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恋は魔法で愛は呪い  作者: ATワイト
第二章
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第23話:幼馴染で親友で大切な相棒

 

 朝からDIYに勤しんだ結果廊下に閉め出されてしまったクオンリィとノエルは、怒りのヴァネッサに何とか鍵を開けて貰おうと扉越しに謝罪を繰り返すけれども、ヴァネッサの気配はとっとと部屋の中へ引っ込んでしまっている。


 それでも謝罪を繰り返していたら一度だけ扉がドアパンされたようにバンッ!と鳴って、それっきり反応はない……ははぁこいつは、お風呂入って気持ちよくなったらまた眠くなって四度寝の流れだな……。


 睡眠の質はお肌の美容に大変重要、ヴァネッサは肌を気にするような年齢では勿論ない、むしろ瑞々しく艶もあり、嗜みとして化粧はするがほぼ素肌素顔で十分勝負ができる羨ましい肌と顔立ちの持ち主だ。悪役顔?【悪役令嬢】なんだから当たり前。


 けれども、一度六歳年下の愛玩動物(おとうと)ヴァルターが銃剣付突撃銃(ふらんそわ)ちゃんの銃口にガッツリ泥を詰めるというなかなかエクストリームなイタズラを決めてくれたので「お姉様の銃でなかったら暴発事故ものですわよ?」とほっぺむぎゅーの刑に処したところ、その肌の質感にナニコレスッゴイプルップルゥゥと衝撃を受けて思わず抱き締めて頬擦りしてしまった。


 珠のお肌は磨いてきたつもりだったけれど、これが若さか……と更に磨く事を決意したのである。


 故に。




 ――朝眠いならもう一回寝ればいいじゃない!【ドヤ顔見下ろしカットイン】




 コレぞ、【悪役令嬢】ヴァネッサの風儀。


 ……


 一方廊下の立たされ組は、流石にここで扉をドンドン叩いて再びの≪魔弾≫[ヴァニィちゃんどろっぷキック]などぶっ放されたら今度こそヴァネッサの部屋以外を一時とは言え封鎖する事になるという最悪。

 二人顔を見合わせ、これは手が尽きたと扉が開いたら即土下座でお迎えができるよう待つ。


 とっくの昔に女子寮は無人だ、勿論寮母や職員は働いているし体調を崩して休んでいる女子もいるかもしれないがそういう事でなく無人。シン……と静まり返り、朝とは違う鳥の声や遠く運動場だろうか?点呼を取る元気のいい教師の声らしきものも聞こえてくる。


「……腹ァ……減ったな……」

「うん……クオるんのせいでめっちゃ減ってるー」

「私のせいですか?何故ですか?ははぁさては……」


 DIYに使った道具を返却の為に工具箱に入れ、ノエルは≪伽藍洞の足音≫の[収納空間]に放り込むと、応接間の扉の向かいの壁に鞘を腰のサッシュから外して右手に持ち替え、て寄りかかって腕を組んでにやついてる相棒を見上げる。当然ながらウィスパーボイスでの会話だ。


