ跳ばす威力で撃たれたら体の小さいノエルではどこまで吹き跳ばされるか想像もつかない。


 廊下同様の静謐な空間にフラワーポットのアロマとヴァネッサがいつもつけている香の薫りが微かに混じっていて、その存在をノエルに報せてくれていた。

 少し忍び足でヴァネッサの部屋への続き扉に近づいて聞き耳を立てれば、すやぁしている寝息が微かに聞き取れる。


(さて……)


 当初の、というか最終目的である所のクオンが『買い出しに行って戻ったら自分一人だけが締め出されててざまぁ』という目的は既に果たされた。

 ない胸を張る、ないは余計だ。

 念のためとノエルは再び忍び足で応接室の鍵を確認しに扉まで戻る。

 鍵は掛かっている、良し。



 ――とは言え。



(どーーしよっかなーー…………)


 ノエル、まさかの考え無し(ノープラン)であった!!下水の上にバカである!!


 本人は知る由もないが完全にクオンの読みが的中している、嵌める事に夢中になり過ぎて術中に嵌っている。

 このままでは『嵌めさせる事が罠』のクオンに敗北ランプが点灯するのも時間の問題か。

 今回のショーダウンは『より下水女を決める戦い』。

 つまりより下水行いをしたヤツが負けるのだ……猜疑は破綻している、その通り、『猜疑に呑まれてクオンを嵌める事に注視してしまったノエル』と『破綻を理解して即座に次策に繋いで顔面"敗けドッグの刑"を狙うクオン』…………これは。


 ――……一番下水にスケキヨする栄光を"今、西部で一番イカレてるギャル"こと"猛犬中尉"に譲ってしまうのか?譲って良くね?



(あ……てかよく考えればどっちがよりげっすいかを擦り付け合うならげっすくないことした方が勝ちじゃん……)


 気付いてしまった、レギュレーションは共通認識ではない筈だが以心伝心互いの心に確かに存在する。


(――……どうする!?まだヴァニィちゃんは起きていない、もう一度≪伽藍洞の足音で≫廊下に戻る……――ダメッ!()()()()()()()()()()ッッ!!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!!それじゃヴァニィちゃんが起きちゃうッ!ダメ!!何てこと!?()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッッ!!)


 何てことだ、『術者、術に溺れる』とはよく言ったものだ。


 魔法というものは非常に便利で、特に強力な希少魔統を持つ者はその利便性が常時自分のものとして使える為、使えるなら使ってしまうという術者が多い、しかしそれは時として意図しない結果に繋がってしまい、失敗に繋がるということわざである。

 まさに今のノエルは当たり前のように使える≪伽藍洞の足音≫に頼り過ぎた結果、潜入したはいいモノの出る事ができなくなってしまっている、ここまで、ここまで読んだか。


(さすが、アタシのクオンだ……やられたよ)


 いいえ、そこまでは読んでません、あなたは自爆です。


 ぺたり、応接室の床に座り込んでしまう。

 寮の外からは今まで以上に一番歓談する声が届いてきている、時計を見上げる、ああ、やっぱりお昼休み始まってたかぁ、となんだか空虚に思う。


 それにしても、ヴァネッサ様はいつまで眠るつもりだろうか……。

 入学で少しはマシになるとノエルは思っていたのだが。


(ジョッシュはホント役に立たないよねぇ……フェル兄ちゃんに言ってもヴァネッサ様のコレが改善するわけがないし)


 ジョシュアは三人娘にとって四歳からの幼馴染で、その時点からずーっとヴァネッサ様のカレシだ。

 王都サードニクスにいる間基本的にヴァネッサは王城"瑪瑙城"に滞在する、すると自然一歳しか離れていないフェルディナンド第一王子も遊び仲間の輪に入る事も多かった。


 灰髪黒目のジョシュアより目立つ銀髪銅眼のフェルディナンドは幼い頃からまさに眉目秀麗いつもキラキラ輝いていて、三人娘にも対等に接してくれる気さくさを持ち合わせていて、ヴァネッサ様は「何がいいんですの?アレ」とか言っていたけれども、本当のことを打ち明ければクオンとノエルの初恋の相手はフェルディナンドだったりするのだ。


