第24話:下水道の闘い
軽快なピアノ調の音色で【戦闘BGM】が流れるのはフィオナの頭の中だけ。
シン……と静まり返ったヴァネッサの部屋の前の廊下、「廊下に立ってなさい」とでも言うのか閉め出されてしまったクオンとノエルの二人。
既に時刻は一限目も終わるころ、鐘が鳴った程度で起きるヴァネッサではない。
二人の間に先程までのウィスパーボイスでの楽し気な会話はない、そう、今は手札を確認するとき、喋ってる余裕なんかない。
(だいたい自分一人だけ食べようなんて発想がげっすいんだよ……ああクソ、腹減った……)
(買い出し行かせてヴァニィちゃんにちゃんと謝りつつ居ないのをいいことに相手を売ろうなんて思い付くのがもうげっすいよねー)
――冗談じゃない!おまえのがげっすい!
!?
げっすいやつらがげっすい動機で自分よりげっすいやつを決める。
下水道の闘いが今、始まる。
"隻眼の猛犬中尉"
クオンリィ・ファン・ザイツ
VS
"伽藍洞の百合忍"
ノエル・ファン・ガラン
――手札開示のお時間でございます。
〇●〇●
――まずはノエル・ファン・ガラン!
(買い出し行こうかなー……。
今は授業中だから静かだし、絨毯張りの女子寮さえ抜ければ≪伽藍洞の足音≫で一気にショートカットできる、結構な早さで戻って来れるとは思うんだけれど……。
ヴァニィちゃんたまにおなか減ったって言っていきなり起きるからなー。
何かいいアイデアないかなー、あれ?
あーそっかそっかそっかそっか、二人で考えてるからダメなんだ、ヴァニィちゃんがおなか空かせて起きてくるなら、三人分買って来ればいいんだ、そっか、簡単じゃーん。
でもなー、売られるんだよねー。
ただでさえ怒ってるのに反省もしてないってもっと怒られるよねー……。
何とか売る側に立つ、クオンを買い出しに行かせる……。
……それにアタシにはちょっと賭けになるけれど必勝策がある。
≪伽藍洞の足音≫の[空間転移]は発動シークエンスとして足音を響かせて響いた範囲の空間を接続する。
音の範囲。
そう、部屋の中に足音がちゃんと響けば、今すぐに二人で部屋に入る事も可能だって事。
なんでしないのかと言えば……。
――扉蹴るしかないんだよねー……。
さっき三角跳びとドア修理してて思った、この壁、厚いし多分防音のなんかが中に入ってる。
でも、ドア自体をクオるんが金槌でガンガンやってる音は間違いなく室内に響いていた、まー誰か来てノックする事もあるだろうし、当たり前か。
ただその分響き過ぎるんだよねぇ、木材の材質かなー?
弱すぎてもダメ、強すぎてもダメ、絶妙にかすらせる様に蹴らないと絶対またヴァニィちゃん起こしちゃう……。
勿論その程度できないかと言われればできるに決まってる。
でもやーらない。
今 は や ら な い。
クオンがアタシを売るとかナチュラルにげっすい考えしたってヴァニィちゃんにアタシが売ってやるんだ……。
何とかしてアタシは一人だけで部屋に戻り、廊下に閉め出されてるクオンを出し抜く!
ヴァニィちゃんが起きたらちゃんと謝って……そしてアタシを売ろうとしたことを密告する。
んふふふ、これは勝ったね。
抜刀パパ言ってたよ?
「卑怯汚い負け犬の遠吠え戯言戯言ってな、戦場じゃ蹴りもすりゃぶん殴りもする、刀だって使い捨てみたいなもんよ、勝ちゃいい、だから鍛錬するんだ。卑怯汚いを言わない為にな」
だから、言わないよねー?
下水嬢はクオるんだよー。)
〇●〇●
――そしてクオンリィ・ファン・ザイツ!
