幕間:ジョシュアのお部屋
やぁ……ジョシュア・アルファン・サードニクスだよ。
突然の事で驚いたかな、まずはこれでも飲んで落ち着いて寛いでくれ。
……毒だよ。
ははは、冗談冗談。
水だよ。
さて……ちょっと時間はあるし話に付き合ってもらおうかな。
ふふ、愚痴みたいなものだよ、王子さまにだって愚痴りたい不満はあるのさ、
名前の通り、ボクにはアルファン王国の王位継承権がある。
第二王子で第三位だけれどね。
そう、第二王子なのに第三位、普通第二位じゃない?
あとは王孫もいないよ、現陛下に子は二人、
ボクと兄さま、第一王子フェルディナンド・アルファン・サードニクス殿下。
兄さまぼくの一つ上だからね、流石に在学中に子供は……ねぇ?
昔はそういうのもあったらしいけれど、
『学内恋愛大いに結構、ほどほどにな』ってね。
ちなみに王位継承権第一位は第一王妃の母上だよ、兄さまが第二位。
陛下にもしものことがあった時に備えてって事で王位継承権が定められているんだ、
王配
第一王子
第二王子
と王子が続くんだよ、アルファンでは王孫はその下だね。
政は宰相や大臣が行って幼王を支える体制の国もあるらしいけど。
じゃあ父上と母上が両方お隠れになるまで兄さまは王位に着けないかというとそういうわけでもない。
普通はしかるべき時が来たら第一王子が国王陛下王妃殿下の名のもとに戴冠して世代交代する。
先代国王陛下の御爺様も先代王妃の御婆様も勿論御壮健さ、公務には参加しないけれど式典には御列席される、今日もいたよ?普段は瑪瑙城でやりたいことやってのんびり暮らしてる、
ひ孫を早く見せてあげたいな。
ああ継承権の話に戻るけれど、
例えば陛下が急に崩御なされても僕らはまだ子供だからね。
王子世代への引継ぎの為に母上が一旦王母に即位されるんだ、女王じゃない。
準備が済んだら王母として兄さまに戴冠させて世代交代完了。
兄さまが国王陛下になられるというわけさ。
ボクには王位継承権なんか全く興味がない、
生まれた時から兄さまがいたからね、兄さまは明るくて……明るくて……。
国王になってくれたらボクも勝手が効いてやりやすいというものだよ。
むしろ兄さまには絶対に国王になってさっさと結婚して王子を産んでもらってもらわないと困る。
もし兄さまがその前に死んでしまったら僕が国王になる羽目になるじゃないか!!冗談じゃないッッ!!
あぁ、大丈夫、誰も聞いていないよ。
僕の≪音声遮断≫は完璧さ……少し薄暗くて人を迎えるには申し訳ないけれどね。
少し興奮して声を荒げて驚いたかい?まぁ、ボクも若いのさ。
僕が国王になるとねぇ……ヴァネッサとの婚約が強制破棄されるんだ。
おかしくないか?おかしいよね?そのままヴァネッサが王妃でいいじゃないか?何なら女王でもいいんだよ?彼女はその器がある。何が継承権だ忌々しいッ、臨機応変に対応するのが一番なんだよ。
何故愛し合うボクとヴァネッサが引き離されないといけないのか……その理由は国土だよ。
アルファン王国はね、無駄でもないけど無駄に広すぎるんだよ……しかも資源地がどこも辺境だ……中央の王領も肥沃な土地で食糧資源地ではあるけれど、北の牧草地も南の石炭鉱山や森林資源も東の水産資源も西の鉄鋼金脈も、どれも抑えるにはこの限界まで広い国土を維持しなきゃならない訳だよ。
四方を縁戚もない諸外国に囲まれた状態でね。
そりゃ攻め込まれるよ。
ボクが諸外国でも攻め込むね……別に全部が欲しいわけじゃない、ちょいちょいと削って資源地の端でも拝借できればそれでいい。
それで和平を持ちかける、成立すればボロ儲けさ、奪った領地を返したって良い。
成立しようがしなかろうが占有してる間に資源を採って国に送ってしまえばいいんだから。
諸外国が攻め返される心配はまずないね、これ以上土地は増やせない、一時占領を繰り返して攻め落としたら放棄するってなかなか鬼畜な事をやった王が昔いたけど、民はどうするんだって話だよね。
すぐどこかの別の国が併合するだろうけど、それまでは無法地帯、魔物盗賊やりたい放題だ。
別の国同士が取り合いにでもなったら目も当てられない、この世の地獄さ。
それをさせないのが東西南北の方面軍騎士団のトップである四侯爵家の務めになるんだ。
戦火は絶えないけれど、民は護らなきゃね。
ああ、ボクが諸外国でも攻め込むって言ったけれど北西から南西の王国西はボクなら攻めない。
西部方面軍騎士団が出てくる可能性があるからね。
西部方面軍では魔物も無法者も隣国の軍も全部"賊"って呼ぶんだよ、交渉の余地なく皆殺しさ。
戦後和睦の使者が殺されたって抗議とかあっても賊の誅滅を行っただけですが、一体うちにいつ侵攻されたんですか?って、
ヴァニィパパマジウォーモンガーだよねぇ……和平交渉が面倒になったって冗談っぽく言うけどアレ本気なんだよ?スゴくない?
付いた呼び名が"戦争候"
リチャード・アルフ・ノワール侯爵、ボクの義父上で愛しのヴァネッサのパパ。
ボクは結婚したら彼の後を継いで西部だけ公爵家になる。
これが落とし穴だ、
僕がもし王になったら西部は誰が継ぐ?
ヴァニィなんだよ…………。
ヴァニィには弟もいるんだけれどね……
……あの小動物は無理だね、子爵位だ。
アルファン王国はまたの名を魔法王国といってね、強力な希少魔統の力でのし上がってきたのさ。
ヴァニィのノワール家の≪砲≫、
クソチビのヴァーミリオン家の≪龍≫しかりね、
でも希少魔統は血の遺伝だ、しかも基本一系統しか発現しない、
あの子に発現したのは義母上の系譜だった、
ノワール家の継承権は無い。
フフ
フフフフ……
継承権すらないくせに!あいつ!ヴァニィに!!ヴァニィに『いつでも抱き着いていい権利』だけは持っていやがる!!!!
もうお前九歳だろう!?
いいかげんにしとけよ!?お姉ちゃんのお胸に顔うずめて気持ちいいか!?いいんだろうな!!
……あぁ?僕の≪灰闇≫は完璧だって言っているだろうッッ!?音なんざ漏れないよ。
しかも!義兄としてそっと叱ってやると即ヴァニィに言い付けやがる!!!!
はーい即撃鉄ー、知ってるんだよ、怒りのヴァネッサも可愛いよ?けれど
腕組仁王立ちのヴァニィの後ろから舌出してんの見えてるからな!?
いつか立場の違いってもんをな!社会的にわからせてやるからな!
…………すまない、取り乱したね、眼鏡がずり落ちてしまいそうだ。
ああ、眠くなってきたかな?
領主伯令嬢には退屈な話だったかな?
水飲んでない?
はじめから関係ないよ……ボクの≪這闇≫は完璧だ。逃がさない。
女の子に手を上げたらヴァニィに怒られるからね、何もしない。
ただ、たっぷりと悪夢は見てもらうよ、起きても忘れない悪い夢をね。
ねえ、 ヴ ァ ネ ッ サ は ボ ク の 婚 約 者 だ って、言ったよね?
あ、キミ二組だったっけ、今言ったよ、オヤスミ。