 ノエルとしてはちょっと抹消したい記憶だ。


 ジョシュアもどうかなーと思う部分はあるけれど考えてはいる。

 フェルディナンドは基本考えない、ほぼほぼ反射で生きている、公務などに携わる機会があるのでそこは教育係たちの努力の賜物か、少しはまともになったけれど、それでも入学式の挨拶で「男子生徒諸君、そしてカワイイボクの子猫ちゃん達」はないだろう。

 最近は公務が増えたのか結構久しぶりに顔を見たけれど、スッと通った鼻筋にすっかり少年から青年の仲間入りを果たした顔立ちは精悍で、見た目だけは間違いなく美男子だった。


 久々に見たからか男子の事なんか考えてしまった、いけないいけないとノエルが頭を振ると、ヴァネッサ様の部屋から主が動き出した気配がある。

 結構経ってると思うがクオンが戻ってきた気配はない、やっぱり四階から跳んで落ちたんだろうか?後で見に行ったら惨劇の現場が見られるかもしれない。


(誰かに発見される前に回収しなくちゃ……)


 兎も角ヴァネッサ様にさっさと謝ってしまおう――。

 続き部屋の内扉は施錠できないし、留め具も小さい球形のものが付いているだけで、両開きに開くようにできている。

 三人娘で最強は誰かと言われれば間違いなく≪魔弾≫のヴァネッサ様なのだがノエルとクオンにとって有事にそこへ侍らないという選択肢はないのでそういう扉にしているのだ。


 とはいえ流石に起き抜けの寝惚けた頭で部屋の中にノエルがいるのを見つけたら間違いなくヴァネッサは撃つ。


 扉の前までそそ、と近づくと部屋の中から衣擦れの音も聞こえてくる、施錠前は制服を着ていたように見えたけれど四度寝はどんな格好で寝たのだろう。

 そのままだと着替えなおさなければいけないから着替えなおしているのかもしれない。

 大きく息を吸って、心を落ち着ける。




「ヴァ」

「部屋に入って良いと許した覚えはございませんわよ?」




 扉を押し開けた直後、≪魔弾≫[デコピン]がノエルの額の真ん中に、ったーんと炸裂した。

 それで今更『締め出される罰を受けている』事を失念していたことをノエルははっきりと思い出した。

 どうして忘れていた?考えるまでもない……ヤツだ、クオンだ……クオンの事ばかりを考えてどうやって嵌めるか、ざまぁするかに集中してしまった、夢中になってしまった。


(やたら売る売る言っていたのはアタシにヴァネッサ様の罰の事を失念させるため……ッッ!?)


 ――クオるん、アンタがナンバーワンだよ……。


 ぺたん。

 その場に尻餅を着いてしまいながら、相棒のがよりげっすいことをノエルは認めた。



 ――下水道の闘い、決着、勝者ノエル・ファン・ガラン。

 下水のはクオン、ヤツよりはまだノエルのほうが綺麗。

 むなしい勝利であった。



 ……



「おい、フィオナ……そんなに笑い転げてっと……その、お前」

「あははははははは!!あーははははは!!"猛犬中尉"!!あははははははは"わんわんスタイル大好きッ娘"!!!!あーっはっはっはっははははげふぅおげふぉお!!――あ、終わった。」

「は?……ってか!お前パンツ丸出しだぞ!!」

「――ッ!!ディランのスケベ!エロ魔人!!」


 芝生の上でおなかを抱えて悶絶していたフィオナの耳に聞こえていた【戦闘BGM】がフェードアウトして止まっていく。

 クオンが何の戦闘をしてたのか知らないけれど、戦闘は終わったのだろう、本人の戦闘曲が流れていたのでまず間違いなくクオンが戦ってた。


 そして隣りに座る男子生徒からの指摘に、ハッとしわたわた上体を起こして身だしなみを整える。

 スカートの裾を掴んで下着を隠しながら水色の瞳を精いっぱい眇めて眉尻を吊り上げて隣りに座っている幼馴染を睨むフィオナ。


「睨むなよ、お前が勝手に見せたんじゃねぇかよ……」


 呆れ顔で肩を竦める幼馴染の男子生徒、金色の少しだけ癖のある髪を雑に後ろに撫で付け、緑の瞳は目尻が上がり気味でややネコ科の動物を思わせる。

 全体的に気の強そうな印象を与える少年だった。



 彼の名前はディラン・フェリ。

 フィオナの幼馴染で……【攻略対象】の一人。


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