(まずこの二重猜疑で最も無難な終着点……買い出し側はヴァネッサ様の分も一緒に買ってきてしまう、待機側は不在の理由をヴァネッサ様にしっかりフォローする、これが一番無難でしょうね。
という事はノエルが三人分買いに行き、私は不在のフォロ―をすると。
この時点で買い出しに行かせたら自分だけ食べるんじゃないか?というはじめの猜疑は無くなりますね?
・買い出し三人分、フォロー。
「ノエル、『気が利く忠臣』ね、さぁみんなでご飯にしましょう」
★★★★☆
「クオン、貴女は謝罪する為残ったのね、本当に『実直な忠臣』ですわ」
★★★☆☆
オウ点数稼いでんじゃねェぞ……。――でもま、売るよな。
・買い出し三人分、売る。
「ノエル、買い出しは結構ですが貴女から謝罪を受け取っておりませんけれど?さぁみんなでご飯にしましょう」
★★☆☆☆
「クオン、貴女は謝罪する為残ったのね、本当に『実直な忠臣』ですわ」
★★★☆☆
――イマイチうまくねェな……そうか!そうですね?
よりによって一番大事な条件を失念するところでした、重視しなくちゃいけないのはヴァニィ様の反応です。
という事は……。
買い出し担当になって買い出しに行かねばなりませんね?そうでしょう?
私の『買い出し行ったら売りますよ?』の効果はこの場にお互いを膠着させる心理状態を作り出すだけのものです。
まるで買い出しに行く側が不利に見えますけれど……これ、違いますね。
なにせヴァニィ様も確実におなかが減ってます、そうですね?
そして……ノエルを売る事もできますね?
簡単な事です、二人分だけ買って来ればいいのです、いいですか?いいですね?
そしてヴァニィ様の前に馳せ参じ、こう謳うのですよ。
「ノエルに頼まれて二人分買ってくるように言われて買い出しに行っておりました!あ、ヴァネッサ様おなかすいてますよね?私の分をどうぞ!」ってな……。
ノエルが私を売ってようが売ってまいが関係ねェ、それでバッサリだ。
・不在時ノエルにフォローされた。
「ノエル、適当な言い訳をしましたわね?貴女はその辺の草でも食べてなさい」
★☆☆☆☆
「クオン、二人で遅めの朝食にしましょう」
★★★★☆
・不在時ノエルに売られた
「ノエル、貴女……親友を売りましたわね……?ドン引きですわ……」
下水従姉妹爆誕
「クオン、ここは下水臭いわ、さ、二人だけで行きますわよ」
【HAPPY END】
ノエル……私を売る事で下水従姉妹は貴女に決まりです。
たとえ売らなくても私の評価は上がる、そうすればヴァニィ様がダジャレの為だけに「貴女今日から中尉ね」何て一言で決められた階級も上がるかもしれません。
"猛犬中尉"なんて揶揄われて私だって恥ずかしいとは思うんですよ!?
賊まで笑いやがるしな…………。
方針は決まりましたね。
買い出し担当になる、ノエルを売る。
ノエルが私を売らないワケがない、
卑怯汚い敗者の戯言戯言、負け犬もワオーンってな、言うだろ?言いますよね?
ノエルは忍者ですよ?)
〇●〇●
それぞれがそれぞれの思考で『三人分買い出しに行って残った方はフォローする』という親の手札に行き付いたけれど、それぞれがそれぞれの思惑で別の方法を模索するという様相。
己の魔法能力を生かした奇襲策と、得られる結果からローリスクハイリターンを狙う堅実策。
一人で残りたいノエルと、買い出しに行きたいクオン。
手札開示でまさかの合致、これは早くも勝負ありかしら?立ち回りで覆せますの?
ベットはまだまだお待ちしておりますわ、さぁさふるってご参加を。
下水に沈むのは、さあどっち?
――それでは……ショーダウン(chu!)。
コールはノリノリなバニーガール姿のヴァニィちゃんでも想像してください。
 