「なに」

「抱き着いた時の感触でふんわり柔らかなパンでも食べたくなったんじゃないですか?そうなんでしょう?」


 自分の胸を左手で揉みながらクオンが哂う。相変わらず品がないなこの女。


「もげろ」


 ノエルはクオンの左隣に移動し自身も壁に背を預けながら斬って捨てる。


「じゃあなんでですか?」

「クオるんは今何が食べたい?」

「はんばーぐ」


 即答であった。


「いやいやいやいや、さっきガーリックバターで焼いたラスクにバジルソース付けて食べたいとか言ってたじゃない」


 ノエルの言葉にクオンは不思議そうに首を傾げる、角度的に左側の眼帯しか見えないが紫の瞳は中空をゆっくり彷徨っているんだとノエルは思った。正解。


生々流転(せいせいるてん)って知ってますか?」

「なにそれ」

「生まれたものすべては生まれ変わり、転生してリニューアルされるのです」

「要は気が変わったと?うっそだー、絶対忘れてた、クオるんの揮発性記憶ー」


 こしょこしょと小声で囁きあいながら、仲良く笑う。

 ノエルの不機嫌なんてとっくの昔にどっかに逝ってしまっていた、生々流転、揮発性記憶。


「よし、じゃあちょっとラスク買って来い、二分以内な」

「無理に決まってんでしょ、もう一限目始まってるから食堂閉まってる筈だし。てゆーかナチュラルにパシらせよーとすんな」

「チッ、いねぇ間にヴァニィちゃん出て来ねーかなァと思ったのによォ」

「クオる……ッ……それは流石にげっすいよー、もー、絶対買いに行けなくなったじゃーん……」


 瑠璃色を目いっぱいすがめて抗議の視線を向ける、眼帯は左側が見えてるわけもないのにくつくつと口の片端を上げていた。


「ノエるん、後で買い出しに行って自分の分だけ買ってくるか歩き食いして食堂も購買も閉まってたって言うつもりでしたね?この空腹感、ノエるんも道連れですよぉ……?ククク」


 正解。


「いつ頃起きると思う?」

「話変えたな?まぁいい……そうですねぇ……当てっこしませんか?」

「いーよ?じゃあ、せーの」


「「昼」」


 囁き声が揃った、揃って、二人とも嘆息する。


「だよなァ……」

「だよねー……」


 今までのパターンで考えると大体そのくらいになると予想はついた、今から昼までまだまだ数刻ある。ならノエルの足は勿論の事、何ならクオンの足でも余裕で購買部まで行って十分戻って来られる。歩いてさえも余裕だろう。

 しかし、抜刀伯令嬢のげっすいやつのおかげで、ノエルはおろか言った本人にも『相棒をここに残してダッシュで何か買ってくる』という選択肢を封印せざるを得ない心理状態を作り出していた。

 これを抜刀伯令嬢は狙っていたというのか、抜刀術(クイックドロー)の神髄のなせる技か。



(やぁっっっっべー……軽い冗談のつもりだったけどいけませんね?これはいけませんよ?ノエル置いて買い物行ったら絶対(ぜってェ)に売られる……)



 自損事故だった、"不運(ハードラック)"と"(ダンス)"っちまった、HTDである。


 お互い時間的には買いに行ってもいい、何なら交代で買いに行ってもよいけれど、もしヴァニィちゃんが起きて来てしまった時に「アイツぁ反省もしないで腹減ったからメシ食い行くっつって行っちまいましたよ!ひえっひえっひえっ(引き笑い)」と売りますよ?なんてげっすいやつが共通認識としてこの場には投げ込まれた。


 おまけにノエルの()()()()()()()()()()()()というこれまたげっすいやつもわざわざ音声化して舞台に引きずり出してくれた。これで買い出しとヴァニィちゃん二重の猜疑の完成である。



 この状況下で解決策となる無難な回答は?



『ノエルがクオンリィの分とヴァネッサの分まで三人分買いに行き、クオンリィはもしもヴァネッサが目覚めたなら「おなか空かれてませんか?ノエルが今買いに行っております」とでもフォローする。』


 ――さて、この正解に互いを疑いあう心が絡みつく。



 すっかりドブ川どころか腐った沼地のような濁りを一の紫も二の瑠璃も宿して猜疑に歪みまくっている。

 ベストはお互い見えている、なに、なかよしこよしの幼馴染で親友で大切な相棒だ……幼い日黒耀城で遊んでいて超デカイ壺を割ってしまった時、犯人はコイツだと互いを指さしたのは()()()()()だった仲だ。――悪く思うな悪友。





 ……


 初授業中だというのに≪前世の記憶≫さんが軽快なピアノ調の音色で【戦闘BGM】を流してきた……。

 ちらと隣の空席を見る……まあ、多分そういうことなんだろうと思う、昨夜急襲を受けたせいでこっちはこっちでそれどころではない。

 ああ……情報を整理したい……フィオナは授業なんか上の空で()()()を眺めるのだった。


 ……





 ――では、両者の配られたカードを確認していく事にしよう。


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